昨晩僕は夢で延々と士郎さんの記憶を繰り返し見ていた。とても救いなどない光景。大切な人を殺し、助けるべき人を殺し、助けた人々に殺される。士郎さんのやってきた事は確かに殺人。いや殺戮といっていいくらいの大量殺人。それでも、士郎さんの行動を間違っているなんて言えない。あれは士郎さんが悩み抜き、自らを犠牲にした末の答えだ。
果たして僕にあんな選択が出来るだろうか。僕は、ううん、殆どの魔法使いは目の前のなるべく多くの人を助けようとすると思う。そして後々になって助けた人より多くの被害を出してしまうだろう。全ての人を救いたい。僕もマギステル・マギになったらそうしたいと考えていたし、士郎さんも気持ちは同じ。でも僕は現実を知らず、現実を知った今はそれを成し遂げる自信は無くなっていた。でも士郎さんは現実を知ってなおそれに抗っていた。いつか本当に全ての人を救うと信じていた。それが目指す正義の味方なんだと。
僕は人殺しを許せないと士郎さんに言った。その言葉は今でも撤回するつもりはないけれど、士郎さんに対してはなんと無責任な言葉だったか。士郎さんの言葉の本当の意味を理解しようともせず、士郎さんほどの人がその選択を取らざるおえなかった苦しみを知ろうともせず、ただ士郎さんを批判したのだ。
お父さんのようなマギステル・マギを目指すのが僕の夢だった。でもそうなってから僕は何をするのだろう。その先を考えた事もなかった。目標に到達した時に、新しい夢を持てるのだろうか。
起きてからも延々とそんな事を考え続ける。思考は加速し、時間がゆっくりと流れているようにも感じる。僕の、僕の正義ってなんだ? 世界平和? 悪を倒す? 英雄になる? 違う、それはきっとお父さんがやった事を僕もやりたいと思っているだけ。僕の、僕だけの正義…………
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「とまあ色々考えたんですよ」
「長い。結論を言え」
「守りたいものだけを守ります。それが僕の正義です」
僕は士郎さんのように全てを守る為に戦うなんて出来ない。見知らぬ誰かの為に命を投げ出す事も、大切な人を切り捨ててでも人助けをする覚悟もない。そんな事をすれば確実にどこかで折れてしまう。なら最初から折れておけばいい。折れて、守る範囲を決めてしまえばいい。考える事を放棄して逃げ出してしまったのかもと自分でも思うくらいな理論だけれど、それでいい。そもそもお父さんのようなマギステル・マギを目指すなら少しくらいテキトーでもいい筈だ。
「ネギ君、それって案外難しいぞ」
「でもやりますよ。自分の大切な人くらい自分の力で守ります。士郎さんが全ての人にとっての正義の味方になるなら、僕は大切な人にとっての正義の味方になります」
「自分の力を弁えたか。悪くないぞ坊や。己の力の無さを受け入れ、その上でやれる事を見つけたのは立派と褒めてやる」
「今でも力不足には変わりありませんけれどね。なので師匠! 今後ともよろしくお願い致します!!」
僕には力が必要だ。僕の大切な人の中には士郎さんも含まれている。いつかは力で、今はそれが出来ないから士郎さんの心を守る。今の実力で最大限やれる事をやる。士郎さんが実行してきた事を僕もやるだけだ。
「ねぇねぇ先生の大切な人って誰ですか?」
「えーと、クラスの皆さんに士郎さん、タカミチ、ネカネお姉ちゃん、村の人達と、アーニャも入れていいかな」
「あ、はい、そうですよね」
「朝倉さんは何を聞きたかったんですか?」
「きっと大切な人というのは恋人や婚約者の類いと思ったのでしょう」
「僕、まだ子供ですよ……」
夕映さんからの説明を聞いて思わず項垂れてしまう。朝倉さんは僕に変な期待をしすぎじゃないかな。
「ごめんごめん、士郎さん朝ごはん作ってもうた?」
「ああ、木乃香が寝坊とは珍しいな。茶々丸は?」
「メンテナンスやって…………ネギ君、元気なん?」
「色々ありましたが元気です」
「はぇー、心強いなぁ」
「強くはないですよ。妥協に妥協を重ねただけです」
強さで言えば木乃香さんの方がずっと強い。元々一般人で、京都で襲われはしたけれど、それ以外は普通に過ごしてきたのに士郎さんの過去を受け止めて一緒に歩んでいる。
「さっさと飯を食え。気が乗ったから稽古を付けてやる」
「ありがとうございます!」
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麻帆良、本日は終日大雨。それに紛れて侵入したいくつかの存在にまだ誰も気付かず。
常に書きたかったものと違うものになってしまいます。ライブ感で書くといかんですね。