別荘からネギ達が出てきた。外は来た時と変わらず雨が降っている。
「まだ降っているネ」
「別荘内では1日過ぎても、外では1時間しか過ぎていないですからね。感覚がおかしくなってしまいそうですが、慣れるしかないでしょう」
「おっとと、そうだったネ」
「あれ、それじゃあ……アタシ達って他の人よりも老けるの早くなっちゃう!?」
「諦めるんやで明日菜。大丈夫、魔法には見た目を誤魔化すのも沢山あるで」
「騒がしいぞガキ共!! とっとと帰れ!!」
エヴァンジェリンの一言で蜘蛛の子を散らすように去っていく生徒達。その中で残ったのはネギと木乃香だ。木乃香は馴れた手付きでコーヒーを淹れ始め、ネギは遠慮なくソファーに座る。
「おい、貴様らも帰らんか」
「まぁまぁ、一服くらいええやんか」
「そうですよ師匠。たまには弟子を養って下さい」
「……図太くなったな弟子のくせに。飲んだら帰れよ」
「「はーい」」
「士郎、私のコーヒーは貴様が淹れろ」
「ああ、分かったよ。茶々丸とチャチャゼロもいるか?」
「頂きます」
「ワインナラ貰ウゼ」
その後一服を終えた木乃香とネギは一緒にエヴァンジェリンの家を出た。一緒に暮らしている2人だが、こうして2人だけで出歩くというのは意外とない。
「しかしネギ君があんな覚悟を決めるとは思わんかったわぁ。正直潰れる思うとった」
「あー、酷いですよ。僕ってそんなに弱々しく見えますか?」
「ネギ君が弱いというか、士郎さんの問題やね。しかし大切な人の味方ねぇ。ウチと茶々丸さんは士郎さんだけの味方やから、ネギ君の大切な人と士郎さんが衝突する時があれば士郎さんの味方になるわ。いずれぶつからんように気を付けるよ」
「士郎さんも木乃香さんも茶々丸さんも、僕にとっては守るべき対象です。そうならないように僕も気を付けますよ」
「ふふふ、士郎さんがそんな事せんように止めるのが一番なんやよね。そこは協力しような?」
「勿論ですよ!」
「あ、折角やし今日はネギ君が覚悟を持った記念に好きな料理作るで。何がええ?」
「うーん、ならカツレツがいいです!」
「よっしゃ! ほな材料買ってくるわ」
「いってらっしゃーい」
ネギは帰宅し、木乃香はそのまま買い物に向かう。生憎とカツレツの材料は切らしているので殆ど買わなくてはならない。帰りの荷物が重くなるのに気が付いた木乃香はちょっと安易だったかもと苦笑していた。
ーーーーーー
はぁ、重いわぁ。少し肉を買いすぎたかもしれん。パン粉もここまで大容量やなくても良かったかなぁ。ま、ええわ。今日はネギ君にとって新たな一歩を踏み出した記念日やし、ウチが多少苦労するくらいはかまへん。
しかし雨止まんなぁ。時間も遅くなって夜になっとるから、辺りも真っ暗や。誰かに襲われたらどないしよ。なーんて……
「! ほっ!!」
足下にぬるっとした感触がしたからその場を飛び退いたら、何やスライムみたいのがウチのおった場所に覆い被さった。逃げとらんかったら捕まっとったな。
「おいおい、話と違うじゃねーカ」
「明らかに慣れていますネ」
「何やあんたら……ま、どうでもええわ。逃げさせてもらうでー」
踵を返したところで目の前に現れたのはまた別なスライム。うん、囲まれとったか。
「逃げられると思っタ?」
「逃げさせてもらうんや。ほいっ!!」
勿体ないけど荷物と傘を投げつける。荷物は取り込まれたけど、どうでもええ。本命は取り出した練習用の杖。1匹くらいなら1人で突破したる。逃げたら即士郎さんに連絡やな。
「プラクテ・ビギ・ナル! 光よ!!」
「グオッ!!?」
ただ光を出す魔法やけど、ウチの魔力ならそれこそ日光に匹敵する。目眩ましをするには十分な光や。スライムが怯んだところで横を走り抜ける。背後のスライム達も想定外の光に怯んどったみたいや。パクティオーカードを額に当てて、士郎さんに念話を飛ばそうとしたところでそれは奪い取られた。
「これはこれは、やんちゃなお嬢さんだ」
「あららー、どちらさん?」
「おっと失敬。私はヘルマンというものだ」
あかんなぁ。この老紳士強いわ。とてもやないが太刀打ちできへん。逃げられるかな?
「プラクテ・ビギ・ナル」
「させないよ」
手刀で杖が真っ二つに切られる。そんなの関係あらへん!
「火よ」
「! 2本目!」
「灯れ!!!」
可能な限り魔力を込めたそれは、とても初心者用の魔法とは思えんくらいの業火を巻き起こした。雨すら蒸発させ、ヘルマンっちゅう老紳士を呑み込んだ。でもきっと相手は生きとる。逃げな……
「やってくれる」
「ぐっ!?」
炎の中から丸太のように太い腕が飛び出て、ウチの胸ぐらを掴んだ。炎からのそのそと出てきたのは人やない。角の生えたそれはネギ君の記憶でも見たもの。
「あく、ま……」
「その通りだ。お休み、お嬢さん」
息、くるし……意識が……士郎さ……ごめん、なさ……い……
このか、頑張ったけど捕まる