残り数日で学園祭が始まるという最中、僕とカモくんと木乃香さんと刹那さんはある話し合いの為に集まっていた。発端は木乃香さんの仕入れた情報だ。なんでもアスナさんが遂にタカミチをデートに誘って告白するらしい。でもアスナさんにデートの経験はゼロ。このままだと失敗するのは目に見えているという事で木乃香さんがみんなを集めて作戦会議を開いたのだ。
「みんなはどないしたらデートが成功すると思う?」
「誰でも初めてはあるものですが、いきなり本命というのは難しいですね。剣ならば鍛練をするのみですが、デートで鍛練、練習となるとなかなか……」
「士郎の旦那に何か頼むのは駄目なんすか? 身近な大人の男で頼んだら何でもやってくれそうですぜ」
「今の士郎さんは用務員の仕事がピークなんよ。流石にこんな事には誘えんわぁ」
僕が親しい大人の男性もタカミチと士郎さん、それと学園長くらいだ。アスナさんにデート慣れしてもらうよりも、タカミチに事前にエスコートを頼んでおく方が楽かもしれない。でもそれをアスナさんが知ったらきっと怒るだろうなぁ。
「…………見た目さえ何とかすればネギ先生でもいいのでは?」
「どういう事?」
「先生、何か魔法で見た目を変えるものはないのですか?」
「うーん、あるにはあるんですが、僕が使えるものとなると……」
「いや大丈夫だぜ兄貴! 少し前に丁度いいもん買ったんだ!」
ちょっと待っててくれよ、と言ってカモくんは走っていってしまった。戻ってきたのは数分後。何やら瓶を持っている。
「ヒィヒィ……こ、この体だとつれぇ」
「なんなんこれ? 飴玉?」
「これって年齢詐称薬? こんなの買ってたんだ」
記憶が正しければ赤い飴玉で歳を取って、青い飴玉で若返るんだっけ。結構値段がするものだったと思うけれど、こんなの買うくらいにカモくんってお金あったんだ。でもこれなら僕が大人になってアスナさんのデート相手になれるかな。
「ありがとうカモくん! 早速試してみるね」
赤い飴玉を1つ口へと放り込むと、ポンッとすぐに僕の体は変化した。
「お、おおー!! すごいなぁこれ!! ネギ君が大人になったわ!!」
「流石親子と言うべきか、ナギさんそっくりですね」
「そ、そうかな?」
「うんうん! ホンマそっくりや。ほら鏡」
木乃香さんから手渡された手鏡に写っていてた僕の顔は本当にお父さんそっくりだった。お父さんよりは少し若いかな。アスナさんの好みの年齢からは外れていそうだけど、許してもらうしかない。
「おもろいなぁ。うちも1つ貰ってええ?」
「勿論さ! 遠慮せず、ささ」
「ほないただきまーす! あ、せっちゃんも」
「えっ?」
木乃香さんは赤い飴玉を、刹那さんは青い飴玉を口に含むとすぐに姿が変わった。木乃香さんは美人でおしとやかな大人の女性に。刹那さんは本来の僕と同じくらいの背丈の少女になった。
「やーん! せっちゃんかわええなぁ」
「か、刀が、おも、い……」
「大丈夫かい刹那の姐さん。赤い方食べてくれ」
「はむ……ふぅ、戻れて良かった」
「あーあ、可愛かったのに…………うち少しこのままお出掛けするわぁ」
「お、お嬢様!? 作戦は?」
「その格好のネギ君なら上手くやってくれるわぁ」
行っちゃった……行き先は、考えるまでもないかな。さて、僕は僕でアスナさんとのデートの方に集中しないと。いくら練習でも僕だってデートは初めてなんだ。それでも英国紳士としてキチンとエスコートするぞ!
ーーーーーー
学園祭の準備で機材の修理が必要になるのはどの学校も変わらないか。問題は麻帆良の規模が大きすぎて修理依頼も多大という事だけ。小さな故障から大きな修理まで毎日何十件。麻帆良にやってきてからこんなに仕事で忙しい日々も初めてだ。
あんまりにも忙しいから最近では茶々丸が放課後に手伝ってくれている。学生なんだから自分のクラスの出し物の手伝いをするべきなんだろうけど、彼女の善意は無下に出来ない。
それに比べてエヴァは相変わらずサボっている。俺の仕事を手伝えなんて言うつもりはないが、学園祭の準備くらい少しはやったらどうなんだ。本人に言ったところで聞く耳持たないだろうから言わないが。
そんな事を考えながら修理を進めていると誰かがドアをノックした。また新しい修理依頼だろう。
「どうぞ」
「お邪魔します」
…………てっきり中等部の子が来ると思ったんだが、成人女性が入ってきた。和服姿がよく似合っている美人だ。教師といった感じでもない。一般人がここへやってくる理由なんてないし、誰なんだ彼女は?
「お隣、失礼します」
「あ、ああ、どうぞ」
さも当然のように隣に座ってきた。言葉のニュアンスから察するに関西方面の人か? とすると、呪術協会からの使者だろうか。それなら学園長がいる中等部にいるのも不思議じゃないが、俺のところに来る理由はなんだ?
「申し訳ありませんがどちら様でしょうか? 現在士郎さんはお仕事が立て込んでおりますので御用件からあるなら手短にお願いします」
「あらあら、そう邪険にせんといて下さいな。用事はこの方の様子を見に来たという事ではいけませんか?」
「いけません。御用がないならお帰り下さい」
「こらこら、彼女が誰かは知らないけど別に追い出す必要はないぞ茶々丸。何もしないならいても変わらないさ」
本当によく分からない人だ。俺を見に来た? この前京都で暴れたのが余程問題だったかな。しかし隣で見ると本当に美人だ。でもこの顔立ち、どこかで見覚えが……
「ふぁー、よく寝た……士郎、熱い茶をくれ…………おい木乃香、その姿はなんだ?」
「あ、やっぱエヴァ師匠にはバレてまうか」
「……木乃香!? えっ、でも見た目が」
「ちょいとおもろいお薬貰ったんよ。ふふ、気付かんかったでしょ」
あー、成る程。確かに木乃香が大人になったらこうなるだろうな、って姿をしている。見覚えがあるのも当然か。しかし魔法ではなく薬でこんな事が出来るものがあるのか。
「年齢詐称薬ですか。驚きました」
「茶々丸さん冷たいから怖かったわぁ」
「見知らぬ方が気安く士郎さんに近付きましたので。しかし何故そのようなものを?」
「実はな……」
木乃香の話によると明日菜が近いうちにデートをするらしく、その練習相手を薬で大人になったネギ君がやるらしい。デートに練習なんてものが必要なのかは甚だ疑問だが、明日菜のデート相手はおそらくタカミチ。あいつタカミチの前だと借りてきた猫みたいに大人しくなるから、練習で少しでも自然体になれるならそれがいいか。
「ふん、学園祭でデートか。あれに釣られたか」
「あれ?」
「たぶん学園祭の時に世界樹の下で告白したカップルは永遠に結ばれる、っていう伝説やと思うよ」
「へー、ありがちだけどロマンチックだな」
「そう、実にありがちだが非現実的な話だ。ここが麻帆良という事を除けばな」
「どういう意味だエヴァ」
「世界樹が大量の魔力を蓄えた樹というのはここにいる全員が理解しているだろう。蓄えた魔力は一定期間毎に放出される。呼吸と同じだな。そしてそのタイミングが学園祭と同じなのだ。放出された魔力に強い想いが乗れば例え一般人の言葉だろうと魔法に等しくなる」
「学園祭で告白するという事は魔法で暗示を掛けるのと変わらないのか。だから永遠に結ばれる、と」
それは、とても良くない事じゃないか? 人の色恋沙汰に首を突っ込むつもりはないが、一方的な想いが相手の意思に関係なく成立してしまうのは良くないと思う。
「学園とてそれを良しとしてはいない。学園祭の時期には魔法先生と魔法生徒が告白を阻止している。士郎、お前にも声が掛かるかもしれんぞ」
「そっか。頼まれたら上手くやるとするよ」
「はぇー、そんなカラクリがあったんやね。明日菜には告白せんように言うべきかも。そんな無理矢理カップルになるのは嫌やろうし」
「相手は高畑先生なのでしょう? 先生ならばのらりくらりとかわせると思いますよ」
「そうかもしれんね。あ、茶々丸さん。抜け駆けはあかんからね」
「このようなものに頼るつもりはありません。木乃香さんも同じでしょう」
「うん、勿論や」
ーーコンコンコンッ
「すみませーん。修理お願いしまーす」
「はいどうぞ」
また新しい依頼だ。今日はまだまだ忙しそうだ。