剣と杖と先生   作:雨期

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第5話『押し付けダメ絶対』

 昔から学校で故障した備品があれば修理をしていた。あれもある種の人助け。いいように使われていたのは知っていたが、それで喜ぶ人がいるのなら構わなかった。俺自身、魔術の練習としても使わせてもらっていたからな。

 今朝別れてからまだ数時間しか経ってはいないが、学園長もあんなに就職の手伝いをしてくれたんだ。返事は早いに越したことはない。という事でまた学園長室までやってきた。

 

「今朝ぶりです。突然すみません」

 

「おぉ衛宮君、随分と早かったのぅ。スーツ、よく似合っておるぞ。もう何をするか決めたのか? ワシとしては教師が一番じゃと」

 

「いやいや学園長、押し付けはいけませんよ。士郎君は用務員になると決めたそうですから」

 

「ほ? ほほ、そうかそうか。用務員か。うむ、君の魔法、ではなく魔術ならばそちらの方が適任かもしれんの。この女子中等部も老朽化が進んでおるし、修理修繕を頼めるならば願ってもない事じゃ」

 

「ありがとうございます。でもあっさりと決めて大丈夫ですか?」

 

「構わんよ。麻帆良で人手はいくらあっても足りんしな。それと魔法関係の仕事はやってみる気はないかの?」

 

 エヴァから魔法耐性用の魔道具を貰えるのだから魔法関係の仕事をやってみるという選択肢も無くはなかった。だが下手に手の内を多くの相手に見せる必要はない。例えそれが味方であってもだ。味方から敵へ情報が漏洩するというケースを俺はいくつも知っている。

 

「今は遠慮しておきます。こちらの魔法についてはまだまだ知識不足ですので」

 

「実力さえあれば問題ないのじゃが、本人が断るならばしょうがない。タカミチ君、女子中等部を案内してやってくれんか? それまでにいつ仕事が始まるか決めておこう。最短1週間後とでも思ってくれぃ」

 

「はい。行こうか士郎君」

 

「学園長、ありがとうございました」

 

 1週間か。かなり短いが、幸い麻帆良には大概のものは揃っている。1日買い物に費やしたら必要なものは揃うだろ。もしも専門店にしかないような道具でも注文して届くまでは投影品で代用しよう。

 しかし中等部だけなのに広いな。しかも女子のみ。ここまで大きな学校が他にも複数あるとは麻帆良恐るべし。

 

「日曜日だと誰もいないからスムーズだね。普段はもっと騒がしくて、君みたいな部外者がいるとそれはもう大変な騒ぎになるよ」

 

「女の子は物珍しいものが好きだからな。普段なら取り囲まれて身動きも取れないだろう」

 

「そうそう。本当に子供のパワーは凄いよ。さて、ここで最後かな。君の主な仕事場になる用務員室だ」

 

 これまたかなり広い。様々なものを修理する作業スペースは勿論の事、何故か台所や簡易的なシャワールーム、寝床まで完備されている。ここで暮らせるじゃないか。

 

「作業が長引くとよく寝泊まりする用務員の人もいてね。その要望でこうなったんだ。でも君は帰った方がいいよ。エヴァが怖いからね」

 

「むしろエヴァがこっちに来るんじゃないか? そういえば聞き忘れていたが、何故エヴァはこの女子中等部に通っているんだ?」

 

「エヴァから聞いていないのかい? いや普通に考えたら自分の呪いをわざわざ説明しないか。エヴァは登校地獄という呪いを掛けられていてね、もう15年近く女子中等部に通い続けているんだ」

 

 15年!? 吸血鬼でほぼ不老不死のエヴァにとってその時間を短いと思う者もいるだろうが、それは総合的な時間で見た話。エヴァにとっての1日も俺にとっての1日も同じ時間ある。時間が早くなったり遅くなったりするなどないのだ。15年間も自分よりも年齢が圧倒的に下な子供達と延々と同じ授業を受け続ける。プライドの高い彼女にとってどれだけの苦痛か想像もつかない。

 

「3年経ったら解呪してもらえる筈だったんだけれど、約束した人が行方不明……死亡したとまで言われているんだ」

 

 その人がどういう人かは分からないが、死んでしまったのならばもう誰にも解呪出来ないのだろうか?

 ふとある宝具が頭に浮かんだ。第五次聖杯戦争にてキャスターが使用した『破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)』。あらゆる魔術を解呪するこの宝具ならば呪いを解けるのでは? 真名解放すればどれを解呪するかの指定も不可能ではない。だが俺の記憶を見たエヴァならこの宝具も知っている筈。ならば何故要求してこなかったのか。自力で解呪する算段でもあるのか?

 そんな事を考えていると誰かが用務員室へ入ってきて鍵を閉めた。それは着物を着た可愛らしい少女。走ってきたのか息が荒い。

 

「はぁはぁ、タカミチ先生? なんでこんなとこにおるん?」

 

「彼、士郎君が今度新しい用務員になるから案内をしていたんだよ。士郎君、紹介するよ。僕の生徒の木乃香君だ」

 

「近衛木乃香です。よろしゅう。木乃香でええよ」

 

「衛宮士郎だ。近衛って学園長の苗字と同じだけれど、もしかして家族か?」

 

「うん、うちのお祖父ちゃんなんよ」

 

 学園長の後頭部から何も遺伝していないようで何よりだ。しかし今日は日曜日。普段着が着物という人もごく稀にいるので服装は気にしないが、学校が休みの筈の生徒が何故ここに?

 

「その格好。またかい?」

 

「そうなんよ」

 

「何か面倒事か? 手伝えるなら手を貸すが」

 

「ホンマ? ならお祖父ちゃんを何とかするの手伝ってほしいわ。中学生にお見合いは早いと思うんよ」

 

 それは確かに早い。しかもまた、という発言から過去に何度もあるらしい。説得に付き合うくらいはしようか。

 

「行こうか、木乃香」

 

「よろしくお願いします士郎さん」

 

「僕は別件があるからお別れだ。士郎君、木乃香君、説得頑張って」

 

 タカミチに見送られ木乃香と学園長室に向かう。途中何度も追っ手らしき男達に追われたが、彼らもやる気が見られずすぐに見逃してくれた。みんな疲れているんだな。

 

「学園長!!」

 

「ほっ!? ど、どうしたんじゃ衛宮君。木乃香まで」

 

「こんな子供にお見合いさせてどうするんですか。しかも色々な人を巻き込んで。子供の恋愛くらいは好きにさせてもいいでしょう」

 

「そうやそうやー」

 

「いや、うむ、それはそうじゃが……こう、やはりワシとしても木乃香には幸せになってもらいたいという気持ちもあっての」

 

「お祖父ちゃんの趣味やん」

 

「木乃香!?」

 

「ほう、つまりはあれかね。自身の趣味でお孫さんに迷惑を掛けると。大層な趣味をお持ちだな」

 

「衛宮、君? 何やら口調が変わっておらんかな?」

 

「いやいや、私は普段通りだとも。さて学園長殿、私と少し話し合わないかね? なに、時間は取らせんさ」

 

 この後、学園長は徹底的に言葉で叩き潰しておいた。お礼として木乃香には安くて品質の良いスーパーを教えてもらったので、帰宅前に寄らせてもらったが手持ちがない事に気が付き泣く泣く帰るしかなかった。目の前で特売品に手が届かない悲しさはもう味わいたくない。




士郎君の長い1日これにて終了。
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