いきなりネギ君のタイムスリップというとんでもない話を聞かされ、3ーAの幽霊に出会った学園祭だが、まだ始まったばかりなのだ。開始早々濃すぎないか?
ただ流石にこれ以上の衝撃はそうは起こらない筈……と言い切れないのが麻帆良であり3ーAだ。
「……今のは」
一瞬何かが飛ぶのが見えた。戦場で幾度となく見た光の筋。何者かが発砲したのだ。その先に何があるのか確かめるため駆け出す。ものの数分で着いた先には男子生徒が女子生徒に介抱されている姿があった。周囲に血痕はなし。いや、落ちている物がある。ゴム弾? 軽く解析してみるとそれよりも殺傷能力の低い、当たっても痣が出来る程度の代物らしい。
着弾までかなり時間があったのは知っている。麻帆良でそれだけの狙撃を行えるのは1人しか知らない。銃弾の軌跡を追うように顔を向けると案の定真名がスコープを覗き込んでいる。軽く手を振ってやると驚いた後に苦笑しながら手を振り返してくれた。
「これがエヴァの言っていた告白阻止か」
ずっとああいう事をやっているのかな。いくら仕事優先とはいえ、年に一度の学園祭を楽しめないというのはよろしくない。少し差し入れを持っていこうか。
近くにあった屋台でたこ焼きやベビーカステラといった祭りの定番料理を買い、真名のいた高台を目指す。試食をしたがどれも満足のいく味だ。
「よっ、お疲れ」
「やあ衛宮さん。まさかあの距離からこちらが見えるとは思わなかったよ」
──ターンッ
「視力には自信があるからな。これ、差し入れだ。祭りの気分だけでも味わってくれ」
「これは嬉しいね。もう少しで今日のノルマは達成するから後でゆっくりと頂くよ」
──ターンッ
「…………今の実弾じゃなかったか?」
「大丈夫さ。個人的な依頼でね。当たらないギリギリを狙っているし、あちらも防いでいる」
「まあ、そっちの依頼ならあまりとやかく言うつもりはないが、怪我人は出さないようにな」
「衛宮さんこそ。告白される対象になったら遠慮なく撃ち抜くからそのつもりでね」
「ああ、気を付けるよ」
とはいえ俺に告白するような子はいないだろう。知り合いは大概が中学生だ。恋に恋する年頃とはいえ、一回り以上差のある俺を恋愛対象にはしない、って明日菜みたいな子もいるかもな。趣味は人それぞれとはいえそれで狙撃されてはたまったもんじゃない。
それにしても実弾を使わないといけない依頼ってなんだ? 真名は当てるつもりがないようだからいいけれども、誰に撃ったのかは気になる。
「刹那?」
刹那ならあのくらいの狙撃は油断しない限りは大丈夫なんだろう。でも誰が何故刹那を狙撃する依頼をしたんだ? 1つ疑問が解消されると次の疑問が湧いてくる。
「おっと、見てしまったか。彼女が望んだ事だ。見逃してほしい」
「依頼主は刹那自身なのか?」
「そういう事。さっきも言ったがこれは個人的な依頼だ。お説教は勘弁願うよ。それと刹那に聞くのも無しだ」
「分かった。とやかく言わないと言ったのは俺だしな。じゃあまたな」
「ん」
──ターンッ
──────
何気なく歩いていた学園祭だが、よくよく見ると魔法使いやその関係者による告白阻止が行われている光景が見られる。何かしら俺にも応援があるかもと思っていたが、何も連絡がない。学園長が気を効かせてくれているんだろう。
「おっ、明日菜達じゃないか。そんなところに隠れて何を「シーッ。今は静かにして下さい」?」
明日菜と木乃香と刹那が隠れて何かを覗き見していた。黙るように言われてしまったので俺もこっそりと何があるのか確認する。
「ネギ君と、のどかか。デート中か?」
「本屋ちゃんからネギを誘ったんですよ。どうなるか気になるじゃないですか」
「あの引っ込み思案なのどかがか。でもこんな事をしていたら馬に蹴られるぞ」
「恋路を邪魔しとるわけやないしへーきよ」
「むしろ邪魔が入らないようにしているだけです、ねっ!!」
一瞬の抜刀から飛ぶ斬撃。さっき真名と話していなければ何か起こったのだと警戒しているところだ。
「せっちゃん、また蜂がおったん?」
「木乃香を守るためとはいえちょっと過保護すぎない?」
「蜂は危ないですから」
音速を遥かに越える速度で飛ぶ鋼鉄の蜂は確かに危険だな。ふとネギ君を見るとこちらを見てニコリと笑っていた。これだけ騒がしくしていれば尾行にも気付くだろう。
これ以上楽しいデートを邪魔するのも悪い。邪魔物はさっさと退散しよう。そんな事を考えているとネギ君に向かって何かが飛んでいった。丸い袋? 気が付いたネギ君もそれを軽く叩き落としたが、それが間違いだった。地面に落ちた袋からは煙のようなものが舞い上がる。咄嗟にのどかを守るため抱き寄せたネギ君の顔にその煙が触れた瞬間、それは起こった。
「ハーーックション!!!」
くしゃみと同時に巻き起こる武装解除の魔法。当然抱き寄せられていたのどかは巻き込まれ、服は消し飛んだ、と思われる。流石に見るわけにはいかないので目は逸らしている。あの煙はどうやら胡椒だったらしい。これも告白阻止の一環か。
「士郎さん? 本屋ちゃんを、見た?」
「くしゃみの瞬間に目は逸らした。信じてほしい」
「ハクションッッ!! ハクションッッ!!」
「あれは、近寄れませんね」
「ジャージで悪いがここに置いておく。投影品だからあんまり傷付くと消えるから注意してくれ」
「ありがとなぁ」
まだくしゃみは続くだろうし他にも被害者が出るかもしれない。もう3着くらい投影しておこう。ここは明日菜達に任せてこの騒ぎを起こした元凶に挨拶しておこうか。
ネギ君達から少し離れるとひょっこりと楓とクーが顔を出した。
「楓も告白阻止に参加していたんだな。クーもか?」
「割りのいいバイトでござるからな。ただネギ坊主に胡椒は失敗でござった」
「ワタシは士郎サンを探していたアルよ」
「俺を?」
「修学旅行のお礼のお願いが決まったアル!」
あー、そういえば2人へのお礼はまだだった。わざわざ今やって来たという事は学園祭に関する事だろうな。
「学園祭ではまほら武道会という大会をやるアル。そこに参加してほしいアルよ」
「武道会…………あんまりそういうのには参加する気はないんだけれど、それが俺に出来る礼ならやるよ」
クーには悪いが、参加だけというなら適当なところで負けるか棄権でもさせてもらう。下手に自分の手の内を明かすような真似はしたくない。
「ふむ。なら拙者も便乗させてもらって、武道会でわざと負けるのは無し。本気で戦ってもらうでござるよ」
「…………参ったな」
「不可能なお願いではない筈でござる。あ、武器は木刀2本がいいでござるな」
ああ、確かにその通りだ。くそ、完全にしてやられた。この2人は最初からグルだったか。これならお礼は物限定にしておくべきだった。
「では予選会場へ行くでござる!」
「レッツゴーアル!」