剣と杖と先生   作:雨期

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第61話『武道会開催』

 楓とクーに引っ張られる形で士郎は半ば無理矢理まほら武道会の予選受付を済ませてしまった。自分から言い出した約束を反故にする事も出来ず、思わず溜め息をついてしまう。

 士郎はこういった催しが嫌いなわけではない。プロレスなんかは特に好きでよく視聴している。しかし自分が参加するとなると別だ。負ける事、見世物になる事が嫌ではないが、手の内を明かしてしまうのはあまり良くない。京都で散々魔術を使ったとはいえ、なるべくなら公の前での戦闘は控えたい。

 

「楓、竹刀にはなるけど双剣でいいんだよな?」

 

「それでお願いするでござる」

 

「おい、何をしているんだ?」

 

 双剣のみならと自分に言い聞かせていた士郎に声がかかる。振り返るとエヴァンジェリンと茶々丸がそこにいた。

 

「武道会の受付をしたんだよ」

 

「は? 貴様が? どうせ参加しないだろうと声を掛けなかったが興味があったのか?」

 

「いいや、参加するつもりはなかったが、楓とクーへのお礼をこれに使われてな」

 

「それで断るに断れなかったと。契約を守るところは魔術師らしいな。まあいい。参加するならそれはそれで楽しくなる。私も受付をするんだ。退け」

 

「エヴァも参加するのか。こういうのは観戦する側だと思ってたな」

 

「士郎さんとマスターに限って大丈夫だと思いますが、どうかお怪我をなさらぬよう」

 

「ありがとう、茶々丸。しかし武器の持参が許されるなんて大丈夫なのか? クーみたいな素手の武術家もいるだろう」

 

「誰が一番強いか決めるならその人の得意分野を使って当然アル」

 

 誰が強いか決めると言うと異種格闘技戦が挙げられるだろう。空手、ボクシング、ムエタイ等々、様々な格闘技は同じ土俵で戦う事が出来る。だがそこに武器を使用する武術はありはしない。あくまでも拳一つで競い合うものだ。戦場でもない大会で、刃物と飛び道具は禁止とはいえ武器の使用が許可されているのは異例と言える。

 

「いやいや皆の衆お揃いのようだネ」

 

「超? ああ、そういえば主催は超なんだっけ」

 

「そうネ。まさか士郎サンが参加してくれるとは思わなかったヨ」

 

「上手く嵌められたよ」

 

「こちらとしては士郎サンの戦いを一度は見てみたかったから嬉しい限りネ。今回の大会はかなりの猛者が大勢参加しているヨ。みんな気を引き締めるがいいネ。では失礼するヨ」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 武道会の予選が始まる直前、周囲を見渡したが明らかに参加者に魔法関係者が多い。それ自体は大きな問題ではない。麻帆良は魔法使いも多いし土地柄からか一般生徒なのに特殊な力を持つ子も多いからだ。だが問題なのはこの大会の撮影や配信が許可されているという点だ。観戦だけなら麻帆良の認識阻害である程度は誤魔化しが効く。しかし映像には認識阻害が効かない。普通に格闘するだけならいいが、認識阻害がある中生活してきた麻帆良の人々はどこか魔法を使うことへの危機感が薄い。この大会でも遠慮無く力を使うだろう。

 

「ネギ君、どう思う?」

 

 たまたまネギ君が近くにいたので声をかける。

 

「マズイですね。でも超さんはボクよりもずっと頭がいいですから何か考えがあっての事だと思うんです」

 

「どうかな。確かに俺達には考え付かない何かがあるかもしれない。だが明らかな危険行為だ。そして動かない魔法使い達もまた異常だ」

 

「考えが相当甘いんだと思います。認識阻害を過信しすぎているのか、もしくは機械に弱い魔法使いも多いですから、撮影されるというのがどういう結果に繋がるかまだ理解していないのかもしれません」

 

「魔術師にも科学を軽視している者は多かったな。このご時世、データは一瞬で世界に拡散されるぞ」

 

「本来なら学園長が動くべき案件ですね」

 

「ネギ君は動かなくてもいいのか?」

 

「魔法使いとしては間違いなく止めなくてはいけません。ですが教師としては超さんのやる事を知り、悪い事なら止めて良い事なら背中を押したいという気持ちもあります」

 

「なら行くんだな?」

 

 無言で頷くネギ君。もう少しで予選が始まるが、仮に間に合わなかったとしてもネギ君は超との話を優先するだろう。

 

「頑張れよ先生」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 勢いよく飛び出したはいいものの、超さんがどこにいるのか知らない。茶々丸さんなら何か手掛かりを知っているかもしれないから電話してみよう。

 

「おやおや先生。もう予選が始まってしまうヨ」

 

「! 超さん……お話があります」

 

「…………聞こうカ」

 

「超さんは何故この大会で撮影の許可をするんですか? 魔法を広げるような行為は犯罪になりかねません。ボクは超さんに魔法使いに狙われるような犯罪者にはなってほしくないです。理由もなくこのような事をするとは思えません。教えてください」

 

「……どう説明したものカネ。無論理由はあるけれどそれを教える事は出来ないネ」

 

「分かりました…………では質問を変えます。超さんにとってこの大会は大切なものですか?」

 

「ンーー、とても大切ダヨ。教えられない理由の事もあるけれど、楽しみにしてくれている皆がいるからネ」

 

「そうですか。でしたらこの大会は続けて下さい」

 

「いいのカナ? 先生の言うように犯罪者になるかもしれないヨ」

 

「その時はボクが守ります。生徒を守るのも教師の義務ですから」

 

 でもやりすぎは叱りますからね、と一言加えてその場を立ち去ろうとする。超さんの目的は以前不透明だけれど、直接話して分かった事がある。超さんの瞳からは強い使命感のようなものを感じた。ボクが何か言ったとして止まる事はないだろう。犯罪以外であれば極力サポートしよう。

 

「先生!」

 

「何でしょう?」

 

「……優勝目指して頑張るヨロシ」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

──────

 

 

 

 

 

 超にとってネギの返答は想定外にも程があった。彼女の知るネギ・スプリングフィールドは教師でありながらも魔法使いとしての常識に囚われていた。そんな彼が超が犯罪者になったとしても守ると言い切ったのだ。

 一瞬迷いが生じる。もし今ネギに協力を要請すればきっと迷い無く手を取ってくれる。そうすれば計画もより確実なものになるかもしれない。手を貸して、助けて、そう言うだけだ。そう思いネギの背中に腕が伸びかけるが、すぐに引っ込めた。

 これまで積み重ねてきたものにイレギュラーを組み込めばどうなるかわからない。超にとってネギは敵でなくてはならなかった。

 

「あんまり優しくされると困ってしまうヨ」

 

 超は顔を伏せながら持ち場へと帰っていく。その後の予選はネギや士郎は当然のように突破したが、士郎が懸念したように遠慮無く力は使われ、ネット上に拡散されることとなる。  


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