麻帆良祭の初日が終わり、中夜祭で大勢の人々が盛り上りを見せる中、士郎とネギ、小太郎、刹那、明日菜、そして木乃香の6人はエヴァンジェリンの別荘にやってきていた。
「1時間が1日って、こんなええとこあったんかいな。これがネギの成長の秘密かいな」
「教師をやりながら修業をするとなるとこういうのでもないと無理だよ」
「歳を早めに重ねることになってしまうのは女として気になるところですがね。しかしまさか士郎さんから鍛練に誘ってもらえるとは思いませんでした」
「ほんとにね。士郎さんこういうのにやる気出すなんて思わなかったわ」
今回大会前の特訓を言い出したのは士郎だった。小太郎以外の4人からすれば士郎が今回の大会にそこまで意欲があったのかと驚かされた。
「エヴァから言われたんだよ。今のうちに身体を動かしておけってね。予選で見た程度だけど俺の相手は相当な相手だから怪我しないための準備運動をしたかったんだ」
「俺ら相手に準備運動かいな。兄ちゃん後悔しても知らんで」
「士郎の旦那の相手はクウネルなんちゃらってふざけた名前のやつでしたね。そんなにヤバい相手なんすか?」
カモミールが尋ねる。士郎の実力を知る者にとっては当然の疑問と言える。
「紅き翼のメンバーらしい」
さらりと言われた言葉に全員が驚愕する。伝説のメンバーの一人がまさかこんなところに参加しているとは誰も考えていなかった。
「僕の相手はタカミチだし、師匠はいるし、士郎さんに加えてお父さんの仲間まで? 世界最強決定戦?」
「あはは、ネギ君頑張ってな。ウチも治療と料理でサポートするで」
「さてやるか。みんな準備はいいか?」
士郎は竹刀を投影して構える。ネギと小太郎はそれぞれ魔力と気で肉体を強化し、明日菜はいつものハリセンを、刹那は夕凪の代わりにモップを握る。木乃香はその様子をニコニコ顔で眺めていた。
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士郎さんに向かっていって30分。僕らは全滅していた。大会ルールにほぼ乗っ取った形とはいえ4対1で手も足も出ないのは悔しい。攻撃が掠めてはいるので士郎さんも擦り傷や切り傷くらいならあるけど、動きに支障が出ないなら無傷といってもいい。砂浜だというのに息一つ切れていないし、体力差も思い知らされる。
「みんなおつかれさん。治すで~」
「一太刀も浴びせられなかった……」
「ハァハァ…………や、やっぱり士郎さん強すぎ」
「少し前に比べたらみんなスタミナ増えたんじゃないか? だからってまだまだ子どもには負けてられないけどな。みんな才能はあるし、10年もしたら追い抜かれるさ」
「10年って長すぎるで。あー、そういえば気になったんやけどネギは瞬動術使わんのか?」
「何それ?」
「足に気とか魔力溜めて一気に移動する技や。達人同士の対決やと必須やで。ほれこんな感じや」
小太郎君が高速であっちこっちに移動する。何度も何度も見たことのある技術だったけどそんな単純なものだったんだ。
「「「へー」」」
僕とアスナさんと士郎さんが感心していると小太郎君は信じれない顔で士郎さんを見ている。あ、そうか。士郎さんくらいの実力なら瞬動術というのは覚えていて当然なんだ。
「嘘やろ……」
「し、士郎さん使えなかったのですか? 普段の移動速度は素ですか?」
「肉体を強化しているから素とは言えないけど瞬動術っていうのは使ってないな」
「士郎さんくらい強い人でも使わない人もいるのね」
「「いやいやいや」」
小太郎君と刹那さんが同時に否定する姿に思わず笑みが漏れてしまう。僕と木乃香さんは士郎さんの出自を知っているから出来なくても当たり前なのは知っているけど、他の人はそうでもないからなぁ。
それはともかく瞬動術は使えた方がいいかも。攻めにも逃げにも使える高速移動。それも負荷はかなり低そうだ。
「小太郎君! ちょっと教えてよ!」
「ええで! ライバルは強い方が楽しいからな! つってもやることはさっき言った通りや。習うより慣れろ。やってみ」
「うん!」
魔力を足に溜めて…………このくらいかな? このまま一気に踏み込む!!
「わわっ!?!?」
「ハハハッ! メリハリが足らんわ! もっと地面をしっかり掴まんといかんで!」
勢い余って砂浜から海に飛び込んでしまった。全身ずぶ濡れで小太郎君には笑われてしまう。ちょっと着地が雑なのかも。小太郎君の動きは一瞬でトップスピードになって止まるのも一瞬。慣性もなく静止する。着地の方により多く魔力を割くべきかな。
「えいっ! っととと」
「おっ! ええでその調子や!」
うん、何となく感覚は掴めたかも。あとは数をこなすだけかな。
「そーそー兄貴、タカミチってのはどんくらい強いんだい?」
「うーん? どのくらいかぁ。魔法使いとしては落ちこぼれって言っていたけど、100mくらいの滝は素手で割ってたよ」
「ほんまかいな。とんでもないオッサンやな」
「少なくとも今のネギ君には荷が重いだろうな」
士郎さんからはっきりと告げられてしまう。ただ意外だったのは勝てないではなく荷が重いという評価だったこと。それだけ僕の実力が上がったということだろう。士郎さんにそれだけ評価してもらえるのはとても嬉しい。
あっ、そうだ! あれを教えてもらえないか聞いてみよう。もし覚えられたら武道会でも大きな力になる。
「あの士郎さん、耳を貸してください。ゴニョゴニョ……」
「うん……うん……なんでその技を、って俺の記憶か。そうだな……短期間で覚えられるかはネギ君次第だが、教えるのは構わないよ」
「ありがとうございます!」
「なんや? 何を教えてもらうんや?」
「秘密兵器、かな」
「随分と楽しそうだな弟子共」
「師匠!」
「ほれ、これをやる」
バカンスにでも来たかのような水着姿の師匠が何かを投げ渡してきた。指輪……? いやただの指輪じゃない。杖の代わりになる指輪だ。僕の指にぴったり嵌まるサイズ。わざわざ造ってくれたのかな。
「魔法拳士として戦うならこれの方が都合がいい時が多いだろう。プレゼントだ」
「ありがとうございます!! 大切に使いますね!」
「阿呆。そんなもの消耗品だ。使い潰せばいい。それで坊やは士郎から何を教わるつもりだ?」
「秘密兵器なので秘密です」
「ほほう、師匠にも秘密とは生意気な弟子だな。ま、いいだろう。本番を楽しみにしておいてやる」
「はい!! では士郎さん、お願いします!!」
「ああ」
みんなから離れた場所でこっそりと士郎さんの技術、正確には士郎さんの世界にあるとある組織の技術を教えてもらう。これがまた難しくて3日も掛かってしまったけれど、どうにかこうにか形にはなった。これで武道会も万全だ! 頑張るぞ!