BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜 作:ジーザス
『楽しいな冬獅郎・雷蔵さん!』
『『そうだな〇〇』』
川の土手にある草の上に寝転びながら、本当に楽しそうに声をかけてきた友人に、2人して苦笑しながら返事をする。
〇〇と冬獅郎はまだ〈真央霊術院〉の院生で、俺は学生憧れの〈護廷十三隊〉の隊士。
普通であれば関わりを持てるはずもないが、俺が特別講師として赴いたときに偶然知り合った。それからよく顔を合わすようになっている。
いつも主席の成績を収めていた冬獅郎。次席で冬獅郎を追い掛ける〇〇は、周囲から僅かに浮いていた。それは2人の実力が他より群を抜いて高かったからであり、決して周囲が悪いわけではない。
実際、その年の霊術院の卒業生の腕前は総隊長が頷くほどハイレベルだったからだ。
その中でも群を抜いていた2人が周囲から浮いてしまったのは、仕方ないと言うべきか必然と言うべきか。言葉を選ぶのに難しいところだ。
『俺は〈尸魂界〉のために戦うんだ!』
『〇〇、それ何十回目か忘れたけど聞き飽きた』
『そう言ってやるなよ冬獅郎。〇〇だってそれだけの覚悟があるんだからさ。それよりこんな気候条件が整った日は滅多にない。今楽しまなきゃな』
俺の言葉に2人は再び寝転んで空を見上げる。
湿度も低すぎず、かといって高いというわけでもない。日光は程よく降り注ぎ、風は頬を撫でるようで時折前髪を揺らす風が吹く。
気温もちょうどいいので、ぽかぽか陽気と言っても過言ではない最高の気象だ。
『こんな平和な日々がいつまでも続いたら良いのになぁ』
『『ああ、そうだな』』
〇〇の願いに同調して返事をした後、睡魔に身を委ねた。
しかし、俺たち3人の願いは翌年叶わぬ幻想となる。
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第2話 覚悟
瞼を持ち上げると空は鈍色に染まり、重々しい空気が辺りに降り注いでいる。
昨日の夕方に出血多量で気を失った冬獅郎は、一護に回収されて雷蔵が寝転んでいる家の下で大事を取っている。
自分の霊圧を封じた中で、さらに寒さを遠ざけるように膜を張るのは少々疲れる。目的を果たすまでは、〈尸魂界〉に知られるわけにはいかない。
苦労しているおかげからか。今のところ追っ手の気配は感じられない。
〈穿界門〉が開かれて、〈現世〉に大勢の死神が捜査に来ているのは感知している。ここから離れた地域で活動しているので、そこまで心配する必要は無い。
見つかったところで冬獅郎を担ぎながら逃げても、余裕で逃げ切れる自信がある。
たとえ追手が〈隠密機動部隊〉の総司令官だったとしても…。
「ありゃ、冬獅郎のやつもう出てきやがった。傷口は塞がっていないというのに頑固な奴だ」
黒崎一護の家からコソコソしながら出てきた冬獅郎を、自宅の上から見下ろす。隊首羽織を着ておらず、仮面の男が着ていたマントらしきものを着て歩いている。
歩き出した道の先には、死神化した一護が腕を組みながら不機嫌そうな表情で仁王立ちになっている。
「ご機嫌斜めだな。どうせ止めても無駄なのに。冬獅郎は止まらない。そして俺も。
雷蔵と冬獅郎は襲撃者が誰なのか予測はついている。むしろそうでなければ、あの霊圧を体に受けたときの気分の高揚について説明が出来ない。
突如として、冬獅郎と一護の間に火球と雷球が空を駆けて落下してきた。
「誰だお前ら!?」
「我が名はイン」
「我が名はヤン」
青い髪と赤の髪をした女2人が一護の問いかけに答える。
「日番谷冬獅郎と雷蔵を、こちらに渡してもらおう。
「何!?」
「渡さぬなら」
「邪魔するのであれば」
「「排除する」」
2人が短刀に霊力を込めることで、それぞれの形状が変化していく。インの短刀は、青白い雷光を纏いながら鞭へと。ヤンの短刀は、刃の根元から炎が吹き出した炎剣へと変貌する。
「なんだよこいつら!冬獅郎、行くんじゃねぇ!」
「…すまない黒崎」
冬獅郎は謝罪してから2人の元に向かおうとする。
「冬獅郎!」
一護は必死な想いで冬獅郎を引き留めようとする。
行くなと。
戻ってこいと。
呼びかけ続ければ、こちら側に戻ってきてくれると信じている。
だが振り返った冬獅郎の眼にはすさまじい葛藤が見られた。
「冬獅郎、っ!やめろ冬獅郎!俺はお前と戦いたくねぇ!…冬獅郎!」
「許せ黒崎…」
冬獅郎は猛然と一護に斬り掛かる。それを必死な様子で受けるが、斬魄刀がぶつかる瞬間に何かが自分の中に流れ込んでくる。
血まみれの男と消えていく斬魄刀。
「黒崎…頼む」
「っ!」
迷いを振り払うかのように《氷輪丸》を振りかぶる。祈りのようにも懺悔のようにも一護には感じられた。大きく体勢を崩された一護は、着地する前にインとヤンによる攻撃を受ける。
火球と雷球が着地する瞬間、一護に襲いかかった。爆風が自宅の上にいる雷蔵まで届くほどの威力。生身の状態では鬼道衆たちのように消し炭になっていただろう。
「…くそっ!ハアハア」
《斬月》で防いだのだろう。出血は激しいが消え去ることはなかった。だがダメージはかなりあるらしく呼吸は大きく乱れ、額からは血が止め処なく流れ続けて地面に落ちていく。
「まだ、立つのか?ならばこれで!」
「どうだ!」
インとヤンが振りかぶる。ヤンの火球が巨大になり、それを包み込むかのように電撃が火球の表面を走っていく。
「「死ね!」」
2人が放った合体技を一護は冷静に見つめて眼を閉じた。すると霊圧が爆発的に巻き起こり、視認できるほどに高まる。一護の体が白く淡く輝いているように見えた霊圧は、《斬月》へと移動する。
「《月牙天衝》ぉぉぉ!」
《斬月》を薙ぎ払うかのように振るった。刀身から放たれた飛ぶ斬擊がインとヤンの合体技を貫き、消滅させても威力を失うことなくインとヤンへと向かっていく。
〈瞬歩〉のような歩行で、その場から少し離れた場所へと移動し攻撃を避けた。
「クソっ!外したか!」
「我らの攻撃を破るとは…」
「なんという力だ…」
2人は少しの間顔を見合わせて超高速移動でその場から消えた。それを追い掛けようとした冬獅郎に、《斬月》を杖代わりにして立ち上がろうとしている一護が引き留める。
「っ冬獅郎!行くのかよ…。…クサカっていう奴と関係、あん、のか?」
「…
「殺された?待て冬獅郎!冬獅郎ぉぉぉぉ!」
意識が薄れていく中、一護は悲しげな冬獅郎の背中をしばらく見つめていた。
倒れた黒崎一護の横に降り立ち、隊首羽織を背中にかぶせる。《卍解》していない状態とはいえ、ここまで大きなダメージを与えるあの2人組は侮ることはできない。
電撃と炎というどちらも人間には厳しい属性の攻撃を受けたのだ。いくら白哉に辛勝した死神代行でも耐えられる代物ではなかった。
「…すまない」
腰から抜いた
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暗い意識の底から戻ってきて眼を開けると空が青かった。どうやらかなりの時間気絶していたらしい。
「おい一護、ここで一体何があった?それにこの羽織、雷蔵隊長のじゃねぇか」
「…羽織?あれ、いつの間に…」
「こやつの反応からすると、雷蔵隊長を見たのではないようだぞ恋次」
自分に話しかけているのは友人の恋次とルキアだった。今はあの公園からほど近いビルの上にいるらしく、気兼ねなく話すことが出来た。
「取り敢えず俺の家に来てくれ。そこで詳しく話す」
2人を連れて自分の家へと一護は戻っていった。
家に帰って自室に入ると、自分の机の上に羽織が置かれていることに気付いた。
「あいつ、これを置いていくなんて…」
〈十〉の文字が刻まれた羽織を見つめながら呟く。おもえば剣をぶつけ合ったときには、これを着ていなかったと思い出す。これを着ていない理由がどういう意味なのか。雷蔵が同じように隊首羽織を残していったことが、何を意味しているのかわからなかった。
「それは日番谷隊長の…」
「てめぇ一護!何で2人を止めなかった!?」
驚いているルキアを放っておいて恋次は一護に掴みかかる。
「止めたさ!…けどわけわかんねぇ奴追い掛けてすぐいなくなっちまったし、雷蔵さんの方は霊圧すら感じなかった」
「それで日番谷隊長はなんと?」
「〈王印〉を取り返すって。それだけしか言わなかった…。そうだクサカって言ってた。2人とも知らねぇか?」
一護の問いに2人は首を振った。縦にではなく横に。その反応に一護は深いため息を吐いた。2人が知っていればもしかしたら自体が急展開するのではないかと思ったようだが、それはあまりにも甘い考えだった。
「恋次、一度〈尸魂界〉に戻ってそのクサカとやらを調べてくれぬか?もしかしたら松本副隊長が言っていた今回の事件と、何か関係があるかもしれん」
「いいけどよ。なんで俺なんだ?」
「無席の私では謁見が許可されるとは思えない。それからこの隊首羽織2枚と
「…嫌な役目だな」
恋次は渡された
謁見を京楽と共に入ることで許可された恋次は、3人に〈現世〉で見つけた品を渡した。
乱菊に〈十番隊〉隊首羽織を。
雛森には〈三・五共同隊〉隊首羽織を。
イヅルには
そのときの3人の表情を見て、恋次は心臓を握られるような不快な感覚を抱いた。
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自ら霊圧を封じた痕跡を注意深く辿っていると、ある廃工場に辿り着いた。そこでは背を壁に預けて、浅いまどろみの中に沈んでいる冬獅郎が、《氷輪丸》を大切そうに肩に立てかけている。
近付くと霊圧に気付いたのだろう。眼を開けてこちらに向けてきた。
「雷蔵、お前も隊首羽織を…それに
「お前と
立ち上がって歩き出そうとする冬獅郎の腹部に、懐から取り出した小瓶の中身を死覇装の隙間から差し込んで傷口にかける。すると滲みるのだろう。歯を食いしばって痛みに耐えている。
「もう少しだけ我慢しろ。これぐらいの痛み、
「…ああ、そうだな。しかし良いのか?緊急応急用霊圧の霊薬を使っても」
「今ここでお前に倒れられては困るからな。本当は井上とかいう奴に治してもらう予定だったんだが、お前が颯爽と逃走するから予定が狂った」
「…すまない」
居心地が悪そうに視線を外す冬獅郎に、雷蔵は自然と笑みを浮かべる。こんなに素直な反応をする冬獅郎を見れるのが嬉しかったのだ。
「気にするな。これからのことを考えれば、少し行動が難しくなるが動けなくなるわけじゃない。それに
「そうか。なら、できるだけ速く行動しないと。…っ!」
立ち上がろうとした冬獅郎だが、すぐに片膝を突いてしまう。いくら〈四番隊〉の応急霊薬を傷口に注いだとはいえ、所詮は応急処置だ。直接治療するより効果が薄いのは否めない。
「あまり無理するな。黒崎一護との戦闘の時のように傷口がまた開くぞ」
「それでも行かなきゃなんねぇ。これは俺がやらなきゃ、俺がやるんだ!っ!クソが…」
再び立ち上がろうとする冬獅郎に雷蔵は悲しくなった。いや悲しいのは雷蔵ではない。むしろ冬獅郎だ。自分の魂が消えるかもしれないというのに、ここまで自分の成すべき事を成そうとするのは、自分が終わらさなければならないと思い込んでいるからだろう。
「草冠…。雷蔵、何をして…」
「そこまでして行こうとする奴を、簡単に止められるわけがないだろう?それにお前が誰より悲しんでいるのも苦しんでいるのも、俺は全部知っている。だからってお前1人が抱え込む必要は無い。そういうのは家族、友人と分け合うものだ。お前には家族はいないのかもしれないが友はいるはずだ」
「ふん、馬鹿だなお前は」
何故かけなされたが腹は立たなかったし、気を張っていた冬獅郎が僅かでも気を休めることができたならそれでいい。
「そりゃどうも。褒め言葉として受け取っておくよ。《氷輪丸》も持とうか?」
「いや、これは俺が持つ。俺の唯一の
「「あいつも《氷輪丸》持っているから」」
バッチリとハモったことで2人して笑みを浮かべる。
「さてと、もう少し気軽に休めるところを見つけないとな」
冬獅郎の左手を自分の首に回して歩き出した。
なんとか3話で終わりそうです。