BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜 作:ジーザス
ではどうぞ〜
18
藍染との決戦までの2ヶ月間。〈護廷十三隊〉の面々は、其々が思い思いの方法で力を蓄えていた。
ある者は剣技だけを磨き、ある者は《鬼道》だけを磨く。
自分の短所を補充する者、あるいは長所を伸ばす者。
僅かな時間にできることは限られているが、誰もがその時間を無駄にしなかった。この戦いに勝利を収めなければ自分たちの命はおろか、世界をも守ることができなくなるからだ。
守らなければならない。家族・恋人・友人。其々がそれぞれの思いを胸に秘めて修行に励んでいた。
それは雷蔵も例外ではなかった。
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ドカーン!
「ギャー!」
爆心地から聞こえる悲鳴。立ち上る煙を雛森は吸い込んでしまい何度も咳き込む。
「ケホッケホッ。隊長、大丈夫ですか?」
「…ヤバいかな」
「ええ!」
土煙で見えない雷蔵に何かあったのか混乱して、土煙の中を走る。前方がほぼ見えない中、雛森は真っ直ぐに走ることだけを考えて向かう。
「隊長!」
煙を抜けた先では爆発の張本人、雷蔵が地面に両手をついて落ち込んでいる。上半身には服を着ておらず、下半身は死覇装を着ているが所々土ぼこりで汚れたりほつれたりしていた。
見たところではそれほど大きな怪我はしていないようだ。
「身体の傷はそれほど問題ないようですけど?」
「心がヤバいな」
何度目。いや、何十度目・何百度目・何千度目とも忘れるほど失敗を続けている雷蔵は、相当精神的に病んでいた。
「…慰めます!」
「は?…むぐ!」
雛森が意を決したような表情で言うと、雷蔵はどういう意味なのかわからず振り返ると同時に、雛森に顔面を掴まれた。押し付けられているのは柔らかい2つの膨らみ。そして鼻腔をくすぐる甘い匂い。雷蔵は自分の欲が高まるのを否応なく感じてしまった。
さすがにそれを知られるわけにはいかないので平静を装うが、雛森には雷蔵の葛藤など理解する暇がない。顔を真っ赤にして雷蔵の頭を抱え込んでいるという現状もあるが、どちらかというと大胆すぎる自分の行動を恥じている側面が強い。
「ひにゃもりはん?」
「ひゃあ!喋らないでくださいくすぐったいです!」
「そっ…」
「そんなこと言われても」と言いたかったのだろうが、喋るなと言われた雷蔵は口をつぐんだ。
自分より身長がはるかに高い雷蔵の顔を下に持ってくるのは、雛森にとって相当難しい技術だ。警戒していない雷蔵の顔を持ってくるのは、案外簡単なことだった。
「…隊長は苦しんでいるんですよね?」
「?」
恥ずかしいのを堪えながら雛森は雷蔵に問いかける。声をかけられた雷蔵は、雛森が何を言いたいのか理解できず、再び疑問符を浮かべる。
「市丸隊長に裏切られて、100年前の復讐を妨げられて悔しいんですよね?でも、今日までの修行の様子を見てて思ったんです。本当に市丸隊長を恨んでいるのかって」
雛森の質問に雷蔵は一言も答えない。雛森に喋るなと言われたのもあったが、何よりギンを恨んでいるのかという言葉が引っかかっていた。
100年もの間、2人で藍染の陰謀を阻止すべく、共に命じられるままに任務を遂行してきた。だがその途方も無い苦労を打ち砕くかのように、ギンは邪魔をした。
腹立たしくて心底憎いと思った。だがそれは本心だったのだろうか。その場限りの一時的な殺意だったのではないだろうか。
〈
確かに裏切られたことに対する怒りは存在するが、あの瞬間ほど殺意が芽生えている気はしない。落ち着いている自分がいることに驚いている。
何故、裏切られたにもかかわらず今のように穏やかでいられるのかわからない。100年の間、共に動いてきたからだろうか。はたまた115年前、僅かな時間とはいえ面倒を見ていたことによる親心からだろうか。
どちらも違うように思えるのは気のせいだろうか。他に、別の理由があるのではないかと思えてくる。だがその理由がなんなのか、まったく見当もつかない。
「私には隊長が本当に市丸隊長を恨んでいるようには見えないんです。哀れみでもなく同情でもなく。むしろ同じように苦しんでいるように見えます」
雛森は雷蔵の頭を優しく撫でながら問いかける。
「乱菊さんに聞きました。短い間にお二人の世話をしていたと。〈護廷十三隊〉の仕事の合間を縫っては、様子を見に行ったり必要なものを届けたりして親代わりをしていたとも」
5年というわずかな合間だったが、その時間が何より雷蔵にとってはかけがえのない宝物だった。2人に会いに行くのが楽しみで、日々の訓練や任務も以前ほど苦しいとは思わなくなった。
自分には子供がいなかったが、まるで我が子のように年端もいかない2人が愛しかった。
だがある日、ギンが「死神になる」と言い、乱菊とともに暮らしていた家を出て行ってしまった。
その後、乱菊を引き取って自宅に住まわせるようにした。友人の女死神に乱菊の世話をしてもらいながら仕事を続け、乱菊が〈真央霊術院〉に入学するまで2人だけの生活は続いた。
その時間もまたかけがえのない時間だった。以前は週に2回、たまに2週間に1回という頻度で会いに行っていたが、その時は毎日会えた。
ギンがいないという寂しさもあったが、それを補えるほど幸せだった。
乱菊のことを意識し始めたのは、その頃からだっただろうか。別に女性という意味合いではなく、1人の死神として妹として守らなければならないと思い始めた。
自宅に帰れば院帰りの乱菊が夕食の準備をしてくれていたし、風呂を沸かしてくれたりしていた。
ただそれだけなのに疲れた身体が癒される気がした。
「5年でも一緒に暮らしていた人を殺めるなんてこと、どうしたってできないと思います。でも、それでも倒さないとダメなんですよね?私は何があっても隊長について行きます」
その言葉を最後に雛森は雷蔵の顔を離した。
ようやく開放された雷蔵は、少し顔を紅くして一言だけ述べた。
「ありがとう」
ただ一言だけでもその言葉が聞けただけで雛森は嬉しかった。
「ところで隊長は、《鬼道》を使うときにどのようなイメージをしていますか?」
「できるだけ速くて威力の高くって感じかな」
「それじゃダメです。《鬼道》はイメージがとても大切なんです。【白雷】なら鋭く、【百歩欄干】なら細長く、【赤火砲】なら赤くて砲撃のような感じで。それぞれの特徴をイメージするだけで成功率や威力は段違いに変化します。これは私なりの研究なので正しいかはわかりませんが」
雛森は自信なさそうに言うが、《鬼道》において彼女の右に出る者はほぼいない。そう言われるほどの腕前なのだから、彼女の考察が間違っているはずがない。
「もしかしてこれから休憩無しで修行?」
「もちろんです!さあ四の五の言わずに練習しますよ!?」
「ええ~。…は~い」
雷蔵は嫌がりながらも真面目に練習を始めた。
その後、またもや爆発して雛森を巻き込こんだ。あられもない姿にさせてしまった雷蔵は、偶然様子を見に来た乱菊に誤解されて左頬を思いっきりビンタされた。
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「ふっ!っ!たあっ!」
イヅルは全力の攻撃を全て受け流されている現実に驚愕していた。《侘助》を使っていないとはいえ、ここまで全力を出しても一発も当てることができないことが怖かった。
その恐怖は指導してもらっている人物の腕前だった。どれほど力を込めようと、フェイントを入れようとすべてをさばかれて返り討ちを喰らう。
「はぁっ!」
「おっと、残念だったな」
雷蔵がイヅルの攻撃を刀身を滑らせることで、受け流した流れを利用してイヅルの懐に入り込む。振り下ろした際の重心を置いていた軸足を払われてバランスを崩し、その場に倒れこむ。
そのイヅルに木刀の切っ先を向けながら、雷蔵は微笑みながら告げた。
「負けました」
僕は素直に負けを受け入れた。どう転んでも一本をとることができないと思えるほど力の差がある隊長は凄い。一体どれほどの鍛錬を繰り返せば、これほどの高みにまで至ることができるのだろうか。
僕は思い切って聞いてみることにした。
「隊長、どうすればそのように強くなれますか?」
「死ぬまで自分を追い詰める、かな」
返ってきたのは意外な言葉だった。
「死ぬまでですか?」
「イメージだけどな。簡単に言えば、体力と精神の限界まで追い詰めるような修行を続けるということだ。俺の場合は友人にそういう奴がいたから苦労はしなかったが」
「四楓院家22代目当主ですか?」
「ああ。あいつのおかげで短期間でかなりのところまで至ることはできた」
隊長の表情は喜びと同時に悲しみの表情が見て取れる。浦原さんと夜一さんとの生活がそれほど楽しかったのだろうか。僕にはそれを判断するほどの洞察力は持っていないし、何よりどれだけの苦しみを味わってきたのか想像もつかない。
でも一つだけ言えるのは、隊長にとってその生活が何よりかけがえのないものだったということだ。お二方の昔話をする度に、その懐かしみと悲しみが混ざったような表情が垣間見える。
僕にとっての隊長は誰よりも強くて憧れる芯のある人だ。
初めての出会いは大虚に襲撃されたとき。
あの時は誰もが勝てないと思わされた相手を、市丸
それほどまでに強烈な第一印象を僕に与えてくれた。それが死神として強くなりたいと思うきっかけになった。だから僕は隊長の背中を追い続けることができるんだと思う。
「《破面》との戦いまで残り僅かですけど僕は強くなれますか?」
2つの世界の運命を分ける戦いまで残り1ヶ月強。隊長に修行をつけてもらったとはいえ、どこまで強くなったのかはわからない。
同じ相手と戦いをしていると腕が上がったかどうかを知る術は、自己判断するしかない。隊長の動きついていけるようになったのは事実だが、それが本当に自分の力なのか。
もしかしたら隊長が手を抜いているからついていけるようになったと勘違いしているのかもしれない。
「簡単ではないだろうな。〈破面No.6〉の奴でもかなりの腕前だった。あいつより上に
「僕が本当に強くなっているのかわからないんです。斬魄刀を使った戦いをせずに木刀だけでこの1ヶ月を過ごしていますから」
僕はこの1ヶ月弱を斬魄刀ではなく木刀だけで修行してきた。それは隊長の命令なのだけれど、なんとなく違和感を覚える。
斬魄刀を使った戦いが僕たち死神の戦い方なのに、それを使わずして命をかけるには、軽すぎる木刀では頼りなく感じてしまう。
「基礎戦闘力を上げないと、いくら斬魄刀を使ってもあいつらには勝てない。基礎戦闘力を上げると自ずと斬魄刀の力も上昇する」
「木刀では恐怖を感じない気がするのですが」
僕が呟くと隊長が木刀に霊圧を込めて振り下ろした。すると僕の背後にあった巨大な岩が真っ二つに割かれた。
「…」
「これでも恐怖を感じないって?」
「…カンジマス。スミマセンデシタ」
笑顔で言われたら謝るしかないよ!あんな巨大な岩をいとも容易く真っ二つにするなんて簡単じゃないからね!?
「まあ、お前の言いたいことは理解できる。木刀はそれ自体にある殺傷能力はたかがしれているし。斬るのではなく叩くとかそういうイメージが強い武器だからな」
「木刀にはどんな意味があるんですか?」
「俺の意見だが、木刀は基本の動きを体に染み込ませるための道具じゃないかなって。真剣と木刀じゃ対峙した時の緊迫感の度合いは比べ物にはならない」
確かに、真剣を向けられるより木刀を向けられる方が危険度は低い。僕もそれは同感だ。つまり隊長は木刀だろうと真剣だろうと戦うときは、戦うなりに覚悟を決めろと言っているんだ。
「勉強になります」
「部下の成長ほど嬉しいものはないさ。それからこれを見ろ」
雷蔵が示したのは自身が斬った岩の断面と表面だった。イヅルは言われるがまま近寄り、何を指しているのか近寄る。
「綺麗な断面ですが…あ、所々に欠けた部分や真っ直ぐになっていない部分がありますね」
「その通り。つまりこれはまだ力加減ができていなくて、均等な霊圧の刃を作れていないということだ」
「隊長でもできないということですか?」
イヅルの質問は、隊長ほどの才能を持つ人でさえ扱うのが難しいという意味合いだった。それが伝わっていたのか雷蔵は苦笑しながら頷いた。
「この技は見様見真似でやっただけだからな。こういうふうに雑になってしまうわけだ」
「つい最近のことなので?」
「黒崎一護が使った技だがあいつのほうが威力は上だろうな」
その言葉を聞いてイヅルは、この技が何かに似ていた疑問が解決したことで、スッキリしたような表情を浮かべた。
「小休止もできたところでそろそろ続きをするか?」
「はい、お願いします!」
イヅルが木刀を握り直し、雷蔵へと先ほどより強い攻撃を放って行く。
そんな激しい中にものどかな時間が過ぎていく。雷蔵・喜助、夜・一だけが知っていた秘密の基地で、そんな楽しい時間が流れていった。
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そして喜助との約束である1ヶ月前にさしかかるという頃、雷蔵はようやく《鬼道》を習得した。
〈穿界門〉を通って〈現世〉へと帰還する。1ヶ月ぶりだから感慨めいたものがあるわけではないが、なんとなく落ち着く場所である。軽く空気を吸い込んで目的地へと向かう。義骸に入り地面を歩いていると、目的地であるしがない駄菓子屋が見えてきた。
ドアをノックすると、帽子を被った友人が扇子を口に当てながら出てきた。
「予定通りっスね」
「かなり根気つめて修行したからな。それでもギリギリだったさ。それより下から僅かに霊圧を感じる、阿散井とあと一人は誰だ?顔は知っているが名前までは知らない」
「茶度さんですよ。黒崎サンのご友人の体格が素晴らしい方っス」
言われて思い出した。確か京楽隊長と交戦して興味を持たせた人間だ。というより人間と言っていいのかわからない。
人間にはない力を持っているから人間ではないが、肉体的な組成は人間である。本人は人間のつもりだろうし、誰もその事を気にすることはないだろう。何故なら彼も藍染の反乱を阻止するのに手を貸してくれたのだから。
「それでアタシにしてほしいこととは何ですか?」
「地下を貸してほしいのと○○を頼む」
雷蔵の言葉に喜助は驚愕の表情を浮かべた。