BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜   作:ジーザス

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一週間で書けたぁ!

前話投稿したらお気に入り数が減った…。でも作者はめげない!諦めない!

読んでくれる人がいるから!


22

地面に倒れ込んだ私を見下ろす数多くの影。その眼は弱気者には立つ資格無しとばかりに、嘲笑い見下す視線しかない。

 

弱者には生きる価値がないのか。弱者は命を持っていてはいけないのか。

 

そんなことばかりが、血まみれになり生きる気力を失った私の頭の中に浮かぶ。

 

どれだけ強くなろうと願っても限界がある。同じ存在であったはずの名も知らぬ存在が自分より上に立っている。それがどれだけ苦痛か。何故自分は同じ場所に立つことができないのか。何故生きたいと思うことがダメなのか。

 

その理由を教えてほしい。

 

この汚れきった世界を。腐りきった時代を修復させることは可能だろうか。

 

最後の気力を振り絞って、玉座に座る死神(・・)を見る。

 

左手でほおずえをつき、不気味に笑みを浮かべながら陶器のように冷えた視線を私に向けている。

 

『用済みだね。誰か破棄を頼むよ』

『はい』

 

喉元に穴が開いた(・・・・・・・・)白い人物が、私を片手で持ち上げる。そして近くの窓から外へ放り投げた。

 

落下しながら小さくなってく先程までいた場所に手を伸ばす。

 

二度と戻ることのできない場所に未練があるのか。内心で自虐的に笑。微笑む

 

『藍染…』

 

主犯の名前を呼ぶと私は現実から意識を手放した。

 

 

 

 

 

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崩れ始めた22号地底路から脱出した一護たちは、目の前に広がる景色になんとも言えない表情で見ていた。

 

「白くて何もないんだな」

「それに霊子濃度が濃い。僕にとってはとても好ましい環境だね」

「滅却師は自らのではなく、周囲から霊子を吸収して戦う種族だからな。〈虚圏〉のほうが戦いやすいのは事実だが。それは虚や《破面》にも言えることだ」

「む…」

 

会話をしている合間にも、チャドは左手をしきりに気にしている。握っては開いてを繰り返し、違和感を感じているのか普通の様子ではない。

 

「どうした?茶渡泰虎」

「なんだかな違和感がある。ただそれだけだ」

「違和感?」

「何かが身体の中から溢れだしている。そんな感じなんだが俺にもよくわからん」

 

本人にもわからないとなるとお手上げである。そもそも虚に近い存在である自分が、人間にあるまじき能力を得た彼の力を理解できるとは思っていない。

 

知識を持たない自分が理解できることといえば、今の〈虚圏〉の在り方が間違っているというその一点のみ。何故間違っていると言えるのか自分もわからない。ただ《破面》を見る度に頭痛がするのだ。

 

胸にもやもやとする何かが溢れてどうしようもなく倒したくなる。それが何によるものなのか思い出せない。此処にいた(・・・・・)のではないかという根拠のない理由だけが渦巻く。

 

空気をゆっくりと吸う。ほのかに甘酸っぱいものが胸一杯に広がり、郷燥に似た感情がわき上がってくる。

 

「なんだあれは!?」

 

一護が指差す先には、フード付きマントを着た背の低い何かを、2体の人影と蛇に似た生き物が追い掛けている。

 

叫び声を上げているのは、殺されることを予想しているからなのか本気だ。だがヤンは追い掛けている2体の人影と生き物を見て、あることを思い出した。

 

あれは…。

 

「取り敢えず助けるぞ!」

「ちょっとま…ああもう!」

 

思い出して声をかけようとすると、すぐに走り出した3人を追い掛ける。せっかちというのは、こういうところで面倒なことを起こすものだ。

 

 

 

「やめれ~やめてけろ!」

「やめろ!」

「ほげ!」

 

追いかけていた2体と謎の生き物を牽制している一護と雨竜に、フードを脱いだ人物とヤンが仲裁に入る。人物の方は口だけだったが、ヤンの場合は肘打ちつきだったので、一護はその痛みに転げ回っている。

 

「…逆らわない方が身のためだね」

「む」

 

眼鏡を押し上げながら悟ったように言う雨竜に、チャドも同感らしく深く頷いている。

 

「ネル、久しぶりだ」

「あ、ヤンでヤンス!」

「これはこれはお久しぶりですヤン様」

「ヤン~!」

「バワバワ!」

 

感動的な再会を果たしている4人に、一護たちはどう声をかければ良いのか迷っていた。

 

「なんだこれは?」

「…干渉しない方が身のためだ」

「ヤンでヤンス…ふ」

「茶渡くん、君は真似しなくていいんだよ」

「む」

 

ヤンスが気に入ったのか、チャドが真似ると雨竜が正気に戻した。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

ヤンとフードつきマントを着た虚の絡みを、少しだけ傍観していた3人は疑問を口にした。

 

「で、一体どういう関係なんだ?」

「ネルたちは私の命の恩人だ。血まみれで倒れていた私を保護して世話をしてくれた」

「血塗れ?なんかあったのか?」

「わからない。気がついたときには血塗れで外に倒れていたらしい。そこを偶然通ったネルたちが親切にも治療してくれた。敵しかいないこの世界で、自分たちの安全より私の治療を優先したバカだ」

 

ヤンはネルの頭を優しく撫でながら口をほころばせて話す。その様子は、子をあやしている母親のように穏やかだ。見ていて心が安らぐ光景だった。

 

ヤンの口にしたバカとは決して悪い意味ではない。物好きだなという半ば呆れながらも喜びを感じている様子だ。

 

「ネルは《破面》のネル・トゥと申スまス」

「兄のペッシェです」

「同じく兄のドンドチャッカでヤンス」

「「「そしてペットのバワバワっ!」」」

 

自己紹介がなんともシュールなのだが、後ろではチャドがまたもやヤンスに反応して笑いを堪えている。

 

「…再会はともかく、〈虚夜宮〉ってところに行きてぇんだがどうやって行けばいい?さっきから見えてっけど近付ける気がしねぇんだ」

「目測では近く感じますが、実際の距離は計り知れません。ご覧下さいあの建物の近くに生える木々を」

 

ペッシェが指差す方向に眼を向ける。近くに生える木々は自分達とほぼ同じ背丈だが、建物付近では小指ほどの大きさにしか見えない。

 

「こうして見るとかなり小さく見えますが、本来の大きさはここらのと同じ高さです。それだけここからあの場所まで距離があるということです」

「僕の飛廉脚と黒崎の瞬歩ならある程度の時間で済むが、茶渡くんがついてこれなくなる。どうする黒崎」

「バワバワってやつは早いのか?」

「覚醒している茶渡泰虎の走る速度よりは速いが、滅却師や死神よりは遅いな」

 

ヤンの説明に一瞬迷った一護だったが、それで行くことを決めた。

 

 

 

「ところでなんで〈虚夜宮〉に行くっスか?」

「仲間を助けるためだ」

 

一護は迷う素振りを一切見せずに言い切った。

 

「それだけですか?」

「十分すぎる理由だ。仲間ならどこにいても助ける。それが俺たちのやり方だ」

「相手が望んでなくてもヤンスか?」

 

ドンドチャッカの予定外の質問に、一護がだしかけた言葉を飲み込む。それはどんなつもりで飲み込んだのかは、本人にしかわからないことだ。

 

「あいつが、井上がそんなこと思うはずがねぇ。助けを求めるはずだ。いや、求めてるはずだ。それにあいつが望んでなくても俺たちは連れ帰る。あいつがいるべき場所はここじゃなくて〈現世〉だ」

「ヤン様はどうしてですか?」

「本来はこいつらの誘導が目的だったが、ここに来てからなにやら頭が痛む。体調不良という意味合いではなく、何かを思い出そうとしているそんな感じの痛みだな」

 

今も鈍痛を感じるのか、せわしなく額に手を当てて耐えているようだ。

 

「痛みだって?どんな痛みなんだい?」

「チクチクと刺すというよりつつくような感じだ。気にすることはない。すぐ収まるさ」

 

ヤンが無理矢理に作った笑顔を見て全員が大丈夫ではないと思ったが、心配すればヤンに余計な負荷を与えると思い何も言わなかった。

 

聞いた雨竜ももう少しだけ聞いておくべきかと思ったが、気分を害してまで聞くべきではないと自分に言い聞かせた。来る頃は冷たかったというのに、今は仲間として受け入れているように見える。強さを見たからなのか。ヤンの魂の叫びを理解したのか。

 

それは雨竜にしかわからない。

 

ペットのバワバワに乗って移動していると、目の前に巨大な砂が建造物のように突如立ちはだかった。

 

「は?」

「…歯ではなく砂だぞ黒崎」

「デカい…でヤンス…む」

「茶渡くん…」

 

突っ込むことで自分の動揺を隠す雨竜だった。

 

『我が名は〈白砂の番人〉ヌルガンガ。今し方〈虚夜宮〉より侵入者アリとの報が入った。よもやぬしらのようなガキとは思わなんだな』

「戦闘力は年齢イコールではないぞ」

『ぬ?おうおう、そこにおられるのはヤン殿(・・・)ではないか。息災か?』

 

ヤンを含めて全員が首を傾げる。さきほどまでの威圧感が消え、若者を可愛がる老人のように優しい雰囲気に変わったのだ。

 

「知り合いか?」

「知らん。私の記憶にはない」

『記憶喪失とな?なんとも悲しきことよ。それほど時が経っていなくとも、我の中には深く刻まれておるわ』

 

砂で形成されているはずの顔には、どこか愛嬌が加わったような気がする。

 

「悪いが私には貴方と関わっていた頃の記憶はない。邪魔をするのであれば排除するのみ」

 

ヤンが後頭部に挿していた短刀を抜刀する。それに合わせて一護が斬月を、雨竜が零弓〈銀嶺孔雀〉を、チャドが右腕に鎧を発現させる。

 

ネルたちはバワバワの背中に可能な限りへばりついているが。

 

『潔し。敵の大きさに怯えず、立ち向かうことを選んだことは称賛に値す。だが砂でできた我〈白砂の番人〉ルヌガンガを倒せるとでも?』

 

3人がどう攻撃しようか迷っていると、ヤンが刀身に焰を纏わせてルヌガンガに歩いていく。焰が放つ輝きは、ヤンの意思が宿っているかのように鮮やかでまた力強い。

 

「…砂の昇華温度は約1000度。私の《焰王》の温度は計測不能だ。だが砂の昇華温度より高いのは確定事項。それでも私と交戦するか?」

『我の受けた命は〈侵入者を排除せよ(・・・・・・・・)〉であった。だがその主犯がヤン殿であれば、排除の意味は無し。侵入者というのは藍染以下2名(・・・・・・)のことである。故に!我はぬしらと敵対するつもりはなし』

「…一件落着だね」

「「一護!」」

 

安心していると、右方から馴染みのある声が聞こえてきた。顔を向けると、勝ち気な容姿の女性と赤の長髪をした男性が笑みを浮かべている。

 

「ルキア!恋次!…はぶ!ぶお!」

 

ルキアから顎に向かって正拳付きが放たれ、その後に恋次からの左フックにK.O.された一護は、地面に倒れ込んだ。

 

不意討ちを喰らっては、彼らより霊圧が高い一護でも無事では済まないらしい。

 

「たわけ!何故我々が行くまで貴様は待てぬのだ!」

「一護、俺もルキアも行くつもりだった。置いていかれるのは耐えられねぇぜ。俺たちは仲間だろ?」

 

恋次の言葉に一護は自分の判断ミスを恥じた。織姫の救出のことだけを考え、戦力になるはずの2人を蔑ろにしてしまった。仲間の援助を待たずに何を救出だろうか。仲間であるのならば協力するべきだったのだ。なのに、自分は自分の欲に負けてしまった。

 

自分に正直であれと言うが、それは決してすべてを受け入れろというわけではない。自分の考えが気持ちがすべてではないのだ。

 

「…悪い。俺の我が儘がお前らを不快にさせたことを謝る」

「たわけ、その言葉を聞きたいのではない。他に言うべき言葉があるであろう」

「ああ。行くぜルキア・恋次!」

「「ああ(おお)!」」

 

2人に声をかけ目の前にある〈虚夜宮〉の壁へと肉薄する。壁は〈殺気石〉でできているわけではないようだ。

 

〈殺気石〉とは、霊圧を完全に遮断することのできる希少な鉱石のことである。

 

力技でいけるということは。つまり〈ゴリ押し〉。

 

「《月牙天衝》ォォ!」

「《吠えろ【蛇尾丸】》ゥゥ!」

 

一護と恋次が技を放つと激震が周囲を襲い、亀裂が数多発生した。技が直撃した部分は派手に崩れ落ちる。空気が流れ込んでいるところを見ると、内部まで貫通したようだ。

 

ヤンを先頭に中に入っていく。中は暗いが道が直線になっているので、前の人を見失うということはなさそうだ。

 

しばらく走っていると抜けたのだが、空間が広い分余計に暗く感じる。どうしようかと悩んでいると火が灯り、辺りを明るく染め上げる。

 

「歓迎されているようだな」

「んなわけあるか」

 

ヤンの冗談に一護が乗る。明るく照らし出された空間に6つの入り口が設けられていた。敵を分散させるために造られたようだが、どれからも尋常ではない霊圧を感じる。

 

「虱潰しに端からあたっていくより、1人ずつ別の入口を通るのが得策だろう。各々一番近くの入口の前へ」

 

それぞれが入口の前に立つとルキアが呟いた。

 

「ここで我々は別の場所へと向かうことになるが恐れるな。ここにいるのは腕の立つ者だけだ。仲間の力を信じ、己のやるべきことをやり通せ。それが我々の勝利に繋がる」

「死ぬなよ黒崎一護。お前が死ねば、井上織姫を救出する可能性は皆無だ。力の出し惜しみは自身の勝利を揺るがすばかりか、仲間を危険にさらすことになる」

「…わかってる。今回は出てくる敵を端から全力で叩く。ウルキオラだろうがグリムジョーだろうが倒す敵に変わりねぇ」

 

一護の覚悟に全員が淡い苦笑を漏らす。そういう奴なのだ。黒崎一護という人間兼死神代行は。

 

覚悟とそれを実現させる力の双方を持つから頼りたくなってしまう。それが彼の力になるとわかっているから。

 

全員が同じタイミングで入口に飛び込んだ。

 

 

 

私が入った通路からは、霊圧をまったくといっていいほど感じなかった。選んだ入口は偶然であるからして、敵がそれを予測していたとは考えにくい。

 

誰がどこを走るかなど予想などできるはずもない。そういうことしていたとすれば、敵は私たちの行動を逐一把握しているということになる。

 

今のメンバーのなかに内通者がいるとは考えられない。

 

死神代行の黒崎一護は井上織姫の救出が目的だし、滅却師の石田雨竜と謎の力を持つ茶渡泰虎も同じ。

 

〈尸魂界〉からの援軍である2人の死神は、そのようなことをする人間性を持っていない。

 

ネルたちだってそんなことをできるほど力があるわけでも、頭の回転が速いわけでもない。消去法で考えると偶然。自分が誰もいない通路を通っているということになる。それはそれで構わないのだが、なんとなく違和感を感じる。

 

何故ひとつだけ誰も配置されていないのか。

 

私の疑問は目の前に現れた男によって明らかになった。

 

「待ってたでヤンちゃん」

「…市丸ギン。雷蔵の親友であるくせに裏切るとは何様のつもりだ!」

「本意ではなかったんや。ただ雷蔵さんより大切なもののためにしたんやで。仕方なかったんや」

 

言葉を返す市丸ギンの表情は苦しみに満ちている。私からすればそう見えたが、雷蔵が言っていたように、本心から口にしているのかはわからない。

 

「ついてきて欲しいんやけどええかな?」

「背後から突き刺すかもしれないぞ」

「それは困るなァ。でもそれはそれでありかな」

 

そう言って市丸ギンは私に背を向けて奥へと歩きだした。その無防備な背中に剣を突き刺すだけでいいはずなのに、私にはそれができなかった。

 

背中から哀愁に似た何かを感じたからだ。

 

ただただ白い石。石灰岩によって造られた通路を無言のまま歩く。景色が変わらなければ興味も薄れ、どれほど時間が経ったのかわからない。

 

「ヤンちゃんはここのこと知っとる?」

 

馴れ馴れしく私の名前を呼ぶことに鬱陶しく感じる。

 

「こことは?〈虚夜宮〉なのか〈虚圏〉のことなのか」

「どっちもやね。まずは〈虚圏〉から」

「虚が住まう世界としか知らない。私にはその知識が皆無だ。雷蔵から教えられたこと以外何も知らない」

「その考えでええよ。〈虚夜宮〉のことは?」

「それがここのことを言っているのであれば、知らないの一言だ。雷蔵に救われる前の記憶は、草冠に従わされる少し前からのことだけ。自分がどのような存在だったのか。どのようにして生まれたのか。どのように生きてきたのかわからない」

 

草冠に従わされる前のことは何も覚えていない。

 

覚えているのは僅かに2つのみ。

 

気が付けばネルたちに助けられていたこと。

 

既にインを従えていた草冠に敗北したこと。

 

「着いたで。言われた通り連れてきましたよ」

「ありがとうギン。ようこそ我が〈虚夜宮〉へヤンくん。いや、お帰り(・・・)と言うべきかな?」

 

とても広い空間にいた男の声、霊圧を聞いて感じて名前と顔が一致した。

 

「あ、藍染、惣右介…」

 

私を陥れた張本人が、1人の女性を背後に立たせて私の名前を口にした


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