BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜 作:ジーザス
今回は短いですが何とぞよろしくお願いします。
藍染惣右介。その男は〈尸魂界〉を裏切った大罪人であり、私を〈虚夜宮〉から排除した死神。
何故あいつが私を〈虚夜宮〉から追放したのか。その理由はわからない。あるとすれば、力なき者には存在価値がないということくらい。ゴミのように捨て去ったというところか。
それならばまだわかる。何故なら〈虚圏〉は強者が全てを手に入れる弱肉強食の世界だからだ。それを藍染が一番わかっている。あいつはどの死神よりも、虚よりも上の次元に存在する超越者になりえる。いや、もうなっているかもしれない。
雷蔵でも敵わないと思わせるほどの圧倒的な存在感。霊圧が存在密度が桁違いに巨大だ。この男は一体何を求めているのだろうか。
これほどまでの強者にありながら、それ以上の力を求め続ける理由とは。私は雷蔵の手足となって動くことを自分の使命としている。力を持つことを望むことがあっても、それ以上の存在になりたいとは思わない。
あつかましいのだ。〈尸魂界〉と敵対した自分が、そのような想いを抱くことさえ間違っているというのに。あまつさえそのような馬鹿げた考えを思いつくなど想像したくない。
「さて、君たちをここに連れてきたのはこれを見てほしいからだ」
「その前に藍染、何故お前は〈尸魂界〉を裏切った?貴様を信頼してくれている部下や同僚の思いを踏みにじってまで、成し遂げなければならないこととはなんだ?」
「その問いは正しくないね。私は裏切ったのではなく
「ゲスが」
藍染は私の質問に、本心からなのかわからない言葉を返してきた。100年間の長きにわたって自分の計画を露見させることなく、完遂させてきているこの男の言葉を果たして信用できるのだろうか。
こいつが嘘をついて翻弄させようとしている可能性もある。反対に本当のことを言っている可能性もある以上、私1人で答えを出さない方が適当だろう。
藍染は無表情の笑顔を浮かべながら、床と平行に掌を下に向ける。すると筒上の何かがせり上がってきた。藍染が右人差し指を伸ばし筒の最上部に触れると蓋のようなものが移動し、中にある何かが露になった。
それを視界にいれた瞬間、私ともう1人の女の身体が震えた。異質なそれでいて膨大に溢れる《力》。なのにまるで
「…解るようだね。そう、これが〈崩玉〉だよ。今は瞬間的覚醒を繰り返したことでやや衰弱しているが。確実に完全な覚醒へと進んでいる」
「今壊せばそれは無理だろう?」
「破壊できるのであれば、私が手に入れるまでに浦原喜助が既にしている。だが今は私が所持している。これがどういう意味かわかるかな?」
「…浦原が破壊する方法の模索中に貴様に奪い取られたか?」
「聡い子だねヤン。君の考えは的を射ているが残念だ。答えは否だよ。浦原喜助は自分が作り出した〈崩玉〉を破壊する方法を見つけられなかった。悪用されることを恐れた彼は、壊すのではなく隠す道を選び、その隠し場所が朽木ルキアの義骸だった」
この大きな事件は浦原喜助が原因であるのは確かだ。
だが浦原喜助は決して藍染のように自分の欲のために使うのではなく、〈力〉を持てずに苦しんでいる死神に、その機会を得られるよう研究していたのだと私は雷蔵から聞いている。
マイペースで周囲を迷惑させる輩だが正義感もあり、誰より物事を見る能力に長けている。雷蔵の経験談だからその評価に間違いはない。だからといって浦原喜助の罪が消えるわけではない。もしかしたら他の方法で力無き者を救えたのかもしれないから。
だがそれでも〈崩玉〉を作り出し、藍染に奪われるようなことがなければ上手くいっていたのかもしれない。
これは仮定論であって、実際はこうして最大の問題となっている。
「虚の《破面化》、〈王鍵〉の創生。どちらも〈
「…敵である私に見せてなんのメリットがある?むしろ危険しかないだろう」
「私は信頼している者にしかこれを見せない。それで十分だよ」
藍染はそれだけを告げて〈虚夜宮〉の奥へと入っていった。
それから私は
それでいて
それだけでこいつを思い出す条件には十分だった。
「お前もここで大人しくしていろ。問題を起こさなければ貴様らを縛る鎖はない」
「随分と出世したものだな
「貴様も墜ちるところまで堕ちたな。死神の下につくなど、弱き者にはありがたい温情だろう」
ウルキオラは冷たく良い放つと、部屋のドアを閉めて出ていった。
そのドアを壊すこともできた。しなかったのは、面倒事を起こして黒崎一行に迷惑をかけたくなかったからだ。余計なことをしてしまえば仲間であるあいつらを、処罰するために《破面》が討伐に向かってしまう可能性がある。
だから今はこうして大人しくしているしかないのだ。
「〈崩玉〉のことどう思います?」
「藍染の言葉のことか?十中八九そのままの意味で言っているはずがない。私は雷蔵の手足であって、あいつの仲間ではないから信頼に足るとは思えない。さらに言えば、お前も人質に近い存在だからあいつの仲間であるとは言えない。その
「このことを知っているということは、こちらにいたことがあるんですね?」
「嫌な記憶だがな」
井上織姫の言葉に、私はため息を吐きながら何もない真っ白な天井を見上げる。
そう私はかつてこの虚圏にある虚夜宮にいた。
だがその頃の記憶は未だに不鮮明なままだ。此処にいたという記憶があっても、その頃に何をしてどのように暮らしていたのかということは思い出せない。
記憶に鎖が巻かれ、檻の中にある。手を伸ばしても決して開けることができない。
私は藍染の手によってここを去らなければならなくなった。直接でないとはいえ、命じさせたのだからあいつにされたと言っても間違いではない。
記憶にある倒れた私に悲しげな視線を向けていたのは誰なのか。それは私と何か関係があるのか。疑問は尽きずむしろ増えていく気がする。だがそれも今は一旦棚上げにして、どうやって〈崩玉〉を藍染から奪い返すかが問題だ。
何しろあいつにしか扱えない代物なのは、一目見ただけでこれでもかとばかりに身体で感じた。そしてそれを床から取り出せるのも藍染ただ1人。
故に次に藍染が取り出した瞬間こそが最初で最後の機会。藍染がそのことを危惧していないはずもないので簡単ではない。周囲には《十刃》・東仙・市丸もいるだろうから奪い取れたとしても、逃げ出すことは不可能だ。
この命と引き換えに〈崩玉〉をどうにかできるのであれば、少しは罪を償えるかもしれない。そんな自分に都合の良いことを考えて自嘲の笑みを浮かべる。
それを同じ部屋にいる井上織姫は心配そうな表情で私を見ていた。
ヤンと織姫を織姫の自室に連れていったウルキオラは、右手首に謎の痛みを感じていた。痛みとはいえそれは怪我や病気からのものではなく、自分にはないはずのあるものからだった。
人間の1つの死の形である《虚無》を司るウルキオラは、その右手首を左手で抑えながらその痛みを懐かしむように歩きだす。その顔には決して見せないはずのものが。彼にはないはずの
「運命か…そんなものはまやかしだと思っていたがこうなるとは。何も感じず感じられず生きている俺にも、微塵はあるようだな」
歩くウルキオラの足取りは幾分か軽くなっていた。その様子を壁に隠れて見ていた者がいたことに、ウルキオラは気付くことはなくその場を去る。
「ウルキオラぁ、お前があいつらにどんなことをさせようと考えてるか知らねえが俺は邪魔するやつは殺すぜ。そいつとどんな関係があろうとな」
細身で背の高い男は、ウルキオラとは反対の方向へと足を向けた。
なんとなく似てる気がするんですよね2人は。
誰とは言いませんがわかってくださる方にはたぶんという形で理解されているかと思います。
ウルキオラさんは物静かで見てて癒されます。