BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜 作:ジーザス
一護一行が〈虚圏〉に向かってから、雷蔵は未だ冬獅郎と剣を交わしていた。
「《群鳥氷柱》!」
氷の翼を纏った冬獅郎が叫ぶと、刀身から無数の氷柱が飛び出し、地面に着地する寸前の雷蔵に向かって飛翔する。手をついて着地したことで雷蔵の反応が遅れた。数個を《雷天》で弾いたが、全てを躱すことができず身体に直撃する。
直撃した部分から氷が服を覆い始め、みるみるうちに上半身を覆っていく。
「これで終わりだ雷蔵ぉ!《竜霰架》!」
冬獅郎は翼を強く羽ばたかせる。速度を上げて身動きのとれない雷蔵に向かって突撃した
「なんのこれしき。はぁ!」
「何!?ぐあぁぁぁ!」
霊圧を爆発的に全身から放出することで、身体を覆っていた氷を吹き飛ばしす。突き出されていた《氷輪丸》の側面を、《雷天》でこすりあげ軌道を僅かに逸らす。かなりの速度で突っ込んできていた冬獅郎は、重心を崩され無防備に懐を開けてしまっていた。
その隙を逃すはずもなく。雷蔵が右回し蹴りを喰らわせ、遙か彼方へと吹き飛ばした。
「甘いな冬獅郎!今度はこっちから行くぞ!」
雷蔵が左手で顔をむしるような動作をすると、獣のような仮面が現れた。先程放出させた霊圧とは桁違いの濃さと重さをもった霊圧が発せられる。周囲の景色が霞むほどの速度で吹き飛んでいる冬獅郎にも、その強さが明瞭に感じられた。
『ォ ォ ォォ オ オオ!《
獣のような唸り声を上げながら吹き飛ぶ自分より、遙かに上の速度で接近してきた雷蔵は、冬獅郎の上空から上段斬りを繰り出した。刃から放たれた斬擊は、小柄な冬獅郎を飲み込み地面を穿った。
『やり過ぎたな…」
顔をかきむしり《虚化》を解いた雷蔵は、いたたまれない表情で気絶している冬獅郎の側へと降り立っていった。
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「汗をかいた後の風呂は格別だな」
「…のぼせそうだ」
湯に浸かりながら嬉しそうな笑みを浮かべる雷蔵とは反対に、冬獅郎の顔は赤く眼は若干虚ろだった。氷を扱う冬獅郎からすればら40℃を超える湯を浴びるのは結構辛いのだ。大抵十番隊隊舎の隊長室で書類整理をしているほど熱に弱い。
まあ書類整理をしているのは普段からなので、それほど珍しいことではないのだが。
「聞きたいことがあるんだがいいか?」
「どうした?」
「雷蔵は雛森をどう思っている?」
予想外の質問に雷蔵は眼をパチクリとさせた。先程まで剣を交していたので、そのことを聞いてくると思っていたから余計に驚いていた。
「雛森をどう思うかね。これといって特別な思いはないさ。大切な仲間で部下ということぐらいしか思いつかない」
「あいつがお前のことを好きでもか?」
「雛森が俺のことを好きだと?そんなことがあるものか。俺なんかが人から好かれる性格でないのは自分がよくわかってるはずだぞ」
「気付いてないんだなお前」
「気付いていない?俺が?」
鈍感な雷蔵に俺は怒りより安堵を抱いた。雛森はまぎれもなく雷蔵に好意を抱いていることを知っている。俺だけじゃない。イヅル・京楽隊長・浮竹隊長・松本だって知っている。松本は例外としてカウントしても、〈護廷十三隊〉に所属する隊士の大抵が知っている。
露骨に好意を周囲に見せることもあるが、それより無意識に雷蔵を見ている表情が恋する乙女なのだ。
似た髪色の男がいれば眼を向ける。
声を聞いたり姿を眼にすると機嫌が良くなる事がざらにあった。本人がそれに気付いているかはわからないが。
ただ松本に対しては、人一倍対抗心を抱いている。魅力とかそういうことではなく、1人の女性としての対抗心を。松本は別に雛森の恋を邪魔しようとはしていない。むしろ後押しをしているが本心はどうなのだろう。
「雷蔵は松本が好きか?」
「乱菊は妹とか家族としての好意は抱いているさ。同じ屋根の下で短い間とはいえ、一緒に暮らしていたからな。だがあいつが本当に好きなのはギンだ。それは一緒にいたからわかる」
「…市丸の野郎は知っているのか?」
「さあな。あいつの本心を知ることができるのはあいつだけだ」
「…俺にはわからない。〈護廷十三隊〉に所属してからも、あいつのことは何一つ理解できなかった。いつも謎の笑みを浮かべて人を観察するあいつの人間性を」
初めて出会ったあの日だってそうだった。
『君が〈十番隊〉に配属された今年の〈真央霊術院〉首席 日番谷冬獅郎くんやね?』
十番隊隊舎に向かっていると、背後から声をかけられた。振り返ると、謎の笑みを浮かべる背の高い男の死神がいた。どことなく院で習った〈現世〉にいると言われている狐に似ている。細長い顔に糸のように細い眼。僅かに開かれた瞼。そこからは鋭い眼光が垣間見えた。
『…そうです』
『へぇ~、なかなか強い霊圧しとるね。稀に見る霊圧の強さって言われてる意味が理解できたわ』
『そんな噂になってるんですか?』
『卒業時に成績を残している子の噂ぐらい流れるよ。〈護廷十三隊〉にとっても大事な時期やからね』
『あまり目立ちたくはないんですが』
これは本心だ。目立つことは極力避けて生きていくことだけを望んでいた。そして目の前に立つこの男は底が知れないと思った。実力という意味合いもあったが、大半は「人として内心を読み取れない」というものだ。
『〈十番隊〉におるんやったら気ぃ付けや。乱菊は面倒くさがりやから』
『待ってくれ!あんたは誰なんだ?』
去ろうとする男に声をかける。
『〈五番隊〉副隊長 市丸ギンよろしゅうな』
狐顔の男もとい〈五番隊〉副隊長は、それだけを告げて俺の前から姿を消した。
俺は院にいる頃から孤立していた。誰も寄せ付けない成績を見ては、周囲が離れていくのを感じていた。
「天才」「怖い」「未来の隊長」「化け物」
といった正と負の評価を受けていたから、俺は他人を信用できなかった。
今は俺を信頼してくれる友人が2人いるが。
1人は同じ院で俺に声をかけてきてくれた青年。
もう1人は特別講師としてやってきていた、〈護廷十三隊〉の〈十一番隊〉三席の死神。
俺とは切っても切れない絆で結ばれた草冠と雷蔵だ。
俺を神童として扱わず、1人の人間として話しかけてくれた2人に救われた。それ以来、俺は人を信頼するという感情が大切だと思えるようになった。人と関わることで自分の弱い部分を補ってくれる気がした。互いが互いの短所を補い合い、長所をより高みへと至らせてくれるもの。
だが何故か草冠は消されてしまった。俺と同じ斬魄刀を手にしたというだけで、〈中央四十六室〉に抹殺された。
恨みがゼロだったわけではない。むしろ怒りが溢れていた。
勝敗が決していないのに所有者は俺だと決定された。…いや、勝敗は決していた所有者を決める前から既に。院で次席だった草冠の実力は、同期の中でも突出していたのは俺も隣で見ていたから知っている。
でも首席の俺とは天と地の差があったのも事実。
その時改めて、俺は自分という存在を許せなかった。草冠を護ることが出来なかった自分の弱さを呪った。願わくば草冠と共にこの世界から消え去りたい。…でもできなかった。死ぬことが怖かったのもあったが、それ以上に生きていこうと思った。草冠が歩めなかった残りの人生を自分が歩んでみせると。
〈十番隊〉三席になり当時隊長だった志波一心が行方不明となってから、俺は史上最年少の隊長となった。それから今までの長い間、俺を死神になることを勧めてくれた副隊長の松本と歩んできた。仕事をさぼる問題児だが絶大な信頼を置いている。
そんな松本は苦しんでいる。想い人が〈尸魂界〈〉を裏切っていたことを知らされれば、心を病まないわけがない。だから俺は市丸を許さない。
「ありがとうな雷蔵」
「いきなりだな。何に対してお礼を言ってるんだ?」
「俺が今まで生きてこられたのは、死神になることを勧めてくれた松本。院で俺に剣術を教えてくれたお前のおかげだ。恩を仇で返さないためにも俺はもっと強くなる。松本を雛森を護ってみせる」
「いいんじゃないか?誰かを護ろうとする人間は強い。今までできなかったこともできるようになることだってあるからな。…で、雛森が俺に好意を抱いていることを聞いてきたのは何でだ?まさか嫉妬か?ニヤリ」
「んな!?そ、そんなわけないだろ!」
深刻な話をしていたっていうのに、終わればなんてこと言いやがるんだ。確かに羨ましいと思わなくはないが、嫉妬をしているわけじゃない。断じて。
「いいことを聞いたな。乱菊に言っておくさ」
「させるか!《霜天に座せ【氷輪丸】》!」
「ここでやんのかよいいぜ!《蹂躙しろ【雷天】》!」
湯船近くに置いていた斬魂刀を手に取り、2人が《始解》すると温泉が半分凍り付き半分が電気を発し始めた。それを気にせず、下半身の大切な部分にタオルを巻いたまま戦闘を再開した。
喜助が食事の準備が整ったことを伝えに来るまで、壮絶な戦闘は続いた。気づいたい時には温泉が半壊していた。喜助はこれまでにない様子の〈勉強部屋〉の有様を見て撃沈するのだった。