BLEACH〜十一番隊に草鹿やちるではない副隊長がいたら〜 作:ジーザス
クソ、みっともねぇ。死守すべきものを破壊され、自分は戦いに負けた。情けねぇな。約束の1つも護れねぇような奴が誰に憧れるって?誰に追いつくって?
喜ぶわけがねぇ。嬉しいわけがねぇ。そんな俺を見て失望しないわけがねぇ。きっと興味を失って、二度と声を交わすこともなくなるだろうな。
当たり前だ。〈十一番隊〉は敵に負けるような弱い隊士を必要としない。それくらいあの人だって知ってる。今は〈三・五共同部隊〉の隊長だって、〈十一番隊〉の副隊長だったんだ。そこ出身の人が、護るべきものを護れなかった弟子を見捨てるには十分な理由だ。
「死んだカ。他の奴らはそれなりに面白みのある奴と戦えているようだナ。俺はくじ運が悪いようダ」
「誰が、くじ運…悪、いだ?お前、の眼は…節穴、か…よ」
上から俺が弱いみたいに言いやがる。ああ、弱い。俺は弱い。てめぇなんかに負けるぐらい弱い男だ。だがなぁそれを口にして良いのはあの人だけだ!てめぇ如き虫螻が口にして良い言葉じゃねぇんだよ!
あの人になら何度言われても良い。それは俺を高めて強くする言葉だからだ。お前なんかに言われると腹が立つ!
「生きていたカ。といっても満身創痍であるのは確かなようダ」
その間にも折れた柱を中心に転送されていた街が戻り始めていた。それを眼にして一角は、自身が命令を守りきれなかったことを現実に思い知らされた。
「俺は、負けねぇ!」
「そうか。なら出せ。
「うぐああぁぁぁぁぁ!」
「こうして痛みに喘ぐ姿を見るのもまた一興。敵とはいえなかなかにいい声を上げル」
痛ぇ。踏みつぶされている左脇腹がぐちゃぐちゃにされるみてぇだ。だが《卍解》を使うのは嫌だ。あの人のおかげで身につけれたというのに、使う相手がこんな奴だなんて絶対に嫌だ。
「出さないカ。ならば死ネ」
「《弾け【飛梅】》! 」
「ぬっ!?」
俺を踏みつぶしていた野郎がいきなり飛び退きやがった。誰だ?俺を助けたのは?あの《始解》はどこかで聞いたことがあるような気がするが。クソ、内臓とあばら結構やったみてぇだな。もう感覚がほとんどねぇよ。
「大丈夫ですか!?斑目さん!」
「お、お前は!」
「〈三・五共同部隊〉副隊長の雛森です。待っててください直ぐに終わらせますから」
そう言いながら左手で抱えていた布袋から、上部に白い包帯が巻かれた全体が黒い円柱形の棒を計六本取り出す。壊れた柱を中心にして均等な間隔で突き立てていった。
すると〈転送回帰〉していた部分の拡大が収まっていく。
「これは…」
「緊急用の結界です。壊さないように戦えば問題ないと思います」
そう言って俺を背にして歩いて行きやがる。女に護られるのは腹が立つぜ。
「雛森、このバッカ野郎!いいか!?そいつは俺でも倒せなかった破面だぞ!お前が勝てるわけねぇ!」
「それは斑目さんが本当の力を使わなかったからでしょう?私は敵が強いとわかればいつでも全力で戦います。…《
「っ何!?」
雛森が叫ぶと、一角でも右手で顔を庇わねばならないほどの霊圧が辺り一帯を吹き抜ける。それは四方の柱の中心部分で退治している藍染以下やそれ以外にも感じられた。
こいついつの間に《卍解》を?藍染の野郎がいたときは、《始解》を扱うだけだったはずだ。この短期間で習得し、自在に扱えるようにまで成長したってのか?成長速度が異常だ!これはもう成長という言葉では表せるわけがない!
進化だ。それ以外適切な表現は見つからない。
雛森、お前はそこまでして勝ちたいのか?自分の隠し技を使ってでも勝ちたいのか?秘密をバラしてでも。俺にはわからねぇ。何故自分の秘密を他人に知らせることができるのか。褒めてもらいたいからなのか?ちやほやされたいからなのか?
《卍解》を使えるってことは、隊長として部下を率いていくことに他ならない。お前があの人の下で共に戦えなくなるって事だ。お前が慕っているあの人の側にいられなくなるって事だぞ。それでもいいのか雛森!
一角は満身創痍の身体で《卍解》した雛森の、普段はないはずの何かが護っている背中を眺めるしかできなかった。
『久しぶり』。
それが《卍解》した瞬間に感じた私の感想だった。背中にある一本の燃え盛る樹が、私を此処に立たせてくれている。
「…できた。あれから一度もしてなかったけど自力でできた」
「…雛森?」
「寝てて良いですよ斑目さん。直ぐに終わらせて治療しますから」
「ぐぅ!」
雛森が駆けると熱波が一角を襲う。
宙を焦がし空気を熱する炎は、火であって火そのものではない。私が散らしているのは己の霊圧そのもの。炎が勢いを増し熱く燃え上がるほど、私の霊圧は減少していく。
これは己の霊圧と引き替えに熱を放出し、敵を焼失させる諸刃の剣。決して大勢がいる場所で使うべきものではないけれど、隊長には指示を受けているから仕方がない。
「この熱。即座に貴様を倒さねばこちらがやられるとみたよって全力で行く。《気吹け【
間合いを詰めたとはいえ、それなりに距離があるというのにここまで届く霊圧は只者ではない。尋常ではない強さだとはもちろん知っていた。あの《第2十刃》の配下なのだから強者でありら簡単には勝てないのはわかっている。でもここで勝負しなければ駄目。
隊長の命令を完遂できないどころか、斑目さんも救えず治療もできない。その上、総隊長の絶対命令をも。許されない絶対に負けるわけには行かない。
霊圧が《破面》から膨大に放出されてくる。頭部が膨張し次に肩、腕、胸部、腹部の順にそして下半身へと移動していく。一つ一つの部位が、私の全身ほどもある巨大さには眼を疑ってしまう。
「これが《破面》の《卍解》…」
『違うナ。我ら《破面》の解放は《
「…ご説明どうも」
死神の力量にもよるけど見た目の変化はあるし、霊圧の上昇度は凄まじい。私も現に使うとき以外は、和服のような派手な衣装にはならないし、霊圧も副隊長間でも低い。
でも目の前の《破面》の見た目の変化と、霊圧の上昇度は桁違いにも思える。震え出す《飛梅》であった2つの鈴が鳴るのを気合いで押さえ込む。
「一撃で仕留めたいところだが的が小さいナ。攻撃範囲を広めればその程度問題ない!」
「っ!」
攻撃速度は遅くても、攻撃範囲が広すぎて風圧まで避けきれない。前後ではなく左右に避けても、反対の腕か下からの攻撃で頻繁に〈瞬歩〉を使わないと回避できない。
《卍解》を会得したから勝てるなんて思ってなかった。ずっと前から会得している白ちゃんでさえ、以前の敵には苦戦していた。前回の戦いでは、手も足も出ずに負けたって言ってた。だから今回はもっと強い《破面》が来ると誰もが予想していた。
私もそのために《鬼道》を効率よく発動できるように訓練したし、自分に一番足りてない剣技にも力を入れて霊圧を上げた。そのおかげで以前とは比べものにならないほど強くなれた。けどこうして本当の戦場に出てみたらどうだろう。
手も足も出なくて逃げ回ることしかできていない。情けなくなってきたかな。隊長自ら教えてくれたのに、恩を仇で返すことにしかならないなんて嫌だ。
「きゃあ!」
「一~撃~め~。どんどん~~い~くぞ~~」
左手による張り手が直撃して踏ん張っても勢いが全然収まらない。
「《縛道の六十三【鎖条鎖縛】》!」
先程までの戦闘で倒壊した家々の柱に巻き付けて、どうにかそれ以上後退するのを防ぐ。
「ハアハア、ここまで重いなんて。はああぁぁぁぁ!」
全力の〈瞬歩〉で飛び回り足・腕・背中に火球をぶつける。でも火傷さえ見つけることが一度もできない。どれだけ全力で火球を放っても、傷と呼べるものが何一つ見当たらない。
「生き~て~い~~るナ~~~。面倒だなぁ~~~ま~とめ~~て吹っ飛ば~~そう~~」
ズキンっ!
張り手の攻撃と霊圧の過剰使用で身体に激痛が走った。未完成ということもあって、本当は戦闘で使いたくなかったけど…。けど私にできることはこれくらいだからやるしかない!
「《咲き乱れ 荒れ狂え 燃え盛れ 其の力は偉大 命あれば我が身に染みて 満たせ 熱は熱く 火は熱く 光は灯りて世を明かす 【
背を護るかのように生えていた樹が、炎となって2つの鈴に吸い込まれていく。全ての炎を吸い込むと脈打った。拍動の間隔が短くなる度に鈴の形状が変化し、1つの剣へと姿を変えていく。
《始解》したときの七支刀のような形状ではなく、左右の刃部分が直線の一振りの直剣。だが雛森が手にしている剣は異質だ。その長さが雛森の身長と筋力に比例していない。
刃渡りは雛森の身の丈を遙かに凌ぎ、柄部分でさえ上半身ほどもあるのだ。
それほどの巨大さだと片手で切っ先を敵に向けることはおろか、持ち上げることさえ一苦労のはずだ。人は見かけで判断できないと言うし、死神だから人間より力はあるといっても物理的に不可能。
であるはずなのに、雛森は重そうな素振りを見せない。本当に剣を
「不思議そうですね。どうして私のような小娘がそれほど大きい剣を表情1つ変えずに持っていられるのか。教えてあげましょう。この剣の重さは、斬魄刀本来の重さだけです。それなのに何故これほどの大きさで存在しているのかというと、全て私の霊圧から構成されているからですよ」
《破面》の返事を聞かずに雛森は、自身の現状を不思議なほど無表情で語り続けた。
「霊圧は本来質量を持たない。霊圧を感じるのは、存在が放つ霊圧に刺激され数多集まった霊子が身体に触れるからです。霊子で構成される私たち死神と虚は、自身の霊子と何者かの霊圧によって活性化した霊子の接触により、霊圧が強いと錯覚する。霊圧が強いというのは、霊子を刺激する力が強いから。ただそれだけです!」
「ぬぅ!」
雛森が《飛梅》から霊圧を解放すると、《破面》が一歩後退った。今の雛森の霊圧は、隊長格にも匹敵するほどだがそれは一時的なものでしかない。
霊圧の保有量が少ない雛森では、《卍解》を長時間維持することが非常に難しい。だから解放した以上、最小限の時間で勝負を決める以外に方法はない。
「《破麺No.25》~チーノ~~ン・ポ~ウ~~いくぞぉぉ!」
「はああぁぁぁぁ!」
ポウの右拳による叩き付けと、雛森が振りかぶった《女愼妃燄飛梅》が両者の中心点で交差する。衝撃波が周囲の倒壊し瓦礫となっていた家々をさらに崩壊させた。それと同時に陽炎のように揺らめいていく周囲の景色。あまりの熱に破片となっていた残骸が溶け始めた。
「ぬうぅぅぅぅ!」
「くうぅぅぅぅ!」
互いに全力で押し返そうとするが、僅かにも動かず時間だけが過ぎていく。
このままじゃ押し負ける!でも負けられない負けたら駄目!
限界を迎えそうな両手に霊圧を込めていると、周囲の景色が一変した。
『いいかい雛森くん。これから君に《卍解》を会得させる』
『《卍解》ですか!?無理ですよ私には!』
あれは私?教えてくれているのは隊長?
『誰が無理だって決めた?やってもないのにできないなんて決め付けるの良くないな』
『だって《卍解》ですよ!?簡単に習得できるとか言わないで下さいよ!』
記憶だ。今私が見ているのはあの日の記憶だ。
決戦まで1ヶ月を切ったある日、いきなり隊長が私に《卍解》を習得させるとか言い始めたんだった。最初は冗談で言ってると思った。
会得者は、永久的に〈尸魂界〉へその名を刻まれるぐらい簡単じゃないのに。でも同時に隊長がそんなことを軽い気持ちで言うはずがないとも思った。
眼を見れば明らかだった。真剣な眼に覚悟も決めた光が瞳に映っていたから。
『本来は十分に時間をかけて習得するがら今はそれがないし余裕もない。だから今回はこれを使う』
『それは何ですか?』
隊長は妙な人形を指差して言いました。
『〈転神体〉。隠密機動の最重要特殊霊具の1つ。斬魄刀の本体を強制的に転写して【具象化】させることができる』
『そんなものを使うんですか!?』
『言っただろう?時間がないって。《始解》に必要なのは、斬魄刀との【対話】と【同調】。対して《卍解》に必要なのは、【具象化】と【屈服】。どれも〈真央霊術院〉で学ぶ基礎だが、その道は困難を極める。今の雛森は【具象化】を可能にしていると聞いているからこれを使うことにした』
『よくご存じですね』
『部下の腕を知っとかないと、任務に支障をきたすからな』
そう言っておどける隊長は幼くて可愛くて優しかった。でも次の言葉がその感情を許さなかった。
『斬魄刀をこれに突き刺せば、強制的に【具象化】へ持って行ける。そうすれば、俺がその状態を霊圧の代償に保つことが可能だ。だがこれができるのは一度きり。そして期限は3日。失敗すれば二度と《卍解》は会得できなくなる。それでもやるかどうかは君次第だと言いたいところだが、何度も言っている通り時間が惜しい。だから強制的にでもやってもらう。いいね?』
そう問われて正直迷った。けれど同時に恐ろしかった。断れば隊長と任務こなすことも隣で支えることもできなくなるのも。でもそれ以上に嫌だったのは自分の弱さ。自分で戦えるだけの力を身につけたいと思ったのはずっと前からだった。
隊長の瞳に宿っていた覚悟は、私が《卍解》を永久に会得できなくなる可能性を受け入れることだったんだ。
だから私は決心した。絶対に《飛梅》を【屈服】させて《卍解》を会得すると。だから私は《飛梅》を迷うことなく〈転神体〉に突き刺した。
現れたのは和服を着た天女のような女性。
『話は聞いていたか?』
『もちろんですとも。私を【屈服】させろだなんて罪な
『誰が邪魔者ですか!というよりその台詞はアウトです!』
…記憶とはいえ第三者から見ると恥ずかしいやりとりですね。でもあれのおかげでやる気度マックスになたのは内緒です。
『直ぐに始められるか?』
『いつでもよろしくてよ?さあ桃、その浅打で私を【屈服】させてみなさい!』
渡された浅打で3日後にどうにか【屈服】に成功したことで、《卍解》を会得した。それからは長時間の保持と戦闘方法を模索したっけ。隊長しか《卍解》は知らなかったし見せることもなかったから、《卍解》する度に戦闘を楽しむことができた。
この記憶を視たのは何故だろう。負けると意識してしまったから?情けないなぁもう。これじゃ隣に立つ資格なくなっちゃう。でも勝てばいる資格は得られるし生きる理由にもなる。だから私は勝つ!
『ようやく思い出してくれたのね』
その声は《飛梅》!?会話できたんだ。
『貴女が覚悟を決めたからよ。心にではなく魂自体にね。斬魄刀の
そういえば忘れてた。会話をしている間ずっと押し合っていたことに。でも何で意識しなくても互角で押し負けなかったんだろう。あれだけ力を込めてようやく競り合っていたのに。
『それが貴女本来の力よ。力まず一点に集中して力を込めればどんな強靱な防御も貫通できるわ。さあ倒してしまいましょう。あのような愚かな生き物には、死がちょうど良い罰なのだから』
物騒な女性ね。でも今はその声かけが嬉しいからお礼だけは言っておくわ。
ありがとう。
「《焦がせ【女愼妃燄飛梅】》!」
高らかに雛森が叫ぶと、炎の勢いが倍増しポウの拳を舐め始めた。一点集中で熱が伝わっていた皮膚の一部に穴が開き炎が入り込む。
「〈鋼皮〉が破ら~~れ~た~~だと~~!?」
「これが私いえ、
右拳を切り裂いた勢いを利用して回転した刃が、ポウの巨体を真っ二つに切り裂いた。
切り口から炎に燃やされ消えていくのを一瞥する。《卍解》を解いた雛森が、大怪我をしながらもあぐらをかいて座っている一角の側に降り立った。
「雛森、お前ってブヘェラァァァァ!な、何しやがる怪我人に向かって!」
「ふんっ、隊長の命令を実行したまでです。〈もし一角が本気を出さずに負けていたら一発かましとけ〉って」
頬をビンタされた一角だったが、告げられた言葉を聞いて嘆くより笑みを浮かべていた。その理由を問う様子もなく穏やかに微笑んだ雛森は、一角の治療を始めるのだった。
オリジナル卍解の名前を付けるのが大変。ダサいネーミングですが暖かく見守ってください。服装は飛梅が実体化した和服が、炎のように燃えて揺らめいている状態だと想像してください。
《