現在、四人はグレモリー領地こと、俺の領地で同じ方向に走っている。
理由は簡単だ。
熊に襲われているからだ。
それにしても熊の速いこと速いこと……俺たちの走る速度が時速10㎞だとすると熊は40㎞はある。
4倍は速度が違うのだ。
いずれ追いつかれることだろう。
なぜこうなったか説明くらいはしておこう。
これはパラス・シトリーこと、パラスがたった一言口走っただけで起きてしまった惨劇と言ってもいい。
☆ ☆ ☆
「冥界熊を狩りに行こう☆」
いつも通りの言葉をパラスは放った。
それはいつも聞き飽きた言葉であり俺たちの興味心を引くものだった。
ベスタ・アスタロトこと、ベスタはパラスを尻目に本を読み訊いた。
「今度は何の影響だ?」
ベスタの言葉を聞くとパラスは口元を緩ませて満面の笑みで答える。
「テレビで熊の狩りが流行ってるってやってたの!」
大方、仕事終わりの一番上の姉とテレビを見ていたら……という奴だろう。
パラス以外の三人はいつも通りのことにため息を吐き各々の行動を始める。
ベスタは本を読みだし、ケレスは自分の大太刀を樹に立て掛け小振りな小太刀を振り鍛錬を始める。
残されたポッチャリ系男子こと、ジュノーはリュックから取り出した菓子を口の中に入れ頬張っていた。
それを見たパラスは頬を膨らませて怒り出す。
「ちょっとみんな聞いてるの!?」
「聞いてるよ、ただそれだけの理由で熊を狩るのはおもしろくなさそうってだけさ」
ベスタの反論を聞くとパラスは「うぐ」、と息詰まる。
ベスタの反論を聞いた残りの二人は首を縦に振ってベスタを援護する。
「でもでも!――――」
「でもじゃあない」
さすがガリ勉男のベスタだ。完璧な反論でパラスを黙らせた。
「じゃあ!これならどう!?」
パラスがふと何かを思い出したように言う。
「熊さんの
その言葉を聞いたことにより俺は賛成の意を示していた。
やめておけばよかったと後悔してはいるがもう遅いことだ。
俺がやるなら……とジュノーも賛成の意を見せる。
残ったベスタは気まずそうに本にしおりを挟むと魔術書を閉じてため息を吐く。
その行為は『しかたがないから行ってやる』と言っているような物だった。
こうして探しに出かけたわけだ。
探しに出かけたのは良いがどこに居るなどの情報は一切不明のためどの辺りにいるかなどとまず情報を集め出したが
結局4人は疲れ果て、石や切株に腰掛けて池の中に石ころを投げ込み始める始末だった。
「誰だよ、冥界熊を倒そうなんて言った奴は……どこにもいねぇじゃねーかよ」
俺の呟きは全員の耳の中に吸い込まれていきパラスへと視線が送られるが別に攻めているわけではなかった。
ただ、暇だと実感し始めただけだった。
これでも自分たちはまだ大人の半分にもなっていないのだから遊びたい。
あまりの退屈さにパラスが声をあげて石ころを遠くまで投げたときにそのことは起きた。
パラスの投げられた石ころは漫画のように宙に軌跡を描き誰かの額へ直撃する。
まぁ、想像はつくだろうが誰か……というのはもちろん熊だ。
『本物』の熊
闘争本能を体に纏い、鋭い爪に血を染み込ませ、牙はすべてを噛み砕く。
皮膚に生える毛は全てを拒絶するかのように剛毛である。
未知の体験という好奇心とほんのちょっぴりの恐怖。
そのほんのちょっぴりの恐怖に負けて俺たちは逃げ出した。
一番最初に逃げ出したのはパラスだった気がする。
まぁ、パラスはここに居るメンバーの内、唯一の女だったため男の自分たちとは少し感性が違うのは仕方ない事だろう。
パラスに釣られるように逃げ出した俺たちを熊は追ってくる。
逃走している内、一番前にいるのはすぐさま逃げ出したパラス、そして次に魔力を使って無理矢理身体能力をあげているベスタ、菓子の入ったリュックサックを担いだジュノーと日本刀を二振りも担いでガチャガチャと本来の二倍以上の体重を得ている俺だった。
日本刀を抜いて戦っても良かったのだが所詮は子供の浅知恵。
沖田総司に稽古を付けてもらっているからと言ってもまだ数日しかたっていない。
焼け石に水だ、熊が俺たちをその鋭利な爪で引き裂くのは容易であった。
「ケレス!その刀を捨てろ!ジュノーもリュックを捨てて自分を軽くしろ!」
「断る!」
「やだ~!!」
少し余裕のあるベスタが提案を超えた命令をしてくる。
俺は捨てられなかった。理由はくだらないことであろう。自分でも理由は分からない。
ジュノーは目尻に涙を浮かべながら肥満体型の体を揺らしながら走り続ける。
ここまでがあらすじと言ったところだろう。
見ると前方ではパラスが器用に木の上へ上って行く。
ベスタもそれに着いて行くようにスルスルと上る。
俺とジュノーも釣られるように木の上へ上って熊の襲撃から一時逃れる。
全員息を切らし下を見る。
下には熊が俺たちを殺そうと試行錯誤していた。
「確か、熊は木も上れたはずだ……」
「なら今、やっつける?」
「無理だ、僕たちの魔力じゃ運良く目を潰せるくらいだろう。だったらこのまま木を伝って逃げた方が良い」
ベスタが知識を俺たちに教えながら息を荒くしているとさっきまで逃げ腰だったパラスが提案をする。
ベスタは不可能と言い張ると逃げることを推奨してきた。
パラスとジュノーも息を飲んでゆっくりと木の枝から隣の木へと移って行く。
「――――――――――――………」
「ケレス?」
「ッ!」
「「「!?」」」
俺は小太刀を抜き熊目掛けて飛び降りる。
「ケレスーーーーッ⁉⁉⁉」
ベスタが俺の名前を叫び、パラスが手で自分の目を隠す、ジュノーは目を見開き恐怖と驚愕を露わにする。
刀を剣先を突き立てて重力に身を任せて落下する。
刀は熊の額に突き刺さり俺の体重と重力が体を下へ下へと押し込んでいく。
そして自分の持つほんの僅かな魔力を刀へ流し込む。
俺の持つ魔力は他とは違う。
――――消滅
その名の通り魔力に触れた物を消滅させる。
その魔力を刀身へ流し込んで消滅刀を突き刺していく。
熊は自分の体格上後ろへ倒れこみ俺は投げ出されるように転がり木に叩きつけられる。
目が回るは、体の震えが止まらないは、足が立たない……。
すぐにベスタが木の上から下りてきてこちらに来る。
「ケレス!なぜ逃げなかった⁉」
ベスタはすぐに強い言葉を掛けてくる。
「知らねーよ、体が地面に向かって落ちていったからついでに殺してやろうと思っただけだよ……それだけ」
「ッ!ケレス!」
「⁉……ベスタ……?」
ベスタが俺の襟首を掴む。
ベスタの手は震えていて何かに恐怖しているようだった。
「どうしたよ……?俺はこの通り生きてるぜ」
「そう言う問題じゃあない……なんで……なんで……!」
「俺が俺でいるためさ、俺は逃げない、俺らの兄姉だって魔王なのに自分らしさを無くしてないだろ?」
「…………」
ベスタは手を離すと地面に投げた魔術書を手に取る。
「僕が悪かった……君の性格を知らなかった僕の責任だ」
「悪ィ何言ってんのか分かんね」
「お前には愛想が尽きたよ」
「お前本当に6歳児?」
「そう言うお前だって6歳児か疑いたくなる殺意だぞ」
気絶しているパラスとジュノーを起こす死んだ熊の腹を捌いていく。
吐き気の塊だな。
パラスは見たくないからという理由でジュノーと一緒に離れた場所で菓子を食べている。
ベスタは勉強になると言う理由でよく観察している。お前が捌いてくれよ、もう吐きそうなんだ。
「ケレス、それだ、そこの臓器が熊の肝だ」
「ふーん、こんなブヨブヨしたのが熊の肝か……こんなのが安産のお守りかぁ……」
「終わったなら行くぞ、少し服に血が着いたから早く洗いたい……」
ベスタはガリ勉で潔癖症だった。
「パラス!ジュノー!今日はこれで解散だ!」
ベスタは大声で叫びと転移魔法陣の書かれた紙を千切ると現れた魔法陣に入って帰って行った。
この紙には魔力が込められており千切るとその魔力が解放されて魔方陣が現れるという戦闘後とかには良く使用される魔法陣だったりする。
結局俺も魔法陣を通して家に帰って、調べたのだが熊の肝は安産のお守りではなかったらしく、ただの風邪薬などに使えるだけとのことだった。
結局グレイフィアには気持ちだけあげておいた。
こんな気持ち悪いのあげたら悪い子が生まれるからな……ダメダメ。
結局俺の勇気は無駄に終わったのだった。
次回はロリコンのみんなが大好きなあの子が出るんだなぁ……。
グレモリー眷属のあの子が!朱乃さんじゃあないぞ。