フェイト / グランド なりきり オーダー   作:影鴉

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前回の投稿で日刊ランキングに再び本作が載る事が出来ました(尚、一瞬にして消滅した模様)
読者様及びお気に入り、高評価してくださった方々に感謝感謝!!

賛否両論ありそうな問答があるので注意。

後、今回はお風呂シーンがあるぞ! 喜べっ!!


キャンプに会話イベントはRPGの醍醐味

「凄い、凄い! この鳥さん達、馬よりもずっと早いわっ!」

 

 

 次の目的地であるディジョンへ向け、ラ・シャリテを出発した優作達。

 優作がチョコボを操っている御者台の隣でマリーが目を輝かせながら大はしゃぎしている。

 

 

「喜んで戴き、なにより。今回は時代が時代やから荷車曳かせて走らせてるけど、緊急時はお空の旅になりますのでその時をお楽しみに」

「まぁ! お空も飛べちゃうの? 素敵♪ 今度お空に連れてってくれるかしら?」

「えぇ、喜んで」

 

 

 新たにマリーとアマデウスを乗せてチョコボ馬車は進む。荷台の中が若干広くなった気がするが、多分乗客が増えるごとに広くなるのか、優作が広げたのだろう。

 

 

「本当、魔法みたい! ねぇ、ユーサク。私、もっと貴方やカルデアの人達の事を知りたいわ! それに貴方の作ったいろんなお洋服も見てみたいの!!」

「あはは、姫さんにお願いされちゃあ、断れないっすね。まぁ、そろそろ夕暮れ近いので積もる話はキャンプを準備して休める様にしてからって事で宜しいでしょうか?」

「分かったわ。キャンプも初めてだからとっても楽しみ♪」

 

 

:::::

 

 

「此処をキャンプ地とする」

 

 

 夕暮れ時。ディジョン迄は後少しだがジャンヌ・オルタ陣営の襲撃を考え、少し離れた場所にてキャンプを行う事にした。

 幌付き荷台から面々が降り、優作は指をスナップさせるとテントが2つあっという間に張られていく。

 因みに到着時に優作が放った台詞に反応出来たのはエミヤだけだった。

 

 

「おっしゃー。テントは右が男性陣、左が女性陣やから間違えないでな?」

「あ、あの…男女分けてもこのテントには入りきらないのでは…?」

「ホントにそうかは入ってのお楽しみ~♪ 部屋確認したら晩御飯食べるから、出てきてね」

 

 

 どう見ても2人用程のサイズしかないテントなのでジャンヌが困った表情をしているが、オルガマリーとマシュが気にする事無く入って行き、優作も中を見る様に促すのでおずおずと女子用テントへ入って行く。

 

 

 すると…

 

 

「はぇ…? ふぇ!? え、ええぇぇええええっ!!!?」

「まぁっ、凄い、凄いわ! すっごい広くて素敵!! 外で見たテントはあんなに小さかったのに不思議だわ~♪」

 

 

 カーテン式の入口を抜けると、目の前には洒落たロッジの屋内の様な景観が広がっていた。内装は木製で中央にはテーブルとイスが鎮座しており、その周りを個室やバスルーム等へ繋がる扉が並んでいた。

 想像等していなかった光景にジャンヌは驚きの余り大きな声を上げ、マリーは目を輝かせながら再びはしゃぎだす。

 

 

「これも先輩の魔法なのでしょうか?」

「こうも空間拡張を扱えるなんて凄い術式ね…それに」

 

 

 部屋を見まわりながら零すマシュの言葉にオルガマリーは改めて優作の規格外さに溜息を吐く。

 個室に続く扉の横には各自用の衣装箪笥が置かれていた。箪笥の上にはペンと記入用の用紙があり、

 

“名前を記入するとその者のサイズに合った寝間着等が用意されます”

 

“カルデアに登録された住人の場合は必要な衣服がマイルームから送られます”

 

 と書かれていた。

 

 

「契約魔術を応用したモノだろうけど、ちょっと怖いわね…」

「あはは…」

 

 

 名前を書くだけでサイズを合った衣服が用意されるという乙女としては少し恥ずかしい機能にマシュも苦笑いしている。

 

 

 女性メンバーがテントから出て来ると男性陣は既に夕食の準備を始めていた。

 優作が一口大にカットした野菜を薄い衣で包んで油で揚げており、エミヤは塩で包まれた大きな魚を竈に入れ、クーフーリンが肉や野菜が刺さった串をバーベキューコンロで転がしている。

 尚、クーフーリンは調理しながら片手に持ったビール缶を煽っており、小次郎とアマデウスは用意された椅子に座って酒を酌み交わしながら、焚火の上に吊るされた鍋を時々混ぜていた。

 

 

「おかえり~、部屋の確認は終わった?」

「は、はい。その…とんでもないテントですね…?」

「なはは、中は快適で便利やろ?」

 

 

 上手い感想を返せないジャンヌに優作は笑う。

 

 

「それじゃあエミヤん、後は任せるね?」

「あぁ、任された」

 

 

 調理の手を止めた優作は後の作業をエミヤに任せて少し離れた場所へと歩いていく。

 

 

「何かするんですか?」

「する事はただ一つ」

 

 

 後を付いて来たマシュの問いに優作は懐から赤い十字架を一つ取り出した。

 

 

「新たな戦力のスカウトさね。メディ姉、出番っさ」

【了解よ】

 

 

 優作の言葉と共にメディアがカルデアから召喚される。彼女の手には稲妻の様な形をした短刀が握られていた。

 クラウスの服に切り替えた優作は十字架を置いて新たに青い薬が入った瓶を取り出した。

 

 

「密封解除と同時にこの『デスペルの薬』を掛けて、か~ら~の~」

「任せなさい、破戒せる全ての符(ルールブレイカー)!!」

 

 

 十字架が赤い光を放ちだし、輝きの中から人影が現れる。その人影に向けて優作が瓶の中の薬を掛け、メディアは胸元へ短刀を突き刺した。

 

 

「ぐ……ぬぅ…」

 

 

 密封状態から解放された貴族服の男、ヴラド三世は暫く意識が混濁していたが、次第に視界もハッキリしその目に優作達の姿が映った。

 

 

「目覚めた気分は如何ですか?」

「…最悪、だな」

「でしょうね、密封されていた訳ですし」

「だが、それをされるだけの事をしてきた。関係の無い国の、何の罪も無い民をこの手で…」

 

 

 己の掌を眺めながらブラド3世は自嘲気味に呟く。

 彼の目には自身の手が血で汚れて見えるのだろう。

 

 

「…して、封じていた我を解放した理由は?」

「単刀直入に言います、我々カルデアにそのお力を御貸し頂きたいのです」

 

 

 顔を俯けたまま尋ねるブラド三世にオルガマリーが前に出て願い出る。

 

 

「それを見越しての契約と狂化の解除か?」

「そうですね。後、協力してくださるならばスキルとして埋め込まれている吸血鬼の解除も行います」

「何!?」

 

 

 オルガマリーの言葉に目を大きく見開きながら顔を挙げるブラド三世。彼の逸話は吸血鬼のモデルとなり、召喚された彼はその怪物性を埋め込まれている。

 望まぬスキルを与えられている彼にとってスキル解除の提案は堪らなく欲するモノだった。

 

 

「我々には戦力が必要なのです。戦場はこのフランスだけでないのだから…」

「如何云う事だ?」

 

 

 オルガマリー達はフランスに来た目的を話す。

 

 

「…そうか、この国だけでなく世界が焼かれたのか」

「はい。そして、その炎は貴殿の祖国も含めて焼き尽くしました」

「…成程、成程な。ならば此処で俯いたままではいられぬな」

「! では…」

「護ったワラキアの未来を奪われる訳にはいかぬ。我が槍、汝達に預けよう」

「あ、有難う御座います!!」

 

 

 仲間になる事の了承をブラド三世から貰い、頭を下げながら感謝の言葉を告げるオルガマリー。そんな彼女に続き、優作とマシュも頭を下げて感謝の述べる。

 こうしてヴラド三世はオルガマリーの新たなサーヴァントとして契約を行った。

 因みに彼に付いていた吸血鬼スキルは優作の用意した聖水によって完全消滅したのだった。

 

 

:::::

 

 

「はふぅ~、気持ち良いです…」

「まさか、キャンプなのにお風呂に入れるなんて…」

 

 

 大理石で出来た大きな湯舟に浸かり、マシュが心地良さそうな声を漏らす。湯舟はテント内に入れる10人が全員浸かれる大きさであり、バスルームと云うよりは最早浴場と言って差し支えなかった。

 夕食後、女性メンバーはテント内のバスルームにて今日一日の疲れを癒していた。

 

 

「うふふ、お風呂も素敵ね。でもお夕食もとっても美味しくて素敵だったわ、ヴィヴ・ラ・ディネ♪」

「そうですね、とても美味しかったです」

 

 

 湯舟の横で洗いっこしているマリーとジャンヌ。

 因みにバスルームにメディアはいない。ブラド三世とジャンヌ・オルタの間で結ばれていた契約を解除し、夕食を食べたらそのままカルデアへと帰っていった。なんでもマイルームにてやる事があるとか。

 野外での食事は冬木でもあったが、テントを張ったアウトドア形式のものは初めてであったし、優作達の用意した料理は何れも絶品であった(マシュとオルガマリーは解かっていた事だが)。

 

 

 軽い衣がサクサクの野菜フリット

 

 見ていて楽しい魚の塩釜焼

 

 スパイスを効かせた挽肉が食欲を進ませるシシカバブ

 

 山と海の希少な幸が詰まった山海珍味スープ

 

 食後に紅茶と共に出されたレモンパイ

 

 

 新たに加わったジャンヌ、マリーとアマデウス、そしてブラド三世の歓迎を兼ねて酒も多めに出された夕食は皆が大満足した。

 

 

「明日も忙しいわ。ジャンヌ・オルタを追い返したとはいえ、何時反撃に出られるか分からないし、上がったらもう休みましょう?」

「そうですね、でも見張りは本当に良かったのでしょうか…」

「気にするだけ無駄よ。優作はそう云った対策は徹底してるし、心配要らないわ」

「あれだけの使い魔を見張りにして罠を張り巡らせていますから問題無いと思いますよ?」

 

 

 ジャンヌの心配そうな言葉に短い間ながらも優作の行動を理解しつつあるオルガマリーとマシュは問題無いと言ってのける。

 敵はジャンヌ・オルタ陣営だけでなく、野盗やコボルトといったモンスターもいる為に誰か見張りに立たないといけないのではないのかとジャンヌは考えていたのだが、優作は問題無いと言って懐から何冊もの本を取り出して使い魔の軍勢を召喚してのけた。

 

 

 毒矢を操り集団で得物を狩る『ナイトクラン』

 

 倒されても宿った魂が諦めない限り甦る『ボーンナイト』

 

 離れた位置から一撃必殺の矢を放つ『ボーンスナイパー』

 

 闇に堕ち、殺戮の戦士となった『ダークナイト』

 

 羽で素早く飛び回りながら矢を放つ『エンジェル』

 

 

 負の雰囲気を醸すモンスター達の中でエンジェルだけが場違いな感じを受けるが、それぞれの軍勢が優作の前に綺麗に並んでいた。

 使い魔達は優作の指示でキャンプ地周辺と上空の警備を任され、周囲に散って行った。その後、駄目押しとばかりに転移や霊体で侵入出来ない罠やら警報装置をしこたま仕掛け、一晩過ごすだけの為には過剰極まりない防衛構築をした彼は笑顔で「これで皆休めるね?」と言ったのだった。

 

 

「ユーサクの使い魔さん達は凄かったけど、お洋服はとっても素敵だったわ♪」

 

 

 身体の泡を流して、湯舟に浸かりながらマリーが笑顔で新たな話題を挙げる。

 新しく加入したメンバーにも当然、優作は衣装の力を与えた。

 

 

 マリーには心の怪盗団メンバー『ノワール』こと『奥村 春』の服

 

 アマデウスにはアクアヴェイル公国・シデン領当主の三男坊『ジョニー・シデン』の服

 

 ヴラド三世にはフィガロ王国の国王『エドガー・ロニ・フィガロ』の服

 

 

 インストール後、マリーはペルソナの『ミラディ』とクルクルと踊り出し、アマデウスは基本装備であるリュートの調子を確認しながら彼女に合わせて演奏を初め、ヴラド三世は機械を取り出して細かい使い方を確認していた。

 

 寛ぎながら談笑を楽しんでいた面々だったが、ふとジャンヌがマシュの表情が暗くなっていた事に気付く。

 

 

「マシュさん、どうかしましたか?」

「あぁ、済みません。ラ・シャリテでの戦いの前に先輩が言っていた事を思い出してしまって」

「もう一人の私の復讐を肯定した事ですか?」

「はい」

 

 

 ジャンヌの言葉にマシュは頷く。

 ジャンヌ・オルタ達と遭遇時、優作は彼女の復讐を肯定した。彼女の様にフランス全てに復讐すべきでないと言ったが、マシュは彼が復讐自体は肯定している事が気になっていた。

 

 

「気になるなら後で会いに行きませんか? 私も気になっていたので」

「そうですね、お風呂から上がったら会いに行きましょう」

 

 

 何かあったら尋ねて来いと優作自身にも言われていたので丁度良い機会だと、マシュはジャンヌの提案に頷く。

 

 

「そういえばマシュ、聞きたい事があるのだけど?」

「何ですか所長?」

 

 

 ふとある事を思い出したオルガマリーがマシュに問い掛ける。

 

 

「此処にレイシフトした時に貴女が言ってたオーバーワールドって何かしら?」

「あぁ、先輩がデートに誘ってくれてその時に連れて行って貰ったば……所長?」

 

 

 マシュの言葉は最後まで続かなかった。

 オルガマリーがマシュへ迫り、顔をずいっと近づけてきたからだ。

 その顔は笑顔なのに何故か怖い。

 

 

「ふ~ん……その話、詳しく教えてくれないかしら?」

「は、はひ…」

 

 

 笑顔とは嘗て威圧する為に使われていたらしい。

 オルガマリーの問いにマシュは唯々答えるしかなかった。

 

 

:::::

 

 

 月が夜空で輝き、皆がテントに入り寝静まる頃。

 虫の声位しか聞こえぬ静かな森の中にて優作はフォウを連れて一人立っていた。着ている衣装はライドウの服になっており、懐から10本を超える封魔管を取り出した。

 

 

「さ~てっと…来い!」

 

 

 優作が取り出した全ての封魔管が浮かび上がり、緑の閃光を放っていく。光が消える頃には何体もの天使達が彼の前に浮かんでいた。

 キリスト教の天使であり、オルガマリーも呼んでいたアークエンジェルを初め『ヴァーチャー』や『プリンシパリティ』、ユダヤ教天使の『ウリエル』や『ガブリエル』といった有名な天使達が勢揃いしている。

 此処に教会関係者がいれば失禁・気絶しかねない光景だった。

 

 

フォ~、フォ~ウ(ヴォ~、すっげ)…」

「お呼びですかサマナー?」

 

 

 フォウが感嘆の鳴き声を上げる中、鈍い輝きを放つ、鋼の肉体を持った大天使『メタトロン』が天使達を代表して優作へ挨拶する。

 

 

「現在フランスが竜と狂わされた英雄達を操る魔女に因って侵略されている。無事な村や街へ散開し、襲撃の阻止、難民の保護をして欲しい」

「分かりました」

「では行けっ!!」

 

 

 優作の指示で飛び立っていく天使達。

 夜空に写っていた影達が見えなくなる迄見送っていた優作の後ろから声が掛けられた。

 

 

「先輩…」

「マシュ…とジャンヌちゃんか、眠れないんか?」

「えっと…それもあるのですが…」

 

 

 声の正体はマシュであった。

 彼女の隣にはジャンヌも立っていたので優作は内心冷や汗を掻いていた。もう少し早く彼女達がこの場に来ていたら天使達の姿を見てジャンヌは失神していただろう。

 マシュは何か思い詰めた様な表情であり、軽く話をする雰囲気で無い。

 

 

「まぁ、座って」

 

 

 そう言って優作は椅子とテーブルを用意する。マシュとジャンヌの2人を椅子に座らせるとホカホカと湯気が立つマグカップが彼女達の前に出される。ふぅふぅと冷ましながら飲んでみると、その正体は蜂蜜を混ぜたホットミルクだった。

 

 

「美味しい?」

「はい、とっても落ち着きます」

「優作さんは何をしていたのですか?」

「ちょっち、月見をしようかとね。それで、おいちゃんに話があるのかな?」

「はい…ラ・シャリテで先輩は復讐を肯定していたので」

「な~る」

 

 

 ジャンヌの質問を誤魔化しながら自身も椅子に座り、マシュに尋ねるとジャンヌ・オルタとの戦いにて優作が彼女の復讐に対して肯定した事が気になっていた事を知る。

 

 

「マシュは復讐否定派かな?」

「はい、復讐の先にあるのは新たな復讐です。そうなれば復讐は連鎖し続けます」

「そうだね。復讐モノの作品でもよくある展開だし、大体の人ならそう考える。おいちゃんもその考えは否定はしないさね」

「? それでは何故あの時に肯定の言葉をもう一人の私に告げたのですか?」

「今回、オルタの言葉を肯定したのはちょっと特殊(・・)さね」

「特殊…ですか?」

「その事についても話すけんど、マシュの質問に答えたいから先ずはおいちゃんの復讐に対する考えを聞いて欲しい。良いかな?」

 

 

 復讐を肯定しながらマシュの否定する思いにも同意する優作にジャンヌが疑問を投げかけるが、彼から更なる意味深な言葉が出る。しかし、先ずは復讐を肯定する理由を答えたいと謂う優作の言葉にマシュとジャンヌの2人は頷く。

 

 

「復讐を行う事に対して意見を言いたいなら“被害者側の立場”に実際ならない限り、口出しする権利は無いとおいちゃんは考えてるんよ」

「“被害者側の立場”ですか」

「だって、何もされていない他者が被害者の思いを理解するなんて不可能っしょ? 被害者が相手を“許す”のか、それとも“許さない”で復讐するのかは結局本人次第だしね。でもマシュが言った通り、復讐先からまた復讐される可能性を、復讐した先に何が起こるかを理解した上でやるべきだとは思うさね」

「でも先輩、それでは終わりがありません」

「せやね。まぁ、それでも相手を許す事が出来ない場合が絶対にあると思うんよ?」

「許す事が出来ない場合?」

「例えるなら…マシュやジャンヌちゃんにとって大事な人が殺されたとしようか?」

 

 

 優作は復讐に対する持論を述べつつ、2人に例を挙げる。

 

 

「家族や知人、まぁ大事な人を殺されてしまった」

 

「犯人は捕まり、理由を聞いた」

 

「すると犯人はこう言った」

 

「“理由なんて無い”、と」

 

 

「「…え?」」

 

 

 優作の言葉に2人は呆けた様な言葉しか零せなかった。理由が無いのに殺人を犯す、そんな事があるのか? と頭が理解出来ていなかった。

 

 

「苛立っていたから殺した」

 

「目に入ったから殺した」

 

「殺せるなら誰でも良かった」

 

「死刑にして欲しいから殺した」

 

「そんな理由で人を殺しておいて、おいちゃんの時代でも大量殺人犯でも無い限り、実行犯に死刑が言い渡される事は無い」

 

「大事な人は死んでいるのに殺した本人は何時かは釈放されてのうのうと生きる…そんな理不尽な状況になった時、その相手を“許す”事は出来る? おいちゃんには無理だよ」

 

 

 優作の問い掛けにマシュとジャンヌは答えられない。

 彼の例え話は余りにも理不尽で救いが無かった。

 

 

「まぁ、話したのは極端な例だけどね? 運が良い事においちゃんはそんなケースに遭遇してないけんど」

「…優作さんの時代ではそんな事が起きてるのですか?」

「起きてるよ。それも何人どころか十数人をも平気で殺すケースだってある」

「そんな…」

 

 

 実際起きた事件のケースを優作から聞き、ジャンヌは口を押え、マシュに至っては言葉を無くしている様だった。

 

 

「…復讐に関したおいちゃんの考えはこんなもんやね。話を変えて、ジャンヌ・オルタの件が特殊だと言った事を話そうか?」

「…そうですね、お願いします」

 

 

 新たな話題をして良いか問い掛ける優作。

 顔色が優れない様子で頷く2人に例えが悪かったかと優作は内心後悔していた。 

 

 

「おいちゃんが特殊と言ったのはジャンヌ・オルタ達を撃退した後にジャンヌちゃんが復讐心を抱いていないと聞いたからさね」

「私ですか?」

「ジャンヌちゃんが処刑されて抱いた感情は第3者視点から考えた結果での事柄でしか理解出来ない立場だかんね。だから最初はジャンヌ・オルタの言葉は本心かと思ってた」

「でもラ・シャリテでジャンヌさんが恨んでいないと言った事でオルタの発言はおかしいと先輩は思った訳ですね?」

「そう。更においちゃんがジャンヌ・オルタに問い掛けた時の反応に違和感を感じたべ」

「反応?」

 

 

 フランス全てに復讐すると言ったジャンヌ・オルタに優作は“家族や親しい者達も裏切ったのか?”と問い掛けたが、その時彼女は答える事無く頭を抱えて黙りこくってしまった。

 

 

「あの時の反応はおいちゃん的に思い出そうと必死になってる様に見えた。ジャンヌちゃんは家族の顔をすぐさま思い出せるっしょ?」

「当然です、忘れた事などありません」

「仮説になるけど、ジャンヌ・オルタは生前の記憶を持っていないんじゃないかと思うんよ」

「それは…私がサーヴァントの記憶が無い様にもう一人の私も何か異常があるという事ですか?」

「その可能性も無きにしもあらずやけど、ラ・シャリテでおいちゃん達が“今回の黒幕が誰なのか?”と話したやん?」

「可能性の高い人物はジル・ド・レェ元帥でした」

「彼が聖杯でジャンヌ・オルタを生み出した場合、色々と推理出来るんよ」

 

 

 優作が推理した内容はこうだ、

 

・ジャンヌ・オルタはジル・ド・レェが生み出したジャンヌと姿形が同じだけの全く新しい存在である。

 

・ジャンヌ・オルタが持つ憎悪と云った感情はジル・ド・レェ本人が抱いた感情そのままである。

 

・ジル・ド・レェが生み出した存在なのでジャンヌ本人の記憶や想いを持っていない。

 

 

「ジル・ド・レェ自身は親しかったジャンヌちゃんを処刑し、見殺しにしたフランス全てを憎んでいてもおかしくない。その感情がまんまコピペされたんやと思う」

「先輩、それではジャンヌ・オルタの正体は…」

「ジル・ド・レェに生み出されたジャンヌちゃんクリソツの人形、レプリカってとこさね」

「そんな…」

「答え合わせは本人達に聞かんと分からないけどね?」

 

 

 ジャンヌ・オルタの正体の予想に息を呑むジャンヌとマシュ。もし、この予想が本当ならば、ジャンヌ・オルタ本人は自身の正体を解かっているのだろうか? もし知らないのならば彼女は…

 

 

「止め止め。これ以上考えても仕方ないし、復讐とか暗い話で気分も暗くなるばかりだべ。全く、こういう空気はおいちゃん嫌いじゃ」

 

 

 空気が重くなる中、優作が話を打ち切る。

 本気で嫌な顔をしている事から嫌いなのだろう。

 

 

「ったく、りっちゃん(・・・・・)みたいな性格の人ばっかだったら世界も平和になるだろうに、世知辛いね」

「りっちゃん?」

「おいちゃんの後輩ちゃんさね、ほれ」

 

 

 優作がポケットからスマホを取り出してマシュ達に画面を見せる。画面には橙色の髪をサイドテールにした女の子が優作とポーズを取りながら写っていた。

 

 

「この人が先輩の後輩…」

「名前は立香。コミュ力の化身って感じでさ、誰とでも仲良くなれる凄い娘なんよ」

「誰とでも、ですか?」

「人間誰しも“この人とは合わない”っていった感じの人がいるっしょ? でもりっちゃんはそんな事、気にしないで誰とでも関わって仲良くなれる」

「凄い人なんですね?」

「そ、この事件が解決したら是非紹介したいさね。マシュ達と良い友達になってくれるさ」

 

 

 画面をスライドして次々と撮影画像を見ていく。どの画像に写っている彼女も笑顔で写っており、周りの人達も笑みを浮かべている。彼女の笑顔を見ているだけでこちらも心が明るくなりそうだ。

 暫く撮影画像を眺めていたところ、新たな客が現れた。

 

 

「今晩は、ユーサク。お邪魔だったかしら?」

「おや、姫さん。姫さんも眠れないん?」

「ふふ、お星さまを見ようと外に出たら声が聞こえたものだから来ちゃったの」

 

 

 現れたのはマリーで愛らしい笑顔を浮かべている。

 優作はもう一つ椅子を用意して彼女に座る様、促した。

 

 

「マシュ達は何を見ていたのかしら? 私、とっても気になるわ!」

「優作さんの後輩である立香さんを見せて貰っていました」

「ユーサクの後輩?」

 

 

 マシュからスマホを受け取り、画像を眺めるマリー。

 

 

「まぁ、可愛い。この娘がユーサクの後輩なのね?」

「せやで、姫さんみたいに明るく元気な娘さね」

「そうなの? なら何時か会いたいわ!」

「姫さんと気が合うだろうから、きっとマブダチになれるさな」

「うふふ。また友達が増えるのね、嬉しいわ♪ ねぇ、ユーサク。リツカの事、教えて欲しいわ?」

「えぇよ。りっちゃんはおいちゃんが6歳位の時に知り合った娘で…」

 

 

 マリーにもホットミルクを用意し、マグカップ片手に優作はカルデアに来る以前の日々を語っていく。

 優作にとっては何気ない日常の話であったが、マシュにとってはカルデアの外の世界、ジャンヌとマリーにとっては未来の世界の話であり、3人共目を輝かせて彼の話を聞いていた。

 

 しかし、そんな楽しい時間は唐突に終わりを告げる。

 

 突如、優作からアラームの音が響く。懐から音の原因である小さい端末を取り出すとアラームを切って席を立った。

 

 

「ほむ、無粋なお客さんが来たみたいだ」

「敵襲ですか!?」

「マシュと姫さんでテントで休んでいるメンバーを呼んで来てくれるかな?」

「分かりました!」

「任せて♪」

 

 

 優作の指示にマシュとマリーが頷き、テントへと駆けて行く。

 木々の向こうや夜空からモンスターの悲鳴が聞こえる。見張りの使い魔達と既に交戦を始めている様だった。

 

 

「敵は複数のモンスターとワイバーン、そして……サーヴァント1体か」

「如何しますか?」

「モンスターやワイバーンは問題無いさね。でも…」

 

 

 ジャンヌの問いに返す優作の言葉が終わらぬ内に彼らの前へ人影が降りて来た。

 

 

「迎撃を切り抜けたお客さんが来たようやね」

 

 

 長い紫色の髪を靡かせ、十字杖を手に持ったバーサーク・ライダー、マルタが優作達の前に現れた。




元ネタ
>デスペルの薬(出典:チョコボの不思議なダンジョンシリーズ)
チョコボと不思議なダンジョンシリーズに登場する薬。
魔法反射(リフレク)狂化(バーサク)といったバフ効果を解除する『デスペル』の効果がある薬で飲むと呪われた装備を装備していた場合に呪いが解呪される。
飲むと美味しいらしい。

>聖水(出典:FFシリーズ)
FFシリーズに登場する回復アイテム。
ゾンビ、吸血鬼状態を治療し、作品によってはアンデット属性の敵に使うと一撃死させる。

>野菜フリット(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
野菜に分類する料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの使用する術の詠唱時間を40%カットする。

>魚の塩釜焼(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
魚に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの被術ダメージと消費する魔力量を20%減少させる。

>シシカバブ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
肉に分類される料理で戦闘中において食事したメンバーの物理攻撃力を30%上昇し、被術ダメージを30%減少させる。

>山海珍味スープ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
その他に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの敏捷と前ステップ距離を30%上昇させる。

>レモンパイ(出典:テイルズオブイノセンス)
『テイルズオブイノセンス』に登場する料理。
お菓子に分類される料理で食べると戦闘中において食事したメンバーの技と術熟練度を40%上昇させる。

>ナイトクラン(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
高威力且つ毒属性のガスをばら撒く『ポイズンアロー』を放てる弓『レンジャーボウ』を装備しており、集団で現れた時は体力を一気に削られるので驚異。

>ボーンナイト(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
強烈な真空刃『ハイスラッシュ』を放てる『グラディウス』と『エルダーシールド』を装備しており、接近戦を挑むとレベル99ユニットでも倒されかねない。
スケルトン系モンスターの為に倒しても一定確率で復活する。

>ボーンスナイパー(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
4段階の溜めにより、規格外の単発ダメージを実現する『スナイプショット』が使える『キラーボウ』を装備しており、強力なダメージを回避率が高いハンター以外はほぼ当てられてしまう為に厄介。
スケルトン系モンスターの為に倒しても一定確率で復活する。

>ダークナイト(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
原作での死因堂々のトップと言っても過言では無いモンスター。
集団で武器を振り回し使用者の周囲をなぎ払う『スピニングチャージ』を使用して迫って来る為に盾で防御していても削り殺され、連れているメンバーを押し込みながら複数人巻き込んで葬っていく。

>エンジェル(出典:イニシエダンジョン)
『イニシエダンジョン』に登場するモンスター。
電気属性のユニーク弓であるエンゼルボウを装備し、ヒット&アウェイ戦法で攻撃してくる。
集団で出没するので出現階層での死亡原因のNo.1だったりする。

>奥村 春(出典:ペルソナ5)
アトラスのRPGゲーム『ペルソナ5』の登場人物で心の怪盗団のコードネームは『ノワール』。
大手外食メーカーの社長令嬢で原作主人公が通う秀尽学園の3年生、園芸が趣味で部員としても活動している。
使う近接武器は斧で遠隔武器はグレネードランチャー。

>ジョニー・シデン(出典:テイルズオブデスティニー)
『テイルズオブデスティニー』の登場人物。
アクアヴェイル公国・シデン領当主の三男で吟遊詩人として弦楽器を片手に世界を旅している。飄々とした性格だが、過去の出来事からある人物を心の底から憎んでいる。
戦闘で使える技は何れも音属性であり、攻撃から回復、補助と色々出来る。

>エドガー・ロ二・フィガロ(出典:FF6)
『FF6』の登場人物。
機械王国フィガロの国王で敵組織であるガストラ帝国と同盟を組んでいるが、裏では反帝国組織『リターナー』を支援している。
女性を見ると老若関係なく口説かずにいられない軟派な性格であるが、頭が切れる人物であり、誰にでも冷静に接するなど王族に相応しい器量を持つ。
機械に対する造詣がかなり深く、オリジナルコマンド『きかい(機械)』で専用の機械アイテムを使って攻撃出来る。

>ミラディ(出典:ペルソナ5)
『ペルソナ5』に登場するペルソナで奥村 春の専用ペルソナ。
女帝のアルカナのペルソナでモデルはデュマ著『三銃士』に登場する謎多き女性。
銃撃と念動属性の攻撃スキル、テトラカーンやマカラカーン等の補助スキルをバランスよく習得するので攻撃かサポートどちらに特化させるかはプレイヤー次第となる。

>ヴァーチャー(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神学に基づく天使のヒエラルキーに於いて、第5位の『力天使』に数えられる中級天使で名は『高潔』の意を持つ。
実現象としての奇跡を司り、それをもって人間に勇気を授けるとされている。

>プリンシパリティ(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
神学に基づく天使のヒエラルキーに於いて、第7位の『権天使』に数えられる下級天使。
国や都市といった人間の居住地域や教皇等の社会的指導者を守護する役目を担い、人々の信仰を擁護したという。

>ウリエル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
聖書に記される偉大な四大天使の一柱で名は『神の炎』の意を持つ。
神罰の執行が役目の一つとされ、最後の審判の日に復活と裁きを執行をするのもこの天使とされる。また、天の星の運びを管理する役割も担う。

>ガブリエル(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
聖書に記される偉大な四大天使の一柱で名は『神の英雄』の意を持つ。
神の重要な予言を人々に伝える役割を担い、聖母となる乙女マリアに受胎を告知した聖告天使として良く知られている。

>メタトロン(出典:女神転生シリーズ他)
アトラス作品に登場する悪魔。
最も偉大と言われるユダヤ伝承の天使。
神の代理として天使の最高位に就き、世界を維持する務めを担っている。
この天使には凶暴な面もあり、神に背く人間達を残虐な大量殺戮に処する事もあるという。


Q、赤チョコボって飛べない筈では?
A、魔改造大好きな優作が飛べないままにしていると思ったか?

Q、ヴラド3世が解放されたけど、如何云う事だってばよ?
A、デスペルの薬で狂化を、メディアの宝具でパスを、聖水で吸血鬼スキル解除しまんた。

Q、てめぇっ、お風呂シーンって会話してるだけじゃねぇかっ!!(半ギレ)
A、だったら妄想すれば良いだろっ!!(コ並感)

Q、お風呂シーンでマリーが言った「ディネ」って?
A、フランス語で「夕食」の意味。

Q、キャンプの警備ヤバくない?
A、仲間の安全の為なら遣り過ぎるのが優作である。

Q、新規加入メンバーにチョイスした服は?
A、アマデウス以外はフィーリングで決めました。でも誰かそれぞれの服を着たイラストを描いてくれたら嬉しいなぁ…(挿絵乞食並感)

Q、天使軍団解放とか遣り過ぎでは…?
A、こうしないとほんへの裏で多くのモブが死ぬからね、しょうがないね。

Q、復讐論で主人公君が言いたかった事って?
A、“復讐はその立場にならないと理解出来ない”及び“大事な人を理不尽に殺された時、許せるのか?”って事。


次回は4月12日投稿。
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