夜間当直が辛み…
目を焼く様な眩い輝きが徐々に治まってゆき、目を開けると優作は中央管制室に立っていた。火はあの時に消したものの、瓦礫が其処等中に散乱して酷い有様であり、唯一無事なのは中央に鎮座するカルデアスぐらいだ。
ふと共にレイシフトしたマシュとメディアの事を思い出し、周囲を見回すと近くにマシュが倒れていた。
「マシュ!?」
倒れているマシュの姿に慌てて近づいて彼女の脈を計る。脈はしっかりしており、どうやらレイシフトの影響で気絶してしまったが、無事な様だ。
「メディ姉、いる?」
「ここにいるわ」
続いてメディアがいるか声を掛けると、目の前に姿を現した。どうやら霊体化していたらしい。
「メディ姉も無事だった?」
「えぇ、問題無いわ」
「
「おぅ、フォウも無事かいな?」
「
フォウの無事も確認し、レイシフトしたメンバー全員の無事を確認できた優作は気絶しているマシュを如何しようか考えていた処、管制室の扉が開いて慌てた様子のロマニと妙な恰好の美女が入って来た。
「あぁ、良かった。無事に戻って来れたんだね!」
「ん、ロマンがちゃんとレイシフトを成功させた御蔭さね」
心から安堵した様子のロマニに優作は感謝の言葉を告げる。今回のファーストオーダーは彼の助力があちこちで役に立った。
「礼として、特異点で作った料理はしっかり御馳走するべ。ところで、そっちはどちら様?」
「ん? 私が誰か気になるかい? 宜しい、教えて差し上げよう。私はダ・ヴィンチ、レオナルド・ダ・ヴィンチと言った方が良いかな? 人類史に燦然と輝くダ・ヴィンチその人であり、カルデアの協力者となった召喚英霊第三号さ。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえよ」
「は?(威圧混じり)」
自己紹介を受けた優作の顔が軽く歪む。
艶やかな黒髪に青い水晶の様な双眼、おして豊満な身体付きは多く男性の目線を自然と引き寄せてしまうだろう。
絶世の美女と言う以外に表現する言葉が無い程に美しい……筈なのだが、右手に握られたバカデカイ杖と肩に乗った金色の変な鳥が残念な美女と言うイメージを加速してさせる。
そもそも何でレオナルド・ダ・ヴィンチが女なのか?
「おっと、その表情は私が何故女なのかって顔だね? まぁ、世間一般では私は男だって言われてたのだから当然だ」
「…性別を偽っていた以外の理由があると?」
「ふっ、この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんをそこらへんの女体化英霊と一緒にしてもらっちゃあ困るよ。私はね、自分でこの体を作ったんだ。私の生涯の中で最も美しいと思った女性の形にね!」
「何だ、只の変態か。天才と変態は紙一重とは良く言ったもんさな(そこらへんの女体化英霊って…他にも沢山いるのか、壊れるなぁ…)」
「むむむ……堂々と言ってくれるじゃあないか…。君も女体化願望を抱いた事は無いのかい?」
「生理やら大変そうだからなりたいなんて思った事無いです(真顔)」
「…まぁ、天才の考えは理解されないモノさ」
優作の容赦ない意見に若干拗ねるダヴィンチ。
「取り敢えずロマン、マシュは医務室に連れてけば良いんけ?」
「そうだね。ストレッチャーを持って来れば良かったな…」
「心配ご無用、サブチェンジ『偉大なる魔法使い:アルバス・ダンブルドア』」
そう言って杖を取り出した優作はその杖を一振りするとマシュの身体がふわりと浮き上がった。
「このまま連れて行くべ。ロマン、案内よろ」
「…今、魔法使いって言わなかったかい?」
「この世界の魔法使いと同じ扱いせんどいてな? ま、詳しくは『ハリー・ポッターシリーズ』を読んで、どうぞ」
「ハリポタ!? あれ確か魔法と同類のモノが多数有ったよね!?」
ハリポタについて多少知識が有ったロマニが驚く中、優作はそのままマシュを運んでいく。
「おっと、此処も直しとくか」
管制室を出る間際、優作が部屋に向けて杖を振ると瓦礫や壊れた機械のパーツ等が浮き出し、崩れた壁や天井に次々と戻って行き、あっという間に中央管制室は元の姿に戻った。
「そんじゃ、行きましょ」
「うわぁ…一瞬で元通りなんて…」
「流石に私でもここまで早く直せないわ…」
「ヒューウ♪」
一瞬で荒れ果てた管制室を元に戻して見せた優作に絶句するロマニとメディア。一方のダヴィンチは驚かないものの、口笛を吹いてみせた。
「いやぁしかし、初のレイシフト、初の実戦でもオーダーを完了させるとは流石主人公君だ」
医務室へ向かう中、ダヴィンチが優作へと問い掛ける。特異点『F』を攻略していた優作達の様子は彼女も当然見ていた。依って彼女は優作について非常に興味を抱いていたのだ。
「おいちゃんは出来る事をやっただけさね」
「だとしても、君が出来る事をどれだけの者が出来る事か…」
「君は所長をも救ってみせたんだ、それは他の者じゃ出来ない事だよ?」
「せやね…おっと所長さん達も呼ばなきゃ」
そう言って2本の封魔管を取り出した優作はオルガマリーとクーフーリンを呼び出す。
「お2人さんは何か問題無いかね?」
「おう、大丈夫だぜ」
「私も問題無いわ」
呼んだ2人に異常が無いか確認した優作はクーフーリンとメディアに指示を出した。
「そんじゃあ、メディ姉とクー兄は早速で悪いんやけど、即席で良いから此処カルデア内に外部からの干渉を防ぐ結界を設置して来てくれるかな?」
「何だよ、唐突だな?」
「あの裏切りもんのド腐レフが何時、此処を襲撃してくるか分かったもんじゃないしさ? 迎撃が出来ても後手に回って施設内に被害を喰らうのも癪だし、頼んます」
「まぁ、当然の考えだし、マスターの頼みだから構わないわ」
「それもそうだわ。それじゃあ、オレも行って来るぜ?」
納得した2人は霊体化し、其々施設内へと散って行く。
「後、ダヴィちゃんはコレ用意してくれる?」
「ダヴィちゃんっ!? ……えぇと、どれどれ?」
クーフーリン達と別れた優作はダヴィンチにメモを渡す。彼女がメモの内容に目を通し、メモにはこう書かれていた。
・水:35ℓ
・炭素:20㎏
・アンモニア:4ℓ
・石灰:1.5㎏
・リン:800g
・塩分:250g
・硝石:100g
・イオウ:80g
・フッ素:7.5g
・鉄:5g
・ケイ素:3g
・その他少量の15の元素 etc…
・オルガマリーの遺伝子情報を含むモノ
「これって…人体を構成する物質だよね?」
「然様。まぁ、最後の欄を読めば何したいか解かるさね?」
「オルガマリーの肉体を造る訳だ?」
「そういう事。つぅ事で宜しくっす」
「これなら私の工房に有るだろう。オルガマリーの遺伝子については…彼女の部屋に落ちてるであろう髪の毛で良いかな? それじゃあ、早速用意して来るとしよう」
メモ内の素材を用意する為にダヴィンチも優作達と別れた。
「あの時の言葉、本当なのね?」
「おいちゃん、約束は守る男さね」
残った3人と1匹はマシュを連れて医務室へと向かった。
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「ロマン、マシュは大丈夫なん?」
「あぁ、体内や脳波も特に問題無いよ」
「そっか…」
医務室に着き、マシュをベッドに寝かせた優作達。ロマニが検査機器で彼女の健康状態を調べたが特に問題は見付からなかった。
「心配だったかい?」
「そりゃあね。レイシフト自体初めてだし、マシュはデミ・サーヴァントとして初めて成功したんしょ? …何か異常が有るかもしれないと思うとさ?」
ベッドで眠るマシュの頭を優しく撫でながら優作は安堵する。
「むにゃ…先輩、このスペシャル肉丼は流石に食べ切れません…」
「……幸せそうな夢を見ている様で」
マシュの寝言を聞き、本当に大丈夫だと理解して微笑む中、オルガマリーがどうも心非ずといった感じである事が気になった。
「所長さん、大丈夫け?」
「え? あぁ、御免なさい。肉体が無くなっているのにこうして実体を持って歩き回れる事にちょっと違和感を感じているだけよ」
「…あの裏切り野郎のド腐レフが気になってるっしょ?」
「!? ……そうね(う、裏切り野郎のド腐レフ…)」
「それはしょうがないですよ。これまで信頼してきた人物だったのだから、踏ん切りが着くには時間が掛かるでしょう(裏切り野郎のド腐レフ…ぷふっ)」
「心の傷は時間が直す…か。でもアイツはきっとこの先再び現れるさね」
「でしょうね、その時私は心の決着を着ける事が出来るのかしら…」
不安そうに胸を抑えるオルガマリー。その時が来た時に彼女は向き合う事が出来るのか…
「心配しなさんな」
「優作…」
そんな彼女の肩に手を置き、優作は笑い掛ける。
「所長さんにはおいちゃん達がいるんだからさ? 辛いんならしっかり支えるさね」
「そうだね。今迄ちゃんと伝えられなかったけど、僕も…いや、此処の職員達は皆が所長の頑張りは知ってます、だから辛い事が有ったら無理に溜めたりしないで話してください。僕でもお菓子食べながら聞き役位にはなれますから」
「2人共…」
優作とロマニの言葉にオルガマリーの目頭が熱くなる。
嗚呼、自分の“理解者”はちゃんと居てくれたんだ、ど。
「有難う…」
「う、うぅん…、先輩?」
「おう、起きたかマシュ。おはようさん」
そんな中、マシュが目を覚ました。
「此処は…カルデアに戻って来れたんですね?」
「せやで。マシュは気絶したままだったさかい、医務室に運んでバイタルチェックしてたさね。体調は大丈夫?」
「そうですね、ちょっと倦怠感が有るかも知れません」
「まぁ、ずっと戦闘してた訳やから精神的疲労も残ってるっしょ」
「先輩は大丈夫なんですか?」
「おいちゃんはこれでも鍛えとるから、今夜ぐっすり寝たらモーマンタイさね」
「……デミ・サーヴァントの私より丈夫な時点で先輩は一般人で無いと思います…」
「マシュッ!!?」
本人から特に異常が無い事に安心しながらも、突然の非一般人発言にショックを受ける優作。尚、他の面々はうんうんと頷いていた。(当然の結果)
「やぁやぁ、待たせたね。用意する素材は揃えたよ。おや、マシュも目覚めたんだね?」
落ち込む優作だったが、そこへ頼まれたモノを集め終えたダ・ヴィンチが訪れたので気を取り直す。
「そんじゃあ、用意すべきモンは揃った様だし所長さんのボディを復活させますかね?」
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多目的ホール
広めのホールの様な空き部屋にて優作とオルガマリーが向かい合っていた。彼女の足元には魔方陣の様なモノが描かれており、優作の後ろにはマシュとロマニ、ダヴィンチの3名が立っていた。
「所長さん、心の準備は良いっすか?」
「えぇ、でも立っているだけで良いのね?」
「そうっす、錬成陣の中心からズレない様気を付ける位っすね」
優作が描いた錬成陣の中央にオルガマリーが立っており、彼女の周りにダ・ヴィンチが用意した人体構成の為の素材が置かれている。
「なりきりメインチェンジ『鋼の錬金術師:エドワード・エルリック』」
学生服姿だった優作の衣装が黒を基調とした上下に『フラメルの十字架』が描かれた赤いコートを羽織った姿へと変わる。
「そんじゃあ、これより所長さんの人体錬成を始めます、と」
「ふむふむ。この天才ダ・ヴィンチちゃんでも未知の世界である人体錬成…非常に興味深い」
ダ・ヴィンチが興味深々な目で眺める中、優作はポケットから赤紫色の球体を足元に置き、両手を正面に合わせた。
「いざっ!」
両手を合わせた後、床に両手を当てると電流が錬成陣へと流れてゆき、オルガマリーを光が包み込んでいく。このまま錬成が終わればオルガマリーは肉体を持った姿になるのだが…
さて、この時点で優作は
錬成に用意したのは人体を構成する物質と肉体に宿るオルガマリーの魂及び彼女の遺伝子情報が入っている髪の毛、それだけである。
この時、錬成後どんな姿で現れるのだろうか?
『鋼の錬金術師』の最終話にてエドワード・エルリックが弟のアルフォンス・エルリックの肉体を人体錬成して復活させた時、弟はどんな姿で現れただろうか?
読者の中で読んだ事がある者ならこの後の展開が判る筈だ。
「けほけほっ…上手くいったの…?」
錬成の輝きが消え、白い煙が薄れていくと共に一人の人影が見え始める。オルガマリーの声が聞こえる事から錬成が成功したと判断した優作は煙が晴れた後の彼女の姿を見て目が釘付けになってしまった。
白いシルクの様な綺麗な肌にマシュ程では無いながらもぽよよんと主張する2つの果実、何処がとは言わないが彼女の髪の毛と同じ銀色をした毛は綺麗に生え揃っていた。
つまりオルガマリーは生まれたままの姿…ぶっちゃけ、全裸であった。
「せ、せ…」
「え?」
「セクシー…ダイナマイッ……ブバァアッ!!」
「先輩っ!?」
そう笑顔で言い残し、優作は鼻血をブチ撒けながら大の字にぶっ倒れた。
「ちょっと優作っ!? ……って…な、何で裸っ!? い、イヤアアァアアアアアアッ!?」
倒れた優作に驚いて立ち上がるマリーだったが、全身がやたらスースーしている事から自分が全裸である事に漸く気付く。
そのまま彼女も大事な個所を手で隠しながらペタリと座り込み、顔を真っ赤にしながら黄色い悲鳴を上げるのだった。
「
倒れた優作と全裸のオルガマリーに残された面々が大騒ぎになる中、フォウはポツリと鳴いた。
:::::
それからどうした
「はぅあ!?」
「先輩!」
「あら、起きたのねマスター?」
優作が目覚めたのは自分に充てられたマイルームであった。
優作が寝ているベッドの横には心配そうな表情のマシュと呆れた顔のメディアがいた。
「あり? 何でマイルームに戻ってんの…いや、何で寝てる?」
「お、覚えてないのですか?」
優作のボヤキに驚くマシュ。
何故自分はマイルームで寝ていたのであろうか? 確かオルガマリーの肉体を錬成して完全に復活させていた筈なのだが…
「所長さんの肉体を錬成して……その後の記憶が無いゾ…」
「あらあら…」
「何があったか教えてくれる?」
「えぇと…その…」
「如何したん?」
マシュは悩んだ。オルガマリーの裸体を見て鼻血を噴きながらぶっ倒れた事をそのまま伝えて良いモノか、もしかしたら再びその光景を思い出し、また鼻血を噴きながら倒れるかもしれない。
尚、優作が倒れた後に作業を終えたメディアが現れたので、マシュは彼女に頼んで彼をマイルーム迄運んだのだった。
「マシュ?」
「実はレフが起こした爆発の影響であのホールの天井に罅が出来ており、先輩が所長の肉体を錬成後、瓦礫が崩れてきたんです。瓦礫の破片はそのまま先輩の頭に直撃、気絶した為に此処迄運んだ次第です」
「そうなん? にしては頭は痛くないんだけど…」
「そ、それはメディアさんが治癒魔術で治療したからです! ですよね? メディアさんっ!?」
「へ!? え、あ~…そうね。ケアルを掛けたから痛みが無いのよ?」
「そっか~」
説明に納得する優作に内心安堵するマシュ。突然のつじつま合わせを上手く合わせてくれたメディアに視線で感謝を告げた。
「兎に角、所長が待ってます。肉体を取り戻したので今は管制室で職員の指示をしている筈です」
「ん、了解。それじゃあ行きますかね」
肉体を得たオルガマリーの調子を確認する為に優作達はマイルームを出た。
「ところで、クー兄は?」
「まだ施設内を回っているわ。珍しいものだから細かく見回っているみたいよ」
:::::
中央管制室
「コフィンの点検は終わった? ならレイシフトの為のデータ復旧と修復を急ぎなさい!」
途中でクーフーリンと合流した優作達が管制室へ向かうと、オルガマリーがキビキビと指示を出しており、職員達が慌ただしく働いていた。
尚、マイルームに居なかったフォウは彼女の足元にいた。
「所長さん」
「っ!? 優作…目が覚めたのね?」
「済まんね、所長さんの肉体を戻した途端に頭打って気絶するなんて」
「頭を打って気絶っ!? 貴方、あの時の事を覚えてないの!?」
優作が声を掛けると何やら驚いた様子でオルガマリーは反応する。何やら顔が赤い上、優作がマシュから自分が気絶した事を聞いたと伝えると今知ったかの様な反応みせながらまた驚いた様子だった。
「? 何か爆発の影響で天井に罅が出来てて、所長さんの肉体を錬成し終えた途端、其処の瓦礫が崩れ落ちておいちゃんの頭に直撃して気絶したってマシュから聞いたんやけど?」
「…え? ……え、えぇ、そうよ。…仕方ないわ、部屋が崩れてないかチェックしてなかったのだからっ!」
「そうかいな、所で体に変なとこは無い?」
「大丈夫よ、寧ろ調子が良い位ね」
「なら良かったさ」
「本当に覚えてないのね…良かった」
「何か言った?」
「い、いえ! 何も言ってないわ!!」
体調についての確認を頬を赤く染めながらも答えるオルガマリー。優作には何故顔が赤いのか見当付かなかったが…
「あぁ、優作君。目覚めたんだね」
「おぉ、ロマン……如何したん、その頬?」
そんな優作達の元へロマニがダ・ヴィンチを連れて来るが、彼の右頬には赤い紅葉が出来ていた。
「いや、これは…「蚊が止まっていたから叩いたのよ」…は!? 所長何を言…「蚊よ」…な…「蚊よ」…蚊が止まっていたから叩かれたんだよ…(理不尽だ…)」
「そっかー(輸送物資に紛れ込んでたんか?)」
優作の問いにロマニが答えようとしたが、オルガマリーに遮られる。実際は優作と同じく彼女の全裸を見てしまったからビンタされたのが原因だった。
「優作、先ずは礼を言わせて貰うわ。有難う、私にもう一度生きるチャンスを与えてくれて」
「やれる事をやっただけさね。それに言ったやろ? 所長さんは報われるべきだって」
「…そうね(あの時みたいに“マリー”って呼んでくれないのね…)」
「?」
何故か少し不満そうなオルガマリーの表情を不思議に思う優作。しかし、それも僅かな間で、彼女は現状報告をすべく口を開いた。
「取り敢えず現状を説明するわ。ロマニ、頼める?」
「はい、所長。それじゃあ、これを見てくれ」
オルガマリーの指示にロマニが頷きながら端末を操作する。管制室のモニターに拡大された未だ赤く染まったカルデアスが映し出され、状況が説明される。
「まず、特異点『F』だけど、優作君達の活躍に依って見事に消失したよ。本来ならこれで事件解決! …って言いたかったんだけどね……残念ながら人類の未来は焼却されたままだ」
「まぁ、セイバーがこれから始まる的な事言ってたしね。あのクソ野郎も逃げたまんまだし」
「そこで僕らは過去に原因が有ると考えて、人類史を一から遡ってみたよ。すると、この2015年迄で、合計7つの特異点『F』よりも大きな歪みが発見されたんだ」
新たに端末を操作すると赤いカルデアスが青に変わる。しかし、カルデアスに浮かぶ世界地図はノイズが掛かったテレビ画像の様に歪んでおり、その中に7つの赤い点が点滅していたが、歪んだ画像の為に何処を位置しているのか判らなかった。
「詳しい場所はまだ割り出せてないけど、この7つは人類史にとってのターニングポイントであると分かってる」
「ターニングポイント?」
「例えば、“革新的な発明”や“画期的な興国”または“決定的な訣別”といった人類史の土台となった人類が人類足るがゆえに必要な事柄の事さ」
「あぁ、イギリスの産業革命みたいなヤツね」
7つの特異点の正体は人類史で起きたターニングポイント、それは発明、戦争、発見等様々だ。その人類にとって大事な事が起きた時期に異常が割り込み特異点と化した。
「この特異点も聖杯やらが関係してるんか?」
「お、頭の回転が速いじゃないか。その通り、この特異点の原因は聖杯と考えられる」
「そういや、裏切り野郎が聖杯を使って空間を繋げてみせてたな。つまり黒幕が聖杯をばら撒いたって事?」
「そう推測しているよ。時間移動、空間転移には聖杯が無いととても無理なんだ。…まぁ、優作君は単独で出来そうだけどね、現に時間を止めてみせたし」
「まぁ、可能な服は有るさな」
「あるんだ…」
特異点となった原因は聖杯。特異点で発生した問題を解決しても原因となった聖杯を何とかしないと完全な解決とならず新たな異常を起こす事になる。従って、優作特異点にて聖杯の“回収”若しくは“破壊”をする事が特異点解決の為のクリア条件となる。
「我々はこの7つの特異点を正して人類の未来を通り戻さないといけない」
この先、特異点の解決の為には聖杯を探し出す必要があるようだ。更に、その探索の旅の途中で必ず妨害をしてくるであろう裏切者及びその主を相手し、撃破する必要が有るだろう。
「カルデアスの磁場に依って此処だけは人理焼却の影響を受けていない。でもレフが言っていた様に2015年を超えた場合、7つの特異点の歪みがカルデアそのものを呑み込み共に消滅してしまうだろう」
「詳しいタイムリミットは判らんの?」
「難しいね、でも長く持って1年と計算には出ている」
「1年ですか…その期限内に7つの特異点攻略を…」
ロマニから言われた約1年のタイムリミット、長そうで短い期限にマシュの表情が強張る。
「カルデアのスタッフも8割近くやられた現状、今も特異点の捜索・特定を行ってる。おそらく7つの特異点を特定するのはこの期限内で十分だと思う。只、7つの特異点を解消するのに1年で終わるかは判らない」
「ロマンの説明に付け加えるなら、これから君が相手にするのは歴史そのものだ……君に人類の未来を背負う覚悟はあるかい?」
ロマニとダヴィンチに言われるカルデアの現状とこれから迎える事になる戦い。
特異点を解決出来るのはマスター適性を持ち、レイシフトが可能である十 優作唯一人である。
青年一人が背負うには余りにも大き過ぎる案件、例え英雄でも一人では重過ぎる事態であろう。
「この状況で狡いと思うけど、それでも言わせて貰うわ。恨んでも構わない」
ロマニの説明の後、オルガマリーは真剣な表情で優作に問い掛ける。横のロマニも何時もの緩い雰囲気を消し、表情を引き締めていた。
「カルデア48人目のマスター適性者にして、最後のマスター十 優作。人類の未来の為に戦ってくれますか?」
「答えは“はい”か“YES”しか無いって言わんの?」
「もうっ、揶揄わないで。こっちは真剣なのよ?」
「分かってるさね。そんじゃあ答えさせて貰うわ、“任せろ”」
時代を遡り歴史そのものを修復する、出来なければ人類は焼却され滅亡する旅路。そんな壮大過ぎる事案を優作は戸惑う事無く引き受けた。
「…良いのね? 人類史上最大の試練になるわよ?」
「断る理由が無いさね。こちとら親や後輩なんかを焼かれたんべ、解決すれば戻るとしても犯人を顔の原型が無くなるまでボコってやりゃな気が済まないさ」
「…有難う」
不敵に笑って見せた優作にオルガマリーは微笑みながら感謝の言葉を告げる。
「人類を救う為の戦い…良いじゃん、男なら誰だって燃え上がるシチュエーションだ。敗北は許されない? 違うね、おいちゃん達は負けない! おいちゃんはハッピーエンド主義者だ、これ以上誰も死なせはしない!! 全ての特異点を修復し、黒幕共もぶっとばして完全勝利をもぎ取った時、最後に全員で笑ってやるさ!!!」
優作は高らかに宣言した、“犠牲無く完全勝利を獲る”と。
余りに根拠のない宣言、だがそれでも彼の言葉は此処に居る多くの人間の心を救ってみせた。
「ぷっ、あははは! やっぱり君は主人公力が有るねぇ!! でもそれだけの力を持っているんだ、私達には最高のマスターが残った! レフどころか人理焼却の黒幕だって予想してなかったさ!!」
「本来なら希望を持たせるだけの言葉なんだろうけど、優作君なら出来るんだろうな。特異点『F』だけで散々みせられたのだから、だからこそ君の言葉は信じられる」
「そうね。優作がいるなら最後、皆で笑い合えるわ。きっと…」
「先輩……私は先輩がいてくれて良かったと心から思います。改めてサーヴァントとして、先輩の為に全力を尽くす事をここで誓います!」
ダヴィンチが笑い、ロマニとオルガマリーは優作の宣言を信じ、そしてマシュは彼の盾として共に行く事を誓う。
「ハハ! 今回のマスターは当たりと思ってたが、最高じゃねぇか!! 面白い戦いになりそうだ、最後まで付き合ってやるぜ、坊主!!」
「何とも凄まじい坊やがマスターになったものね…私も最後皆で笑い合う時まで付き合うわ。貴方なら私の願いも叶えてくれるのでしょうし」
クーフーリンとメディアも優作と共に最後まで戦う事を約束する。
「もう一度礼を言うわ。有難う、優作。貴方には大き過ぎる重荷を背負わせる事になるけど、私達カルデアが全力で支えるから」
改めて礼を言ったオルガマリーは最後の人類となるカルデア職員達に発令する。
「では、これより全カルデア職員に通達します。ファーストオーダーは終了、これよりカルデアの最後にして原初の任務、人理守護指定『
《はいっ!!》
彼女の言葉に職員達は声を揃え力強く応えてみせた。
「優作、私の事はあの時みたいにマリーと呼んでちょうだい?」
職員達がまた作業に戻る様子を眺めているとふとオルガマリーにそんなお願いをされる。
「はぇ? 上司なのに良いん?」
「貴方とは対等でいたいから…駄目かしら?」
そう言われながら上目遣いでお願いされる優作、普段のオルガマリーの様子とのギャップ差は中々クるモノがあった。
「美人さんにそんな顔されたら断れんよ。宜しく、マリー」
「えぇ、宜しく!」
「……むぅ」
「フォウ…(これは三角関係の始まりですねぇ、間違いない)」
優作のマリー呼びにオルガマリーは笑顔になる。そんな様子を見ていたマシュは何故か胸がモヤモヤした。
―――――是より始まるは人類史を巡る戦いの旅。人類最後のマスターとなった十 優作に立ち塞がるは人類が今まで歩んできた歴史そのもの。
しかし、彼は止まらないだろう。どんな壁でもブチ壊し、仲間達率いて完全無欠のハッピーエンド目指しひたすら進み続けるのみ。
その胸に未来の奪還と
「さぁて、歴史を巡る戦い。どんな英雄と出会って、戦う事になるのか…ま、立ち塞がるのが稀代の英雄だろうが、魔王やら神だろうが二度と逆らえなくなる迄叩きのめしてやるさな」
(有言実行出来そうなとこがなぁ…坊主が師匠と出会ったらヤベェ事になりそうだ…)
(もし、あの神が現れたらマスターに頼んでボッコボコにして貰おうかしら…)
「
元ネタ
>アルバス・ダンブルドア(出典:ハリー・ポッターシリーズ)
J・K・ローリング著『ハリー・ポッターシリーズ』の登場人物で、イギリスの魔法学校『ホグワーツ』の校長。
魔法学校の校長で有る事もあり、本人自身が同校にて“ホグワーツ始まって以来の秀才”と評価される程の神童であった。その優秀さは終生変わらず、魔法に関しては原作中でもトップクラスの技量の持ち主である。
常に茶目っ気たっぷりな好々爺で、普段は周囲の人間に穏やかに接している。基本的に、他人に情けやチャンスを与える考えをスタンスとしている。
一方で、非常に冷徹に作戦を立てる策略家の面もあり、本作の敵であるヴォルデモートを滅ぼすためには原作主人公であるハリーの死が必要だと判断すると、冷徹にハリーを死に導く計画を立てたりもしている。これに関して原作者は「マキャベリ的な策謀家」と発言した。
趣味は室内楽とボウリングでお菓子が大好物。
>浮遊呪文『
『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する呪文で掛けた対象を浮かび上がらせる。
ホグワーツでは1年生の「呪文学」で習うが、発音がやや難しい。
>修復呪文『
『ハリー・ポッターシリーズ』に登場する呪文で壊れた物を直す。但し、中に液体が入っていた場合、液体は戻らない。
>エドワード・エルリック(出典:鋼の錬金術師)
荒川弘氏作『鋼の錬金術師』の登場人物で主人公の一人。
史上最年少で国家錬金術師の資格を得た錬金術師で、『鋼』の二つ名を持つ。
幼いころに失くした母親を蘇らせる為に人体錬成を行うが失敗。結果、自身の左脚と弟を失くしてしまう。その後、自身の右腕を代償に弟の魂を取り戻した。その後、国家錬金術師となり、自身の手足と弟の肉体を取り戻すために『賢者の石』を探し旅に出る事から物語が始まる。
一般常識は弁えているが性格は粗暴でがさつ。悪知恵に長けており、他人には容赦無い一方、勉学に対する姿勢は非常に真摯な努力家且つ人情家で正義感が強く、思いやりもあり、総じて繊細で感受性の強い人物でもある。
失った手足の代わりに
>人体錬成(出典:鋼の錬金術師)
人間(人体)またはその一部を錬成する錬金術。特に死者の復活を目的として、人体を構成する元素や物質を基に錬成を行うことを指すが、未だ成功例が無いと言われる錬金術であり、錬成そのものが禁忌として扱われている。
錬金術において、人間は肉体・魂・精神の3つから成るとされており、これらを錬成できれば母胎に頼らず人間を生み出せると考えられた。しかし、実際には構築式が複雑になるために研究自体が非常に高度であり、仮に一定の成果を得て人体錬成を行っても確実にリバウンドが起こる。リバウンドが起こると『真理の扉』に飛ばされ、“通行料”として術者の身体の一部ないし全部を奪われてしまう。
存在しない物を錬成することは原理上不可能であり、その為、既に存在しない死者や身体の一部を錬成する事は初めから不可能である。よって、人体錬成はどのような構築式を持ってしても錬金術の範囲をオーバーして必ずリバウンドが発生してしまう。
逆に既存の物体を錬成することは可能であり、原作ではエドワードが自らを代価として、一度分解・再構築して人体錬成を成功させた。
>賢者の石(出典:リアル他)
中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬で、人間に不老不死の永遠の生命を与えるエリクサーと混同される事もある。
小説や漫画作品にも度々登場し、上記の『鋼の錬金術師』世界では人間の魂を素材としていたりするが、“等価交換”の原則等を無視した錬成が可能になる。
尚、本作で優作が使った賢者の石はマインクラフト産であり、素材はダイヤモンドとレッド及びグロウストーンパウダーと安心素材。
>ケアル(出典:FFシリーズ)
『FFシリーズ』に登場する初級回復魔法で対象単体の体力を回復する。
上位互換にケアルラ、ケアルガ、ケアルジャがある。
Q、主人公君、初心過ぎない?
A、この主人公、心の準備が出来ていない状態で極度のエロに遭遇すると鼻血噴いて失神するぞ。しかも前後の記憶も吹っ飛ぶから裸を見られた女の子も安心だ!
Q、人体錬成後のオルガマリーの様子についてkwsk
A、ぺたん座りだったが、両手共に横にやっていたので大事なところが丸見え。
Q、人体錬成のシーン、表現大丈夫け?
A、ハーメルン内にゃ、もっとヤバい表現してるのに全年齢対象な作品があるからヘーキヘーキ。
Q、恋愛トライアングルが出来てないか?
A、まだ出来てないから…(震え声)
今回でファーストオーダー完全終了。
次回より幕間開始。
次回は10月28日投稿。
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