城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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せめてアナスタシア終わってからやろうと思ってたのに、ついやってしまいました。すみませんでした。


プロローグ
コミュ障はほどほどに。


 学校の食堂。僕はいつものように一人でモンハンしていた。来年、新作が発売されるらしいので、慣らしておこうと思って一個前のXXをプレイをしている。

 次のモンハンには狩技やスタイルはないようなので、もちろんそれを封印している。

 それと、プレイヤースキルの勘を取り戻したいので、上位防具でG級に挑んでる。まぁ、当たらなければどうということはないので、これくらい楽勝だよね。いや、こいてるわけじゃないけど。

 次作はオープンワールドかぁ……なんだか楽しみだなぁ。正直、ロード時間待つの面倒だったから、そういう面でも楽しみだ。敵、強いと良いなぁ。あんま弱いと秒で飽きちゃうし。せめてセカGくらい難しい方が、僕としてはやる気が出る。

 そんな事を考えながらクエストをクリアした。時刻を見ると、あと5分で授業開始だ。

 討伐に時間が掛かったわけではなく、単に授業が終わってから少しのんびりしてから食堂に来た。あまり早く食堂に来てしまうと、色んな生徒達と食事の時間がかち合ってしまう。あまり人混みは得意ではない。

 それに、あとから来た方がのんびりゲームできる。5〜10分もあれば並みのG級であれば倒せるし、残りの5分あれば教室に戻れる。

 でも、今日は二つ名だったから少し時間が掛かったな……。さっさと教室に戻らないといけないので、3○Sを閉じてポケットにしまった。

 別にゲームの持ち込みは禁止ではないが、先生にとってあまり印象は良くないだろうと思ったので、持ち運びの時はしまうようにしている。変に教師に反感買いたくない。

 で、ふと顔を上げると、ピンク色の髪の女の人が目の前に座って、ジッと僕を眺めていた。

 

「っ⁉︎」

「あ、いきなりごめんね〜。あたしの知ってるゲームやってたから気になっ」

「っ!」

「逃げ⁉︎」

 

 気が付けば脚が勝手に動いていた。僕は人と会話するのが苦手だ。敵を見つけたら自動的に逃げ出す神経を足に宿すバッタと同じレベルで。

 気が付けば、教室の机の上で一人で伏せていた。

 

 ×××

 

 その日の夜中、僕は一人でベッドの上で伏せていた。未だに昼休みでの出来事が頭から離れていない。

 ああ……まさか何も言わずに逃げ出してしまうなんて……というか、声掛けられただけで逃げちゃうなんて絶対印象悪いよ……。しかも、あの人アイドルの城ヶ崎美嘉じゃん……。

 どうしよう、なんか変に叩かれたらもう学校にいられないんじゃ……。

 そもそもなんで逃げたんだよ僕は……ホント勘弁してよバカ……。本当にバッタかよ……。

 

「……はぁ、ゲームやろ」

 

 心を落ち着かせるにはゲームが一番だ。そう決めて、とりあえずプレ4の電源を入れた。

 モンハンをやると昼のことを思い出してしまいそうで怖いので、これからやるのはフ○ートナイトだ。

 複数人型のTPSゲームで、100人のプレイヤーが一つの島に降り立ち、各地に散らばって武器や資材を集め、建築を駆使してドン勝を目指して競い合うものだ。

 日本語版はまだ実装されてないけど、学校でちゃんと英語を習っていれば読めるレベルなので問題ない。

 ヘッドホンを装着し、ブルーライトカットのメガネを掛けた。さて、とりあえず今日の出来事が忘れられるまで没頭しよう。

 

 ×××

 

 翌朝、目を覚ましたのでのそのそと起きて、洗面所に向かった。まずはボーッとした顔を洗う。

 両手に水をためて顔にぶっ掛け、タオルで顔を拭いて鏡を見た。当たり前だけど、僕の顔が映っている。

 

「……」

 

 ……相変わらず、冴えない顔してるなぁ。平均以下の身長、女っぽい顔立ち、細い身体、ジャージを着れば女子達の体育に混ざれそうな感じだ。

 一応、両親からもらった体と顔だし、自分が嫌いだとは言えない。でも、もう少し男らしくしたかった。

 まぁ、今そんなこと嘆いても仕方ないよね。さっさと寝癖直してしまおう。

 跳ねてる所を直し、長くて鬱陶しいもみあげを耳にかけてリビングに戻ると、両親はもう出掛けていた。共働きだから忙しいんだろう。

 朝食を済ませ、歯磨きをしてソファーでゆっくりしてテレビを見た。め○ましテレビがやっていた。「みかしら!」という土曜日限定の番組が放送されていた。

 名前の通り、城ヶ崎美嘉が街の人にその日のテーマによって色んなことを聞いて回る番組だ。まぁ、聞いて回ってる映像は収録だし、本人は生放送のスタジオにいるんだけどね。

 うちの高校は土曜日も学校があるが、1年は3時間目まで、2年は2時間目まで、3年は休みとなっていて、3年の城ヶ崎美嘉なら出演出来るわけだ。

 別にファンというわけでもないし、今まで「休日の朝に大変だなー」程度にしか思っていなかったが、昨日のことを思い出してまた一人反省会を始めてしまった。

 が、すぐにいつまでも気にしていられないと無理矢理思い直し、家を出た。

 駅に向かい、電車に乗った。隣の駅だから自転車でも良いんだけど、冬は寒いから嫌だ。

 

「……あ、飲み物買って行かないと」

 

 学校の購買や自販機は安いが、僕の好きな飲み物はない。ボスのミルクティーはとても美味しいのにかなり希少だ。

 そんなわけで、電車を降りて駅のコンビニに入った。朝だとスーパーも開いてない。

 お目当の飲み物を手にとってレジに持って行った。朝なのに列が出来ていたが、元々余裕を持って家を出てるので遅刻の心配はないから並ぶことにした。

 財布を出しておこうと思って鞄の中をまさぐったが、財布が見当たらない。

 

「……えっ?」

 

 ……お、おかしいな……。僕が財布を鞄から出すのは学食以外ではありえない。外ではあまり買い物しないし、ゲームは本当にやりたいゲームしか買いに行かないから、従って外で財布を出すこと自体が稀だ。

 ……でも、財布がない。ヤバい、何処かに落とした?

 その考えが頭に浮かんだ時点で、僕の顔に変な汗が浮かんだ。どうしよう……だとしたら警察……? や、でも鞄に穴が空いてる様子はないし……。

 と、とにかく、この飲み物は買えない。先に学校に行こう。

 心拍数をめちゃくちゃ早くしながらコンビニを出た。

 

 ×××

 

 朝イチで学校に来て食堂を探し回ったものの、僕の財布は見当たらなかった。

 職員室に落としものを聞きに行くしかないのだが……コミュ障が発動してしまうものだ。落し物に関しては担任の先生に言わなければならないのだが、うちの担任はとにかく圧がすごい。覇王色の覇気のそれだ。

 なので、僕には少しハードルが高かった。

 

「……はぁ」

 

 どうしよう……。でも、財布は取りに行かないといけないし……。

 あ、そ、そうだ。先に落し物を見に行こう。まずはそれで本当に財布があるのか確認しないと。

 そう決めて、職員室の前のガラスのショウケースを覗きに行った。

 ……まぁ、あるんだろうけど。これはただ単に職員室の先生に声をかけたくないという逃避行動に過ぎないのだろう。

 どうせ声をかけなきゃいけないんだからさっさとかければ良いのに……でも、そう出来ないのが僕の性根みたいで……まぁ、とどのつまり男らしくなくて情けないわけだ。

 ほとほと自分に嫌気がさしつつも、ショウケースを眺めた。

 

「……あれ」

 

 ……僕の、財布がない……? う、嘘……? だって、じゃあ僕の財布は何処に……。

 あ、ヤバい……どうしよう? なんだか本当に変な汗が……。だ、大丈夫……落ち着かないと。アレには学生証が入ってる。僕の名前と顔と学校が拾った人にバレ……落ち着けるわけがない!

 

「っ、や、ヤバい……! ケーサツ!」

 

 と、とりあえず学校とうちの最寄駅の派出所に行かないと……! それと、駅員さんにも聞いて……あとは……!

 ああもうっ……なんで僕がこんな目に遭わないと……いや、落とした僕が悪いんだが……!

 大慌てで派出所や駅員に聞いたが財布はなかった。とりあえず電車に乗り、つり革に掴まりながら深呼吸した。

 ……大丈夫、最寄駅もその派出所もあるんだ……。それに家に忘れた可能性も……まだ慌てるような時間じゃない……。

 落ち着け、と思うほど落ち着かなくなる気がして、とりあえず周りを見回した。考えるないようにしよう。頭を空っぽにすれば少しはリラックス出来るはず……。

 

「あれ? 君、昨日の……」

「っ⁉︎」

 

 聞き覚えのある声が隣から飛んできて、肩を大きく震わせた。昨日、聞いたばかりでテレビにも出ていた声だ。

 

「え、待ってどうして逃げるの⁉︎」

 

 まだ駅に着いてもないのに出口に向かおうとする僕は呼び止められ、足を止めてしまった。

 

「っ、な、なんですか……?」

「ん、いや昨日食堂であったでしょ?」

「は、はい……」

「その時にこれ、落として行ったから」

 

 城ヶ崎さんが差し出してくれたのは、僕の財布だった。

 

「ーっ⁉︎」

 

 思わず奪い取るように財布を取った。良かった……最悪、自殺しかないと思ってたから……。

 中身を確認し、学生証とゲーム屋のポイントカードとTカードの所在だけ確認して、城ヶ崎さんに頭を下げた。

 

「あっ、あのぅ……ありがとう、ございます……」

「あー良いって。あたしも昨日、急に声かけて驚かしちゃったみたいだし」

 

 それは僕が情けないだけなんです……。すみません、なんか。

 

「あ、でも良かったらさ、今からご飯食べに行かない?」

 

 ……なんでそうなるんですか。え、これもしかしてあれ? 拾ってやったんだから奢れ的な?

 ど、どうしよう……だとしたら財布の中のお金がいくら飛ぶか……ただでさえ、モンハン新作が出るのに……!

 でも、お財布拾ってもらっておいて断れないし……。

 

「っ……は、はい……」

「やったね。色々聞きたいことあったんだ〜♪」

 

 ……なんだろう、色々って……。「どれだけご馳走してもらえるか?」とか「これから少しずつお金をもらえるか?」とか……?

 ど、どうしよう……これから先輩JKのお財布にされちゃうんじゃ……。

 そうこうしてるうちに、うちの最寄駅に着いてしまった。

 

「……あ、あの……」

「んー? 何ー? どこか行きたいお店あるの?」

「い、いえっ……その……」

 

 ……だめだ、ここで降りるわけにはいかない。万が一、本当に城ヶ崎さんが僕を財布にするつもりだったとしたら、ここで降りれば僕の自宅の最寄駅を教えることになる。それだけは避けないといけない。

 

「ね、えーっと……宮崎玲くん、だっけ?」

「っ、は、はい……」

 

 なんで僕の名前を……と、思ったけど、多分財布を拾った時に学生証でも見たんだろう。

 

「じゃ、玲くんって呼んで良いかな?」

「っ……」

 

 い、いきなり名前呼び……? いや、別に良いけどさ……。

 

「は、はあ……」

「どこでお昼食べようか? あたしもお腹空いちゃってさー」

「え、えっと……」

「池袋の方でも良い? 美味しい店あるからそこでも良い?」

「……は、はい……」

「やったね★ じゃあこのまま行こうか」

 

 そのまま二人で池袋に向かった。高くないお店だと良いけど……。

 駅に到着し、改札を出た。僕はあまり東京には来ないから、東だか西だか分からなかったが、とにかく広い駅を出て街に出た。

 池袋って、人多いなぁ……。360°見回しても人が目に入らない角度はない。空を見上げてようやく人が視界から消える。

 ……正直、人混みは好きじゃない。万が一、人から道を尋ねられたりなんてしたらと思うと気が気じゃないから。でも、城ヶ崎さんとご飯食べる約束をしてしまったし……。

 

「玲くん、こっちこっち!」

「っ、は、はい……」

 

 ……そんな状況なのに異性で歳上の人と二人で街を出歩いてるなんて……宝具の真名も知らない頃のマシュが冠位時空神殿に放り込まれた気分だ。

 何とか逸れないように城ヶ崎さんの後に続いてると、僕の気を知ってから、それとも知らないのか、腕を引っ張って来た。

 

「何、アイドルと二人きりで出掛けられてキンチョーしてんの?」

 

 いえ、アイドルとか関係なく緊張しています。

 

「大丈夫、アイドルなんてみんな割と普通だから! アイドルだってアニメにハマったりゲーム実況したりするから。だからそんな固くならないで」

「っ、そ、そう言われましても……」

「あ、ほらあそこ」

 

 城ヶ崎さんの指差す先には少しオシャレなカフェがあった。え、あそこでご飯食べるの……? なんか、女子高生くらいの子達がたくさんお店に入ってるんですけど……。

 腕を引っ張られたままカフェに入った。どうしよう……スタバとかでもそうだけど、カフェのご飯って高いんだよな……。奢るとしても少しで良いから値段を譲歩してくれないかな……。

 

「あっ、あのっ……ここ……」

「あー大丈夫だよ。そんなに高くないから。千円あれば飲み物つけられるよ」

「そ、そうですか……」

 

 つまり、二人分で二千円か……。痛いな、バイトしてない身の出費としては。はぁ、しばらくお昼はお弁当を作った方が良いかもなぁ。

 店内に入って二人で席に座り、とりあえず目当ての品を注文した。うー、しかし本当に場違い感がすごいんだけど……。周りのお客さん女性ばかりだし、僕ここにいて良いのかな……。

 

「で、玲くん」

「っ、は、はい……」

「この前さ、モンハンやってたじゃん?」

「っ⁉︎」

 

 いきなりゲーヲタの面に突っ込んできましたね。血が引けて、顔が真っ青になるのが分かった。

 

「実はさー、あたしも友達が生放送やってるの見てやってみたんだよね」

「……な、生放送……ですか……?」

「そう。知らない? 山手線」

「い、いえ……知っては、いますが……」

 

 あのお荷物とまぁまぁ上手いのが二人でモンスターに挑む奴でしょ。僕も見たことある。

 

「あれあたしの知り合いなんだよねー」

「そ、そうですか……」

 

 ……ってことは、あれどっちか……多分、女の子の方がアイドルだったりするのかな。いや、学校の友達である可能性もあるけど。

 

「でさ、玲くん超モンハン上手かったじゃん? G級を5分くらいで倒してたじゃん?」

「は、はい……」

「だから、あたしとモンハンやらない?」

 

 え、なんでそうなるの……? こんな堂々とした寄生プレイヤー初めて見たんだけど。

 

「あたしも上手くなりたくてさー。今度、新作出るし? だからお願い、コツとかあったら教えてくれない?」

「……あ、あの……もしかして、聞きたい方って……」

「そう。これ」

 

 ……良かった、僕をお財布にするとかそういうのじゃなくて……。

 盛大に一息ついて、緊張から解放されるように背凭れに体重をかけた。

 

「え、何? どうしたの?」

「い、いえ……何でもないです……」

 

 財布にされると思ってました、なんて言えるはずもない。というか、今になって思ったけど初対面の人に失礼な想像してたのかな僕……。

 

「じゃ、早速やろうか」

 

 微笑みながら3○Sを取り出す城ヶ崎先輩。

 この日を境に、僕と城ヶ崎先輩の妙な日常が始まった。

 

 


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