城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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秋に恋愛する奴って文化祭か修学旅行でしょ? 実際、そんなとこて恋とか生まれないから。
予想がフラグに成り代わる時。


 学校が始まり、二週間が経過した。二学期というのはイベントの多い季節で、従って文化祭や修学旅行、体育祭とモリモリな季節だ。

 しかし、友達がいない者にとってそれはかなり厳しい。文化祭は何も催しをやってない屋上でボンヤリするしかないし、修学旅行は班員の二歩後ろをついて歩き、体育祭は種目にもよるけど基本は脚を引っ張ってしまう。

 つまり、端的に言って地獄だ。美嘉先輩は学年一つ上だし、先輩にも友達がいるからそっちを優先することだろう。

 はーあ、なんていうか……ホント高校ってダメだよね。これで虐められてたら本気で高校辞めてた。

 

「で、つまり?」

 

 長々と同じような内容を、美嘉先輩の前で愚痴ってしまい、美嘉先輩は焦ったような顔で僕を睨んだ。

 現在、五限と六限の間の10分休み。次の授業が文化祭の内容決めで、慌てて美嘉先輩を携帯で呼び出してしまった。

 

「え、つ、つまりって……?」

「何が言いたいの?」

「あ、え、えーっと……」

 

 ……あれ? 僕、なんで美嘉先輩を呼び出してしまったんだ? 考えてみれば、なんとなく焦ってしまって呼んだだけだ。

 

「……えーっと」

 

 えっと……そ、そうだよ。ただ愚痴るためだけに呼んだなんて言えないし……それに、そもそも自分でも何か違うとわかっている。本能的に美嘉先輩に頼み込みたくなったことだ。

 呼び出した理由は……もっとこう……シンプルで、それでいて美嘉先輩に迷惑が掛かるかもって内容のはずだ。じゃなきゃ頼めてるはず。

 

「用ないなら戻るよ?」

「っ、す、すみません……! え、えっと……!」

 

 なんだなんだなんだっ? 僕が先輩を呼び出した理由は……! いや、自分で自分の理由が分からないのも変な気がするけど……!

 もっとシンプルに、シンプルに……普段の僕では絶対に他人に頼まないようなこと……!

 頭を捻りに捻った結果、ようやく分かった。理由が。しかし、これお願いするのすごい恥ずかしいな……。でも、じっくり考える前に、ただ本能的に頼みたいと思ったことをお願いするために呼び出してしまった。

 まぁ、何にしても呼び出してしまった以上はもう頼むしかない。恥ずかしさと申し訳なさで顔が熱くなりながらも、頭を下げた。

 

「ぁっ……あっ、あのっ……」

「何?」

「ぶっ、文化祭の日……! い、1日だけで良い、ので……その、僕と……一緒に、いてくれませんか?」

「良いよ」

「軽っ⁉︎」

 

 驚くほど軽いな! 思わず口に出た僕の言葉に、美嘉先輩は怪訝な表情を浮かべた。

 

「なんで?」

「っ、だ、だって! 文化祭は三日間しかないわけで……! 先輩はお友達も多いですし、事務所のお友達もいらっしゃいますし……! その中の貴重な一日を僕なんかのために割いてもらうのは申し訳ないわけで……!」

「玲くんはあたしと一緒じゃ嫌なの?」

「いっ、いえっ! 身に余る光栄で……!」

「じゃあ良いじゃん。あたしも玲くんと一緒に文化祭回りたかったし。気にしないで」

 

 ……こ、この人は……女神様かな? 世の中の女子高生なんて可愛いと言ってる自分が可愛いアピールしてる阿呆ばかりだと思ってたが、そんな事はなかった。この人は女神だ。

 

「……あ、ありがとうございます……!」

「ううん、あたしも誘ってくれて嬉しかったよ。じゃ、授業始まっちゃうから」

 

 そう言って、教室に戻ろうとした美嘉先輩は、途中で足を止めた。あれ、まだ何かあるのかな、と思ったら、莉嘉さんのような悪戯っ子の笑みを浮かべて僕を見た。

 

「文化祭デート、楽しみにしてるね」

「……へっ?」

 

 で、デート……?

 ポカンとしてる間に美嘉先輩はいってしまった。

 ……あ、そっか。文化祭に二人で出歩くなんて、ある意味デートそのものか、そっか……。

 

「……〜〜〜っ!」

 

 恥ずかしさのあまり、その場でうずくまって悶えるしかなかった。

 

 ×××

 

 はぁ……今から考えるだけでも頭が痛い。今日から文化祭準備期間だけど、僕は何処の仕事グループにも割り振られてないし、そもそも僕の名前すらあまり知られていない。まぁ、それは良いさ、その分仕事しなくて良いわけだし。

 それ以上に胃が痛い。何故なら、美嘉先輩にデートと言われてしまった。いや、そりゃもちろんあの人のことだ。からかってるだけかもしれないけど……。

 とりあえず、今は何もしてないと「何あいつ、なんでサボってんの?」みたいに思われそうなので教室を出ることにした。

 食堂でスマホをいじってのんびりしよう。帰りたいが、流石に鞄持って教室出ると人の目につくし。

 一人で食堂でスマホで文化祭デートの定石を調べ始めた。

 すると、ポツポツと雨の降る音が聞こえた。そういえば、今日は午後から雨だったっけ……。良かった、傘持って来ておいて。

 

「……はぁ」

 

 眠い。帰りたい。胃が痛い。雨降ってるから3○S濡れるし、今日は美嘉先輩とゲーム出来ないしで最悪だっつーの……。いや、今日ゲームしたら緊張のあまりかなり足を引っ張りそうなものだが。

 ……まぁ良いさ、たまには一人でやるのも悪くない。別のゲームやってみても良いかな。それとも、引き続き文化祭デートのプランを立てるか……まぁ、それはパンフが出てからでも良いかな。

 そんな事を考えながらしばらくのんびりしたあと、そろそろ終わってると思って教室に戻った。

 案の定、教室にはほとんど人は残ってなかった。

 鞄を持って、さっさと帰ろうと教室を出た。鞄の中から紺色の折り畳みの傘を取り出しながら廊下を歩き、昇降口に向かってると美嘉先輩がトイレから出てくるのと出会した。

 

「あ、玲くん」

「あっ……せ、先輩。こんにちは……」

 

 さっき会ったばかりなのに、なんか恐れ多くて後ずさってしまった。

 そんな僕に何の躊躇もなく美嘉先輩は声をかけて来た。

 

「うん。今から帰るの?」

「は、はい……。雨降ってるので」

「え、嘘。雨降ってんの?」

 

 気付いてなかったのか。というか、傘持って来てないんじゃないのそれ。

 

「困ったなー、このあと仕事なのに……」

 

 それは大変だな……。アイドルが仕事の前に濡れるわけにもいかないだろうし……。

 ……仕方ないな。本当は3○Sが濡れるから嫌なんだけど、背に腹は変えられない。何より文化祭に一緒に出かけることになってるしこれくらいは当然だろう。

 

「あの……じゃあこれ使って下さい」

「? これって……?」

 

 折り畳み傘を差し出した。JKが使うには可愛くないが、そこは勘弁して欲しい。

 傘を受け取るなり、美嘉先輩は驚いた様子で僕を見上げた。

 

「使って良いの?」

「は、はい……」

「でも……玲くんのは?」

 

 あ、あー……そうなるか。まぁ、そうなるよね。なんて言おうか……いや、とりあえずテキトーな嘘をつくしかない。相合傘なんて恥ずかしくて死んじゃうし。

 

「ぼ、僕のはあるから大丈夫ですっ。学校に置いといた分あるの忘れて持って来ちゃったんで」

「そっか……分かった。ありがとね。今度、何か奢るから」

「い、いえっ! そんなお気遣いなく!」

「良いから。じゃーね★」

 

 そう言って美嘉先輩は昇降口から出て行った。

 ……さて、どうしようかな。傘が二本なんかあるわけがない。割と結構雨強いし、しばらくは学校で雨宿りしないといけないな……。

 止まないようなら、雷雨決行するしか……あれ? ちょっと待って。今日確か……16時半からpso2で大和来るんじゃ……。

 

「ヤバい……!」

 

 早く帰らなきゃ……! で、でも3○Sが濡れてしまう……。

 仕方ない、奥義を出すしかないようだ……! 鞄の中から教科書を取り出した。その真ん中のページに3○Sを挟み、さらにその教科書を別の教科書やノートで挟む……必殺『天の衣』。丸パクリじゃん。今はまるで違うが。

 そんなわけで、いざ雨の中を走った。

 

 ×××

 

 自宅に到着した時には、僕の身体は雑巾のようになってしまっていたが、それに構わずタオルで髪と身体を服越しに軽く拭きながら自分の部屋に入った。

 ……ふぅ、ギリギリ大和には間に合ったかな……。速攻でログインしてコントローラを握った。

 クラスはブレイバー。なんかヒーローは使ってても楽しくないから嫌だ。弓や刀を使い分けて、幻想種どもを一掃し始めた。

 しかし、やはり大和のイベントは楽しい。最後にロボットに乗るのがまた良いよね。終盤に剥き出しになる弱点にゼロ距離レーザーぶっ放すのとかもう最高。

 そんな事を思いながら大和を済ませ、一息ついた。同じクエストを受けていた人たちがあまり上手くなくて時間がかかってしまったが、もう一回は挑めそうなのでもう一回。あの「sell sulit」って人は上手いな。

 30分でこのクエストは終わってしまうため、三回戦目は無理。

 

「ふぅ……」

 

 あー、疲れた。さて、アイテムの鑑定しないと。まぁ、13武器は無さそうだからやらなくても良いけど。

 とりあえずやることは終わったのでログアウトした。さて、シャワーでも浴びようかな。

 そう思って椅子から立ち上がると、再びスマホが震えた。

 

 加蓮『今暇? モンハンやろーぜ☆』

 

 あー……この人は暇なんだな……。どうしよう、アイドルだし今限定で暇なのかもしれないな……。なら付き合うか。

 

 宮崎玲『良いですよ』

 

 すると、電話がかかって来た。応答し、スピーカーのアイコンを押した。

 

「も、もしもし」

『あ、もしもし? 宮崎くん? ごめんね急に』

「い、いえ……暇だったので……」

『じゃ、やろっか』

「は、はい……。あの、何か手伝って欲しいことが……?」

 

 まぁ、それくらい構わないけど。

 

『あー違う違う。そういうんじゃないの。ただ、たまには宮崎くんの本気のモンハン見たいなーと思って』

「僕の、ですか……?」

『そうそう。めっちゃ強いんでしょ?』

「そ、そんな言うほどでは……!」

『とにかく、本気でやろうよ。バルファルクで良い?』

「は、はい……」

 

 なんだ、バルファルクか……。すぐに終わっちゃうな。

 ちなみに、美嘉先輩も北条加蓮さんも神谷奈緒さんもみんなソロでバルファルクを倒せるようになった。山手線の渋谷に聞かせてやりたい。

 

「じゃ、やりましょうか」

『うん。じゃ、受注するね』

「は、はい。お願いし……へ、へっくち!」

『……どうしたの?』

「す、すみません……」

 

 なんだろ、虫の知らせか? ま、僕の嫌な予感は大抵杞憂で終わるし、気にしなくて良いか。……人間関係においては杞憂じゃないんだろうけど。

 そう言いながら、バルファルクを5分くらいで倒して北条さんにドン引きされた。

 

 ×××

 

 翌朝、僕はベッドから上がることはなかった。

 何故なら、風邪を引いたからだ。

 

「……まじかよ」

 

 ……たまには悪い予感も当たるものなんだな。

 

 


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