あー、頭痛い喉も痛い節々も痛い怠い。なんで体調崩したんだろう……。全然、理由がわからない……。
まぁ、学校に行かなくて良い、という意味では利点はあるが、最近は美嘉先輩と会えるだけでも楽しいし、それがないと思うと少し寂しい。
ホント、友達がいない奴が友達っぽい人を作ってしまうと寂しがりやになるからダメな気がする。……ま、作っちゃったものは仕方ないけどね。
とりあえず学校に連絡し、家用のメガネを装備すると、食欲が無いながらもうどんを作って食べた。
あとは大人しくしているためにゲームを始めた。やってるゲームはpso2。しばらくカチカチやってると、スマホが震えた。
神谷奈緒『よっす』
神谷奈緒『今暇か? あたし、仕事で外にいるんだけど、スケジュールにミスがあって暇になっちゃってさー』
なるほど、そういうのもあるのか。
神谷奈緒『あ、暇な訳ないか。学校だもんな。悪い』
宮崎玲『暇ですよ』
神谷奈緒『よし、やるか!』
よし、やろうか。通話がかかって来て応答し、スピーカーボタンを押した。
「……もしもし」
『もしもし、宮崎か?』
「は、はい……」
誰に電話かけたんだよ、とは言わないでおいた。
『なんで暇なんだ? いや、電話かけてから言うことじゃないんだけどさ』
「あー……実は今日は学校休みで……」
風邪引いてる、とは言えなかった。だって心配かけちゃうし。
『じゃあ、美嘉さんも休みか? 誘う?』
「えっ? い、いや、えっと……」
やばっ、そうなるか……。それはまずいな……。嘘がバレる。
どう言おうか悩んでると、呼吸が苦しくなるのを感じた。
「っ、けほっ、けほっ!」
しまった、と思った頃には遅かった。咳は口から漏れ、思いっきり電話の向こう側に伝わってしまっただろう。
『もしかして……風邪引いてるのか?』
……ほらバレた。
「は、はい……」
『お前なぁ、風邪ひいてるときにまでゲームやるかよ。しっかり寝てろよ』
「で、でも……せっかく自由にゲームできるんですし……やらないと勿体無」
『アホかお前は! 身を削ってまでゲームやるバカがいるか!』
「ひうっ!」
あ、怒られた……。怖くて変な悲鳴出ちゃったよ……。
『とにかくゆっくり寝てること! 良いな?』
「わ、分かりました……」
『まったく……じゃあな』
……そこで電話は切れてしまった。はぁ……仕方ない。まだゲームしてることバレたらもっと怒られそうだし、大人しく布団の中に潜ることにした。
「はぁ……」
風邪かぁ……。どうしよう、暇過ぎる。ゲーム出来ないと僕何してれば良いのか分からないし。いや、何もしちゃいけないんだろうけど。
仕方ない、寝よう。そう決めて、メガネを外して布団の中で目を閉じた。
×××
一時間後くらいだろうか。目が覚めた。おトイレに行きたいな。
家用のメガネを掛けて、布団から出て、のそのそと歩きながら廊下に出てトイレで用を足したあと、そのままの足取りで部屋に戻り、パソコンの画面をつけた。
pso2の画面がつきっぱなしだった。ログアウトするの忘れたみたいだ。
何も考えずにカチカチ動かしてると、なんか頭がズキズキ痛いなーと思いながらも今日のデイリーを済ませてる時だ。
「……あ、僕風邪引いてるんだ」
だから頭痛いんだ、と今更になって思い出した。
……あれ? そういえば、さっき神谷奈緒さんに「風邪ひいてるときにゲームするなっ!」って怒られたっけ……。
ヤバい、また怒られる……! 慌ててログアウトした。しかし、こうなると本当に暇になっちゃうな。ゲーム禁止は思いの外痛い。
ゲーマーの弱点は、ゲームを封じられると暇になることだ。他において無趣味さが目立つ。しかも、ゲームをしていない時間が無駄なことしてる気がしてしまうので、眠れないのがまたデスループにハマっている。
「……寝ないと怒られちゃう」
寝た方が楽になれる気もするし。今の所、吐き気以外の体調の悪さを象徴する症状が全てフル稼働している。寝てしまえば少しは楽になるというものだ。
そんな事を思ってると、スマホが震えた。北条さんからだった。
加蓮『よーっす』
加蓮『起きてる?』
加蓮『風邪ひいたんだって?www』
……人が体調崩してるってのに草生やしちゃダメでしょ。相変わらずこの人は何を考えてるのかわからない。
みやざきれい『引きました』
みやざきれい『なんで知ってるんですか?』
加蓮『奈緒に聞いた』
あの人も口軽いんだな……。まぁ、別に僕は気にしないけど。
加蓮『お見舞いに行こうか?』
っ、こ、この人はいきなり何を……⁉︎
みやざきれい『ちやほんな、結構ぇす!』
みやざきれい『いやそんな決行です!』
みなざきれい『結構です!』
そんなことされたら死んじゃう。主に緊張で熱が上がって。
加蓮『動揺し過ぎだから笑』
笑、じゃないわ。動揺で死ぬとこだったから。
加蓮『とにかく、お大事にね』
加蓮『ゲームやっちゃダメだからね』
それで北条さんからの連絡は途絶えた。
そんなに僕ってゲームばっかやってるイメージあるのかな……。いや、実際やってるんだけどさ。
まぁ、言われたばかりだし、今度こそログアウトして眠る事にした。
×××
また目が覚めた。スマホを見ると、色んな人からL○NEが来ていた。いろんな人と言っても、アイドルの皆さんだけだが。いや、アイドルの皆さんからL○NEが来るってかなりすごいけど。
しかし、みんな最後に「ゲームはやるな」って言うんだよね……。少しはゲーム自重した方が良いのかな……。
ま、まぁ今日はpso2のデイリーとグラブルのデイリーと艦これのデイリーと種火周回とドラゴンボール○ジェンズのデイリーとその他諸々のデイリーしかやってない。
……あれ? そういえば、美嘉先輩からはL○NE来てないなぁ。まぁ、別に考えてみれば美嘉先輩は学校だしアイドルもやってるから来てなくて当然だけど。
……あれ、でもなんだろうこれ。なんか寂しい……い、いやいや、僕はアホか。思い上がるな。友達だと思ってた人が友達じゃないなんてパターンなんてよくあることだよね。
……でも、美嘉先輩もそうだと思うと少し泣きそうにな。
「あ、起きた?」
「わっ⁉︎」
横からどうしても聴きたかった声が聞こえて、思わず肩を震わせてしまった。
恐る恐る横を見ると、美嘉先輩が少し不機嫌そうな顔で僕を見ていた。
「あ、み、美嘉先輩……」
「昨日、やっぱり傘持ってなかったんだ」
「うっ……」
……あ、そ、そういえばそんな嘘ついたっけ……。
気まずげに目を逸らすと「まったくもう」とボヤきながら隣の椅子に腰を下ろした。
「ホントにあんたは……百歩譲って傘をあたしに貸すは良いよ。助かったし。ありがと」
お礼を言われた……? もしかして、あんまり怒ってな……!
「で、なんで雨宿りして帰らなかったの?」
そんなことはなかった。
言えない、オンゲのイベントのため大慌てで帰ってたなんて言えない。また怒られる。
「え、えっと……」
「嘘ついたらもっと怒るからね」
……それもうほとんどバレてるじゃん……。ていうか、怒ること前提なんだ……。
「……その、オンラインゲームの、時限イベントに間に合わせようと思って……」
「で?」
「……走って帰って、ゲームやって……その後に北条さんとモンハンやって……」
「……で?」
「そしたら、翌日になって……風邪を……」
「………ふーん」
相槌の間が徐々に広くなってるのが怖い。美嘉先輩の表情が徐々に金剛力士像の如く般若と化した顔に変わって行く。
「あんたは! ゲームが出来れば自分の身体がどうなっても良いの⁉︎ 本当にゲームをやるために生まれて来たのか本当に!」
「ひぃっ⁉︎」
「普通、雨に濡れたらさっさとシャワー浴びて暖かくしてないと風邪引くに決まってるでしょ⁉︎」
「ご、ごめんなさい……」
「まったく、バカなんだから……」
……び、病人に説教しなくても良いんじゃないですかね……。なんて思ったら顔に出そうだからやめておこう。
「すみません……」
「いいよ、元はと言えばあたしが傘忘れた所為だし」
いや、元はと言えばと言うけど、その元があってもその人がどう行動するかによって結果は変わるから、悪いのは僕だと思う。
しかし、怒らせてしまったなぁ、また……。最近、美嘉先輩が僕に厳しくなった気がするし。もしかして、何か嫌われるようなことしちゃったのかな……。
「で、ご飯は食べたの?」
「へっ?」
「へっ? じゃなくて。外から栄養取らないと治るもんも治らないでしょ」
「あ、い、一応朝食は……」
直後「ぐうっ」と情けない音が僕の腹部から鳴り響いた。
……は、恥ずかしい……。なんか、すごい惨めな気がする……。
一人顔を赤くして俯いてると、小さくため息をついて美嘉先輩は立ち上がった。
「じゃ、何か作って来てあげる」
「えっ……?」
「卵粥とかで良い?」
「す、すみません……」
「はいはい、じゃあ待ってて」
なんだか、申し訳ないなぁ。わざわざ僕なんかのために……。
美嘉先輩が部屋を出て行き、僕は一人でポツンとベッドの上で身体を起こした。
……あれ、そういえばなんだか頭痛が引いたな。体調が良くなったとは言わないけど、頭痛いのだけ何故か飛んだ。
もしかして、今日一日人と会えてなかったから、かな……。なんか少しホッとしてる自分がいる。
「お待たせ」
卵粥を作った美嘉先輩が部屋に入って来た。お茶碗を受け取ろうとした時、ふいっと手元からお茶碗が消えた。
「へっ……?」
「約束して」
「えっ?」
「ゲームのために身を削るのを止めるの。良い?」
「え、で、でも……」
「でもも何もないから。寝る間も惜しんでとか、授業中にやるとか、そういうのは良いよ。でも風邪引いてまでやるとか、指を怪我してないから処置しないとか、そういうのはダメだから」
そ、それが普通、なのかな……。美嘉先輩がそう言うなら僕もやめるしかないけど……。
「わ、分かりました……」
「うん、よろしい。じゃあ食べて良いよ」
卵粥をいただいた。スプーンで一口すくって口に運ぶ。あ、美味しい。
「どう?」
「お、美味しいです。とても……」
「良かった」
卵粥を食べてホッと一息つきながら、そういえば、とふと思った。
「……あの、先輩」
「何?」
「なんで、その……ここにいるんですか?」
「お見舞いに決まってるじゃん」
「いえ、そうではなく……こう、どうやってうちに……」
僕が風邪引いてるのを知ってるのは、多分神谷さんからだと思うしそこは分からなくもない。
家の鍵は閉まってたはずだし、そもそも僕の家すら知らないはずだ。
「ん、玲くんの担任の先生に聞いた」
「……へっ?」
「本当は個人情報だから教えられないって感じだったんだけど、お見舞いに行ってあげるって言ったら『ついにあいつにも友達が……』って男泣きされちゃって」
せ、先生……。なんで泣くの……。なんか恥ずかしいんだけど……。
「で、家には立ち寄った時にちょうど玲くんのお母さんと遭遇したから」
そういえば、うちの両親は今日はいつもより早く上がりなんだっけ。結婚記念日で早めに上がって二人で飲みに行くとかなんとか。
「そ、そうですか……」
「うん。『息子をどうかよろしくお願いします』って頭下げられちゃった」
「え、な、何その挨拶……」
「あとサインお願いしますって」
相変わらずだな、うちの両親。有名人にはめっぽう弱いんだわ。
「あ、これ忘れてた。お見舞いのポカリとリンゴ」
「えっ? す、すみません……」
「お見舞いに手ぶらでは来れないから」
そういうもんなのかな……。なんだか、気を遣わせてしまったみたいで申し訳ない。
まぁ、でもなんか安心したな。美嘉先輩が来てくれて。色んな人に連絡をもらったけど、美嘉先輩に来てもらえたのが一番嬉しかった。
序盤、怒られたから歓喜が薄かったが、徐々に自覚して来て、照れ隠しをするように卵粥を食べ終えた。
「ご、こちそうさまでした……」
「うん。お粗末様」
僕の手元からお椀を取ると「じゃ」と言って立ち上がってカバンを背負った。
「これ洗ってからあたし帰るね。ちゃんとゆっくり寝てるように」
「えっ……?」
「じゃ、また……」
部屋を出て行こうとした美嘉先輩の袖を反射的に掴んでしまった。
掴んだ直後、美嘉先輩は怪訝な表情で僕を見下ろし、ようやく自分で何をしてるのかを理解してしまった。
「何?」
「えっ? あっ……」
ホントだよ、何をやってるんだ僕は。いや、前と違ってだいぶ今は何がしたいのか理解してる。してるけど……なんというか、かなり恥ずかしいことしようとしてるよね、これ……。
でも、言うしかない。言わないとこのあとはまた一人になってしまう。
「……も、もう少し、いてくれません、か……?」
恥ずかしさで涙目になりながらもそう懇願すると、美嘉先輩は頬を若干赤くしながらもジト目で僕を見た。
で、呆れたようにため息をつきながら椅子に座り直した。
「……ずるいなぁ、この子」
「へっ?」
「良いよ。もう少しね。だから安心して」
……ずるいなぁ、この人。「安心して」の一言でほんとに安心させちゃうんだもん。
許可を得られたことでホッとしながら、再び目を閉じた。
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モンハン上手いのが上。同じ列は同格
宮崎
鷹宮、水原
鷺沢、神谷、北条、城ヶ崎、古川
その他、毒されたアイドル達
渋谷
他の主人公はやってません。多分こんな感じです。