城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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世界最強の萌えはギャップ。

 日曜日。今日は美嘉先輩を探していたとかではなく、一人で池袋まで来ていた。

 何となく人に見られてる気がして、オドオドしながらもL○BIに入店する。ここの……確か最上階だったかな。

 エレベーターの横のフロアの説明を見ると、調べた通り最上階は「ガンダム」となっていた。

 

「よ、よしっ……!」

 

 気合いを入れてエレベーターに足を踏み入れた。こうして直接、物を買いに来るのは久々だ。や、コンビニとかではよく買うけど、そうじゃなくて、こういうガッツリしたお店で買うの。

 ことの発端は、ニコ動をたまたまカチカチやってた時だ。ガンダムビルドファイターズが目に入った。ガンプラを特殊な粒子によって操縦できるようになる技術を用いてガンプラバトルと呼ばれる大会に参加する物語だ。

 本編は見たことなかったが、それよりも気になったのは動画の方。ガンプラ二体を様々なポーズごとにコマ撮りしてアニメーションを作っていたのが、僕のゲーマー心に火をつけた。

 ガンプラって楽しそう……。改造やそれっぽい雰囲気を出すジオラマとか。

 しかし、もうすぐモンハン新作が発売される。今、ガンプラを買えば買えなくなる可能性がある。

 で、とりあえず模型屋よりも電気屋の方が安く買えると聞いたのでこうして視察に来たわけだ。

 ガンダムのフロアに到着すると、らしくなく「わぁ」と感嘆の息を漏らした。

 すごいな……。ガンプラってこんなにバリエーションあるのか……。今までガンダムはアニメを見てなかったからゲームは敬遠してたけど、ちょっとやってみようかな……。

 そんなことを思ってると、エレベーターの前にジオラマがあるのが見えた。洞窟や川、小さな山を舞台に、僕が知ってる範囲でガンダム、ザク、ドムなどが戦っている。多分、ガンダムファンから言わせたら細かい違いがあるんだろうけど、全部同じに見えるので黙ってよう。

 

「わー! 卯月ちゃん、すごいよ!」

「り、莉嘉ちゃん! あんまり走らないで……!」

「おおー! すごいですね、これ全部プラモデルなんですかっ?」

「ゆ、悠貴ちゃんも落ち着いて……!」

 

 ……聞き覚えのある声が三つ。特に一人は知り合いだった。被って来た帽子を目深に被り、少しでも正体をバレないようにしながら、ジオラマをよく見てるふりをしつつしゃがんで隠れた。これなら怪しまれない。

 しかし、この作戦は別の意味で失敗だった。子供はこういう展示品が大好きだ。

 

「わ! 悠貴ちゃん見て! 戦ってる!」

「ホントだっ! カッコ良いですねっ!」

 

 し、しまったあああああ! 僕のバカ、ほんとバカ……!

 

「ふ、二人とも待って下さい。私との約束忘れてませんよね?」

 

 おそらく、島村卯月さんがそう言うと二人は黙って足を止める。

 

「私の言うことを聞く、それから私と皐月くんの関係を広めない、その約束で連れて来てあげたんですから、それを忘れないでください」

「「はーい」」

 

 なるほど、そういうことか。てかそれ一つ目の要求で全部済むじゃん。

 とにかく、バレないように移動しないと……大丈夫、帽子装備してるし、家用のメガネも掛けてるんだ。バレないバレない……。

 さりげなく立ち上がって、プラモを見に行こうとした時だ。

 

「あー! 玲くんだー!」

 

 全ての努力を無にする即死攻撃が突き刺さった。莉嘉さんも島村卯月さんも乙倉悠貴さんもみんなこっちに振り向いた。

 大丈夫、ガッツがある。まだとぼければなんとかなる……!

 

「ひ、人違いです……」

「あれー? メガネなんてかけてたっけ玲くん?」

「い、いえ、かけてませ……って、違くてだから……」

「でも似合うね、帽子もメガネも」

「……ありがとうございます」

 

 ダメだ、僕にとぼけるのは無理だ。

 察した島村卯月さんが声をかけて来てしまった。

 

「あの、莉嘉ちゃんのお友達ですか?」

「……お、お友達というか……」

「私、島村卯月って言います。こちらは乙倉悠貴ちゃんです」

「は、初めましてっ」

「っ……ど、どうも……」

 

 あ、あわわわっ……ど、どうしよう……。コミュ力モンスターが三人も……!

 このままじゃ何も話せないどころか死んでしまう……!

 

「あれ? 玲くん、なんか顔色悪くない?」

 

 莉嘉さんに指摘され、尚更、顔から血が引いて行くのを感じた。これはホントにまずいかも……!

 

「ごっ、ごめんなさい……!」

 

 思わず逃げ出してしまった。エスカレーターに向かって走り出すと、自分の足を自分で蹴って後ろにひっくり返った。

 

「……器用な転び方するなぁ」

 

 莉嘉さんから素直な感想が漏れた。そういうのはもう少し隠してくださいね……恥ずかしいからほんとに……。

 目から落ちたメガネを外してポケットにしまった時だ。エスカレーターから人が上がって来た。

 

「あれ? 何してんだ宮崎」

「あ、宮崎くんだ。やっほー」

 

 神谷奈緒さんと北条加蓮さんだった。天使に見えた。

 

「か、神谷さぁん……」

「うおっ、どうした⁉︎ ……あー、そういうこと」

 

 メンツを見ただけで全てを理解した神谷さんは、同情したように僕の肩に手を乗せ、北条さんは苦笑いを浮かべた。

 

「あー……卯月、この子コミュニケーションがアレな子だから」

「……アレな子?」

 

 あ、分からないんだ……。僕よりもこの子の方がコミュ障では? それはないね。

 

「で、何してんの? 珍しい組み合わせで」

 

 へぇ、この組み合わせ珍しいんだ。もちろん、僕を除いた三人のことね。

 

「あ、えーっと……私達はプラモを買いに……」

 

 というか、今更だけどこの元気な女の子三人組がプラモって……意外を通り越して何らかの事件性しか感じないんだが。

 

「宮崎もか?」

「は、はい……。ガンプラに、興味が出まして……」

「ふーん……」

「でも、今日は帰ろうかと……」

「なんで」

「あー……体調が優れなくて……」

 

 嘘は言ってない。このべっぴんさん五人と一緒にガンプラを選ぶ勇気なんか僕どころか世界中の男にもないはずだ。

 

「せめてプラモだけでも買って行けよー」

「いや、いいです……」

 

 神谷奈緒さんに言われたが、とてもそんな気分にはなれなかった。

 ……でも別の店で買おう。ガンプラを早く作りたい。

 

「えー、待ってよ玲くーん」

「えっ」

 

 しかし、ここで空気を読まないのが子供だ。何食わぬ顔で莉嘉さんは僕の腕を引いた。

 

「あたし、玲くんと買い物したいなー」

 

 うおお……ど、どうしよう……。

 涙目で神谷さんと北条さんを見たが、そっと目をそらした。どうやら、この子の自由っぷりは常識人では対処出来ないようだ。

 

「ほら、お姉ちゃんとの話も聞きたいし、良いでしょ?」

「あー……わ、分かりました……」

 

 断れない、ほんと情けない。

 

 ×××

 

「うわ、それは大変だったね〜」

 

 プラモを作ってる僕の後ろで美嘉先輩が僕の部屋のベッドで足をパタパタさせながらポテチを食べた。

 うん、ていうか、昨日の事を愚痴ってから言うことじゃないんだけどさ……。

 

「あの……それで、なんで僕の部屋に……」

「んー、だってほら、今日は暇じゃん?」

「いや知らないですけど……」

「だからモンハンやろうと思ったの。スタバとかファミレスとかだとお金掛かるし、ここなら無料っしょ?」

「で、でも……その、僕達は異性、ですよね……?」

「大丈夫、あたし玲くんを男として見てないから。むしろ女の子として見てるから」

「どういう事⁉︎」

 

 そ、それは無いでしょ! いくら僕でも性欲はあるし少しはムラムラしますけど⁉︎

 

「ていうか、前に一回ここ来てるし別に今更気にしなくても良くない?」

「い、いや……前は風邪引いてる時でしたから……」

 

 いや、もう何も言うまい。何を言っても口ではこの人に勝てない。この人じゃなくても口では誰にも勝てない。

 でも、モンハンやりに来たならガンプラ作りは中断しなきゃ。

 

「……あ、じゃあ、モンハンやりますか?」

「ううん、プラモ作ってるところ見るの面白いからのんびりしてるよ」

「え、そ、そうですか?」

「うん。……それに、モンハンやってると素材落ちなくて徐々に殺伐としてくるから、たまには平和でいたいっていうか……」

 

 あー、分かる。僕に欲しい素材がないのがまた殺伐とするのに拍車をかけてるんだよな……。物欲センサー皆無の状態だとレア素材がボロカスに落ちるんだよね。気まずいこと気まずいこと。

 

「で、それなんてガンダムなの?」

「え? えーっと……Zガンダムですね」

 

 箱を見ながら答えると「えっ?」と美嘉先輩は声を漏らした。

 

「知らないで買ったの?」

「は、はい……。興味が出た、という程度ですので……」

 

 島村卯月さんに聞いた話だと、まずは素組から始めた方が良いそうだ。RGと呼ばれるシリーズは素組でもクオリティ出るしオススメらしかったのだが、高いのでやめた。

 

「なんでこれにしたの?」

「これ、調べたところ武装が僕好みなんです。ビームライフル、ビームサーベル、グレネード、ハイ・メガ・ランチャーな頭部バルカン、近距離中距離遠距離どれでも問題なく対応できる上に、可変機能がついて速度も出せし、何より顔が他のガンダムと違って独特で……」

 

 ……あ、喋り過ぎた。そこまで言って「しまった」と口に手を当ててしまった。

 

「す、すみません……」

「いいって、好きなもの語ってる玲くん可愛かったし」

「か、可愛いって何ですか!」

「落ち着いて」

 

 ……最近、美嘉先輩がそういうストレートな感想を隠さなくなって来て困る。いや、少し喜んじゃってる僕も大概だけど。

 

「ふーん……ガンダム、ねぇ……」

 

 なんだろ、思うところがあるのかな。

 

「や、最近うちの事務所にガンダムとかアニメ好きな人増えててさー。あたしはあんまキョーミなかったんだけど……玲くんが好きなら見てみようかなー」

「いや僕もまだ好きというわけではありませんけど……」

 

 まだ本編も見てない。しかも初期から見ないと分からないって聞くしなぁ……。レンタルビデオ屋で借りるしかないし、中々金銭面的に勇気が出ない。

 

「ふーん、まぁ玲くんが見ないなら良いや」

 

 そう言いながら僕のベッドでゴロゴロする美嘉先輩。すると「あっ」と声を漏らした。

 

「何これ、メガネ?」

「へっ?」

「あ、もしかしてこれ? 莉嘉が言ってたメガネって」

「そ、そうですけど……」

「へぇ〜、わざわざ変装してねぇ?」

「うっ……す、すみません……」

「いやいや、せめてなんかないから。ただ、ちょーっとかけて欲しいなって」

 

 まぁ、かけるくらい良いけど……と、思ったけど、手が動かない。なんか人前でメガネかけるのが少し恥ずかしいんだけど……。

 

「どうしたの?」

「い、いえっ、今かけますねっ!」

 

 べ、別にメガネをかけるだけだから恥ずかしがることなんてない。さっさとかけよう。

 メガネをかけて美嘉先輩の方に顔を向けた。

 

「かけましたよ」

「おお、どんな感……」

 

 嬉々としてこっちを見た美嘉先輩は固まった。何を思ったのか、そのまま固まって徐々に頬を赤く染めていった。

 

「……先輩?」

「……禁止」

「は?」

「……メガネ、禁止」

「は、はいっ⁉︎」

「ギャップとはいえ、メガネかけたらイケメンとか……狡いから……」

「えっ? えっ? へっ?」

「早く外す!」

「っ、は、はいっ……!」

 

 怒られたので慌ててメガネを外した。

 そのまま、しばらく一人でガンプラを作ったが、美嘉先輩はメガネを外してからヤケに可愛がって来て心臓がもたなかった。

 

 

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