城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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ゲーマーの体力はスペランカー並み。

 学校の昼休み。あれから屋上でお昼を食べながらモンハンをやるのが日課になって来た僕と美嘉先輩は、今日も屋上で集合している。屋上なら、13時までわざわざ待つ必要はないからな。

 先に到着したのは僕の方なので、一人でカチカチとモンハンをやってると、屋上の扉が開く音がした。

 

「お待たせー」

「あっ、せ、先輩……!」

「あー、いーっていーって。わざわざ立ってお出迎えしなくても」

「っ、す、すみません……」

 

 最近、パソコンで調べた感じだと、人と仲良くなるには何より礼儀らしい。

 なので、片っ端から礼儀正しい振る舞いを実行していた。

 相手に自分側に来ていただいたら「つまらないものですが」と何か品物を出すのが礼儀らしい。

 なので、僕の横に置いておいた、購買で買った飲み物を差し出した。

 

「これっ、つまらないものですが!」

「いやそんな気を使わないで良いって……」

「あ、あとこちらもつまらないものですがっ!」

「お菓子まで用意しなくて良いってば!」

「どうぞこちらにお座りください!」

「座布団⁉︎ わざわざ家から持って来たの⁉︎ てか待って、ちょっと待って!」

 

 待て、と言われてしまい、とりあえず黙ることにした。なんだろ……何か変、だったのかな……。

 

「あの、聞くけどなんでそんな唐突にそのような行動に出たの?」

「ぐ、ググっただけですが……その、コミュニケーションには礼儀が必要だと……」

「うん、もう努力は認めるけど空回りしてるから何もしないで」

「ええっ⁉︎」

 

 ひ、ひどい⁉︎ てか、空回りしてるの僕⁉︎

 かなりショックを受けてる僕の頭に美嘉先輩は手を置いた。

 

「もちろん、努力するのは間違ってないんだけどね……。毎回、明後日の方向というか、まぁそんな勘違いも可愛いんだけど」

「で、ですからっ、可愛いと言うのは、その……」

「とにかく、あたしと一緒にいれば少なくとも治せると思うから、だから一緒に頑張ろう?」

「は、はい……」

 

 はぁ……まぁ、姿勢を褒められただけでも嬉しく思わないとな。

 今日のお弁当担当は美嘉先輩なので、ありがたくお昼を頂戴して広げた。

 せっかく持ってきたので座布団の上に座り、食事開始。美嘉先輩は相変わらず料理が上手い。テレビでは自身を「カリスマギャル」と自称しているが、どう見ても「シュウトメギャル」だ。

 こんな料理を二日に一回食べられる僕は幸せ者だが、ファンにバレたら殺されると思うと気が気じゃなかった。

 

「どう? 美味いっしょ?」

「は、はい……」

「特にこの竜田揚げ、自信作だからマジ」

「そ、そうですね。とても美味しいです……」

「ありがと」

 

 竜田揚げと唐揚げの違いがわからない僕には素人な反応しかできないが。

 二人でご飯を食べてると、美嘉先輩が「あっ」と思い出したように言った。

 

「そういえばさ、玲くん今日暇?」

「今日ですか? 暇ですけど……」

「莉嘉がさ、ホラー映画観たいんだって。事務所の子に借りたDVDなんだけど、もし良かったら一緒に見ない?」

「ぼ、僕もですか……?」

「うん。苦手なら尚更」

「尚更⁉︎」

 

 うーん……あまり映画見ないから微妙だけど……。でも、美嘉先輩からせっかくお誘いをいただいたんだ。見ないわけにはいかない。

 

「い、行けますよ……?」

「そっか。良かった、ほんとに。じゃ、今日の放課後ね」

「は、はい……!」

 

 やったね、楽しみが増えた。少しワクワクしながら、食事を済ませてゲームを始めた。

 

 ×××

 

 時早くして放課後。僕と美嘉先輩は合流するなり、城ヶ崎家に向かった。電車に乗って降りて改札出て歩いてると、後ろからボグッと僕の腰に何かが突撃してきた。

 

「ひゃうっ⁉︎」

「玲くーーーーーん‼︎」

 

 な、何⁉︎ 痛い! 重い! てか腰死ぬ!

 支え切れずに盛大に前に倒れ、顎をコンクリートに強打した。い、痛い……死んじゃう……。

 

「へっへーん、玲くん倒したり!」

「じゃない!」

「痛い⁉︎」

 

 押し倒された僕の背中の上で喧しい声が美嘉先輩の声に怒られ、悲鳴を上げたのが聞こえた。

 後ろを振り返ると莉嘉さんが美嘉先輩に怒られていた。

 

「ほら、玲くんに謝って」

「やだ。それより早く帰ってみようよ、ホラー映画!」

「あっ! ……もう」

 

 さっさと走って行ってしまう莉嘉さんを眺めながら、僕は腰をさすりながら立ち上がろうとした。

 

「大丈夫? ごめんね?」

「い、いえ……これくらい……あっ」

「へっ?」

 

 ……あれ、立てない……。というか、腰が痛過ぎて力が入らないというか……ど、どうしよう……。

 

「……どうしたの?」

「たっ……立てない、です……」

「へっ?」

「こ、腰が、痛過ぎて……」

 

 すみません、肉体攻撃力防御力共に最低レベルなものでして……。

 情けなく這いつくばってる僕を見て、とても仕方なさそうに美嘉先輩はため息をつくと、今度は何か思いついたのか、ニヤリと微笑んだ。

 

「じゃ、おんぶしてあげる」

「……へっ?」

「立てないんでしょ? ほら」

「い、いえ! あ、あのっ……僕重いので……!」

「大丈夫、こう見えて昔から莉嘉のことおんぶしてたんだから。今ではアイドルで鍛えたりしてるんだし」

「で、でも……そんな子供みたいな……!」

「何? 抱っこが良い?」

「おんぶでお願いします!」

 

 なんにしても、動けない以上、僕に行動の選択権はない。美嘉先輩の背中にもたれかかり、おんぶしてもらってしまった。

 うう……男のくせに情けない……。というか、莉嘉さんはなんで唐突にこんな仕打ちを……。

 

「全然軽いじゃん。ちゃんと毎日食べてるの?」

 

 それは男の子の方のセリフだと思うんですけどね……。というか、いつも一緒にお弁当食べてるんだし、ちゃんと食べてるのは知ってるでしょ。

 最近、オンゲのイベントが忙しくて晩ご飯はカ○リーメイトになる事もあるけど、そんなこと言えば怒られてしまうので口が裂けても……なんて思ってると、僕が転んでた場所を見て、美嘉先輩が声を漏らした。僕のポケットから落ちたカ○リーメイトの箱が落ちていた。

 直後、ギギギッと背中の僕に顔を向けて、普段のキャピキャピした笑顔とは真逆のジト目で睨まれてしまった。

 

「……まさか、何かのゲームのイベントが忙しくてこれで済ませてる、なんて事ないよね?」

「っ、な、ない……です……」

「……」

「……た、たまに、あります……」

 

 拷問に鈍器も刃物も要らないと思った次第。

 

「……うち帰ったらお説教だから」

「は、はい……」

 

 そんな話をしながら再び城ヶ崎家に歩き始めた。周りに人がいないから注目は避けているものの、やはり制服を着た男が同じ制服を着た女の子に背負われて歩いてるのは恥ずかしい。

 そんな時だ。前から莉嘉さんが戻ってきた。

 

「お姉ちゃん早く……って、なんでおんぶしてるの⁉︎」

「あんたが突撃したからでしょうが」

「狡い! あたしも!」

「流石に無理だから!」

 

 そりゃ無理だろうね……。二人おんぶできる人なんているの?

 しかし、莉嘉さんは諦めない。何故か僕を恨みがましそうな目で睨みながらパワフルに駄々をこねた。

 ……仕方ないな。さっきよりマシになったし、歩けないことはなさそうだ。

 

「あの、僕降りますよ」

「歩けないんでしょ? いいよ、気にしなくて」

「いえ、さっきよりは楽になったので……」

「ダメ、あたしがおんぶする」

「有無を言わさない⁉︎」

 

 なんかおんぶしたがってる⁉︎

 しかし、そんなことを言うと莉嘉さんがぷくっと頬を膨らますのはわかりきった事だった。

 

「ずーるーいー!」

「ほ、ほら……莉嘉さんもこう言ってますし……このままでは、ご近所に迷惑を……」

「……もう、仕方ないなぁ」

 

 小さくため息をつくと、僕を下ろしてくれたので、何とか腰をさすりながら美嘉先輩を指した。

 

「莉嘉さん、どうぞ」

「ありがと、お姉ちゃん!」

 

 あれ? そこは僕にお礼を言うところじゃ……いや、別に気にしてないけど。

 

「まったく、なんであたしが莉嘉をおんぶしなきゃなんないの……」

 

 小声で毒づきながらも、おんぶしてあげてる美嘉先輩もやはり優しい方なんだなって切に思った。

 何はともあれ、これでようやく城ヶ崎家に歩みを進められる。僕の腰の痛みの所為でかなりゆっくりになってしまったが、何とか家に到着して、家に上がった。

 お邪魔します、と挨拶しながら手洗いうがいを済ませて、リビングへ。城ヶ崎姉妹は僕に「ソファーで待ってて」と言うと自室に戻って行った。

 しばらく待機してると、ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきた。階段を降りてくる音だ。

 

「お待たせー!」

 

 元気に挨拶したのは莉嘉さんだった。普段着に着替えていた。

 ああ、制服のままくつろぐとシワになっちゃうから着替えてきたわけか。てことは、美嘉先輩もかな?

 莉嘉さんは元気良く僕の隣に座り、机の上に置いてある紙袋の中からDVDを出した。

 鼻歌を歌いながら、ソファーから降りてテレビの下のプレ4をいじった。てか、この家プレ4あるんだ……。ワールド買うのかな?

 

「よし、準備オッケー」

 

 最後にコントローラを手にとって、再び僕の隣に座った。

 すると、制服姿の美嘉先輩が部屋に入ってきた。手には何かしらの箱を待っている。

 

「ごめんごめん、お待たせっ」

「あ、いえ……」

 

 あれ? てか着替えてたわけじゃないんだ。何の箱かなそれ。

 

「あの、着替えてたんじゃ……」

「へ? ううん、違う違う。これ貼らないと」

 

 手に持ってる箱は湿布だった。え、まさか僕のために……?

 

「す、すみません……」

「ううん、ほら背中出して」

「……へっ?」

「自分じゃ貼れないでしょ?」

 

 え、そんなわざわざ貼ってもらうような事じゃ……ていうか、女の人に素肌見られるの恥ずかしいんだけど……。

 

「ほら、恥ずかしがってる顔可愛い早く背中出して」

「今何かとんでもないセリフが聞こえたような⁉︎」

「いいから早く」

 

 な、なんか目が怖いんだけど……? ギラギラしてるというか、爛々としてるというか……。

 冷や汗をかきながらも、ソファーの上で正座して、莉嘉さんを退かして僕の後ろに座ってる美嘉先輩に背中を向けてワイシャツをめくった。

 真っ白な僕の背中が露わになり、そこに美嘉先輩と莉嘉さんの視線が注がれてるのを感じ、尚更恥ずかしくなってきた。

 

「ふわあ……こんな華奢な高校生の背中、初めて見た……」

「あっ、あのっ……早く、貼って欲しいのですが……」

「あと30分待って」

「30分⁉︎ 長くないですか⁉︎」

 

 思わず振り返ると、なんか目がヤバイ美嘉先輩と、真逆にすごい不機嫌そうな莉嘉さんが目に移った。

 

「わー、腫れちゃってる。痛そう」

「っ! いだっ、いだだだだ⁉︎」

 

 唐突に莉嘉さんが背中を爪の先端で突いてくる。北斗神拳を喰らってる気分だった。

 

「あ、コラ莉嘉!」

「あ、痛かった? じゃあこんなのは?」

 

 直後、今度は脇腹に指の先端が食い込み、こちょこちょと小まめに動かされる。

 

「ひゃわっ⁉︎」

「ぎゃー!」

 

 変に高い声が僕の口から漏れて、腰が前に急激に進み、後ろに頭がひっくり返った。

 後ろにひっくり返る、ということは頭は美嘉先輩の方に倒れるわけで、後頭部が柔らかい物の上に乗った。

 

「っ⁉︎」

 

 目の前にあるのは美嘉先輩の顔と胸、ということは僕の後頭部に当たってるのは美嘉先輩の膝……。

 

「何? 膝枕して欲しいの?」

「い、いえっ、あのっ……!」

「いいよ? ゆっくりして……」

「待って待って玲くん退いて腕が死んじゃう!」

 

 莉嘉さんの腕を巻き込んでしまっていたことに気づき、慌てて体を起こした。

 ふ、ふぅ、良かった……。莉嘉さんのお陰で素早く体を起こせた。腰の痛みを犠牲にして。

 ……湿布を貼るだけで大騒ぎしてるなぁ、僕達。

 今度こそ湿布を貼ってもらい、ホラー映画の鑑賞を始めた。僕の隣に美嘉先輩が座り、莉嘉さんがその膝の上に座っている。

 なんかドヤ顔で僕を見てきてるんだけど、僕そこに座りたいなんて言ったっけ……?

 なんか映画よりも美嘉先輩と莉嘉さんに畏怖を覚えてると、美嘉先輩がニヤニヤしながら言った。

 

「玲くん、怖かったらあたしの腕に抱きついて良いからね?」

「えっ? いや、そんな……」

「ダメ! お姉ちゃんに抱きついて良いのはあたしだから!」

 

 ……なんか、ギスギスしてるなぁ、この部屋。

 

 


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