城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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ムッツリスケベは妄想が得意な生き物。

ホラー映画が終わった。美嘉先輩も莉嘉さんも二人で抱き合ってガタガタと震えている。姉妹百合みたいだ。

登場人物は半分以上が霊によって死に、残ったのは主人公とヒロインのみ。死んだ者達の中には身体を引き裂かれたり、焼却炉に放り込まれたりと中々にグロいシーンもあったのでインパクトはあった。

……まぁ、その、なんだ。とりあえず、美嘉先輩も莉嘉さんも泣いちゃってるし、僕はやるべきことをしよう。

 

「あの、良かったらこれ……」

「「あ、ありがと……」」

 

ポケットからハンカチとティッシュを取り出して差し出した。二人ともそれを手に取り、涙を拭いたり鼻をかんだりする。

ようやく落ち着いた美嘉先輩が、グスッとしゃくり上げながら、僕を意外そうな目で見た。

 

「……ていうか、玲くんは平気なんだ。意外」

「いえ、見慣れた世界というか……むしろ大した事なかったというか……」

「え、なんか怒ってる? 珍しく眉間にシワ寄ってるけど……」

「え、そ、そうですか……?」

「う、うん……」

 

もしかしたらそうかもしれない。あまり気分は良くなかった。

 

「もしかして、怖いと不機嫌になるタイプ?」

「え、全然怖くなかったですけど」

 

今の一言が二人に火をつけた。ジト目で僕を睨むと、攻め立てるように声を荒げた。

 

「なんで怖くないの⁉︎ どういう事⁉︎」

「そうだよ! メチャクチャ怖かったじゃん!」

「霊とかにバンバン殺されてるんだよ⁉︎」

「あんな簡単に人がバラバラにされて……!」

 

……二人がこうして焦ってるのは珍しいな。なんだかからかいたくなってきてしまった。これが嗜虐心って奴か。

僕は小さくため息をつくと、美嘉先輩の頬に手を伸ばした。もちろん、触らないようにギリギリの場所で手を止めると、低い声で冷たく言い放ってみた。

 

「だって……僕も『レイ』ですから」

「へっ……?」

「えっ……」

 

二人の顔が真っ青になって行く。いや、思いつきで玲と霊をかけてみただけなんだけど。

 

「い、いや、あの……冗談ですよ……?」

 

微笑んで誤魔化すように言うと、二人ともぷくっと頬を膨らませ、クッションを顔面に押し付けてきた。

 

「〜〜〜っ⁉︎」

「な、何をいきなり言い出すの⁉︎ マジかと思ったじゃん!」

「そういう冗談は良くないよ!」

「お姉ちゃんはそんな子に育てた覚えはないよ⁉︎」

「なんでそういう意地悪するの本当に!」

 

そ、そんなに怒るなんて……ていうか、そんなに怖かったかな今……。でもちょっと楽しかったとは言えない。

2人に揉みくちゃにされたものの、何とか身体を起こした。そんな僕に美嘉先輩がジト目で僕を睨んで言った。

 

「まったく……まさかそんな意地悪い面があったなんて……!」

「す、すみません……」

「大体、なんで怖くなかったの? むしろ怖さしかなかったと思うんだけど」

 

え、なんでって……。

 

「だって、登場人物が霊含めてみんなバカだったから……」

「へっ?」

「最初に亡くなった木下さん、でしたっけ? あの人の死因は頭部切断でしたよね」

「お願い、それっぽく言わないで。怖いから」

「え、じゃあアンパンマンとか?」

「うん、さっきよりマシ」

「ま、まぁ……えっと、で、その時に切断した刃物も見つかってますから、それで霊は物理的な方法で人を殺したと分かったわけですから、こちらの攻撃も通るって事ですよね」

「え? う、うん、まぁそうかも……」

「大体、戦うしかない状況でも怯えて逃げるしかしないなんておかしいです。それなら石を投げるなり光を当てるなりして攻撃方法を探したりすれば決して倒せない相手じゃないでしょうに……それをせず、しまいには自分だけ生き残るためにお互い殺し合うなんて馬鹿げています。努力不足が目立つ話で……」

 

そこまで言って口が止まった。二人がドン引きした様子で僕を眺めていた。

……まずい、言いすぎたかな。でも、こう……なんだろ。ゲーマーとしては倒す手段や逃げる手段を模索してほしかった。

ドン引きした表情の美嘉先輩だったが、何とか笑顔を取り繕って、僕を試すように聞いてきた。

 

「そんなこと言って。実際、出たら怖がるくせに」

「あ、あー……そうですね。それを言われると僕も……」

 

霊的な何かが出たら……いや、人間と違って僕を怖がらせてから殺そうとしてくるし、習性として捉えればモンハンのモンスターと変わらない。

 

「……いや、敵のステータス次第でどうにかすれば勝てるんじゃないかな……」

「うわあ……」

「ステータスって……」

 

あれ、またなんかドン引きされちゃったな……。

まぁ、でもホラー映画を観た後だ。まだ怖さを感じてるのなら、ゲーマーなりに克服する方法はある。

 

「あの……もし怖いのでしたら、ホラーゲームでもやりませんか?」

「ぶっ飛ばすよ?」

「い、いえっ! その、ホラーゲームでお化けをガンガン倒せば……その、霊を倒して怖さを克服できると、思って……」

「いや、それも無理だから」

「玲くんってさ、バカなの?」

 

莉嘉さんにまでバカにされ、凹むしかなかった。そこまで言わなくても良いんじゃないですかね……。

 

「でも、ゲームをやるのは良いかもね。この前、パパが昔やってたゲームを物置で見つけたから、みんなでやろっか」

「ああ、あのいろんなゲームのキャラが出てきてステージから落とす奴?」

「そう」

 

スマブラか……。昔やってたってことは初代かDXかな? 何にしても加減が難しそうだ。

 

×××

 

ゲーム大会の途中、美嘉先輩+莉嘉さん+CPUvs僕という戦いだったが、手加減してようやく互角になってきた頃だった。

ふと美嘉先輩が時計を見ると、19時を回っていた。あ、そろそろ帰らなきゃかな?

 

「もうこんな時間じゃん」

「……あ、そ、そうですね」

「どうする? ご飯食べて帰る?」

「へっ? あ、あー……」

 

良い、のかな……? と判断させる間も無く、僕のお腹はグゥッと鳴り響いた。

 

「……お願いします」

「うん、素直でよろしい。じゃ、今から作るね」

「あ、僕もお手伝いを……」

「待って玲くん! 勝ち逃げはダメ!」

 

莉嘉さんに腕を引っ張られてしまい、ゲームを続行することになった。

でもなぁ、正直、美嘉先輩はともかく莉嘉さんはCPUより弱いからなぁ……。なんていうか、まだCPU三人の方が強いと言うか……いや、黙ってよう。言ったら怒られるし。せめて教えてあげようかな……。

そんなことを考えながら二人でゲームをしてると、ガチャっと玄関の開く音がした。もしかして、美嘉先輩のお母様かな?

 

「ただいま〜」

「あ、ママ! おかえりー!」

 

お母さんだった。今日は僕の勘は絶好調だ、なんてボケてる場合ではない。きちんと挨拶しないと。

大丈夫、僕はこんな時のために会話の方法を勉強したんだ。ほとんど、美嘉先輩に「それ使えない」と言われてきたが、それでもそれしか知識が無いなら、それを使うしかない。

相手のセリフをあらかじめいくつか予想しておき、それに関して答えるようにすれば良いのだ。帰って来たら娘の友達が来ていたお母さんの反応……そんなの決まってる。

 

『あら、美嘉からよく聞く宮崎くんかしら? いつも娘がお世話になってます』

 

……だろう。つまり、それに対して失礼のないような返事を考えねばならない……。

……よし、浮かんだ。僕の返事はこうだ!

 

『いえ、こちらこそ美嘉先輩にお世話になっています。お弁当、いつも美味しくいただいています』

 

これだー! さぁ、来い。美嘉先輩のお母さん。僕はいつでも応対できる!

ドキドキしつつ、少しだけワクワクも兼ねて待機してると、リビングにお母様がいらっしゃった。

 

「ただいま……あら?」

「あ、ママおかえり!」

 

莉嘉さんが元気良く挨拶した。僕と目が合うなりお母様はキョトンとした表情を浮かべたまま、僕に微笑みながら聞いて来た。

 

「えっと……どっちの彼氏かしら?」

 

予想外の質問が来た!

 

「かっ、かれっ……⁉︎」

「ママ、それあたしのコーハイだから」

 

しれっと美嘉先輩が口を挟んだ。し、しかし……美嘉先輩の彼氏なんて……そんな、僕なんかじゃ釣り合わないのに……。

 

「あら、じゃああなたが美嘉からよく聞く宮崎くんかしら? いつも娘がお世話になってます」

 

か、彼女ってことは……恋人同士がする営み……あんなことやこんなことをすることになったり……。(←むっつりすけべ)

 

「美味しいお弁当作ってくれるんですって? 私も食べてみ……あれ? 宮崎くん?」

 

だ、ダメだってそんな……! 僕、人の裸を見るどころか自分の裸を見るのも恥ずかしくて耐えられない人種だし、そういうのは恋人になったとしても……!

 

「ねぇ、美嘉? あの子、顔だけ界王拳みたいになってるけど、いつものこと?」

「え? あーうん、割といつもの……あれ? なんかいつもより……」

 

で、でもキスくらいはすることになると思うし……口と口をくっ付けて、舌を絡ませるなんて……は、破廉恥な……!

 

「ちょっ、宮崎くん? 湯気が……」

「……え、何。どうしたの玲くん……?」

 

あ、ダメだこれ……。僕には刺激が……。

ホラー映画を見ても気絶しなかった僕は、こんなことであっさりと意識を飛ばした。

 

×××

 

目を覚ますと、リビングじゃなかった。アレ、どこだここ……ああ、美嘉先輩の家か。

あれ、なんで僕寝てたんだっけ……あ、気絶したのか……。

あれ、なんで気絶したんだっけ……だめだ、思い出せない。

 

「あ、起きた?」

 

何処かから声をかけられ、身体を起こすと美嘉先輩が小さく手を振っていた。

 

「……あの、おはようございます……」

「うん。おはよう」

「す、すみません……事情は分からないのですが、気絶してしまって……」

「いいよ別に。気にしないでって言いたいとこだけど、なんで気絶したの?」

「いや、それがわからなくて……」

 

本当に心当たりがない。なんか思い出しちゃいけないようなことだったような……。

 

「ま、いいよそれならそれで。とりあえず、パジャマはあたしので我慢してね」

「はい……。……へっ? な、なんでパジャマが必要なんですか……?」

 

すると、美嘉先輩は無言でスマホの画面を見せて来た。電車の運行情報が載っていた。

 

『東武○上線、雷雨にて運行中止』

 

僕の精神が終わる音、確かに聞こえた。

 

 


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