どうしよう、困ったことになった。何が困ったってアレだ、まさかの先輩の女の子の部屋に泊まりになってしまった。
どうしよう、困ったことになった。何が困ったってアレだ、まさかの先輩の女の子の部屋に泊まりになってしまった。
どうしよう、困ったことになった。何が困ったってアレだ、まさかの先輩の女の子の部屋に泊まりになってしまった。
「……ふぅ」
三回、現場を確認しても、なにも変わらなかった。そりゃそうだよね。
でも本当にどうしよう、まさかこんな事になるなんて……。照れるとかそんなレベルじゃない。天元突破だよ、もはや。
はぁ……なんでこんな事に……。いや、別に嫌なわけではないけど……。でも、そもそもどこで寝れば……。風呂場とか?
とにかく、なんかもう色々と悩みは尽きず、一人でシャワーを浴びていた。
「はああああ………」
……ため息しか出ない。緊張しかしない。特にこれから何かあるわけでもないのに、何かある気がしまって。
僕ってすけべなのかな……いや、でもエロ本もAVもエロ同人も読んだことないし……。
と、とにかくあまり意識しないようにしないと。じゃないと眠れなくな……。
「玲くーん! パジャマと下着置いておくからねー!」
「わひっ⁉︎」
り、莉嘉さん⁉︎ この人バカだから案外平気で入って来ちゃいそうな……!
「……何? どうしたの?」
「は、入って来ちゃダメですからね⁉︎」
「え、入らないけど……何言ってんの? 頭大丈夫?」
世界で一番、心配されたくない人にされてしまった。しかも一番、心配されたくない人に。
……でも、今の僕の発言は変態っぽいかもしれない。
「じゃ、また後でねー。……にひひっ」
恥ずかしさのおかげで最後の妖しい笑みが耳に入らなかった。
このままではのぼせると思ったので、さっさと上がってお風呂を空けることにした。僕が一番最後だけど、僕一人のためにいつまでもガス代を無駄にするわけにはいかない。
お風呂を上がり、身体と髪をバスタオルで拭いていたところで「あれっ?」と声を漏らした。
そういえば、さっき莉嘉さんは「パジャマと下着」と言った。パジャマは美嘉先輩のものとして、下着って……お父さんの?
と思って、タオルで体を隠しながら恐る恐る見ると、思いっきり女の子用の黒い下着が置いてあった。
「れ、玲くんまだ上がってな……あっ」
「へっ……?」
美嘉先輩の声とともに開かれた洗面所のドア。当然、美嘉先輩が顔を赤くして立っていた。
「あっ……」
「あっ……」
っ、み、美嘉先輩にっ……! た、タオル越しに僕の裸っ……!
「き、きゃああああああああ!」
「いやあたしの悲鳴なんだけどそれ……」
そう冷静に言われ、僕も少し正気に戻り、お風呂場の中に逃げ込んだ。湯気でまた体が濡れてしまうが、それでも裸を見られるよりマシだ。
「……玲くん?」
「っ、にゃっ……なんですかっ……?」
「あーその……下着、あたしのだから……」
「は、はい……」
「……見た?」
「いえ、ギリギリ見てないです……」
「なら良いけど……」
……ガッツリ見えたけど、見たと言えば死が待ってる気がしたので首を横に振った。
すると、向こうから「そっか」とホッとしたような声が聞こえた。
「あの、下着は悪いんだけど用意出来ないから……」
「あ、分かりました」
まぁ、どうせ明日の朝にはお暇するんだし、そのくらい問題ない。そんな事よりも股間見られたことの方が問題なんだけど……。
「じ、じゃあ出てるね?」
「は、はい……」
ようやく出て行ってくれて、改めて洋服を着た。
うー……気まずい……。何これ、どうすれば良いのこれ……。しかも、これ着てるの美嘉先輩のパジャマなんだよな……。不思議とピンク色のフリフリな柄が気にならないんだけど……。
でも、ここを出ないわけにはいかない。なんか色々落ち着かずにお風呂を出て、美嘉先輩の部屋に入った。
中では、流石に顔を赤らめてる美嘉先輩が正座して待っていた。
「あ、れ、玲くん……」
「ど、どうも……」
「今日はあたし、莉嘉の部屋で寝るから」
「す、すみません……なんか、追い出しちゃったみたいで……」
「ううん、仕方ないよ」
「……」
「……」
……なんていうか、気まずい……。
「あ、だ、大丈夫! 莉嘉はやっつけておいたから!」
「へ? や、やっつけた……?」
「今頃、ママにお尻叩かれてるんじゃない? あとで謝らせるから」
そんなやんちゃ坊主の体罰みたいな……。一応、中学生だろうに……。
まぁ、自業自得なのでそこは触れないでおいた。さて、寝ようかな、と思ったが、美嘉先輩が何故から部屋から出て行かない。
「玲くん、明日とか暇?」
「は、はい……」
「ならモンハンやらない?」
「へ? い、今からですか……?」
「うん。ほら、早く」
ま、まぁ良いけど……。
とりあえず、3○Sをカバンから出した。茶化すように美嘉先輩がクスクスと微笑みながら言った。
「ふふ、似合うね。そのパジャマ」
「や、やめてください……!」
「ジョーダン、ジョーダン。いや半分本気だけど、ほらモンハンやろうよ」
半分本気でも怪しいんですけど……。というか怖いんですけど……。
少し恐怖しながらモンハン開始。集会所に入り、のんびりと狩りを始めた。
美嘉先輩はバルファルクなんか簡単に倒せるようになったので、今は二人でラオシャンロンスピード記録に挑戦している。山手線みたいに瞬殺される記録じゃなくてするほうの。
……しかし、渋谷ってなんてあんな下手なんだろう。絶妙に下手なんだよなぁ。抜刀したまま走る、敵の攻撃が飛ぶ方に避ける、味方がダウン取った時にピヨる、あそこまで典型的なヘタクソは珍しい。
そんな事を考えながら二人でラオシャンロンを開始した。さて、スピード記録なら手は抜けないな、本気でやろう。
「あ、先輩。今上来れば乗れますよ」
「あ、先輩。そこでバリスタ五発お願いします。それでダウン取れると思うんで」
「あ、先輩。今、撃龍槍お願いします。弱点に当たるんで」
「あ、先輩」
「……」
二人でギッタギタにしてると、美嘉先輩が僕をジト目で睨んでるのが見えた。
「……な、なんですか?」
「……玲くんとラオシャンロンやってもつまんない」
「えっ」
何それショック。なんかもう死んじゃおっかなー、どうせ生きてても生き恥晒すだけだし。
「だってこれさ、あたしと玲くんのスピード記録というより、玲くんのスピード記録じゃん」
「そ、そんなこと……」
「あるよ」
……そ、そうかな……。美嘉先輩のダメージ量もちゃんと測ってギミックとか使ってるから、そんなことないと思うんだけど……。
「やめよ、普通にやろう」
「す、すみません……」
「ううん、あたしじゃまだ玲くんと肩を並べるのは早いってことだよね……」
「そ、そんなことは……」
す、拗ねちゃったかな……。なんだか申し訳ない。もう少し下手に上手くやった方が良かったかな……。何それ、哲学?
どうしたら良いのか分からず、うだうだ悩んでると、美嘉先輩がにひっと微笑んで、僕のおでこに人差し指を置いた。
「なーんて、嘘嘘。ちょっとトイレ行ってくるね?」
「あ、は、はい……」
美嘉先輩は部屋を出て行った。
はぁ……美嘉先輩につまんないなんて思われるなんて……。これだけで自殺する動機にはもってこいなんだよなぁ……。
もう少し手を抜いておいた方が良かったのかもしれない。そんな事を考えながら僕の3○Sを脚、美嘉先輩の3○Sを両手で持ってラオシャンロンを再開した。
足でやるのは久し振りだ。中学の時以来。高速で20本の指を動かしていた。
「ねぇ、玲く……何してんの?」
「ん……?」
顔を上げると、涙目の莉嘉さんが何かのゲームのパッケージを持っていた。多分、3○Sかな?
「……なんですかそれ?」
「ゲームだけど……目を離して良いの?」
「……平気ですよ、もう終わりますから」
すると、目的達成のBGMが鳴り響いた。あー、疲れた。明日は足が筋肉痛かもしれない。
3○Sを床に置いて、莉嘉さんに向き直った。
「あの……それで、何か? あと、それなんですか? なんのゲームですか?」
「ゲームに食いつきすぎ……。その、ママに怒られたから、謝りたくて……」
なるほど、まぁ良いよ。そういうのは慣れてないからこそ、鈍感になっていて効かなくなってる。
「別に、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」
「で、でも……お姉ちゃんに聞いたけど、その……玲くんの、恥ずかしいところを、見ちゃった、みたいだし……」
……それは言わないで欲しかったなぁ。少し忘れかけていた所だったのに……。
「それで、その……お詫びに、ゲームを持ってきたんだけど……」
「許しました」
「だからゲームに食いつきすぎだから……」
そう言いながら、僕の前に正座する莉嘉さん。で、珍しくしおらしく申し訳なさそうに頭を下げた。
「その、ごめんなさい……」
……本当に反省してるみたいだな。そんなに気にすることないのに……なんて言えない。本気で反省してる人にそんな言葉をかけても尚更、気にするだけだ。
してあげれば良い事は、昔お母さんに謝った時にしてもらったことをしてあげれば良い。
僕も座ったまま莉嘉さんの前に歩き、頭を撫でてあげた。
「大丈夫ですよ、莉嘉さん。でも、次からは気をつけてくださいね。僕は平気ですが、他の男性の方の中では本気で怒る方もいらっしゃると思いますから」
「……でも、玲くんを傷付けちゃったし……」
「良いんですよ、僕は。僕で人を茶化して良い限度を覚えれば良いんです。それより、美嘉先輩に謝って下さい。美嘉先輩も下着を異性の僕に見られてしまったんですから」
そう言いながら頭を撫でてあげてる途中でハッとした。莉嘉さんって中学生だったよね……。
ガキ扱いされたら腹を立てる年齢だ……。撫でてあげたのはセクハラっぽいしマズイかもしんない……!
というか、僕がどのツラ下げて言ってるんだ。人とコミュニケーション取ってこなかった奴が、人とのコミュニケーションで限度を覚えろとか何様だよ本当に。
今更になってハラハラしてると、莉嘉さんが泣き止んだ笑みで僕を見上げていた。
「玲くん」
「え、な、なんですか……?」
「玲くんって、優しい人なんだね」
「え、そ、そんなことないですよ?」
「ありがと、じゃあお姉ちゃんに謝ってくるね!」
そう言って、元気良く莉嘉さんは出て行った。まぁ、素直に謝れば美嘉先輩は許してくれるだろう。
とりあえず、画面に目を戻してクエスト報酬を受け取った。
……あ、天鱗落ちた。ごめんなさい、美嘉先輩。頭の中で合掌して3○Sを閉じた。
そういえば、莉嘉さんが置いていったゲームってどんなのだろう。気になったので手を伸ばそうとしたときだ。部屋の扉が開いた。
「よーっす、玲くーん?」
「っ、せ、先輩……」
「人の妹を誑かすいけない子はどこかなー?」
「た、誑かしてなんかないですよ……」
そんな恐れ多いこと出来るわけない。大体、僕はロリコンじゃないし。
「それより、良いこと言うじゃん。コミュ障のくせにあんな分かったようなこと言っちゃってさ」
「……自分でも、言ってて思いましたよ……」
「でも、一つだけ違うよ」
「へっ……?」
「玲くんが莉嘉のために傷ついて良いなんてことないから」
……なんで? 別に僕は気にしちゃいないけど……いや、気にはしてたけどゲームすれば治るし……。
「そんなんじゃ、玲くんの方が保たないから。どうしてもそういうの溜め込んじゃうなら、あたしに言って。あたしが玲くんを慰めてあげるから。ね?」
「……」
美嘉先輩の言動に少し感動してしまった。僕をそんな風に思ってくれる人なんてこの世にいなかったから。
その事が嬉しくて、でも何処か気恥ずかしくて思わず俯いてると、ニヤリと微笑んだ美嘉先輩がしゃがんで僕の頭を撫でてくれた。
「おー? 照れてるのかなー?」
「ううっ……」
「ふふ、じゃあ、モンハンの続きやろっか」
「あ、は、はい……」
そう言って、夜中までゲームして仲良く寝落ちした。
深夜テンションですごい恥ずかしい話をしてしまいました。死にたい。