城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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知らない間に知る他人のプライベートは気まずい。

 結局、一人で帰宅することになった僕は、何となく暇だったので池袋まで行ってゲーセンに入った。

 はぁ……美嘉先輩と一緒に帰りたかったなぁ。一緒に帰ってもまともに会話もできないくせに。

 でも、なんだろ。何となくだけど、僕が美嘉先輩と一緒に帰ろうとしてたのは、どうにも心配だから、だけじゃないようだ。なんていうか、多分、僕は美嘉先輩ととにかく一緒に居たかったんだと思う。

 家には両親はいないし、学校でも一人。僕と唯一話してくれる人は美嘉先輩だけだ。いや、神谷さんとかもいるけど、よく話すのは美嘉先輩だけだし。

 その美嘉先輩との帰宅が無くなるのは、やはり少し退屈だしつまらない。

 だから、一人でゲーセンなんかに来てしまった。こうして回ってると、本当に面白そうなゲームしかないんだよなぁ。

 特に、音ゲーの進化は本当に凄まじいものだ。洗濯機みたいな奴とか超楽しそう。

 そんな事を思いながら歩いてると、プライズコーナーに入った。昔からよく「ゲーセンは貯金箱」って言うし、それの筆頭がこのクレーンゲームとかのプライズコーナーだろう。

 景品で釣ってお金儲けしようって考えが丸出し……んっ?

 

「こ、これは……!」

 

 え、エリザベスのぬいぐるみ? か、可愛い……! ギンタマ、っていうアニメのキャラなんだ……。こんな、可愛いのが……。

 ……これ、取れるかな。二本のアームで正面をとらえ、脇の下に挟み込めば或いは……!

 と、とにかくやってみよう。100円玉を投入し、アームを動かした。正面から挟み、ウォンっとクレーンは上がっていく。

 

「もらった……!」

 

 そう確信した直後だ。アームの力が片方、出口に遠い方が極端に弱く、持ち上げ切れなくて転がってしまった。

 えっ、嘘でしょ? これだからゲーセンは……! いや、でも少し持ち上がるってことは不可能ではないかも……。大体、完全に不可能なら詐欺だ。チェーン店のゲーセンだし、訴えられたらアウトだ。

 つまり……なんとかすれば取れると言うこと……面白いじゃん。それでこそゲームセンターだよね。

 今度は500円入れた。これで6プレイできる。気が付けば、僕は貯金箱に貯金を始めていた。

 財布の中の1000円札の1枚目が消滅した辺りで、ようやくエリザベスを手に入れて正気に戻った。

 

「……やっちゃったなぁ」

 

 夢中になり過ぎた……。まぁ、可愛いの手に入れたし良しとしよう。

 というか、知り合いにこんなとこ見られたら最悪だし、さっさと帰ろう。

 エリザベスをお腹の前で抱きながらゲーセンを出ようとすると、ゲーセンに入ってくる莉嘉さんと乙倉悠貴さんと出会した。

 

「……あっ」

「あー! 玲くん!」

「あっ、宮崎さん……でしたよね? お久しぶりですっ」

 

 わっ、最悪のタイミングっ……! ていうか、乙倉悠貴さんは僕のこと覚えてるんだ。前にプラモ屋で一回だけ顔を合わせただけなのに。

 ぽかんとしてると、莉嘉さんが僕の手元のぬいぐるみに興味を持ってしまった。

 

「何持ってるの?」

「へっ? え、えっと……」

「わっ、な、なんのキャラクターですか……? その、おばけペンギンみたいな……」

 

 あ、乙倉悠貴さんが少し引いてる……。

 

「え、えっと……か、可愛くて、つい……」

「え、可愛いそれ?」

 

 あれ? 莉嘉さんまで引き始めたんだけど……。なんで? 可愛いよねこれ?

 

「か、可愛く、ないですか……?」

 

 こんなのオンラインゲームのスキンにあったら絶対使っちゃう。大好き過ぎて泣きそう。

 それほど、これだけ好みに合ったキャラは初めて見た。銀魂、今度見てみようかなぁ……。

 って、考えてる場合じゃない。今は目の前の二人をどうにかしなければならない……って、え? 何その目……なんで少し頬赤らめてんの?

 キョトンとしてると、二人はヒソヒソと小声で話し始めた。

 

「……なんか、さ」

「うん、似合いますね。ぬいぐるみが。男子高校生に」

「え、これ本当に男子高校生?」

「こんな、こう……か弱そうな方に守られた美嘉さんって……」

 

 ……え、丸聞こえなんだけど。か弱そうって……いや、その通りなんですけどね。顔面パンチ一発で気絶しましたから。

 

「……で、何してるの?」

「あー……いや、暇潰しを……」

「あ、分かった! お姉ちゃんと遊べなくて寂しいんでしょ⁉︎」

 

 なんで分かるんだよ本当に。その通りだよちくしょう。

 

「なら、あたし達が遊んであげる」

「へっ?」

「良いよね? 悠貴ちゃん」

「へ? は、はい。もちろんっ」

 

 とのことで、JC二人と遊ぶことになってしまった。

 はぁ……帰れば良かった……。や、別に嫌なわけじゃないけど。

 三人でゲーセン内を歩き、プライズや色んなゲームを見て回る。まぁ、どちらかというとJC二人の後ろについて行ってるだけだけど。大丈夫かな、ストーカーみたいになっていないかな。

 若干、不安になってると、二人は太鼓の前に立って足を止めた。

 

「玲くん、このゲームね。あたし達の曲入ってるんだよ」

「へ、へぇ……」

 

 てことは、美嘉先輩の曲も入ってるのかな……。それは少し楽しそうかも。

 まずはお二人がプレイしてくれる。お金を入れて、リズムとアイコンに合わせて太鼓を叩くシンプルかつ高度なゲームだ。家庭用ゲームで出た時に極めた。

 まぁ、そんな話はともかく、今は大人げないことはしないで後ろで見守ってよう。

 そう決めて、二人のプレイ中の画面を眺めた。二人はそんなにガチ勢ではなく、曲によって難しいと鬼を繰り返して遊んでいた。良いなぁ、エンジョイ勢。やっぱゲームはエンジョイするものだよね。

 モンハンでもなんでもさ、ヘタクソな人にキレるのは違うと思うんだよ。流石に渋谷ほどヘタクソだと僕も嫌だな、とは思うけど、いやそれでも教えてあげれば上達すると思うんだよね。

 

「よっし、終わったぁ!」

「フルコン、フルコンしましたっ!」

 

 太鼓ゲームなのに横文字使っちゃうんだよなぁ。フルコンボだドン! じゃないから。そこはオリジナルでなんか単語作ろうよ。

 しかし、ピョンピョン飛び跳ねて喜んで……やっぱアイドルでも中学生は中学生なんだなぁ。本当に嬉しそうにしてるし、そんな風に飛び跳ねてる姿はテレビで見る笑顔と違う。可愛いのは一緒なんだけどね。

 

「ね、玲くんもやろうよ!」

「え? あ、は、はい……」

「あたしとね! 負けた方はー……マリカ、一回奢りだから!」

「えっ」

「何? 自信ないの?」

 

 いや、自信あるんですね……。どうしよう、勝たせてあげた方が良いのかな……。JCに奢らせるのは気がひけるし……。

 でも、なんていうか……ゲームで負けるのはなんか嫌だ。わざと負けるなんて以ての外だ。

 うん、本気でやろう。いや、やっぱ七分でやろう。そう決めて、ゲームを始めた。

 再び、100円ずつ投入して曲選択。

 

「何にする?」

「……莉嘉さんの、好きな曲で良いですよ……?」

「じゃ、これね!」

 

 選んだのはLIPPSの曲だった。この人、ほんとに自分の姉大好きだな。

 正直、ゲーム曲しかやったことないしこのゲーム自体が久々だからフルコンできる自信はない。でもまぁほら、基礎は一緒だし多分できるでしょ。

 さて、じゃあ始めますか。流れてくるアイコンに合わせて、バチを高速で動かし始めた。

 

「えっ……」

「はっ……?」

 

 隣と後ろからそんな声が聞こえたが、僕の神経は画面に向いている。両腕は常にトップギアで動き、周りの雑音全てを無視して、ただ両腕を動かしていた。

 ていうか、すごい歌だな。唇は喋るためでもキスするためでもなくて、口に入れたものを落とさないようにするためにあるんだよ。

 ……しかし、美嘉先輩がこれを歌ってるのか。美嘉先輩が……チュって……チュって……。

 

「ーっ……!」

「み、宮崎さん⁉︎ どうしました⁉︎」

 

 気が付けば、僕は恥ずかしくなってしまい、バチを持ったまま両手で顔を覆っていた。

 

「……ぱいが、みかせんぱいが……ちゅーって……」

「……悠貴ちゃん、この子何言ってんの?」

「さ、さぁ……」

 

 僕に言ってるんじゃないのは分かってるけど……でも、それを受け止められるほど、僕の人間はまだ出来ていなかった。

 恥ずかしくなって、その後は両腕を動かさず、結局は莉嘉さんに負けてしまった。

 

「はい、あたしの勝ちー! 奢りだからね、マリカ!」

「……は、はい……」

「莉嘉ちゃん、容赦なさ過ぎるよ……」

 

 引き気味に乙倉悠貴さんが呟くも、一切気にせずに僕の手を掴んでマリカの方へ走った。

 ……しかし、歌詞でチューチュー言うってことは、振り付けも相当なんだろうなぁ……。家で動画漁ってみようかな。い、いや変な意味じゃなくて単純に気になっただけだから。えっちそうとか思ってない。

 マリカの筐体の前に来て、三人で座った。財布からお金を出し、莉嘉さんと乙倉悠貴さんに百円玉を一枚ずつ差し出した。

 

「ど、どうぞ」

「やったねー」

「わ、私もですかっ……?」

「はい。莉嘉さんだけ、と言うわけにもいきませんから」

「あ、ありがとうございますっ」

 

 ……しばらくはゲーセンに来るの控えよう。お金がすごい勢いで溶けていく……。

 

 ×××

 

 ゲーセン巡りが終わり、解散の時間になった。乙倉さんは事務所に戻り、僕と莉嘉さんは帰りの電車の中。

 痴漢されないように、二人で椅子に座って電車に揺られた。

 とりあえず、気になったことがあったので莉嘉さんに聞いてみることにした。

 

「あの……大丈夫ですか? 美嘉先輩は……」

「へ? あー……うん、大丈夫そうだよ。学校は車で行ってるし、今日なんか途中で降りて一緒に歩いて行けたんでしょ?」

「は、はい……。一応……」

 

 でも、僕を頼るのはやめてほしい。何かあってもどうせ負けるから、良くて美嘉先輩が逃げ切るまでの時間しか稼げないし、あの人良い人だから多分逃げないし。

 

「流石に痴漢に遭った翌日はダメそうだったんだけどね……でも、玲くんが助けてくれなかったらもっとひどかったと思う」

「そ、そんなこと……」

「だから、ほんとにありがと。お礼に、お姉ちゃんのプライベートの写真見せてあげる」

「は、はいっ⁉︎」

 

 ぷ、プライベートって……! あ、アイドルのプライベートってだけでちょっとエッチな響きがあるのに……!

 

「そ、そんな勝手に……!」

「大丈夫、去年の夏休みの旅行の写真見せてあげるだけだから」

「あ、そ、そうですか……」

 

 でも、莉嘉さんイタズラとか好きそうだからなぁ。美嘉先輩の着替えシーンとか平気で撮ってそう。いや、全然期待なんかしてないけど。

 莉嘉さんのスマホをお借りして写真を眺める。

 

「それ海に行った時の写真。伊豆の海だったかな? 魚が超たくさんいたの」

「へぇ……」

 

 ……その割に美嘉先輩と莉嘉さんの写真が多いな……。ていうか、美嘉先輩の水着写真を僕が勝手に見てしまって良いのだろうか。とても綺麗だけど、ちょっと刺激強いです。

 

「あ、これほら、カクレクマノミの野生」

 

 野生のカクレクマノミでは? どっちでも良いけど。

 

「で、それがカニと写真撮ろうとして耳挟まれるお姉ちゃん」

「あ、あはは……」

 

 今の写真はちょっと欲しいな。色んな意味で可愛かった。まぁ、本人に内密に送ってもらうのはダメだけど。

 

「次はー……あ、これほら、砂に埋めたお姉ちゃん。胸に貝殻乗せてみたんだ」

「そ、それ僕に見せて平気なんですか……?」

「大丈夫、見せたってことは言わないから」

 

 それ平気なのかな……。ま、まぁ、見せてるのは莉嘉さんで僕の所為じゃないし……もし喧嘩になったら、僕が止めれば良いのかな?

 そんな事を思いながらスマホの写真を横にスワイプすると、美嘉先輩が男の人と一緒に写ってる写真が出て来た。腕を組んで、楽しそうに横ピースでウィンクしている。

 次の写真も同じ男の人と写ってる。今度は腕を首に回して、横腹で締め上げている写真だ。これは流石に水着姿ではないが、かなり距離が近い。

 ……僕と真逆でガタイ良いし……やや中性的だけどイケメンだし……もしかして、恋人さんかな?

 

「あ、その人は従兄弟だよ」

「へ? い、従兄弟……?」

「うん。昔はよくみんなで遊んでて、去年は久々に一緒に海行ったんだー」

「恋人とか、ではなくて?」

「従兄弟同士は結婚できないよー」

「いや結婚とまでは言ってませんし、結婚出来ますけど……」

「つ、付き合ってないって言ってるの!」

 

 プンスカと怒る莉嘉さんの隣で、僕はホッと胸をなでおろした。

 ……えっ、「ホッ」? ……なんのため息? ……あ、人の彼女と何度も出掛けてたのバレたらボコられるし、そうならなくて良かったってため息かな? うん、そうだよね。

 

「特に昔はお姉ちゃんととても仲良しだったから、今でも従兄弟っていうよりほとんど本当の姉弟みたいになってるんだよね」

 

 へぇ、てことは僕と同い年かそれ以下か……。……筋トレしようかなぁ。

 そうこう考えてるうちに、莉嘉さんの最寄駅に到着した。

 

「はい、おしまいっ。じゃ、また今度ね」

「あ、はい……」

 

 莉嘉さんは微笑みながら電車から降りた。扉は閉められ、電車は僕の家の最寄駅に向かう。

 その間、ボンヤリと電車に揺られながら、顎に手を当てて少し考え込む。……うん、よし決めた。

 決意を固めると、最寄駅から二駅奥で降りて走って帰り、倒れて病院に運ばれた。

 

 


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