城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

21 / 35
処女ヶ崎の恋愛(1)

 病院から出た美嘉はイライラした様子で大槻唯と一緒に近くのスーパーに到着した。

 スーパーのフードコートの自販機でカフェオレ、マ○クでポテトを購入し、椅子にドカッと座りながらカフェオレを啜って愚痴った。

 

「ったくもう、あの子は〜……!」

 

 イライラの理由は今の病院、ぶっ倒れた玲に会いに行ったのだ。ちなみに、救急車を呼んだのは一緒にいる大槻唯。たまたま事務所からの帰り道にぶっ倒れてる少年を見かけて通報したのだった。

 で、その話を唯から聞いた美嘉がお見舞いに来て、説教をかまして唯と一緒に晩飯を食べに来たのだ。ちなみに、玲は入院なしで家に帰された。

 しかも、玲は何故急に走ろうと思ったのか説明する羽目になり、美嘉も玲もとても恥ずかしい思いをしてお互いに顔を真っ赤にするしかなかった。

 

「ホント馬鹿なんだから……! 別に、体型なんか気にすることないのに……!」

「あ、あははー……にしても、美嘉ちゃんは素直だね」

「どういう意味?」

「だって、今のってそういうことでしょ?」

「あっ……う、うん……まぁ」

 

 頬を赤らめて小さく頷いた。その様子に、なおさら意外そうな顔をして唯は微笑んだ。

 

「ほら、やっぱり素直」

「まぁ……変に意地を張っても仕方ないしね。奏見ててつくづくそう思った」

「なるほどねー。で、やっぱり痴漢から助けられちゃったから?」

「うん……。まぁ、早い話がそう言うことかな。でも、それだけじゃないよ。基本的に優しい子だし、可愛いし、それと意外と面倒見の良くて……あの言うこと聞かないわんぱくな莉嘉でさえ、あたしに素直に謝らせたんだから」

「それはすごいね……。……母性?」

「いやそこはお姉ちゃん気質って言おうよ……。ま、あたしからしたら弟だけどね」

「あれ? 妹とか言ってなかった?」

「何言ってんの? 玲くんは男の子だよ?」

 

 都合良く記憶を削除していた。まぁ、唯にその辺は関係ない。カフェオレを飲んでる美嘉に「それよりも」と話を続けた。

 

「どうするの?」

「何が?」

「告白」

「ブフッ!」

 

 唐突にカフェオレを吹き出されたが、横にさらりと回避する唯。それに顔を真っ赤にして怒鳴り散らすように慌てて言った。

 

「なっ、いっ、いいいきなり何言い出すの⁉︎」

「え、しないの?」

「……い、いやそれはまだ決まってない、ケド……」

「したら良いのに。好きなら」

「で、でも……そんな、恥ずかしいし……」

 

 これまた正直に何も隠すことなく、自分の感情をもろに吐き出した。

 唯は思った。「ああ、これはからかい甲斐がありそうだな」と。なので、とりあえず色々と言葉責めしてみることにした。

 

「でも、そんなこと言ってたら他の子に取られちゃうんじゃないー?」

「へ、平気だもん。玲くん、友達いないし」

「アイドルにはたくさんいるじゃん? 美嘉ちゃんを痴漢から身体を張って助けたのはみんな知ってるんだし、その上で玲くんのこと見かけたらギャップ萌えを起こすんじゃない?」

「い、いやでも……」

「しかも、今の346事務所は何者かによるアイドルアークス化計画の真っ最中だし、セルスリットと上野を凌ぐ腕を持ってて、奈緒ちゃんと加蓮ちゃんと美嘉ちゃんが単騎でバルファルク殺せるくらい上達させた教育力を持ってるんだから、何かの間違いで誰かと出会ったらそれが運命の出会いになっちゃうかもよっ?」

「えっ……? そ、そうかな……」

「それに、玲くん自身も彼女とかできたこと無さそうだし、自分のことより相手のこと考えるタイプみたいだし、押しに弱そうだし、告白されたら頷く可能性もあるんじゃないの?」

「えっ……う、嘘……でも確かに……」

「特に莉嘉ちゃんとか。美嘉ちゃんに謝ったんでしょ? 素直に。てことは、案外惚れてガンガンアタックしてる最中かも……」

「も、もー! やめてよー!」

 

 わーっ、と耳を塞いで伏せる美嘉を眺めながら、ニコニコして唯も飲み物を飲んだ。

 

「まぁ、そんなわけだから早く告白した方が良いよ」

「そ、そう言われても……勇気、出ないし……」

「それはあたしじゃどうにも出来ないからねー」

「うう……そ、そうだけど……」

「ま、美嘉ちゃんにどう思われるかを気にして走って倒れたんだし、玲くんも割と美嘉ちゃんのこと好きなのかもよ?」

 

 それを聞くと、無言で嬉しそうに俯いて頬を赤らめ、唇を噛み締めて嬉しさをかみ殺す様な表情を浮かべた。

 まぁ、無責任なことを言うわけにもいかないので、その後にネガティブなことも付け加えた。

 

「まぁ、もちろん自分も男らしくなりたいって願望からの可能性もあるから、すぐに告白しろなんて言えないけどね」

「そ、それは分かってるよ……」

「なら、作戦とか考えよっか」

「作戦?」

「だって彼氏出来たことないでしょ?」

「……唯はあるの?」

「さ、どうやって詰めるか決めよっか」

「え? あ、あるの? ねぇ、どっち?」

「やっぱり、序盤は地道にアピールだと思うんだよね」

 

 強引に話を進められ「あとで絶対問い詰めてやる」と心に決めながら、とりあえず今は自分の話をすることにした。

 

「うーん……どうしようかな」

「どうしよっか」

「すぐに告白すれば?」

「無理だって……」

「まぁ、それは冗談として、地道にアピールするしかないんじゃないの? そういうのに弱そうだし」

「アピールって……?」

「くっ付いたり、プレゼントあげたり、デートに誘ってみたり……」

「く、くっ付くって……プレゼントだって何もない日にあげたら不自然じゃん」

 

 ヘタレの特徴はこれだ。実行しない言い訳を探すのが一丁前なところだ。理由があれば実行しなくても良いと思っている。

 いや、思っているわけではないのだろう。ただ、そう言う理由があるからやらない、と言ってるだけだ。

 

「……デートはなんでしないの?」

「あーそ、それは……ほら、あの子は三度の飯よりゲームだから、外に出るのは嫌がると思うよ」

「……でも、デートなしで付き合えるの?」

「そ、それは……」

「あのさぁ、ヘタれるのも良いけど、ちゃんとしなきゃダメだよ。下品にベタベタ触って誘惑しろなんて言わないけど、だからって奥手奥手になってたら意味ないから」

「うう……」

 

 言われて小さくなる美嘉だった。仕方なさそうにその様子を眺めると、唯はスマホを取り出し、画面をつけた。

 で、ついついっと操作をすると、スマホを耳にあてがった。

 

「誰に電話してんの?」

「ん、可愛い子」

 

 可愛い子、と聞いて真っ先に玲が浮かぶ辺り、美嘉はもうダメかもしれない。

 

「あ、もしもし? レーくん?」

 

 正解だった。ブフッと吹き出す美嘉を無視して、唯は話を進めた。

 

「うん、あたし、唯。日曜日って暇だよね? え? ネトゲのイベント? 知らないよそんなの。暇だよね? ……暇、だよね?」

 

 すごく威圧していた。美嘉は「玲くんをいじめるな!」的な感じで不安になってドギマギした様子になったが、それらを一切気にせずに唯は通話を続ける。

 

「うん、素直でよろしい。じゃ、日曜日に駅前に集合ね。あたしと二人きりでデートなんだから、ちゃんとおしゃれして来てね? うん、じゃ、また」

 

 そう言って通話を切った。

 さて、と話を切り出そうとした唯は思わずギョッとした。美嘉が今にも襲い掛かりそうな表情で唯を睨んでいたからだ。

 

「ゆぅ〜いぃ〜! どういうつもり⁉︎ あなたの毒牙に玲くんをかける気ならあたしは死んでも止めるからね!」

「何、うらやましいの? 二人きりのデート」

「そりゃそうだし!」

「あの子は三度の飯よりゲームだから、美嘉ちゃんはデートしなくて良いんじゃないの?」

 

 グサッ、と心の臓を貫かれた。自分でも勇気がないだけ、と理解していた美嘉には効果覿面の一撃だった。

 それを分かってる唯は、ニヤニヤしたまま「んー?」と声を漏らして美嘉を下から覗き込む。

 

「ま、美嘉ちゃんがどーしてもって言うなら、代わってあげないこともないよ?」

「ほんと⁉︎ ……いや、今のは」

「いやいいからそういうの。……で、どうする?」

「……え、えっと……」

「ちなみに、あたしは全然、玲くんと出掛けても良いんだからね? あの子といると退屈しなさそうだし。なんなら、いい感じになって帰りに付き合っちゃうかも」

「ええっ⁉︎ だ、ダメだから!」

 

 思ってもないことを言っても、焦ってる人間は良い反応をしてくれる。なんか大雑把に可愛い感じになっちゃってる美嘉に唯は容赦なく続けた。

 

「なんなら、あたしの部屋に持ち帰っても……」

「だ、ダメダメ! そんなの絶対にダメだから!」

「うん、わかったからボリューム下げて?」

 

 気がつけば周りの客の視線を集めてることに気づき、顔を赤くして大人しくなる美嘉。

 目の前の唯は優雅に飲み物を一口、口に含んでから続けた。

 

「で、どうする? 代わる?」

「でも……代わるってどういうこと……?」

「ん? そこはほら、あたしもアイドルだし、仕事が入ったから代わりに美嘉ちゃんに来てもらったって言えば良いじゃん?」

「うう……そ、そう言われたらそうだけど……」

「で、どうするの? 今すぐに決めないと代わってあげないから」

「い、今すぐ⁉︎」

「そ」

 

 慌てて思考は再び動き出す。いろんな事が頭の中で駆け巡った。代わりに行くなんて向こうは平気なのか、そもそも本当は部屋でゲームをしていたいんじゃないだろうか、そもそも今日説教したばかりで怖がられていないだろうか、出会い頭に「ひえ」なんて悲鳴をあげられたら死ねる、とにかく色んなことを思った。

 が、どんなことを思っても必ずしも頭の片隅に残されていたのは「他の女の子と玲がデートなんて嫌だ」だった。

 すぐに結論を出した美嘉は、少し恥ずかしそうに頬を染めながらも小声で呟くようにお願いした。

 

「……その、代わって、下さい……」

「うん。もちろん」

 

 唯自身、元よりそのつもりだった。ぶっちゃけ、唯としては玲と出掛けても退屈なだけだから。

 美嘉と出掛けさせるためだけに、向こうにオシャレするようにさりげなく伝えたし、逆に行き先は伝えなかった。

 

「まずはデート先から決めよっか」

「う、うん……」

「何恥ずかしがってんの?」

「う、ううううるさい! 行き先でしょ⁉︎ 決める、決めるよ!」

「頑張ってね」

「う、うん……」

 

 そんな話をしながら、二人で会議を始めた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。