城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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自分に足りないものは他人に補ってもらおう。

 唐突にデートの約束をさせられた翌日の放課後、文化祭会議が終わり次第、僕は可能な限り早歩きで駅に向かった。

 今日も美嘉先輩は車でご帰宅してしまったから一緒には帰れない。これからは、大槻唯さんとのお出掛けのために服を選ばなければならない。おしゃれしてこい、と言われてしまったし。

 そんなわけで、一度家に帰った。うちにある服がオシャレなのか見るためだ。

 そもそも、オシャレって何なのかよく分からない。服は自分で買ってるけど、その時に安くて流行ってるのをテキトーに選んでるだけだし、それはきっとオシャレではないんだろう。

 そのため、とりあえず私服を着て服屋に出かけることにした。それで他の男性の人の私服を見て自分のと見比べてオシャレかを決める、そういうゲームだ。

 そんなわけで、さっさと帰宅して部屋に戻った。

 

「ただいまー」

「あら、おかえりなさい」

 

 あ、今日は母さんいるんだ。仕事だと思ってた。

 慌てて自室に入って着替えた。とりあえず、ゲームのキャラを参考にして変じゃないように服を選ぶ。

 参考はもちろん、僕のpso2のキャラだ。格好良さは私服っぽい服なのに武器を持ってる辺りから出ると思ってる僕は、オンゲのキャラはみんな私服にしてる。

 コーデカタログに載せるとみんな「いいね」をしてくれるし、それなりにセンスはある……と思う。まぁ、多分思い上がりだけど。

 着替えを終えると、部屋を出て玄関に向かった。

 

「あら、出掛けるの?」

 

 母さんが顔を出した。

 

「うん、少しその辺の○井見てくる」

「そう……それにしても、あなた変わったわね」

「へっ? 何が?」

「前は一人でも外に出るような子じゃなかったのに。最近は結構、出掛けてるじゃない」

 

 ……え、そ、そうかな。そんな自覚はないんだけど……。

 

「じゃ、気を付けてね」

「あ、うん……」

 

 リビングに欠伸しながら戻る母さん。僕もせっせと靴を履いて家を出て、近くのユ○クロに向かった。

 ……そっか、そういえば僕、あまり前までは外とか出ようとしなかったな……。家にゲームがあるから。

 ま、今も用があるから外に良く出るってだけで、用がなければ……いや、でもこの前何となく寂しくてゲーセン行ったような……。

 

「……」

 

 変わった、のかなぁ。変わったとしたら、それは多分、美嘉先輩と関わってからなんだろうけど……。

 ……いや、あまり考えないようにしよう。多分、考えるほど沼にハマるパターンだし。

 しかし、ユ○クロで良いのかな、オシャレって。もう少し良い所に行った方が良い気もするなぁ……。

 でも、ユ○クロとし○むらしか行かないから分からない。誰かに聞きたいけど、質問する勇気なんかない。というか、こちらから連絡を取る勇気がない。

 ……あ、越谷の方にでっかいアウトレットがあったな。マサラタウンみたいな名前の大型ショッピングモール。あそこなら色々良い服屋があるかもしれない。

 そう決めて、一人ででっかいアウトレットに来た。周りのお客さんはみんな恋人同士、僕だけソロだが、そんなの別に何も問題ない。最近始まったフォ○トナイトってTPSゲームではソロでスクワッドに参加して暴れてるから。

 えーっと、メンズ服は……あまり良く分からないからテキトーなお店に入ろう。

 とりあえず一番近くにあった服屋に入った。中は黄色とピンクメインのお店で、服もこれからの季節に備えてかモコモコしたものが多い。

 しかし、どんな服が良いのか分からない以上は、やはり下手に手出しはできないし、それ以前に僕の中で一つの懸念が芽生えた。

 

 ーーーここ、レディースの店じゃね?

 

 そんな時だった。

 

「何か、お探しですか?」

「へっ?」

 

 店員さんが声をかけてくれた。声をかけて来たってことは、一応レディースのお店じゃないってことだよね……?

 大丈夫、これでも美嘉先輩と一ヶ月も一緒にいたんだ、ちゃんと会話できる……!

 

「は、はい!」

「どういったご洋服をお探しですか?」

「え、えっと……! よく、わからなくて……日曜日に、出掛けるのでっ……その、恥ずかしくないような……」

「あら、そうですか。デートですか?」

「は、はい……」

「それでは、気合い入れなければなりませんね」

 

 おお……は、話せてる! 話せてるよ僕! 割と社交性というものが身について来……!

 

「その男の子とうまく行くと良いですね」

「……はい?」

「いえ、ですからお相手の方と上手くいくとと」

 

 ……今、男の子が相手って言った? あれ? これもしかして……。

 

「それでは、ご案内させていただきます。お客様は女性の中では身長が高い方ですので、こちらのワンピースなどでしたら大人っぽい雰囲気が出せると思いますよ」

 

 ……僕、女の子だと思われてる……? え、嘘でしょ? そんなことあんの? そこまで女の子に見える?

 今日だって、男の子っぽい格好して来たのに。ネットで見かけた「ボーイッシュ」とやらの格好して来たんだけどな……。……あれ? ちょっと待って? ボーイッシュな格好ってメンズ服で使う言葉じゃなくか?

 ……てことは、ボーイッシュって時点で僕が購入した服はレディース服になってしまうんじゃ……。

 

「もしくは、こちらのシャツとスカートを組み合わせればワンピースっぽく……お客様⁉︎」

「〜〜〜っ……」

 

 ……僕は、無意識に女装をしてたってわけか……。何それ、今まで僕はどれだけの生き恥を晒して来たんだ……!

 

「お、お客様? 顔色が優れないようでしたら……」

「〜〜〜っ、し、失礼しま」

 

 走って逃げようとしたところで、ガッと腕を掴まれた。店員さんかと思ったが違った、神谷さんだった。

 

「オイ、どこ行ってたんだよ」

「へっ?」

「すみません、こいつ、あたしの連れなんです」

「あら、そうで……か、神谷奈緒さん⁉︎」

「すみません、失礼します」

 

 いつになく……いや、神谷さんはいつも礼儀正しいか。僕の手を引いて戦線を離脱した。

 店から出て、アウトレットのエスカレーター付近のソファーに座った。

 隣に腰を下ろした神谷さんはジト目で僕を睨んだ。

 

「……何してたんだよ、お前」

「へっ?」

「あの店でだよ。レディースの店だぞあそこ」

 

 ……あ、や、やっぱりそうなんだ……。神谷さんは口が硬そうだから周りにバラすようなことはしないだろうけど、それでも何となくショックだ。

 

「はぁ……やっぱりレディース、でしたか……」

「え、知らずに入ったのか?」

「は、はい……」

「というか、なんで服屋に?」

「……その、大槻唯さんから……と、突然……デートに、誘われて……」

「あ〜……(察し)」

「? な、なんですか?」

「いや、何でもない」

 

 ……なんだろ。何か変だったかな……。いや、それよりも、僕には相談しなければならないことがある。

 

「……あの、神谷さん」

「なんだ?」

「僕の、私服って……その……女装ですか?」

「はっ?」

「あ、ですから、えっと……ボーイッシュな女の子みたい、ですか……?」

 

 聞くと、まじまじと僕を眺める神谷さん。聞いといてなんだが、とても恥ずかしいのは我慢するしかないんだよね。

 しばらく見られた後、神谷さんは顎に手を当てて僕からサッと目を逸らした。

 

「……まぁ、見ようによっては」

「……つまり、僕は今まで恥ずかしげもなく女装をして歩いてたんですね……」

「わ、わー! 落ち着けって宮崎! そんな、似合ってないわけじゃないから! ていうか似合い過ぎてるから泣くなよ!」

「泣いてはないです……」

 

 ちょっと目頭が熱くなって、鼻につぅーんと来て、目から汗が流れそうになってるだけです……。

 

「……まぁ、落ち着けって。とりあえず、似合ってるから」

「嬉しくないです……」

 

 なんで死体蹴りするのこの人……。

 

「それで、美嘉さ……唯さんとのデートに何着ていくか買いに来たのか」

「は、はい……」

「……」

 

 顎に手を当てて考える神谷さん。協力してもらった方が良い、よね……。でも、迷惑じゃないかな……神谷さんだって何かしら用があってここに来てるんだろうし……。

 そう思って、チラッと隣の神谷さんを見た。

 

 「……美嘉さん的には今の方が良いのか……? いや、でもこの前は男らしいとこ見せたらしいし……しかし、美嘉さんの好みに合わせた方が……いやでも、本人の気持ちも汲まないと……というかそもそも、あたしと二人でいる現状がマズイのでは……」

 

 ……何かブツブツ呟いてる神谷さんの手元の袋を見ると、アニメのフィギュアと思われる箱が入っていた。

 色々と察してしまったので目を離してると「よしっ」と神谷さんが立ち上がった。

 

「宮崎、どんな服が着たい?」

「えっ?」

「結局、お金を払うのは宮崎だし、宮崎の服を買うんだ。宮崎が着たい服を買うのが一番だろ」

「で、でも……」

「どんな服があるのか分からないんだろ? だから、外見のイメージだけでも良い。可愛いとかカッコ良いとか、そんなザックリしたので良い」

 

 ……なんで可愛いを先に出した? とか言わない方が良いんですよね。細かい所が気になるのはゲーマーの悪い癖だ。

 

「……手伝って、くれるんですか?」

「ああ。その格好じゃ、ほっとくと店に入らなくても店員に捕まりそうだし」

 

 そんなに女の子に……いや、もう何も言うまい。メガネをかければそれもなんとかなるんだろうけど……。

 しかし、まさかそちらから手伝うと言ってくれるとは……。それなら、お言葉に甘えよう。多分だけど神谷さんは買い物は終わってるし。

 服装がカッコ良いか可愛いか、か……。しかし、本人は良いと言ってくれたものの、抽象的過ぎるのも失礼だよなぁ。

 実はこんな服が着てみたい、というのはあるにはある。言うのは恥ずかしいけど……でも言わないと。じゃないと協力してもらえない。

 

「その……日本刀を、腰に刺してると……不自然にカッコ良い服が良い、です……」

「……」

 

 ふざけてるわけじゃない。ただ、そういう……pso2で私服なのにブレイバーの刀を持ってるキャラが好きなだけだ。

 ……でも、こんなこと言ったらふざけてる、とか思われちゃうかな……。

 

「分かるわ!」

「えっ」

 

 唐突に目を輝かせて、僕の手を両手で握ってきた。

 

「スッゲェ分かる! あれだろ? ローとかドモンとかだろ? 分かるわー、超分かるわー」

「ろ、ロー? キックですか?」

「おk、要するに刀を持ってても違和感あってカッコ良い服だな、あたしに任せろ!」

 

 突然、テンションが上がった神谷さんに引き摺られて、服屋を巡った。

 

 ×××

 

 無事に私服を購入した。お世話になったので、僕の奢りで神谷さんと夕食を食べていた。

 こうして見てると、神谷さんって飯とか本当に美味そうに食べるんだなぁ。幸せそうに頬に食べ物を詰めて咀嚼してる、その顔を見てると何だか可愛い、リスみたい、なんて思ってしまう。

 そんな事を考えてると、見覚えのある髪がヒョコヒョコ揺れて歩いてるのが見えた。

 ジッと見ると、男の人と一緒に歩いている。

 

「だーかーらー、男子高校生が好きそうな服!」

「俺に聞くなよ! こんなとこ文香に見られたら……!」

「あんた男子高校生でしょ⁉︎ そのくらい分かってよ!」

「テメェ俺に友達いないのわかってんだろ⁉︎」

「おしゃれもしないから出来ないんでしょ⁉︎」

「あーもうテメェこの野郎本当に……!」

 

 会話は聞こえないけど、なんだか楽しそうに見える。

 ……あれ、なんだろ。この感じ。なんだか今、とても嫌な気分になった気がする……。なんでだろ。美嘉先輩にだって、男の友達くらいいるだろうに。

 ……何? この不愉快さは。

 

「宮崎?」

「っ」

 

 神谷さんから心配そうな顔で声がかけられた。

 

「どうした? なんか辛そうな顔してるけど……体調悪い?」

「っ、い、いえ……」

「無理するなよ? もし食べれなかったらあたしが食べるからな?」

 

 ……それ自分が食べたいだけだよね。

 とりあえず、心配かけさせないために、美嘉先輩の方は見ないで食事を進めた。

 

 


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