城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

24 / 35
足元注意。

 ボウリングのルールを教わり、ようやくゲーム開始。ボールを持って、まずは僕から転がす番だ。

 投げ方は周りの人の見よう見まね。とりあえず、線を踏まないように気をつけて転がす。

 ……重たいなぁ、これ。明日絶対筋肉痛なんですけど。

 指を穴に突っ込んで、腕を控えめに振って転がしてみた。ボールはゴロンゴロンとのんびりと転がり、徐々に横に逸れていった。

 で、隣のガーターレーンに落ちた。

 

「うん、まぁ予想通りかな」

 

 後ろの美嘉先輩から冷たい声が聞こえた。うるさいな、下手で悪かったな。

 しかし、まっすぐ転がすのは基本として、他にも何かコツがあるはずだ。例えば、レーン上にある三角の目印。これはどういう意味なのだろうか?

 考えられるのは、あれに沿ってまっすぐ転がせってとこだろう。もし、そうだとしたら……。

 

「……試そう」

 

 小さく呟き、真っ直ぐと三角の印を見据える。で、腕を出来る限り平行に振った。

 球は相変わらずのろのろした弾道で真っ直ぐと転がる。が、今回は横に逸れるようなことはなかった。

 ボーリングのピンに当たり、10人編成の目標はパタパタと散文的に倒れていく。

 が、7本倒したあたりでピタリと止まった。全滅させるには勢いが足りなかった。

 

「おお〜、やるじゃん」

「……は、はい……」

「でも、まだまだだね。美嘉ちゃんがお手本を見せてあげよう」

「へっ?」

 

 ニヤリと微笑んだ美嘉先輩は、ボールを持つとレーンの前に立った。

 不敵な笑みを浮かべたまま、1、2歩ほど助走をつけて、ボールを放った。手から離す直前、手首を若干捻って。

 ボールはレーンの上で鮮やかな曲線を描き、吸い込まれるかの如くピンを全て吹っ飛ばした。

 

「やりっ★ いえーい!」

 

 嬉しそうにガッツポーズしたあと、僕の前に両手を出してきた。えーっと……何かな、ボクシングのワンツー?

 

「ハイタッチだよ!」

 

 あ、なるほど。遅れて手を合わせると、ニヒッと微笑んでドヤ顔で席に座った。

 しかし、ドヤ顔する理由も分かる。だってカーブでストライクなんて凄いもん。高校生なら当たり前なのかな?

 

「す、すごい、ですね……」

「でしょ? 去年や一昨年はよく行ってたからねー」

 

 しかし、カーブか……。ひねって回転を加えてるわけだな……。

 僕に出来るかな……。いや、まぁやってみた方が良いだろう。ボールを持って立ち上がった僕の後ろから、美嘉先輩から声がかかった。

 

「カーブ投げるつもりならやめておきなよ」

 

 ビクッと僕の肩が震え上がる。

 

「多分、手首おかしくしてゲーム出来なくなるよ」

「……すみません」

 

 やめておいた。

 さっきのコツを活かして、再び投球。レーン上の三角のマークは全部で7本ある。多分だけど、真ん中の三角の上を通せば良いのだろう。

 それが安パイ……だと思ったのだが、投げたボールは正面の8本を倒したが、両サイドの二本を残してしまった。これじゃスペアは狙えない。

 

「……あら?」

「あー、やっぱそうなるかー」

 

 やっぱ? どういうことだ?

 

「威力が足りないと真ん中は全部倒れないんだよ。それなら、真ん中より若干、右か左かのどっちかを狙った方が良いよ」

 

 ……なるほど、そういうものか? 確かにそうすればピンが残っても両サイドに残るようなことはない。

 

「ま、とりあえず今は真っ直ぐ投げるしかないよ」

「は、はい……」

 

 とりあえず、左利きなので左のピンを狙うことにした。まっすぐ見据えるはピン……ではなく、左サイドのレーンの三角。

 

「ほっ」

 

 しかし、ポールは徐々に、少しずつ右に逸れ、真ん中をゴールインした。

 ……うん、まあそんな簡単に行かないよね。まだ始めたばかりだし慣れてない。

 

「プフッ……」

 

 だから美嘉先輩、笑わないでください。とても恥ずかしいんだから。

 

「やれやれ、玲くんはホント、ダメダメだなぁ」

 

 うぐっ……ゲームでダメとか言われると悔しい……。クソ、いつもと逆だ、これじゃあ……。

 悔しそうにしてるのが顔に出ていたのか、美嘉先輩はなおさら楽しそうな顔で、僕の頭をポンポンと叩いた。

 

「そうむくれないの。最初は誰でも上手くいかないんだから。ゲームでもそうでしょ?」

「うう……」

 

 いつになく楽しそうに皮肉を混ぜて来るな……。言い返したいけど、言葉が浮かばない。コミュ障は良い言葉選びが苦手な生き物だ。

 

「今からお手本を見せてあげるから、よーく見ておくようにね?」

 

 ウィンクしながら言うと、僕のより重いボールを持ち上げ、腰をかがめて胸前でボールを構える。

 その様子を眺めながら、後ろのベンチに座った。

 美嘉先輩は勢いよく踏み出すと、腕を回転させながら振り下ろした。さっきとは逆方向に曲がったボールは、見事にピンの右側から突き刺さるようにねじ込まれ、ストライクを取った。

 

「っしゃ、イェーイ!」

 

 さっきと同じようにガッツポーズしてから、微笑みながら僕にハイタッチを求めて来る美嘉先輩。

 が、レーンと椅子の間は段差がある。油断していたのか、そこに見事に躓いた美嘉先輩は、前のめりに大きく倒れ込んだ。

 

「きゃっ……!」

「あっ、あぶなっ……!」

 

 慌てて僕も支えようと立ち上がり、美嘉先輩の上半身を抱き抱えた。

 しかし、僕も咄嗟だったので姿勢を崩したままだ。美嘉先輩の勢いに押され、尻餅をついた。

 

「ってぇ……!」

 

 背中を椅子に強打し、肩甲骨がアホみたいにズキズキする。

 薄っすらと目を開けると、誰もいない。美嘉先輩の顔は僕の顔の横にあるようだ。

 しかし、代わりに視界に入ったのは美嘉先輩の背中をガッツリ抱きしめている僕の両手だった。

 ……あれ? てことは、僕の胸に当たってるやけに柔らかい感触って、美嘉先輩の胸、だったり……?

 

「〜〜〜っ⁉︎」

 

 慌てて両手を離すと、美嘉先輩も慌てて僕から離れた。僕なんかに抱き抱えられ、さぞ不機嫌……かと思ったら、顔を真っ赤にして両手で頬を抑えている。

 

「ーっ、ーっ……!」

「……」

 

 気まずい雰囲気が場を包む。僕も美嘉先輩も何も言わず、その場でただドキドキしていた。

 ……しかし、美嘉先輩もドキドキするなんて意外だな……。性経験は無いとしても、男の人と付き合ったことくらいあると思ってたけど……。

 そんな事を考えながら美嘉先輩を見てると、膝から血が出てるのに気づいた。

 

「っ、あ、あのっ……絆創膏買って来ますねっ」

「へっ? あっ……」

 

 逃げるように僕はその場から立ち去った。多分だけど、お互いに落ち着く時間が必要なはずだ。

 特に、僕なんか今だに心臓がバックバクで、美嘉先輩の柔らかかった胸の感触が未だに消えていない。うー……今夜、眠れるかなぁ。

 運良く、売店に絆創膏が売っていたため、購入して席に戻った。二、三回ほど深呼吸をして呼吸を整え、頭の中で銀魂の寿限無を唱え続けた。エリザベスを取ってから、銀魂のアニメにハマった。

 

「……よしっ」

 

 大丈夫だ。いざ、自分の席へ……!

 席に戻ると、美嘉先輩は顔を真っ赤にしたまま、両膝に両肘をついて、両手を組んでその上に顎を置き、何かブツブツ呟いていた。

 

「……れ、玲くんに、抱き着い……いや、わざとではなく事故……だとしても抱き着いた事実に変わりは……この洋服は洗濯しないとして……大丈夫かな、エッチな子って思われなかったかな……」

 

 ……何をぶつぶつ言ってるのか聞こえないけど、そんなにショックだったのかなぁ、僕と身体が密着したこと……。

 どうしよう、なんかショックだなぁ……。ゲーマーとはいえ割とキレイ好きだから、身体も頭もちゃんと洗ってるし、洋服だって洗濯してるんだけどな……。

 しかし、ショックを受けている場合ではない。ちゃんとまずは絆創膏を渡さないと。

 

「……あの、先輩」

「……大丈夫、基本的には事故のはず……にしても玲くん良い香りしたな……シャンプーやボディーソープは何を使って……いや今はそれどころじゃなくて……もう少し嗅いでいたかった……」

「……先輩?」

「ひゃうっ!」

「はうっ⁉︎」

 

 声を掛けると突然、大声を出されて僕も変な声を出してしまった。

 胸に手を当てながら美嘉先輩は僕の方を見上げ、緊張してるような強面で目を見開いて聞いてきた。

 

「あ、れ、玲くん……。何、どうしたの……?」

「い、いえ……ば、絆創膏を……」

「あ、う、うん……。ありがと……。いくらだった?」

「や、えっと……お金は、結構ですから……」

「へ? そ、そう……?」

「は、はい……」

「な、なら……あり、がとう……」

 

 ……あれれー? おっかしいぞー? 空気をリセットするために一度、別々になったのに何もリセットされてないぞー?

 というか、美嘉先輩が予想以上にダメージを受けている。……やっぱり、臭かったのかな。

 

「……あの、せ、先輩……」

「何……?」

 

 絆創膏を貼りながらだからか、顔は上げない。しかし、声はちゃんとはっきりしてて、僕が呼んだことを意識してくれている。これなら質問しても答えてくれるだろう。

 

「あの……僕、臭い、ですか……?」

「……んっ?」

 

 少し、核心に迫りすぎてたかな……。でも、コミュ障である僕には遠回しな聞き方なんて分からない。

 気を使われるかもしれないが、それでも聞いておきたかった。迷惑に思われていたのなら、これからは僕の方が気を使いたい。

 すると、美嘉先輩は大慌てで首を横に振った。

 

「い……いやいやいや! そんなことないよ! 超良い匂いだった! どうやったらそんな匂いをカラダから発せるのか気になったくらいで……! む、むしろもっと嗅いでたかった、というか……!」

 

 そこまで言って、美嘉先輩はハッとして、僕はグハッとした。気を使われてないのは流石にわかった。

 だけど、その……何? 匂いをずっと嗅いでたかった、とか言われると……ちょっと恥ずかしいんですけど……。

 顔がかなり熱くて、頭がフラフラする。鏡を見なくても真っ赤になってるのが分かった。

 

「……」

「……」

 

 再び沈黙。僕も美嘉先輩も何も話さない。

 が、やがて美嘉先輩が打開策を見つけたようにボウリングのレーンを指差した。

 

「そ、そうだ! 早くボウリングしようよ! 玲くんの番だよ!」

「っ、そ、そう、ですね……! で、では……!」

 

 そうだ、とりあえず汗を流そう。それでこの空気はなんとかなってくれるかもしれない。

 僕は慌ててボールを持ってレーンに向かい、ボウリングを再開しようとした時だ。

 突然、辺りが真っ暗になった。何事? と天井を見上げると、アナウンスが入った。

 

『ムーンライトストライクゲームのお時間です。ただいまから投球されるお客様にスペシャルイベントです。この一投で男性の場合はストライク、女性の場合は9本以上、ピンを倒したお客様に、ラウ○ド1特製のオリジナルピンをプレゼント致します』

 

 マジでか! いや、さほど欲しくないけど。でも、ゲーマーとしてロマンへの理解はあるつもりだ。こういうのはノリが必要なんだろう。

 

「おー、ラッキーじゃん! 頑張れ、玲くん!」

 

 美嘉先輩も復活したようで、僕の背中を叩いた。直後、ズキっと背中が痛む。さっき、椅子に強打した時か……。

 大丈夫かな、投げられるかな……。まぁ、やるだけやってみよう。

 

「玲くん、真ん中よりやや横ね。真っ直ぐ投げるんだよ」

「は、はい……!」

 

 アドバイスをもらった直後、良いタイミングでアナウンスが響いた。

 

『では、投球を開始して下さい』

 

 深呼吸して、狙いを定める。……よし、見えた。FPSで、SRの引き金を引くときに似た感覚だ。

 ボールを放るように投球した。真っ直ぐと確かな直線でピンに向かっていった。

 見事にボールは狙い通りの箇所に直撃し、全てのピンを倒した。

 

「……あっ、や、やった……! せ、先輩!」

「うっそ……ほ、ホントにできんの……?」

 

 なんだ、ボウリング簡単じゃん。もう掴んだわ。

 二人でハイタッチすると、店員さんがピンを持ってきてくれた。箱を開けると、木製のピンが入っていた。

 

「うわ、すごいですね……」

「うん……。あたしもこれ初めて見た……」

「へっ? 取ったことないんですか?」

「うん。あたし、割とこういうの取るの苦手でさー」

 

 ……それは意外だ。てっきり、本番に強いタイプだと思ってた。まぁ、それならちょうど良いかも。

 受け取った箱を、美嘉先輩に差し出した。

 

「あの……よかったら、これ……」

「へっ?」

「僕、大丈夫ですから」

「い、良いの……?」

「はい」

「わ、あ、ありがと……」

 

 受け取ると、鞄の中にしまう美嘉先輩。うん、良かった。多分、喜んでもらえた、よね?

 次は美嘉先輩の番になり、そのまま何とか空気は戻ったけど、美嘉先輩の調子は何故か崩れていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。