城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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それは羨ましいってことだよ。

 オラクル。四種族によって構成されている、惑星間渡航船団。活動範囲は数多くの銀河にまで及び、新たな惑星を見つけては調査隊として「アークス」が派遣され、調査と交流を図る組織だ。

 僕はその四種族のうちの一つ、デューマンだ。角とオッドアイが特徴で、火力重視のパワータイプ。

 クラスはブレイバーで、カタナとバレットボウを使い分け、遠近距離共に優れた職業だ。

 正直に言うと、ブレイバー以外も全部、レベルはカンストしているのだが、やはり日本人としてカッコ良いのはカタナだろう。ア○ンジャーズを見てからは弓にもハマった。

 現在、ゲートエリア。近いうちに始まる時間イベントのため、複数のプレイヤーが待機している中、僕もそのうちの一人でクラスカウンター前のベンチに腰をかけていた。

 周りのプレイヤーを見ると、みんなパーティを組み、人によっては相手と会話したりしているようで、チャットの文字がチラチラと見える。

 

 シフォンケーキ:Te50『セルスリットくん、また文化祭の準備サボったでしょ⁉︎』

 セルスリット:Br75『おい、身バレ情報漏出やめてくんない?』

 

 ブリュンヒルデ:Fo58『闇に飲まれよ!』

 セカイに拒絶されし慟哭:Su57『ああ、お疲れ。ギリギリ間に合って良かったな』

 

 アーニャ:Hu32『美波、これから何が始まりますか?』

 ミナミ:Te52『イベントみたいだよ』

 ミク:Br44『アーニャちゃん、名前を入力するときはなるべく漢字はやめた方が良いにゃ』

 ロック:Bo『ミクちゃんも文字入力の時くらいその語尾やめた方が良いよ』

 

 渋谷:Br75『やっとレベルカンストした……』

 上野:Hu75『お願いだからお前カウンター出来るようになって。どうやったらあそこまで絶妙にタイミング外せるの? ムーンの消費が半端じゃないんだけど』

 

 と、パーティごとに何やら話している。そういうのはパーティチャットでやって下さいね。

 しかし、こうして見てると、やっぱりブレイバーは人気だなぁ。まぁ、強いしカウンターさえできれば適当にやってても火力出るし、弓は弓で平気で暴れん坊将軍だし、日本人なら惚れない理由がないからね。

 

 シューコちゃん:Fo47『おお、さっきので☆10泥してた』

 Tulip:75『あら、おめでとう』

 

 ……なんか、少し羨ましいなぁ。僕もあんな風にパーティを組んで、レアドロ自慢とかしてみたい。あの辺の人達がリアルでも友達なのか、それとも別に友達ではないのかは知らないが、何だか羨ましく思えてしまう。

 ……僕も、美嘉先輩と……。

 なんて思った時だ。トリトリが幕を開けたので、クエストを受注した。

 

 〜30分後〜

 

 クエストが終わり、アイテム整理を終えた僕は、しばらくゲートエリアでのんびりした。

 やっぱり、ハロウィンとかクリスマスとか、季節のイベントはアイテムや経験値ウマいな。今度、美嘉先輩にも教えてあげよう。多分、レベリングもアイテム収集も捗るぞ。

 そんな事を考えながら、のんびりと視界に写ってる風景を眺める。

 他のパーティの人達は、その後も何か色々とやりたいみたいで、キャンプシップに向かっていく。

 ……なんていうか、今日は僕もうやめようかな。なんだか気乗りしないや。

 そんなわけで、ログアウトした。

 

 ×××

 

 翌日、どうにもぷそに身が入らず、なんか最近はとてもソロでゲームをやっても楽しくない。

 なんでだろう、何かいつもと違う。気が付けば美嘉先輩のことばかり考えてる気がするな。

 それに、美嘉先輩と一緒にいると心臓がうるさくなるし……最近はその所為で眠れないことだってある。

 

「……はぁ」

「どうしたの?」

「ーっ⁉︎」

 

 現在、登校中。電車から降りて学校に向かって歩きながらため息をつくと、後ろから悩みのタネに声を掛けられた。

 

「せ、先輩……⁉︎」

「何かあったの?」

 

 いや、あなたのことで悩んでたんだけど……。

 まだ痴漢の時のことが怖かったようで、美嘉先輩は車で駅まで来ている。にしても、僕が朝から出てくるタイミングで毎回、出くわすんだよなぁ……。

 

「い、いえ、なんでもないですよ……?」

「ほんとに? なんか悩んでない?」

「ぜ、全然! あ、あはは……」

 

 顔を引きつらせながら首を振った。そんな悩みなんて大袈裟なものじゃないし。

 

「なら良いけど。さ、学校行こっか」

 

 美嘉先輩が僕に腕を絡ませてきて、二人で腕を組んだ。もう何度もこんなシチュエーションになってるのにいまだに慣れない。僕みたいに女性と未だに目も合わされられない男には、やっぱり慣れるのにもうしばらく掛かる。

 ……でも、なんだろう。こうして美嘉先輩にくっ付いていられると、何となく心地良いというか気持ち良いというか……心臓がうるさいけど安心する。

 いや、すごい矛盾に聞こえるかもしれないけど、実際そうなんだって。なんだろ、この感覚。……幸福感?

 

「……あの、玲くん」

「なんですか?」

「その……あまりしがみ付かれると……恥ずかしいから……」

「……へっ?」

 

 言われて気づいた。いつの間にか、美嘉先輩の腕に抱きついてしまっていた。

 自覚し、慌てて跳びのき、足を躓かせ、尻餅をつきながらころがり、ようやく止まった。

 

「ごっ、ごごっ……ごめんなさい……!」

「い、いやそんな転ぶほど謝らなくても……。ほら、立てる?」

 

 手を差し出してくれて、ありがたく借りた。立ち上がり「すみません」と謝り、手を離そうとしたが、美嘉先輩の方が離さない。

 え? と思った時には、自分のフルパワーを以ってしても振りほどけない強さで握られている。

 

「で、どうしてしがみついてきたの?」

「……」

 

 ……意地の悪い笑みを浮かべられていた。

 

「もしかして、美嘉先輩に甘えたいーとか思ってたのかな?」

「ーっ……!」

 

 ……違う、と思う。実際、なんであんな行動に出たのかわからないし、甘えたいとかではないはずだ。

 でも、なんか自分でも分かっていない本当の理由を知られる方が恥ずかしい気がしている。

 ……うん。そういうことにしてしまおう。

 

「は、はい……その、恥ずかしながら……」

「え、ほ、本当に……?」

「は、はい……」

 

 頷くと、自分で言ったくせに美嘉先輩は頬を赤らめた。

 で、何故か怒ったように頬を膨らませると、僕の眉間に手刀をお見舞いする。

 

「痛っ⁉︎」

「も、もう! いいから行くよ!」

「は、はい……?」

 

 怒られてしまったが、とりあえず学校に向かった。

 

 ×××

 

 文化祭の準備は着実に進み、禁止になった僕のメイド服は封印され、再びボッチに舞い戻った。メイド服着ないなら僕に用はないようで、ほんと分かりやすくて助かる。

 まぁ、僕自身、コミュニケーション苦手だし、女装したいわけじゃないし、助かるには助かる。

 ……さて、暇だしどうしようかな。下手にサボってる感を出すのはいじめの原因になる気がするし、かといって参加しに声を掛ける勇気はない。

 

「……はぁ」

 

 まぁ、仕方ないよね。図書室に行って料理本でも漁ってれば、それっぽく見えるだろうと踏んだ結果だ。

 教室を出て、のんびりと図書室に向かう。あ、そうだ。ついでに胸が痛くなる事についても調べておこう。ナンタラの家庭の医学とかみたいに、些細な痛みがとんでもない病に繋がってるかもしれないし。

 図書室に到着し、まずはカモフラ用の料理本を探す。それを手に取ってから、胸の痛みについて探し始めた。

 えーっと……あ、ちょうど良い本があった。

 タイトルは「胸の痛みから始まる病」。なんだこれ、ストレート過ぎるしピンポイント過ぎる。

 

「……」

 

 えーっと……え、こんなにあるの?

 まず、胸部には、肺、胸膜、心臓、骨、神経、筋肉、一部の消化器臓器が存在し、様々な原因が考えられる。その時点でだいぶ怖い。

 それぞれの場所に様々な病の原因があるし、どの病気も見た限りヤバい。聞き覚えのある「肺炎」ですら死に至る事もあるそうだ。

 ヤバい……僕、死ぬかも。病院行こうかな……。

 そんな事を考えてる時だ。図書室の一席から女子グループの声が聞こえてきた。

 

「で、何? 話って」

「ああ、えーっとさ……その、サッカー部の飯島くん。いるでしょ?」

「いるね」

「最近さ、その……飯島くんといると、胸がドキドキして……なんか、痛いんだよね。常に飯島くんのこと考えちゃってるし……」

 

 ! 僕と同じ症状だ……。この本、貸してあげたいけど、僕にそんなことで知らない人に話しかける勇気はない。

 

「あんたそれ完全にほの字じゃん」

「やっぱそうかなー」

 

 鼻血? いきなり何言ってるんだろ、あの人。

 

「うん。絶対そうだと思う」

「うわあ……これが恋かぁ……」

「あんたこれ初恋じゃない?」

「そうかもー。マジ恥ずかしいんだけどー」

 

 え……は、初恋……? この症状が?

 僕の頬に冷たい汗が流れ、冷静にその場で分析してみることにした。

 ・美嘉先輩と一緒にいるとドキドキするように胸が痛む。

 ・常に美嘉先輩のことを考えてしまう。

 ・今朝は美嘉先輩と腕を組んでいて、何やら幸福感に似た何かを感じた。

 ……完全に恋だよ、これ。これで恋じゃないと言う方が無理だ。ていうか、そろそろ良いだろうか?

 

「は、はわわわわ……!」

 

 口の奥の喉のの下の肺から供給されている全血管を通して身体中に顔から火が出るほどの恥ずかしさが満遍なく充満し、やがて真っ赤になる形で身体が赤く燃え上がり、その赤みが逆流して血液と共に血管を通り全身を巡って肺に戻り、喉を通って口から恥ずかしい声が漏れ出した。

 や、ヤバいよ僕は……なんて身の程知らずな感情を……! 少し構ってもらったくらいで、女の人を好きになってしまうなんて……!

 

「し、死にたい……」

 

 今すぐ光速に近いテッセン移動で帰宅したい。もう嫌だ……こんな自分に嫌気がさす……。

 いや、人を好きになることが悪いことと言うわけじゃないけど……でも、流石にアイドルでもあり、クラスの中心人物でもある城ヶ崎美嘉を好きになるなんて……それはあまりにも……。

 せめて、僕に何か一つでも取り柄があれば……いや、にしても無いよ。

 あーもうっ、それでも諦めたくないと思ってしまってる自分がいるのが嫌だ。

 

「はぁ……」

 

 どうしたら良いのかなぁ……。せめて、他にもアイドルと付き合ってるって男の子がいれば僕も勇気が出ると思うんだけど……。

 

「……」

 

 この事は、僕の心のうちにしまっておくとしよう。他の人に見られたら恥ずかしいし。

 そう決めて、とりあえず図書室を出て行った。

 

 


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