城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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突然の死。

『おっ、おおお〜⁉︎』

 

 城ヶ崎さんが感嘆の声を上げた。僕の控えめな指導があってか、G級のナルガクルガをタイマンで倒せる程度に強くなったからだと思う。

 一応、僕も一緒に行ってはいるものの、ほとんど手は出していない。精々、ナルガクルガ以外のモンスターを狩り尽くしていたくらいかな。

 

『やった、やった!』

「お、おめでとうございます……」

 

 バルファルクを倒す予定だったと思うんだけど……ま、まぁ、ナルガクルガを倒さないでバルファルクを倒せるわけがないし、良かったと言えば良いよね。

 

『いやー、やればやれるものだねっ。今まで加蓮とか卯月とか奈緒とかと四人で袋叩きして何とか勝ってたからなんだか嬉しいわ〜』

 

 四人で袋叩きで今までクリアしてたんだ……。ある意味すごいな……。というか、それはそれで楽しそうな気もする。足りない所を補える、みたいな? まぁ、僕はコミュニケーション取れないから結局無理だけど。

 

『これならバルファルクも余裕じゃん?』

 

 ……あ、こきはじめた……。バルファルクはそんな甘くないよ……。僕ですら初見1乙かましたのに……。

 ふと時間を見ると、もう0時を回っている。かなりの時間やっていたようだ。ナルガクルガの装備は揃うだろうし、いつかは倒せると思う。

 だけど……何時間掛かるか分からない。下手したら明日まで眠れないんだよなぁ……。

 

『さて、行こうか! 決戦へ!』

「い、いえ……あの、もう日付が……」

『ん? 日付変わるまでやる?』

「そ、そうではなく……」

 

 てかもう日付変わってるし。

 

「その……日付はもう……」

『えっ?』

 

 恐る恐る時計を見る城ヶ崎さん。その直後だ。別の声が電話の向こうから聞こえてきた。

 

『お姉ちゃん? お母さんが、お姉ちゃんの分のご飯はお父さんにあげちゃったから晩御飯自分で用意して、だって』

『えっ? ちょっ、莉嘉? なんで呼んでくれなかったの……?』

『呼んだけど返事なかったんだもん……てか、あたしもう寝るからね』

『あ、ちょっ……』

 

 バタン、と扉が閉まられる音がした。

 ……あ、まずい。これ、もしかして僕の所為、かな……。僕はいつもご飯は家族各々で済ませることになってるから平気なんだけど……。

 

「あの……すみません……」

『ううん……あたしが夢中になり過ぎて時間見てなかったのが悪いから……』

 

 うっ、なんだか申し訳ないな……。途中で言ってあげたほうが良かったのかな……。

 

『ごめん、今日はもう抜けるね』

「あ、はい……」

『じゃ、また今度ね』

「お、おやすみなさい……」

 

 心の中で合掌しながら通話を切った。ゲームは夢中になりすぎると何もかも失うからね……。

 さて、僕も寝ようかな。ご飯は……買い置きしておいたカップラーメンで良いかな。

 伸びをしながら部屋を出て一階に降りた。しかし、日付変わるまでゲームしたのは久々だな……。最近はモンハン新作買うためにお金貯めてて新しいゲーム持ってないし、することないからあまりこの時間までゲームすることはなかった。

 ……あー、僕も時計見るまで時間気付かなかったのは不覚だな、反省しないと。ゲームやるときは必ず時計見るようにしてたのに。

 しかし、そのクセは中学の時からつけてたはずなのに……なんで今更になって忘れたんだろ。

 もしかして……僕自身も楽しんでた、のかな……。

 だとしたらこんな感覚久々だな。もしかしたら誰かとゲームやる、というのも楽しいのかもしれない。

 

「……」

 

 そう思った僕は、3○Sを閉じて通話を切ってあるスマホで「会話 コツ」とググり始めた。

 

 ×××

 

 翌朝の月曜日、それはすべての人間を憂鬱にする日。学校が五日間連続である日であり、仕事が五日間連続で存在する日だ。誰もが面倒に思うだろう。

 この憂鬱な日の何が面倒かって、朝起きなければならないことだ。僕はとても朝に弱いので、布団から出ることをとても嫌がってしまう。しかも、今は9月でまだ夏の暑さが残る季節だし、体を起こす事すらかったるい。

 そんな怠さ百パーセントな月曜だが、逆に言えば朝起きてしまえば怠さは感じない。僕的には問題はそこだ。学校に行ったって、僕のやる事は授業を受けてゲームをするくらいだから。あ、水曜日は体育あるから嫌。

 と、いうわけで、今日も身体に鞭打って朝起き、10分ほどぬぼーっとした後に学校に行き、授業を受けて、お昼を食べて、また授業を受けて放課後になった。

 ……ふぅ、疲れた。これが明日からあと4回も続くと思うと気が重いよね……。

 しかも、個人的な話だが、昨日の検索で夜更かしした上に、なんのコツも得られなかったのが怠さに拍車をかけていた。そもそも、少しググった程度でコミュニケーション上手く取れるようになるならこの世にコミュ障なんかいるはずない。

 

「……はぁ」

 

 ため息をついてると帰りのHRが終わり、凝ってもいないのに重く感じる肩を揉みながら立ち上がったときだ。

 

「宮崎くんいますかー?」

 

 教室の入り口からそんな声が聞こえた。このクラスに宮崎という苗字を持つのは僕しかいない。

 つまり、僕が名前を呼ばれたわけで。思わずビクッと肩を震わせて恐る恐る入り口を見ると、城ヶ崎さんが立っていた。

 ……うわあ、なんで来るの……? 別に嫌なわけじゃないけど……。

 

「……あれ?」

「城ヶ崎先輩……?」

「なんでここに……」

「ていうか、宮崎って誰……?」

 

 クラスメートは案の定、ざわめき始めた。というか最後の酷くない? 僕ってクラスに存在認識されてなかったんだ……。

 若干、ショックを受けてると僕を見つけた城ヶ崎さんが大きく手を振ってきた。

 

「あ、いた。宮崎くん!」

 

 あ、まずい。こっちに来そう。目立ちたくないのに……。

 仕方ないので教室に入って来られる前に僕の方から荷物を持って教室を出た。

 

「っ、あ、あの……何か……?」

「今日暇?」

「あ、ひ、暇ですけど……」

「モンハンやらない? 一緒に」

 

 え、わ、わざわざ一緒に……? この前一緒にやったし、それなりに上手くなったから用済みと思ってたんだけど……

 

「今日こそバルファルク倒そう!」

「い、良い、ですけど……」

「じゃ、行こっか」

 

 そう言って二人で教室を出た。……クラスメートの視線が背中に突き刺さっているのを振り払いながら。

 しかし、城ヶ崎さんってつくづくゲームやるようには見えないなぁ……。なんでゲームなんて始めたんだろう。

 ……ちょうど会話も切れたし、こういうので会話は作るものなんじゃないだろうか。でも、もし「彼氏に振られて現実を捨てた」みたいな理由だったら……。

 何より、ゲームを始めるきっかけなんて大抵はロクなことではない。やっぱ聞かない方が良いかも……。

 ……でも、城ヶ崎さん退屈させないかな……。あー、どうしよう、話かけるべきかな……。

 

「玲くん?」

「っ、は、はいっ⁉︎」

「なんかすごい難しい顔してるけど……大丈夫?」

「す、すみません……」

「いや謝らなくても良いけど……それよりさ、聞いてよ。今日ね、あたしお昼にパン買って行ったんだけどさー」

 

 あっ……け、結局向こうから声を掛けさせてしまった……。僕って本当に情けない……。

 また少し自分が嫌いになりながらも「は、はあ……」と相槌を返した。

 

「初めてうちの購買のパン食べたんだけど、アレ……コンビニのパンと同じ感じがしてさー」

「そ、そうですか……?」

「食べたことない?」

「僕は……食堂しか、使わないので……」

「マジ? たまに入れなくない? 席埋まってて」

「……僕は、その……人混みを避けるために、時間をずらしてて……」

「ああ、なるほど。賢いね」

 

 自虐のつもりで言ったら、なんか感心されてしまった。や、まぁ、別に同情されたいわけじゃないけど。

 

「いつも何時頃に食べてるの?」

「だ、大体……13時頃に教室を出てます……」

「ふーん、じゃああたしも明日から一緒に食べて良い?」

「えっ?」

 

 いきなり何を言い出すのかこの人は……。そんな考えが顔に出ていたのか、少し不安そうな顔になって聞いてきた。

 

「ダメ?」

「いえ、ダメではないですけど……その、城ヶ崎さんは、良いんですか……?」

「何が?」

「いえ、その……いつもは、お友達と食べてるのでは……」

「ん? ああ、いいのいいの。別に毎日は来ないから。お弁当忘れた時だけ一緒にって思っただけ」

 

 あ、な、なるほど……。というか、逆に僕の方が自意識過剰過ぎて死ねるな今の……。

 額に手を当てて全力で後悔してると「あっ」と城ヶ崎さんが声を漏らした。

 

「それより、ゲームどこでやろっか」

 

 それ決めてなかったっけ。まぁ、僕は別にどこでも良いけど。

 

「行きたい場所とかある?」

「え、えっと……特には……」

「じゃあ、この前のカフェで良い?」

 

 えぇ……あそこ高いんだけど……や、まぁでもこの前と違って飯食うのが目的じゃないし別に良いか。

 

「わ、分かりました……」

「よーし、今日こそバルファルク倒すからね」

 

 ……お店の迷惑にならない程度にしましょうね。

 

 ×××

 

 電車に乗って再び池袋へ。二人でオサレなカフェに入って、お互いに目当ての飲み物を購入し、一席に座った。二人で四人掛けの席に座り、少し申し訳ない気もしたが、逆に二人掛けの席は埋まってるみたいなので仕方ないと思うしかない。

 

「さて、やろっか」

「……は、はい……」

「装備はナルガクルガで良いんだっけ?」

「それで大丈夫だと……思います……」

 

 まぁ、ぶっちゃけ耐性つけても耐えられるのは3発くらいまでだけど。ちゃんと避けないとお話にならない。

 

「じゃ、まずは一人で行こうかな」

「っ、そ、ソロで、ですか……?」

「え? ソロじゃなくて一人だけど……」

 

 しまった、ついクセで……。なるべくそういうゲームの用語は言わない方が良いな。

 

「す、すみません……一人で、ですか?」

「あ、ソロって一人でって意味ね。うん、ソロで行く」

 

 気を遣ったらそれを無にされました……。

 というか、そんな事よりもソロで初見バルファルクって……。いや、何度か負けてるらしいし初見ではないんだろうけど。

 

「あの……僕も……」

「大丈夫大丈夫。ナルガクルガ一人で倒せるんだし、バルファルクなんてラクショーっしょ」

 

 あ、まだこいてるんだ……。ていうか、その二人は外見は似ててもレベルはだいぶ違うんだけどな……。

 

「平気平気♪ サクッと片付けて来るから待ってて。帰って来たら、一緒にバルファルク装備つくろうね」

 

 すごいや、この短時間でここまでフラグを大量生産できる人はそういない。

 

「じゃ、行ってきます!」

 

 意気揚々と、城ヶ崎さんは突撃した。

 

 〜20分後〜

 

「さ、サックリ……サックリ三回突き刺された……」

 

 バルファルクの突きをきれいに全部喰らい、見事に三乙かましていた。だから言わんこっちゃない……。

 

「あんなの……あんなの卑怯でしょ……。なにあの伸びる突き……あんなの避けっこないでしょ……。というか、威力も高過ぎるし……マジない……」

 

 ……トラウマを植え付けられちゃったのかな? うん、気持ちは分かる。僕も初めてモンハンやった時、ティガレックスがすごいトラウマに残ったし。

 

「あの……手伝いましょうか?」

「……お願い」

 

 よし、まぁ僕がいれば足を引っ張られない限り5分で終わるが、それはおそらく城ヶ崎さんが望む展開ではないだろう。つまり、僕はあくまでサポートに徹しなければならない。

 そのため、装備は強くなくてアイテムをたくさん持った。

 

「えっと……クリア出来るものならしてしまっても?」

「うん。でもあたしが戦う」

 

 そこは揺るがないようで良かった。さて、いざハンティングだ。

 二人のハンター、Mika☆とほうれん草は遺群嶺に降り立った。

 

「前から思ってたけど、なんでほうれん草?」

「……ほ、ほうれん草のクレープ……好きなので……」

 

 なんだか自分の事を言うの恥ずかしくて、思わず俯きながら呟いた。自分の事を話すのって少し恥ずかしいものなんだな……。

 すると、城ヶ崎さんまで何故か少し頬を染めて僕を眺めていた。

 

「……っ、な、なんですか……?」

「なんか、玲くんって可愛いよね」

「ーっ」

 

 か、可愛いって……! 大体、僕男だから可愛いとか言われても……。

 複雑な表情が顔に出ていたようで、城ヶ崎さんが微笑みながら手を振った。

 

「ごめんごめん、ジョーダンだから」

「っ、ぃ、ぃぇ……」

 

 別に怒ってないし……。ただ少し困っただけで……。

 とりあえず、照れを隠すようにゲームを進めた。……当たらなければどうということはないとはいえ……ギルドガードでバルファルクはナメすぎかな。まぁ、アイテム大量にあるしなんとかなるよね。

 手分けしてバルファルクを探し始めた。ついクセで採掘とか虫捕りとかしながら歩いてると、城ヶ崎さんから声が聞こえた。

 

「あ、いた!」

「は、はいっ」

 

 合流するか。ペイントしてもらって、僕もその場所に向かった。

 さて、城ヶ崎さん主体とはいえ、僕もやれるだけのことはやろう。そう決めて、まずはアイテム欄を閃光玉に合わせた時だった。

 

「あれ? 美嘉?」

「あ、本当だ。何してんだ?」

「えっ」

 

 隣から声がして、顔を上げるとJKが二人立っていた。

 えっと……確か、神谷奈緒と北条加蓮だっけ……? 確か、アイドルの……。

 あれ? そういえば、昨日電話の途中で確か……。

 

『いやー、やればやれるものだねっ。今まで加蓮とか卯月とか奈緒とかと四人で袋叩きして何とか勝ってたからなんだか嬉しいわ〜』

 

 とか言って……つまり、あの二人は城ヶ崎さんの友達で……JKで、アイドルで……。

 脳内で言葉をインプットしてる間に、二人のJKアイドルは僕の方に顔を向けた。

 

「あれ、美嘉?」

「この人は?」

 

 ライオン三頭に囲まれた気分だった。

 

 


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