勘違いされるのが男の性分。
文化祭当日の二日目。美嘉先輩と二人で文化祭を回る日だ。ハッキリ言って吐きそうなほど緊張してる。だって緊張するでしょ。歳上の女の子と二人で出掛けるなんて。
教室で一人で深呼吸していた。大丈夫かな、結局どういう出し物で行けば良いのか分からなかったけど……。
分かったのは、奢ってあげなければならないこと、そして男が引っ張ってやらなきゃいけないってことだけだ。
「……」
とりあえず、机の上でゲンドウポーズをして気持ちを落ち着かせた。大丈夫……文化祭だ。奢ってあげればとりあえずオーケーらしいし……美嘉先輩を楽しませるためだ。この際、モンハンは諦める。いくら消し飛ぼうが構うもんか。
「おい、み……みやっ、駿」
肩を掴まれ、ビクッと跳ね上がった。
「そこ邪魔。もうすぐ文化祭始まるから裏で引っ込んでて」
「あ、す、すみません……」
同じクラスの生徒に怒られたので引っ込んだ。ていうか、駿って何?
まぁ、文化祭の間、何もしなくて良いのはありがたい。僕みたいな奴は周りとの協調性なんか取れっこないし。
教室の隅っこでしゃがんで気を落ち着かせてると、校内放送がスピーカーから離れた。
『はい。じゃあ、えっと……第48回……え? 43? いやこれどう読んでも8でしょ。お前、字ぃ汚ぇんだよ。殺すよホント。……あ、放送中か。もういいや、2日目文化祭スタートゥ』
……グダグダだな、開始の放送。思わず半眼になってスピーカーを睨んでしまった。
とりあえず、文化祭スタートだ。教室にいたら邪魔になると思ったので、とりあえず一人になれる場所を探しに行く。
文化祭はクラスだけでなく部活でも出し物をする場所が多い。それは店だったり、ゲーム……というかアトラクション? だったり色々。例えば、吹奏楽部なら演奏会とか。
つまり、空いている教室なんて存在しない。あのコンピューター研究会ですら、自作ゲームで出し物をしてるくらいだ。
だが、その程度で狼狽えているようでは文化祭の日は乗り切れない。一日中、参加してるフリをして歩き回る体力なんてないから。
こういう時は、男子更衣室がベストだ。だって絶対誰も来ないもん。体育の時は男子は教室で着替えるし、普段なら水泳部が使っているが、その水泳部もさすがに秋真っ盛りで涼しくなってる季節の中、プールを利用した出し物はやらない。確かドーナツ屋だったかな。完璧過ぎて自らの計画力が怖い。
早速、男子更衣室に進む。歩くのが早いのは友達いない奴の長所だ。まるでマ○ドーナの如く生徒と生徒の間をスイスイと抜けていく。
「……」
周りの生徒達は、友達と出歩いてるからなぁ。わざわざ早歩きをする必要がないし、むしろ早歩きなんかしたら相手の歩幅に合わせづらいんだろう。
……なんだか、悲しくなってきた。こう、競う相手がいないからその辺の通行人と競い合い、一番を名乗ってるしょうもない小学生のような、そんな感じが……。
「っ!」
ポケットの中のスマホが急に震え、背筋が伸びた。恐る恐る画面を見ると、画面には「Mika☆」の文字。
ようやく、僕と歩幅を合わせてくれる人から連絡が来た。
Mika☆『何処にいる??』
辺りを見回し、一番近くの教室を見た。
みやざきれい『2年3組の教室の前です』
Mika☆『じゃ、そこで待ってて。迎えに行くから』
え、む、迎えに来るの……? そんな恐れ多い……。
みやざきれい『いえ、僕が行きます』
Mika☆『や、クラスの子達にからかわれるからホント来ないで』
からかわれる? なんで? と思ったものの、何となく文面からマジっぽさを察したので聞かないでおいた。
みやざきれい『分かりました』
そんなわけで、その場で待機。そういえば、2年3組って何してるクラスなんだろ。
パンフレットを出して確認すると、ジュースのキャバクラだった。
……どんな出し物やってんの? え、バカじゃないの? よく許可降りたな。や、ジュースとは言え。
恐る恐る中を覗くと、男子生徒はボーイ、女子生徒は学生服のネクタイを緩め、第二ボタンまで開いたキャバ嬢を演じていた。もっかい言うわ、バカじゃないの?
しかし、僕にとって問題はそこでは無かった。こんなとこで待ち合わせなんてなったら、美嘉先輩に勘違いされるんじゃ……。
大慌てでスマホで連絡を取ろうとしたが、遅かった。
「……ふーん、玲くんってそういう趣味なんだ」
こちらに掛かってるバフが全て解除される「いてつくはどう」のような声が降り注いだ。
思わず背筋を伸ばし、恐る恐る振り返ると、今日は珍しく髪を下ろしてる美嘉先輩がジト目で僕を睨んでいる。
さっきまでビビりまくってたくせに、僕の感想は全く別のことを思い浮かべていた。
なんていうか……髪を下ろした美嘉先輩がかなり綺麗だ。カリスマギャルって感じではなく、カリスマ清楚って感じ。ピンク色の髪なのに、清楚さが隠しきれていなかった。
「何、キャバクラに興味あんの?」
「……綺麗……」
「は、はぁっ⁉︎」
「あっ、しまっ……!」
慌ててハッとして口を塞いだ。まさか、本音がぽろっと漏れる、なんてアニメみたいな事があるとは……!
が、遅かった。怒ってる相手に「綺麗」とか抜かすのは流石にこいてる。美嘉先輩は顔を真っ赤にして怒ってしまい、僕の両頬を抓った。
「い、いいいきなり何言ってんの⁉︎ そんな言葉で誤魔化されないんだから!」
「いっ、いふぁふぁふぁ! ごふぇんふぁふぁい! ごふぇんふぁふぁい!」
「ごめんなさい、じゃないから本当に! まったくいつから女誑しになったのあんたはぁ〜!」
す、すごく怒ってる! 謝っても許してくれない!
ぐぃーっと変幻伸縮自在にさせられそうなほど抓られた後、最大まで伸ばされて手を離され、思わず後ろに倒れそうになった。
うー……痛い、ヒリヒリする……。
「まったくもう……! まぁ、気付いただけ良いとするけど……!」
「へ? き、気付いた……? 何に?」
「髪型」
……ああ、下ろしたってことか。これ、なんで下ろした、とか聞いても良いのかな……?
「えーっと、何処行こうか?」
聞く前に、何故か機嫌が良くなった美嘉先輩が僕の手を引いてしまった。
「あ、え、えっと……!」
男の僕が……男の僕が引っ張らないと〜……!
目をグルグルと回しながら、パンフレットを見た。行き先は近くて「ジャブ」って感じのする所から……!
ジャブ、といえばやはり校庭だろう。教室と違って屋台だから、長くいるような場所はない。ここ2階だし、近くもないけど遠くもない。
「……こ、ここの……校庭の、クレープとか……どうですか?」
提案すると、しばらく美嘉先輩は意外そうな表情を浮かべると、ニコッと微笑んだ。
「うん、良いね。行こっか」
「ーっ、は、はい……」
だからその笑顔やめて。もうあなたのことは諦めたのにときめいてしまいます。
二人で階段を降りて、昇降口へ。靴に履き替えてグラウンドに出た。
「クレープ、かぁ。どんなのだろうね?」
「さ、さぁ……」
正直、学祭レベルのクレープだし、出店してるの柔道部だし、あまり期待してない。まぁ、武道の部活は自分達の競技で出し物しにくいからね。
メニューも精々、1〜3種類あれば良い方だろう。そんな事を思ってると、美嘉先輩がまた僕の頬を引っ張った。
「い、いふぁふぁ⁉︎」
「はい、今思ったことを言って」
「ふぁ、ふぁい……?」
何言ってんのこの人。
「……女の子と一緒にいる時は、思ったことは言わなきゃダメ。コミュ障だから発声出来ないのも分かるけど、いくらなんでも『さぁ……?』は無いから」
「す、すふぃふぁへん……」
「まったく……基本的に、相手は言われた事に対してそんな簡単に変な空気にならないから」
「でも、さっき……」
「さっきの時はダメなの!」
なんだそれ、論旨ぶれぶれじゃないですかね……。
「で、何を思ったの?」
僕が何か言う前に、誤魔化すように話を進めてきた。何を誤魔化そうとしてたのか気になったが、しつこく言えば怒られそうなので話を進めた。
「いえ、その……誘っておいてなんですが、期待はしない方が良いだろうなって思って……」
「分かってないなぁ、玲くんは」
「は、はい……?」
「学祭では味は求めないの。求めるべきは雰囲気だから」
「ふ、雰囲気……ですか?」
「モンハンのクエストでイヴィルが乱入して来たら、玲くん喜ぶでしょ? 実際、面倒なだけなのに。それって結局、ゲーム内での臨場感が……」
「いえ、まとめて掃除できますし、素材ももらえますし面倒なだけではないですが……」
「……やっぱり思ったこと全部口に出すのだめ」
「ええっ⁉︎」
さ、さっきから言ってること無茶苦茶過ぎるのでは⁉︎
「もう……いいから黙ってて。褒め言葉以外、言わなくて良いから」
「え、さ、サクラになれってことですか……?」
「……玲くんって、割とひねくれてるね」
「なんでですかだから!」
割と素直な方だと思うんですけど⁉︎
なんか、今日の美嘉先輩は辛辣だなぁ、なんて思いながら並んで歩いてると、グラウンドに着いた。……なんか、夏祭りみたいになってるな……。
「……えっと、クレープですよね?」
「あ、あった」
……えっと、どうしよう。結局、思ったことは言って良いのかな。とりあえず言ってみよう。
「見つけるの早いな……。食いしん坊さんですか?」
「生意気言うのはこの口?」
「ふ、ふぉふぇんふぁふぁい!」
やっぱり言うんじゃ無かった!
片方の頬をまた引っ張り回され、涙目になって謝るとようやく許してもらった。
「……まったく。何味が良い?」
「へ? え、えっと……チョコで……」
「美嘉先輩が奢ったげる」
「ええっ⁉︎ そ、そんな……ぼ、僕が……!」
「モンハン欲しいんでしょ? いいよ、あたしはアイドルだからお金もあるし」
「うっ……」
「こーいう時は、先輩に甘えなさい?」
……うう、お願いだからやめて欲しい。そんな風に言われると、僕も諦めたはずなのに、また懲りずに好きになってしまう。
「……すみません」
「ありがとう、でしょ?」
「あ、ありがとう、ございます……」
……あ、ダメだ。やっぱり好きだ。美嘉先輩が。もう、本当にダメだ。僕はバカだ。
握られてる手を、僕の方から握り返した。
「……どうしたの?」
「っ、い、いえっ……!」
「……?」
聞かれ、赤くなった顔を背けた。帰ったら、また気持ちの整理をつけないと。
……それとも、誰かに相談した方が良いかな。
色々と頭の中を巡らせてると、美嘉先輩が購入したクレープを差し出してきた。
「はい、美嘉先輩奢りのクレープ」
「……い、いただきます……」
とりあえず、今は考えないことにした。