クレープを食べ歩きながらワッフルを購入し、ワッフルを食べ歩きながらもろこしを購入し、もろこしを食べ歩きながら校舎の中に入った。
つまり、クラスごとのアトラクションだ。僕と美嘉先輩は、並んで校内を歩き回る。
行き先を特に決めておらず、のんびりと校内を回ってると、恐らく店の看板を手にしてるメイドが廊下を走っていた。多分、女の子がメイドしてる時点でクラスの生徒ではないのだろう。
アイドルでなくともメイド服着れば可愛いんだなーなんて思いながら目で追ってると、隣から耳たぶを引っ張られた。
「い、いだだっ⁉︎」
「女の子と一緒にいる時に他の女の子に目移りしない」
「ご、ごめんなさい……?」
そんな怒ることないのに……。と思いつつも、何となく人を怒らせると罪悪感を感じてし性分のようで、申し訳なく感じてしまう。
「何処に行こうか?」
「へ? え、えっと……」
聞かれて、慌ててパンフを開いた。そろそろ飲食店よりも何かゲームみたいなのするのが良いよなぁ。
「あ……近くの教室でガリ○リくんの当たり棒で作った展示品を飾ってるみたいですよ」
「攻めたことしてるなぁ……。行ってみよっか」
「は、はい……!」
二人でその教室に入った。入場料が発生するが、向こうは展示できる数のガリ○リ君を購入し、食べてるのでそのくらいは目を瞑ろう。
で、入ってみるとすごかった。美嘉先輩も感嘆の息を飲むほどだ。まず中央にあるのが東京タワーだ。微妙なバランスを保ち、ていうか多分、ボンドで固めてるけど、それでも一目で東京タワーと分かるクオリティのものが置いてあった。
「これは……すごいね」
「は、はい……バカじゃないの? と思わないでもないですが」
でもそういうバカは好きだ。世の中にはダクソ3をサイコロの出た目で行動を選択し、クリアしようとするバカもいるし。
「うわ、こっちもすごい。ガリ○リくんのアイスの棒のレイヴンクローの髪飾りだって」
「……あ、あはは……細か過ぎて伝わらないモ○マネ選手権でも目指してるんですかね……」
最後はロンに蹴られて闇の業火に飲まれて消えた奴ね。
「……ちょっとつけてみたいかも」
「え、それですか?」
「気にならない?」
「いえ、誰かが食べた後ですし……」
「洗ってあるに決まってるじゃん。洗わないでやってたら、まず触りたくないでしょ」
そうは言ってもなぁ……。そもそも、それ物語的にはつけるもんじゃなくて壊すもんでしょ。
「ダメ?」
「いえ……先輩がつけてみたいなら、僕は止めませんが……」
「ほんとに?」
「は、はい……」
「じゃあ……えいっ」
本当に美嘉先輩はガリ○リくんのアイスの棒を頭に乗せた。……僕の頭に。
「な、何するんですか⁉︎」
「いや、良いって言うから」
「な、なんで僕なんですか⁉︎」
「……ティアラも似合うなぁ。今度、うちの事務所の小物のとこから持ってきてみようかな」
「しかも新たな実験をする気ですか⁉︎」
ひ、酷い……。大体、褒められても全然嬉しくないんですが。
「もう……謝るからそんな怒らないで」
しかし、そんな風に微笑まれると、僕も許す気になってしまうんだから困る。もしかして、僕ってチョロいのかなぁ……。
美嘉先輩は僕の頭からティアラを取り、元の場所に戻した。
すると、また美嘉先輩が何か見つけたようで別のものを指差した。
「ね、見てこれ。ガリ○リくんのアイスの棒のガタノゾーア!」
……この展示品、どういうチョイスで作ってるんですかね……。
「……先輩、ガタノゾーアなんて知ってるんですか?」
「うん。従兄弟がウルトラマン好きだったから」
……従兄弟、か。なんか良いなぁ……。子供の頃からの付き合いで、影響されて興味ないのに詳しくなっちゃう、みたいな……。そういう関係が、なんか羨ましい。僕なんかじゃ……美嘉先輩とそんな仲になれないと思うから……。
関わってる年季が違うから仕方ないとは思うけど、でも……なんか、何となく悔しい。
「っ……」
「……玲くん?」
黙り込んでると、美嘉先輩が僕の顔を覗き込んできた。それでハッとして、目を逸らしながら返した。
「す、すみません。なんですか?」
「ん、大丈夫?」
「な、何が、ですか……?」
「なんか辛そうな顔してたよ」
やっば……顔に出てた? 気にさせちゃったかな……。謝った方が良いかな。
……いや、でも……なんだろ。文句を言いたい。これが嫉妬って感情なのかな。確かにしょうもないし、どうしようもなく苦しい感情だ。この感情に押しつぶされて暴力系に走るヒロインがいるのも分からなくはない。
「……れ、玲くん……? なんか、徐々に不機嫌になってない……?」
……だからって、ここで八つ当たりしてはダメだ。冷静になろう。そもそも、気持ちを伝えてない僕が悪いし、何なら美嘉先輩の事は諦めたはずだ。
よし、もう大丈夫。
「すみません、大丈夫です……」
「あ、もしかして従兄弟の話したから嫉妬してたんでしょー? ホントに愛い奴め」
カチンとした。柄にもなく。気が付けば、無意識に頬を膨らませて美嘉先輩の両頬を抓り回していた。
「むー!」
「いふぁふぁふぁ! な、なんで怒るの⁉︎」
あーもうこの人は! ホンッットーにこの人はー!
しばらく怒り心頭してたが、周りの視線に気づいてハッと手を離した。
ーーー今、僕は何をしてた……?
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですかっ……?」
「だ、大丈夫だけど……」
「す、すみません……! つい……」
「まさか、玲くんにこんなことされる日が来るとは……」
「ほ、本当にごめんなさい!」
「いや、別に怒ってはないけど……あ、じゃあ一つだけ良い?」
「な、なんですか?」
「まさか……本当に嫉妬、してくれたの……?」
「うっ……」
図星だった。その所為でまともな思考回路では無かったのだろう。気がつけば、僕は控えめに小さく頷いていた。
頷いてから、またハッと意識を取り戻し、熱くなった顔で大慌てで首を振った。まぁ、こういう時に慌てるとロクなことにならないんだけどね。
「ち、違います! 今のは、そのっ……な、なんかその……昔からの知り合いで、興味なくてもお互いの趣味に詳しい、みたいな……そんな関係が、羨ましくて……!」
正直に話してどうすんだ。
「や、だから……えっと……!」
なんかもう視界がグルグルと回り回って重なり合い、頭から煙が出そうなほどにテンパってると、どういうわけか美嘉先輩まで顔を真っ赤にして目をグルグル回していた。
「……へ? せ、せんぱい……?」
おそるおそる聞くと、美嘉先輩の口から出たとは思えないほど情けない声が聞こえた。
「……きゅう」
「え、ちょっ……せ、先輩⁉︎ せんぱーい!」
真っ赤になって倒れてしまった。
×××
ほんの2〜3分後ほど経過した。とりあえず、保健室に連れて行こうと思ったが、僕にそんな体力は無かったので、廊下の一番端に連れて行った。
で、しばらく待機してると、美嘉先輩から「んー……」と吐息が漏れた。
「……だ、大丈夫ですか?」
「……ん、ここ……は?」
「え、えっと……廊下の端っこです……。保健室まで運ぼうと、したんですけど……体力が……」
それに目立つし。文化祭の最中に寝てるアイドルを引き摺って保健室に連れ込むのは通報待った無しだよね。
すると、美嘉先輩と僕の目が合った。真っ直ぐ見つめてくるので、僕もおもわずそのまま見つめ返してしまった。
そのまま目を合わせること数秒、唐突に美嘉先輩が顔を真っ赤にして僕の頬にビンタした。
「いだい⁉︎」
「な、何してんの⁉︎」
「……い、いえ……何も、してませんけど……」
き、効いた……。なんで叩かれたの僕……。泣きそう……。
「……」
「……」
あれ、なんだろうこの空気。なんだかとても気まずいよ?
美嘉先輩も僕も何も話さず、お互いに目を逸らして動かない。普段なら、空気をブチ破ってくれそうな美嘉先輩だが、今日は赤面したまま黙り込んでいた。
「……あ、あの、先輩……?」
なんか僕の方から声をかけてしまった。すると、美嘉先輩は赤面したまま前髪で顔を隠した。普段の髪を束ねてる美嘉先輩から可愛いで済むんだけど、こう……下ろしてると、なんか……エロく見えてしまう。
って、アホか僕は! 美嘉先輩で何を考えようとしてるんだ⁉︎
必死に頭をかきむしって煩悩を振り払ってると、美嘉先輩からポツリと漏らすように声が聞こえた。
「……ね、ねぇ」
「っ、は、はい……?」
「その……さ、もしかして……玲くんってさ」
「な、なんですか……」
「わた……す、好きな人、いる……?」
「ええっ⁉︎」
い、いきなり恋バナ⁉︎ どしたのこの人本当に⁉︎
どうしよう、なんて答えるのが正解なのかな……。いや、そんなもん決まってる。
「い、いません、けど……」
美嘉先輩に嘘をつくのは気が引けたが、勘付かれて気まずい関係になりたくない。
しかし、美嘉先輩はなぜか微妙な表情になった。嬉しいけど「なんだぁ、そうなんだ……」みたいな。
「……あの、何か……?」
「なんでもないよ。さ、次はどこ行く?」
「へ? あ、そ、そうですね……!」
とりあえず、パンフレットを開いた。どんなゲームでも、まず重要なのはマップである。
えーっと……どうしようかな。どこに行こうか。この近くだと……。
「……この近くでしたら、ゾンビハウス、っていうのがありますけど……」
「……あー、玲くんそういうの平気なんだっけ?」
「……あ、先輩は、ダメなんでしたっけ?」
「なっ……だ、ダメじゃないし!」
「へ? でも、前に先輩のお宅にお邪魔した時……」
「ダメじゃないから!」
あれ……そうだっけ? 心霊番組でビビりまくってたような……。まぁ、あの時は僕も美嘉先輩の家に上がっててビビりまくってたから、思考が定まってないのかもしれない。
そんな事を考えていた顔が、どうやら疑わしい顔に見えていたのか、さっきまでのしおらしい姿など影もなくなった美嘉先輩は、僕の腕を掴んだ。
「……そこまで言うなら、今から行こうよ」
「へ?」
「ちゃんと怖くないってこと、証明してあげるから」
「い、良いですけど……」
「ほら、行くよ!」
しかし、ゾンビハウスかぁ。楽しみだな。僕も割とバイオとかやってきた口だし、リアルバイオと思えば悪くないかも。
二人でそのゾンビハウスに向かった。割と並んでたが、4〜5分ほど待つだけで入れた。
ちなみに、その間一言も話してない。だって美嘉先輩、ずっと覚悟決めてるんだもん。その時点でビビってるの丸分かりなんだけど……。
で、順番になったようで、受付の人から軽い説明を聞いた。
「こちらからお客様に直接触れるようなことはないので、お化けに対する暴力や暴言はご遠慮下さい」
「あ、は、はい」
聞き流しながら返事をすると、唐突に受付の人は声を変えた。
「では、ゾンビの館へ行ってらっしゃいませ」
あれ? ゾンビハウスじゃないの? とか思ったがそれ以上にふに落ちないことがあった。まぁ、コミュ障だから聞けないんだけどね。
そのまま教室内に入れられてしまったので、代わりに美嘉先輩に聞いた。
「……あ、あの、先輩」
「な、なかなか雰囲気あるね……。で、でもまぁ、この程度なら大丈夫かなっ。全然怖くない」
「……先輩?」
「っ、な、何⁉︎ いきなり話しかけないでよ!」
「あ、す、すみません……」
「あ、いや……あ、あたしこそ、ごめん……」
……急に冷静になったな。かわいい。
「で、どうしたの?」
「……あ、そ、そうですね。ここ、ゾンビハウスですよね?」
「そうだね」
「ショットガンは支給されないんでしょうか?」
「……ごめん、ちょっと何言ってるのか分からない」
……へ?
「え、なんで支給されると思ったの?」
「ぞ、ゾンビといったら撃って倒すものでは……」
「や、学祭だからここ。感染病棟とかじゃないから。ゾンビの仮装した生徒が出てくるだけだから」
「……じ、じゃあ……襲われたら……?」
「お、大人しくビビるしか……」
「……」
ひ、人が……襲ってくる……?
「は、はわわわ……!」
「え、何。ビビってるの? さっきは余裕こいてたくせに……」
「ひ、人が……襲って……!」
「え? いやそういうんじゃないと思うんだけど……!」
どうやら、僕の命はここまでのようだ。