城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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番外編っつーか後日談だなこれ。
初デート(1)


 文化祭が終わり、僕は美嘉先ぱ……美嘉の彼氏になった。

 ッ……や、ヤバい……! い、胃が痛い……! ど、どどどっ……どうしよう、僕が恋人だなんて……だ、大丈夫かな、美嘉先……美嘉に変な風評被害とか……そ、それに、僕だってファンにボコボコにされたり……!

 ど、どうしよう……目眩が……いや、それ以前にお腹も頭も痛くなってきた……!

 い、いやいや……落ち着け、僕。今日は文化祭の振替休日だ。学校には行かないし、そもそも他の人達は僕が美嘉せ……美嘉の彼氏だって知らない。

 ああもうっ! 下の名前を呼び捨てするの慣れない!

 

「〜〜〜っ!」

 

 こんな時はゲームだ、ゲーム。ゲームやろう。それで神経を落ち着かせる。

 一人で部屋のモニターとプレ4の電源を入れて、ブルーライトカットのメガネをかけた。さっさとビクロイ取ろう。ノルマ、10キル以上!

 タワーに降り立って、ショットガンを拾って開戦……しようとした所で、インターホンが鳴った。なんだよ、これからって時に……。

 ここは居留守だな。無視してゲームを続けた。目に入るプレイヤーを片っ端から掃除するも、再度インターホンが鳴り響く。

 

「……」

 

 いないよ、いないから諦めて。……っと、危ない。HP減った。ポーション飲んで無いんだから勘弁してよ。

 ピンポンピンポンピンポンピンポーン、と喧しくインターホンが鳴り続ける。

 戦闘を中断し、建物の中に逃げ込み、しゃがんで息を潜めた。イヤホンだ。うるさいから。

 と、思った直後だった。スマホに電話がかかってきた。画面には「Mika☆」の文字。

 ……あ、これまさか。

 

「は、はい、もしも」

『なんで応答しないわけ⁉︎』

 

 キーンと、キーンと耳にきた。まさか、外にいるの美嘉せ……美嘉?

 

「あ、みっ、み……」

『あたしのことシカトするなんて良い度胸してるじゃん! 付き合って早々、別れたいわけ⁉︎』

「ええっ⁉︎ い、いえっ、その……わ、別れたくはない、です……」

『いいからまず玄関開けなさいよ!』

 

 う、うわうわうわっ! すごく怒ってる……! と、とにかく玄関に急がないと……!

 部屋を出て大慌てで階段を降りた。玄関の鍵を開けると、みっ、美嘉が激怒を隠すことなく立っていたのだが、僕と目を合わせるなり頬を真っ赤に染める。そんな顔を真っ赤にしてまで怒らんでも……。

 

「ご、ごめんなさ……!」

「……って」

「え?」

「……メガネ、取って」

 

 あ、そ、そういえば、美嘉はメガネかけた僕の顔が嫌いだったっけ……!

 慌ててメガネを外して外玄関の棚の上に置いた。で、改めて声をかけた。

 

「……え、えっと……それで」

「何シカトしてんの?」

「あ、い、いえ……その、ゲームしてて……」

「あたしよりゲームの方が大事なわけ?」

「そ、そんな事ないです! み、美嘉先ぱ」

「……」

「っ……! み、美嘉の方が……大事、です……。ただ、その……新聞とか、だと思ってたので……」

「ーっ……!」

 

 先輩、をつけかけた時はすごい睨んできた癖に、呼び捨てしたらしたで顔真っ赤にするとか……何処まで可愛いのかこの先輩は。

 そうこうしてるうちに、家に美嘉が上がってきた。迷いない足取りで僕の部屋に来た。部屋の中に隠れていた僕のアバターは殺されており、別のプレイヤーのプレイが流れている。

 それを見て、イヤホンを準備してるのを見て、結論を出した名探偵美嘉は、ベッドの上に座ると僕に言った。

 

「正座」

「え?」

「正座」

「あ、は、はい……」

 

 座らされた。怖いよ、本当に……。

 

「で、つまりアタシだと思わなかったからシカトこいてたと?」

「っ、は、はい……」

「いつからそんな悪い子になったわけ?」

 

 っ、そ、そもそも誰の所為だと……美嘉と付き合ってるから胃が痛くなって、それを忘れるためにゲームをしてたのに。

 ……や、まぁそれでも告白したのは僕の方だし、美嘉が悪いわけではないけどね。それに、会いにきてくれて、嬉しいし……。

 

「とにかく、アタシをシカトした罰として、今日はデートしてもらうから」

「うえっ?」

「ほら、早く着替えて。いつまでパジャマでいるつもり? 高校生にもなってひよこ柄のパジャマとか本当どこまで可愛いわけ?」

「ーっ⁉︎」

 

 え、へ、変なの? 他の人のパジャマ見たことないから分からないけど……。

 

「ほら、早く。アタシの目の前で着替えて」

「え、あの……恥ずかしいから、部屋から出てくれないと……」

「ダメ」

「な、なんでですか⁉︎」

「はいそれ、敬語も禁止」

「そ、そんなあ……」

 

 なんでそんな変態みたいなことを……! つ、付き合ったからってそんな……。

 顔どころか全身が熱くなってきてしまう。美嘉自身、厳しい表情をしつつも、頬を赤らめている。何を楽しみにしてんだこの人。

 でも、どうも逃がしてくれそうにないなぁ……。

 

「……わ、分かりましたよ……」

「早く」

 

 うー……まぁ、基本は僕が悪いし仕方ない。

 まずは上半身から。美嘉に背中を向けて、パジャマを脱いだ。あまり筋肉の付いてない身体が露わになり、少し頬が赤く染まる。

 さっさとティーシャツを着て、ズボンに移った。今日のパンツはボクサーパンツだ。ブリーフはもう履いてないので、まだマシだ。

 美嘉の爛々とした視線を背中に浴びながらズボンを履こうとすると、後ろから恥ずかしい声が聞こえた。

 

「……れ、玲のお尻……可愛い……」

「ーっ! な、何言って……!」

「いや、こう……ツルッとしてて」

 

 マジで変態かあんたは! 流石に怖い! 痴漢にあってる気分!

 さっさとズボンを履いて、着替えを完了した。それを見て、少し残念そうにしたあと、すぐ満足げな表情になった美嘉は、僕の手を取った。

 

「ほら、行くよ。付き合ってからの初デート」

「あ、ま、待って。まだ準備が……」

「じゃあ早くして」

 

 言われたので、財布と鍵とパスモとスマホと充電器と3○SとSw○tchとV○taを鞄の中に入れてると、手をガッと掴まれた。

 

「……なんでゲーム機持って行くの?」

「え、だ、だって……やりたいから……それに、万が一、地震とかで家に帰れなくなったら、やるゲーム機なくなっちゃうし……」

「このゲーム依存症め!」

 

 鞄の中からゲーム機を全部奪うと、自分のカバンの中に入れた。

 

「デートの間は、没シュート」

 

 や、まあ良いけど……。僕もやるつもりはなかったし。

 今度こそ外出した。直後、美嘉は僕の腕に腕を絡めてくる。

 

「っ、あ、あの……」

「何?」

「む、胸が……あ、当たってるんですが……」

「当ててんの。……玲相手なら、当ててでもくっついていたいの」

「っ……そ、そうですか……」

「それより敬語ダメ。タメ口ね」

 

 めっ、と子供に言い聞かせるように人差し指を目前に建てられ、小さく頷くしかなかった。

 

「……え、えっと……じゃあ、何処に……行くの?」

「うーん……じゃ、買い物行こっか?」

「か、買い物?」

「そう。そろそろ冬物買わないと」

 

 女の人はたくさん洋服買うからなぁ。ま、美嘉が色んな服着てくれるのを見れると思えばそれで良いかな。

 ……にしても、胸が当たってるのはいつになっても慣れないな……。

 

「あの……美嘉?」

「何?」

「む、胸が……その、やっぱり……なれないんだけど……」

「……アタシにくっつかれるのは、嫌?」

「嫌じゃ、ないです……」

 

 ……むしろ最高ではあります。でも、その……付き合ったばかりでそういうのは、まだ早いというか……。

 

「んー、玲くんの匂い……」

「……」

 

 たまに聞こえるその変態的な発言はなんなんですかね……。なんかもう、色々と怖い。

 いや、何にしても、このままじゃ流石に変に意識しちゃう……。仕方ない……!

 

「あの……美嘉」

「何ー?」

「んっ」

「んんっ⁉︎」

 

 キスをした。口に。流石に舌は入れなかったが、この処女ビッチには効果覿面だ。

 

「ーっ……!」

 

 口を離すと、案の定真っ赤になった美嘉が、僕を驚いた様子で見下ろしていた。

 

「っ、なっ……い、一体……にゃにを……⁉︎」

「……あ、あの……か、身体を押し付けるのは……ぼ、僕の精神が持たない、ので……今ので、満足を……」

「あ、う、うん……わかった……」

 

 顔を赤くしながら電車に乗った。

 

 ×××

 

 アウトレットに到着した。こういうオシャレな洋服屋さんが並んでる場所は何度来ても慣れない。本当に僕なんかが来ても良いのかって思ってしまう。

 来たところで「帰れ」とは言われないんだろうが、口にされるよりも空気の方が怖い。今も、少し居心地悪いし……。

 それでも美嘉が手を繋いでくれてるから、少しはマシになってるだろう。

 

「ね、玲。このお店入っても良い?」

 

 その美嘉が僕の手を引いた。指差す先はいかにも女子高生が好きそうな洋服屋さん。

 

「あ、はい。……じゃなくて、うん。入ろう」

 

 あんまり入りたくないが、美嘉の買い物に付き合ってるわけだし、彼氏が彼女の洋服見るのは自然なはずだし、きっと問題ない。

 二人でお店の中を見て回ってると、美嘉が好みの服を見つけたのか、僕の手から離れて洋服を手にした。

 

「これかわいー♪ どう、玲?」

 

 手に持って体に当ててるのは、名前はよく分からないけど、肩が出る洋服だった。ピンク色でモコモコしてそうな奴。

 ……え、さっき冬服買いに来たって言ってなかった? なんで肩出る奴買おうとしてんの?

 

「……え、あ、あの……それ、冬物?」

「は? そうに決まってんじゃん。夏に着るように見える?」

「え、で、でも……そんな、肩が露出してるの着たら、風邪を引いてしまうんじゃ……」

「ヘーキだって☆ 女の子はね、多少寒くても可愛く見られるために我慢するものなんだよ」

 

 ええ〜……な、何それ。本末転倒じゃない? 寒いから着るのに、可愛く見られるために寒くなるって……。

 ……何より、肩をむき出しに歩かれると、僕のメンタルがやばい。破廉恥だし、他の男に見られると思うと、それはそれで嫌だ。

 

「だ、ダメです……! そ、そんな格好……!」

 

 正直に言うと似合ってる。モデルさんみたいだし、実際、モデルさんのような仕事もしてることだろう。しかし、それとこれとは話が別だ。

 顔を赤くしながら言うと、美嘉はいかにもいじめっ子みたいに唇を歪ませ、ニヤリとほくそ笑んだ。

 その笑顔に僕がビクッとしてるうちに、その洋服を手に取った。

 

「じゃ、これ買っちゃおーっと」

「え、ええっ……⁉︎ だ、ダメって言ったのに……!」

「だって、玲くんはこれ着るとコーフンしちゃうんてしょ? なら、アタシはこれ着るから」

「こ、コーフンなんて……!」

「しないの?」

「…………す、少しだけ……」

 

 こういう時、嘘をつけない自分が憎い。でも、美嘉の手は分かってる。どうせ「興奮しない」なんて言えば「じゃあ買っても良くない?」ってなるから。

 そんな僕の心中を知ってか知らずか、美嘉はニヤニヤしたまま僕の手を握って引いた。

 

「じゃ、試着するから。ついてきて?」

「ええ⁉︎ し、試着……⁉︎ こ、こんな所で裸になる気⁉︎」

「なるか! 試着室だよ!」

 

 あ、だ、だよね……びっくりした……。や、にしてもヤバい。あんな肩丸出しの格好をされるのはちょっと……その、僕のメンタルに来るというか……。

 が、そうこうしてるうちに試着室に入られてしまった。

 

「じゃ、ちょーっと待っててね」

「は、はあ」

 

 シャッと試着室のカーテンを閉める美嘉。思わず小さなため息が漏れた。

 どうしよう……なんて反応したら良いのかな……。え、えっちいですとは言えないよな……。でも「似合ってる」とかだとストレート過ぎるだろうし……何より恥ずかしい。

 うだうだ悩んでると、カーテンが開く音がした。

 

「どう?」

 

 出て来た直後、絶句してしまった。女の人の私服をじっくり眺める機会なんか無かったから尚更だ。

 露出してるのは肩、それだけのはずなのに、まるで下着が見えてるようなエロさがこれでもかというほど溢れていた。

 それに追加し、髪を下ろした美嘉の気品にラーメンチャーハン餃子の三点セットのようにマッチしている。

 端的に言えば、完全に童貞を殺しに来ていた。

 

「玲?」

「っ」

 

 声を掛けられ、正気に戻った。

 あ、そ、そっか……! 何か、感想を言わなきゃ……。あ、えっと……とりあえず、思ったことを……!

 

「あ、えっと……」

「えっと?」

「…………と、とても……お綺麗、ですね……」

 

 ……ストレート過ぎて恥ずかしい感想が漏れた。恥ずかしい……。

 

「……? ……っ、……な、何言ってんの⁉︎」

 

 美嘉も、キョトンとした後に徐々に顔を真っ赤に染めて行くと、俯いて試着室のカーテンを閉めた。

 ああ……やっぱり、捻りがないって怒ってるのかな……。

 と、反省したのもつかの間、すぐに着替えを終えた美嘉は試着室から出て来て、僕の手を取った。

 

「……これ、買うから」

「え?」

「綺麗だったんでしょ?」

「ーっ……!」

 

 な、なんで……今、それを言うかな……。

 

「外で待ってて」

「っ、は、はい……」

 

 顔を赤くしながらお店を出た。

 ……にしても、破滅的な威力だったな……。今まで、それこそ美嘉が彼女になるまで異性に興味も無かったし、ゲームが出来れば何でも良い人生だったのに、まさかあんなのを生で拝めるようになるとは……。ほんと、人生何が起こるか分からない。

 またあれを見れると思うと悪くないけど……それまでにそういうのに耐性付けないと……。……エロ本とか読んだ方が良いのかなあ。でも、そういうの買う勇気ないし、読んだら死んじゃう気もするし……。

 そうこう考えてるうちに、美嘉の声が聞こえて来た。

 

「お待たせ〜」

「あ、うん。いや、全然待ってな……」

 

 答えながら振り向くと、固まってしまった。あの人、買った服をそのまま着てるんだもん。

 

「どう?」

「……きゅう」

「え、ちょ、玲⁉︎ 玲〜⁉︎」

 

 ダウンした。

 

 


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