城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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初デート(2)

 僕は気が付けばフードコートにいた。隣にいる美嘉の生肩に頭を乗せて。

 

「ふえっ⁉︎」

「あ、起きた。一々、驚かないの」

 

 慌てて飛び起きて後ろにひっくり返りそうになったのを、美嘉が手を掴んで引き止めてくれた。いや、でも死んじゃうってこれ……。ていうか、生肩が当たっていた頬が熱い……。

 

「あ、あのっ……美嘉さ……美嘉、これは……?」

「気絶しちゃったんでしょ。だからここに連れて来たの」

「それは、その……すみません……」

「気にしないで」

 

 うう……気絶していたのか。我ながら情けない。や、でも仕方ないよね……。この前まで、僕なんて永久凍土ボッチだったし。

 

「あ、飲み物とポテト買っておいたから、とりあえず食べて落ち着こうよ」

「あ、す、すみません! 今、お金を……」

「いいって。勝手に買っただけだし」

「で、ですが……」

「いいから。元々、アタシの方が年上なんだし。てか、敬語やめて」

 

 前々から思っていたんだけど、年上だからって奢らなければならないとはどういう事なんだろうか? むしろ年齢は関係なく、目上の人が買ってあげなければとか、そういうのが本来、あるべき姿だと思うんだよ。

 ……いや、でも僕が美嘉より上って事はないな。むしろ莉嘉さんよりも下回ってるまである。

 

「……す、すみません」

「いいのいいの。それに、やりたいこともあるし」

「へ?」

 

 なんか今のセリフの後半に何か別の意図を察したというか何その笑顔怖い。

 僕の嫌な予感は十中八九ではなく、十中十当たる。美嘉はニヤリと微笑むと、ポテトを手に持って僕の口元に運んできた。

 

「はい、あーん……」

「あーん⁉︎」

「そう。あーん」

 

 ちょっ、こ、こんなところでっ……! 室内……や、ここ室内だわ。室内じゃなくてお互いの実家で二人きりの空間ならそれもやぶさかでは無いけどこんな公衆の面前で物を食べさせ合うというのは余りにも恥ずかしいというか死んじゃうんですが本当に……! 

 と思ったら、美嘉の手が少し震えているのが見えた。余裕そうな笑みを浮かべているけど、頬はしっかりと赤らめている。美嘉も勇気を振り絞っているのだ。

 それなら、男の僕が乗らないでどうする! 勇気を振り絞り、僕もその誘いに答えた。

 

「……ぁ、あーん……」

「ど、どう? 美味しい?」

「は、はいぃ……」

 

 ……味なんてわからないんですけど。さて、ということは次の展開は目に見えている。次は、僕が食べさせる番だろう。どうせやるなら、自分から言った方が良い。

 今度は僕がポテトを摘み、美嘉に差し出した。

 

「み、美嘉っ」

「ん?」

「あ、あーん……」

「…………はえ?」

 

 何故か、頬を真っ赤にして不思議そうな顔をする美嘉。あれ、どうしたんだろ。

 

「な、なんで?」

「……食べないの?」

「……へ? い、いや……あたしは別に……」

 

 ……ああ、なんか前に聞いたことある。所謂、「いやよいやよも好きのうち」というアレだろう。なら、ここは僕が押さなければならない場面だ! キャラじゃないが仕方ない……! 

 

「ど、どうぞ! 僕一人じゃ食べきれないので!」

「い、いや……こんな場所で、恥ずかしいし……」

「僕には食べさせてくれたでしょ! どうぞ!」

「こ、これは全部、玲くんのために買って来たもので……」

「二人で食べた方が美味しいから!」

 

 少し暴走気味に、しつこいセールスの如く押しまくっていると、美嘉は観念したようにため息をついた。

 で、相変わらず真っ赤になった顔から、ボソボソと小さく口を動かして挨拶した。

 

「……い、いただきまふ……」

 

 そう言うと、ポテトを咥えて徐々に徐々に口の中に吸い込む。

 

「……ど、どうですか?」

「……おいひい」

「それは良かった」

 

 微笑んで返すと、美嘉に手刀を出された。

 

 ×××

 

 そんな甘酸っぱいのではなく気まずいだけのレストタイムを終えた僕と美嘉は、引き続きショッピングモールを見回った。

 たまに店に入れば僕は女の子と間違われたが、その度に美嘉が怒ってくれた。僕はそんなに気にしていないのに。でも、こうして怒ってくれるのはなんか嬉しいなぁ。僕なんかのために美嘉はあそこまで必死になってくれるのが、なんかこの上なく嬉しい。

 

「ね、玲くん」

「っ、は、はい……!」

「何処か行きたい場所ない?」

「え?」

「なんかどのお店もアタシの彼氏をあんな扱いするから嫌になっちゃった。玲くんが行きたい場所に行こうよ」

「あ、は、はい。えーっと……」

 

 き、急に振られてもな……。えーっと……こういう時はやっぱり美嘉が退屈しない場所にするべきなんだろうけど……でも、服屋とかは嫌だって言ってたし……。

 あ、は、早く返事をしないと……! とりあえずゲーム屋さんで良い、かな……? 確かここにあったと思うんだけど……。

 手にしている地図に見知った店名が見えたので、そこを指差した。

 

「こ、こことか……」

「……何売ってるのここ?」

「ゲームとかカードとかフィギュアですけど……」

「……」

 

 あれ、なんで黙るの? 怖い。ダメだった? 

 

「……ま、いっか。行こう」

「あ、はい」

 

 なんか良かったみたいだ。

 ゲーム屋に到着し、最新作から見て回る。やるゲームがなくなると、僕はこうしてゲーム屋で面白そうなゲームを探すのが癖だった。

 

「おお〜……なんか、こうして見ると色んなゲームがあるんだね……」

「うん。どれも面白いよ。ゲームやらない人には馴染みないかもしれないけど、例えばこの『フォ○ルアウト4』。自由度が高くて街とかも作れるし、世界観にのめり込めるんだ。で、こっちの『ダー○ソウル』はメチャクチャ高難易度で、何回も死んでようやく敵のボスを倒せるようになれるゲームで、こっちの『バ○ルフィールド』なんかは……」

 

 そこで、僕の口は止まった。うん、明らかに語り過ぎた。子供か、僕は。オタクのこういうとこだよね、ドン引きされるのは。これには美嘉も流石に……と思って顔を見ると、すごくニヤニヤしていた。

 

「え、何?」

「ううん、好きなものを語ってる時の玲くんは可愛いなって」

「うっ……」

 

 ま、また可愛いとか言う……。ちょっと嬉しいのが困る。

 

「もっと語って良いよ?」

「い、いえ、その……やめておきます……」

「聞いてあげるよ?」

 

 やだよ、可愛いとか言われるし。それに、散々、語ってから言うのもあれだけど、僕が美嘉と一緒にやりたいゲームは、僕が過去にプレイしたゲームでは無い。

 

「僕は、その……初めてやるゲームを、美嘉と一緒にやって……感想を語り合ったりしたい、ので……」

「……」

 

 ……なんで僕はいちいち、セリフを言うたびに恥ずかしくなるんだろう……。どんだけ恥ずかしがり屋さん? や、でも今のセリフは恥ずかしいよね……。

 でも、不思議な事にこの世の中は僕が恥ずかしがると、目の前の美嘉がよろこぶようになっちゃってるんですよね……。どういう事なのホント……。

 

「ん〜〜! ホント可愛いこと言うなぁ、玲くんは!」

「むぎゅっ!」

 

 何故、抱きつく⁉︎ む、胸が顔に……! 

 

「ん〜〜〜! ん〜〜〜!」

「そこまで言うからには、私と一緒にゲームを選ぼっか」

「んっ、ん〜……!」

「でも、もうちょいこのままね。愛でたいから」

「んんんんっ⁉︎」

 

 僕の頭を撫でくりまわす美嘉。こ、この人は……! あ、余り人をからかうと……というか、息が出来ないからとりあえず本当に離れて欲しいんだけど……! 

 何とか両手をワチャワチャ動かして離れようと試みたが、そもそも美嘉の方が力は強い。

 徐々に必死になって来た僕は、僕の頭上の何かを掴んだ。

 

「んーっ……!」

「ちょっ、玲くん! 顔を掴むのはやめっ……!」

「んん〜っ!」

「って、それシュシュだから! 結び目がほどけちゃう……!」

 

 あ、力が緩んだな……! 今だ! 

 勢いに任せて呼吸出来るように顔を上に向けると、下を向いていた美嘉の顔が目の前にあった。

 

「ーっ!」

「っ……!」

 

 しかも、結んでいた髪が解けて、美嘉が「可愛い」から「綺麗」へとチェンジしている。思わず、顔がまた真っ赤になった。

 

「っ、れ、玲くん……」

「美嘉……?」

 

 徐々に、美嘉の手から力が抜けていく。でも、僕は離れる気にならなかった。美嘉の手が僕の両頬に添えられ、口が近づけられる。紅潮した頬、少し荒んだ吐息、色っぽく下された髪、全てが僕の心臓をぶち抜いていた。

 あまりの急展開なのに、僕も抵抗するどころか流され、目を閉じた時だ。

 パシャパシャパシャッと、シャッター音が鳴り響いた。

 

「「え?」」

 

 そっちを見ると、大槻さんと見覚えのない帽子とメガネの女性がスマホを構えていた。

 それによって、僕と美嘉の顔は一気に真っ赤に染まる。

 

「んなっ……ゆ、唯に千夏さん⁉︎ なんでっ……!」

「ねえ、見た? 唯ちゃん。あの子、こんなところで年端もいかない男の子を襲ってるわよ?」

「見たよ、ちなったん。あの子、一応、高校二年生だから」

 

 あ、あのメガネの人、美嘉とも知り合いなんだ……なんて言ってる場合では無い。

 

「まさか、アレだけ恋愛について雑誌とかで語ったりしてるカリスマJKアイドルだが、ゲームショップで彼氏とぱふぱふしてるなんてね」

「それね。大胆を通り越して怖いわね、あの子」

「ちょっ、やっ、やめ〜……!」

 

 涙目でワタワタする美嘉の後ろで、僕は両手で自分の顔を隠すしかなかった。

 

 ×××

 

 夕方。僕と美嘉は色んなお店を回り、ようやく帰路についた。中々に大変だったけど、なんだかんだ楽しかったのだから仕方ない。

 で、今はその帰り道。しかし、引きこもりにデートは割と疲れるなぁ……。今度、もう少し体力つけるためにW○i Fitでもやろうかな。

 そんな事を考えながら、とりあえず美嘉に抱きつかれている腕の感触をあまり感じないように念じて歩いていた。ホント、心臓に悪いんですよ、あなた。

 

「……ねぇ、玲くん」

「っ、な、なんですか?」

 

 急に声を掛けられ、思わず背筋を伸ばしてしまった。

 

「……あの、さ……。少し、寄り道して帰らない……?」

「寄り道?」

「う、うん……ほら、河川敷とか歩きたいなって……」

 

 確かに、ちょうど沈む夕日が綺麗に見えそうな時間帯だ。たまにはそういうのも良いよね。

 

「うん。分かった」

 

 川沿いを歩き、二人で腕組みから手繋ぎに変える。こういう、指と指を絡める繋ぎ方……恋人繋ぎって言うんだっけ? この繋ぎ方の意味が初めてわかった気がする。手のひらがピッタリ合う事で、美嘉の体温が手で感じられる。なんか、すごく良いなぁ……。

 

「ね、玲くん」

「ん?」

「玲くんはさ、アタシのどこが良かったの?」

「へ?」

 

 な、なんだろ、急に……。

 

「い、いやーその……ほら、今日もなんだかんだ、結構からかっちゃってたし、すぐに空気とかに流されるし……なんでかなって」

 

 うーん、そういうとこじゃないんだよな。いや、そういうとこも好きなんだけど、僕の今の「へ?」は「なんでそんな質問を今するの?」って感じなんです。とても恥ずかしいから。

 

「え、いや……その、答えないとダメ、かな……?」

「ダメ」

 

 知ってた。でも、言葉にするのは難しいんだよなぁ……。だって、僕の場合は初めて関わった女の人、というのもあるし……でも、それを言えば「女の子なら誰でも良かったの?」ってなりそう。

 それ以外の理由だと……。

 

「その……美嘉は、僕みたいに根暗で陰湿な奴に対して、声をかけてくれて……。それが、嬉しくて……誰にでも優しくて、気配りできて、処女ビッチな先輩だったから、気がついたら……」

「そ、そっか……ん? 今、処女ビッチって言った?」

「明確な理由はなかったよ。けど、美嘉だから、好きになれたっていうか……」

 

 口を滑らせたところはなかった事にした。じゃないと僕の存在をなかった事にされちゃう。

 すると、美嘉は唐突に足を止めた。何かと思い、顔を向けると、赤くなった頬をぽりぽりと掻きながら言った。

 

「そのー……すごく、恥ずかしいんだけどさ……」

「え? う、うん……」

「……き、きす……したい……」

「……うえっ⁉︎」

 

 なんでいきなり⁉︎

 

「さ、さっきお預け食らったからだよ! もう一回、キスして!」

「ええっ⁉︎ い、いやさっきのは別に僕の所為というわけでは……!」

「そうじゃなくて! もう、その……シそうで、シないっていうのが……、一番、嫌だから……」

 

 ええ〜……僕にそれを言われてもなぁ……。普通に恥ずかしいんですが……。

 

「ほ、ほら、夕日を見ながらキスっていうのも……その、良いでしょ?」

「そ、そう、ですけど……」

 

 ……なんだろ。なんか変なスイッチでも入っちゃったのかな……。でも、そんな急に言われても……。

 なんでウダウダ考えてる時だ。美嘉が強引に僕の唇を奪った。ほんの一瞬、くっ付け、すぐに離れる。

 

「ーっ……!」

「うん、よし」

 

 ……何が「よし」なんだろう。

 

「じゃ、帰ろっか」

「あ、はい……」

 

 微笑んで再び歩き出すと、正面でランニング中のように見える乙倉さんが両手を頬に当てて「ひゃー……」と呟いていた。

 

「……」

「……」

「ご、ごちそうさまです……!」

 

 謎の挨拶をしてランニングを続ける乙倉さんの背中を二人揃って眺めながら、頭がショートしそうになってる僕は「あ、乙倉さんにトレーニング付き合ってもらおうかな」なんて思っていた。

 

 

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