城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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青春の始まりは人それぞれ。

 〜前回のあらすじ〜

 

 JKアイドルが二人、飛び出してきた! どうする?

 

 →たたかう

 ・なかまをよぶ

 ・アイテム

 ・にげる

 

 〜あらすじ終了〜

 

 ……あ、あわわわわわ! どっ、どどっ、どうしようっ……! お、女の子が、三人も……! それも、みんなアイドル……!

 ど、どうしよう……闘技場でミラ系三体に囲まれた気分だ……。いや、それはそれで楽しそうだから違う……。

 って、そんなことどうでも良いの。とりあえず何とか助けを……。

 

「ちょっー! 玲くん早く来てって! 死ぬ、死ぬから!」

 

 ちらっと城ヶ崎さんの方を見たがバルファルクに夢中だ。なんてこった、少しイラっとしてしまった。

 僕はといえばどうすれば良いのか分からなかったが、かといって二人を無視することも出来ず、お二人に顔を向けた。

 ……アイドルなだけあって可愛い人達だな……。ダメだ、顔を見るだけで何も話さなくなってしまう。

 とりあえず、僕がバルファルクを引き受けて、城ヶ崎さんにはお二人の応対をしてもらおう。

 そう決めて、足早にMika☆さんがペイントしたポイントに向かった。

 

「……あの、城ヶ崎さん」

「何⁉︎ てか、早く来て死ぬって!」

 

 あ、僕の声は届いてるんだ……。まぁそれはそれでありがたい。

 

「あの……お友達の方が……」

「いや言ってる場合じゃないから! 死ぬって本当に!」

「え、エリアから出ていただければ……そいつは、僕が引き受けますので……」

「分かったけど……倒さないでよ!」

 

 わかってますよー。

 僕がエリアに入り、城ヶ崎さんはエリアから外れた。さて、まぁ足止めと言っても僕もギルドガードだし、全ての攻撃を回避するくらいじゃないと殺されるから。

 

「あれ? 奈緒と加蓮? どうしたのこんなとこで」

「やっと気付いたか。美嘉さん、ゲームに夢中になり過ぎだろ」

「そうだよー。私達が声かけても全然気付かないんだもん」

「あはは、ごめんごめん」

 

 とりあえず向こうから仕掛けてもらうか。バルファルクが正面から突きを放って来たので、それを回避して接近し、太刀で抜刀斬りの後に横に斬り下がって距離を置いた。

 

「こんなとこで何してるんだ? や、見れば分かるけど」

「後輩の男の子とゲームデート?」

「何言ってんの? てか、ゲームデートって何」

 

 当然、単発の攻撃で崩せるはずもなく、バルファルクは攻撃する体勢に入った。この攻撃は……翼叩きつけかな?

 それも難なく回避して、下画面を押して狩技を使っ……あっ、今は狩技封印期間だった。

 指をギリギリで止めて斬りかかった。

 

「モンハンか? いいなー。あたしもやりたいんだけど」

「あー、私達に隠れて他の子とやってたなんて……私、悲しい」

「変な言い方しないでよ!」

 

 ヒットアンドアウェイを繰り返してはいるものの、あまりこういうチマチマした戦い方は好みじゃない。どこかで派手に行きたいな……。

 そう思ってる時だ。バルファルクが飛び上がろうとした。絶好の機会が来たので閃光玉を投げて落とした。

 

「それで、お向かいの人は?」

「彼氏でしょ?」

「っ、ち、違うから! 学校の後輩だよ。玲くん、挨拶して?」

 

 落としたところで尻尾に向かって袋叩き。とりあえず斬りまくり、起き上がりそうな気配を感じたら若干離れて高台に登り、飛び降りて斬り込んで上に乗った。

 

「……反応ないぞ」

「てか、すごいゲームに集中しちゃってるけど……」

「おーい、玲くん? 聞こえてる?」

 

 乗った後はいつも通り。堪えてダウン取ってまた尻尾へ攻撃。が、まぁ流石バルファルクだ。そんなので尻尾は取れない。

 起き上がり、再び空を飛んだ。上空を旋回して、僕の化身であるほうれん草に狙いを定めた。

 

「……聞こえてないのか? すごい集中力だな……」

「本読んでる時の文香さんみたい……」

「ご、ごめんね? 普段こんなことないんだけど……。おーい、玲くんってば」

 

 回避したが、ハリウッドダイブになってしまったためすぐに反撃できなかった。上位装備だから当たった時点で終わりだ。慎重にならないと僕が足を引っ張ってしまう。

 次の突き刺し攻撃を避けてから反撃し……。

 

「玲くん!」

「っ⁉︎」

 

 突然、目の前に城ヶ崎さんの顔が現れ、驚いた僕は椅子から落ちて床にお尻を強打し、購入したコーヒーを頭から被ってしまった。

 

「ちょっ……だ、大丈夫⁉︎ 何やってんの⁉︎」

「っ、す、すみませんっ……!」

 

 うええ……べとべたする……なんか甘い香りが頭から……。

 とりあえず立ち上がって、椅子を起こした。いつのまにか神谷奈緒さんが店員さんから布巾をもらってきてくれた。

 机の下を拭きながら3○Sを拾った。こっちは無事みたいで良かった。

 

「……ふぅ、良かった……」

「良くないから、も〜」

 

 心配そうな顔を浮かべて城ヶ崎さんは僕の前に歩いてきて、ハンカチを取り出すと、僕の顔を拭いてくれた。

 

「っ、じ、城ヶ崎さ……! ち、近いです……!」

「動かない」

 

 反射的に後ろに仰け反ったが、それを城ヶ崎さんは許さない。

 うう……この人のお姉さん属性強過ぎる……。僕が接するには少し荷が重いよ……。

 

「あっ、あの……もう大丈夫ですから……」

「そう? じゃあ拭き足りない所あったらこれ使って良いよ」

 

 無理矢理、僕にハンカチを握らせると、席を変えてもらうつもりなのか、レジに向かって店員さんとお話ししに行った。

 ……なんだか情けないなぁ、僕。完全に性別と性格逆だよなぁ。

 小さくため息をつきながら、いつのまにか力尽きていた自分の3○Sの画面を見た。まぁ、結構長い時間放置してたからな……。

 画面を閉じると通信は切断されてしまうので、開きっぱなしのまま鞄の中にしまって、零して空になった飲み物のカップを捨てた。

 ついでに手を洗いにトイレに行って、鏡の構えで小さくため息をついた。……はぁ、なんか酷い顔してるな、僕……。いつにも増して。

 何をやらかしてるんだよ、声を掛けられただけで腰を抜かして……。ホント、こういう日があるとつくづく自分が嫌になる。いつから僕はこんな性格になったんだろう……。

 いや、保育園の時からそうだったわ。友達よりも本やゲームみたいな一人で楽しめる事が好きで……体育の時のサッカーもゲームは全然ダメだけどリフティングだけは100回以上出来た。

 まぁ、今そんな自己嫌悪しても何もならないかな……。モンハンで挽回しよう……。

 トイレから出ると、さっきの席は店員さんが掃除してくれていた。なんかすみませんね、僕の所為で……。

 

「玲くーんっ」

 

 僕を呼ぶ声がして振り向くと、城ヶ崎さんの他に神谷奈緒さんと北条加蓮さんが座ってるのが見えた。……なんで一緒にいるの? という問いは野暮である。

 はぁ……僕、これからあの中に混ざるんだよなぁ……。何が悲しくて友達のいない陰キャラジャパン代表みたいな僕がJKアイドル達の中に行かなければならないのか。

 でも、向こうは僕を呼んでしまってるし、行かないわけにもいかない。

 深呼吸をしてから、三人の元に合流した。唯一の救いは、空いてる席が城ヶ崎さんの隣ということだろうか。

 

「お、お邪魔します……」

「そんな畏まらなくて良いぞ。あたし、同い年だし」

「私も年下だからねー。そもそも、お邪魔しちゃったのは私達の方だし」

 

 ……それはそうだけど、そう言わざるを得なかったというか……。

 恐る恐る城ヶ崎さんの隣に座った。ほんとはこのままゲームしたかったが、まぁそうもいかないんだろうな。

 

「えっと、後輩の宮崎玲くん。で、二人は……知ってるよね? 神谷奈緒と北条加蓮」

 

 その紹介に、僕は小さく会釈し、お二人は「よろしく」と微笑みながら胸前で手を振った。

 で、何故か僕に集まる視線。え、何? 何か言えって事……? や、でも別に言うことなんか……。

 人に見つめられることが苦手な僕が変な汗を流してると、北条加蓮さんが「ふ〜ん……」と意外そうな顔で呟いた。

 

「美嘉さ、この人とどうやって知り合ったの?」

「なんで?」

「や、接点があるように見えないから」

「あー、そう言われるとそうかも」

 

 それは僕も思う。本当に些細なきっかけだった。というか、こっちからすればゲームしてるところに興味持たれると思わなかった。

 

「でも、あれだろ? 結局、モンハン繋がりだろ?」

「まぁね。バルファルク倒せないから教えてもらおうと思って。……あ、そだ。二人に見せたいものあるんだよね」

 

 言いながら3○Sをいじる城ヶ崎さん。いじる、というか普通に画面を見せていた。そういえばクエスト中だった。

 

「ほらこれ」

「うわっ、ナルガ装備これ⁉︎」

「なんでこんなの持ってんの⁉︎ 四人がかかりで38回挑んでもう二度とやらないってなったのに!」

「ふっふーん、あたしも今ではナルガクルガくらいソロでいけるからね。これは何? その努力の結晶っていうの?」

「狡いぞ! 野良で寄生してたんだろ!」

「そうやって美嘉は遠い所へ行っちゃうんだね……。凛や卯月みたいに」

「加蓮のそれは何キャラなの……」

 

 ……なんか、アイドルって割と変……個性的な人達が多いんだな。や、悪い意味じゃなくて。

 まぁ、こうして見てる分にはクラスの女子がじゃれ合ってるのと大差ないけど。結局、アイドルも普通の人なんだし、そういう意味では普通の人もみんな個性的だ。十人十色とはよく言ったものだよ。

 

「てか、寄生もしてないし。ここの玲くんに色々教えてもらったんだ」

 

 直後、病的な速さで二人の視線が僕に移った。

 ちょっ、怖っ……。犯人はお前だ、って指差された気分なんだけど。

 

「ちなみに、あたし達はこれからバルファルクを倒しに……」

「宮崎くん!」

「私達にも修行を!」

「ちょっ、二人とも聞いて」

 

 えっ、し、修行ってそんな大袈裟なものでは……! ていうか、どうしてくれんの城ヶ崎さん……! こんなハーレムアニメみたいな状況、心臓もたないんだけど……!

 

「え、えっと……!」

「頼む! 美嘉さんだけ狡いから!」

「そうだよ! これから私達が美嘉の寄生みたいになりそうで嫌だ!」

「っ……そ、そう、言われましても……!」

 

 どっ、どどっ……どうしよう……! 城ヶ崎さん、助けを……!

 

「してあげたら?」

 

 いや許可を求めたんじゃなくて……! うっ、ど、どうしよう……。別に構わないけど……でも、あまり人と関わるのは……。

 ……いや、でもこんな事じゃダメ、だよね。前から思ってたけど、やはりコミュ障は治すべきものだし、社会に出た時にどんなに実力があってもこんなんじゃ生きていけない。

 何より、この前の城ヶ崎さんとのゲーム、すごく楽しかったんだ。だけど、かなり向こうに気を使わせていたと思う。それを少しでも減らすには、やはり僕自身が少しでも会話できるようにならないとダメだ。

 これを良い機会と捉えれば、少しはマシになる……と思う。

 

「……わ、分かりました……。でも、お二人とも3○Sは……」

「「持ち歩いてる」」

 

 ……それで良いのかJKアイドル。

 

「ね、私タマミツネが良い!」

「あ、あたしはベリオロス!」

「あ、あはは……」

 

 また微妙に難易度高い奴らを……。というか、ベリオはともかくミツネは龍耐性マイナスなんだよなぁ……。

 でもそこを指摘する度胸は僕にはないし……まぁ、本人が良いと言ってるなら良いかな。装飾品つければ消せるし。

 

 ×××

 

 アレから四時間ほど経過した。神谷さんと北条さんと別れ、僕と城ヶ崎さんは電車に乗った。埼玉組なので途中まで同じ電車だ。

 ゲームの方も装備はなんとか作れて、みんなの技量も少しは上がったと思う。結果的に見れば、とても充実した1日だったんじゃないだろうか。

 ……僕以外は。慣れない女の人と話してすごい疲れた。肩で息しながら吊り革に掴まってると、隣に立ってる城ヶ崎さんが声をかけてきた。

 

「……あの、玲くん?」

「な、なんですか……?」

 

 城ヶ崎さんに名前を呼ばれるのは少し慣れてきた。まぁ、多分今は疲れ切ってて驚く余力もないだけだと思うけど。

 

「もしかして、さ」

「はい……」

「人と話すの、苦手……?」

「ぶふっ⁉︎」

 

 余力がなくても驚けることが証明された。前の席に人が座ってたら殺されてたなこれ。

 

「えっ、えっと……」

「いや、前々から……てか、逃げられた時から薄々思ってたんだけどさ……」

 

 ……これはなんと答えるべきなんだろう。はい、そうです、って? いや、僕は同情されるのは好きじゃない。なんか申し訳なくなるから。

 でも、嘘をつくのもなぁ……。というか、嘘ついても秒でバレると思うし。

 

「……は、はい……」

 

 なんだか嘘がバレた気分で頬を赤く染めて俯いてしまった。なんで恥ずかしいと思ってるんだろう、僕は……。

 

「やっぱり……」

 

 うっ……もしかして不愉快な思いさせちゃったかな……。だとしたら謝らないといけない、のかな……。

 短い時間の中でウダウダと悩んでると、城ヶ崎さんからボソリと声が聞こえた。

 

「なんか、ごめんね?」

「へっ?」

「普通、ああいう時はどちらかの用事を済ませるべきだよね」

「いっ、いえっ! そもそも僕がコミュ障なのが悪いだけでして! 城ヶ崎さんがお気にかけることは何も……!」

「ううん、そういう事は年長者が気にしなきゃダメだから」

 

 うっ……そ、そういうものなのかな……。コミュニケーションのスキルレベルが低い僕よりも、コミュ力の塊と言える城ヶ崎さんが言ったことの方が説得力はある。下手な反論はできない。

 でも、相手に申し訳なく思わせると何故か僕まで申し訳なく感じてしまう人間だ。なるべくなら気にかけて欲しくない。

 小さく項垂れてると「よしっ」と城ヶ崎さんは何かを閃いた。

 

「こうしよっか。モンハンのこと色々教えてもらう代わりに、あたしは玲くんにコミュニケーションを教えてあげる」

「へっ⁉︎」

 

 超展開になった⁉︎

 

「ほら、玲くんだっていつまでもコミュ障であるわけにもいかないでしょ? でも、友達がいないとコミュニケーション能力をつけることもできないじゃん?」

「……そ、それはそうですが……」

 

 それはなんだか申し訳ないんだよなぁ……。モンハンのことなんて別に教えなきゃいけないようなことじゃないし、明らかに釣り合ってないよ。

 ……どうしようかな。でも、断ったら向こうはモンハンのことも断ってきそうだし……。

 

「玲くん」

「っ、は、はいっ……」

「似たような男の子が近くにいるから分かるんだけど、別に申し訳なく思う必要ないからね?」

「へっ……?」

「あたしには妹もいるし、歳下の子の面倒を見る慣れてるから。だから、気にしないで甘えても良いんだよ?」

 

 その言葉は、やけに僕の胸に響いた。人な甘える、という経験は僕にはなかったからかな。昔から両親は共働きで家にいなかったし、友達もいなかった。

 や、別に年上の女の人に甘えたいとかそんなんじゃないよ? ただ、まぁ、その、なんだ。ほら? コミュニケーション能力をつけるためだし、これはあくまで将来のためのことであって、決して下心はないわけで……。

 

「……良いんですか?」

「うん」

 

 ……まぁ、城ヶ崎さんがそう言うなら良いよね。

 

「……では、その……よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。じゃ、手始めに呼び方から変えてみよっか?」

「へっ?」

 

 い、いきなり……?

 

「あたしのことは『美嘉』って呼んで?」

「えっ……ええっ⁉︎ そ、そんな無理です!」

「ほらほら、これも練習だから!」

「っ……〜〜〜!」

 

 い、いきなり歳上の女の人を下の名前で呼び捨て、なんて……。でも、城ヶ崎さんが、そう言うなら……!

 

「っ……」

「何?」

「……」

「……」

「……すみません、せめて美嘉先輩でも良いですか……?」

「ま、まぁ、そうだね。まずはそれで良いよ」

 

 ……ヘタレなんだな、僕は……。情けない、本当に……。

 せっかく練習に付き合ってもらってるのに、呆れさせちゃったかな……と思って、恐る恐る美嘉先輩の顔を見ると、何かボソリボソリと呟いていた。

 

「先輩……えへへっ」

 

 ……先輩と呼ばれて少し嬉しそうだ。そういえば、神谷さんや北条さんも「さん」付けか呼び捨てだったもんね……。

 もしかしたら、この人外見だけじゃなくて中身も可愛い人なのかもしれないな……。

 こうして、僕の青春はようやく始まった。

 

 


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