城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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事務所にて(1)

 事務所にて、各々のレッスンを終えた城ヶ崎美嘉、神谷奈緒、北条加蓮の三人がソファーの上で飲み物を飲みながらゲームをしている所を城ヶ崎莉嘉が通り掛かった。

 3○Sを事務所でしてるのは珍しいと思い、声をかけてみることにした。

 

「三人とも何してるの?」

「あ、莉嘉」

「美嘉、目を離さないで!」

「あ、ごめっ……ああああ、死ぬって!」

「ふ、粉塵!」

「サンキュー奈緒!」

 

 と、忙しそうな中でも一切気にすることなく、莉嘉は美嘉の隣に腰をかけた。

 

「あ、またモンハン?」

「そーそー」

「あたしもやりたい!」

「ダメ。莉嘉は自分の3○S持ってるでしょ?」

「あたしモンハンなんて持ってないもん!」

「やりたいなら自分で買ったら? 難しいから莉嘉に合うとは思えないけど」

「なんでよケチ!」

「今はダメなの。あとで簡単なクエストで貸してあげるから」

「ほんと? じゃあ待つ!」

 

 素直な妹で助かった、と思いながらクエストを進める。今のクエストは奈緒の武器の素材を集めていた。

 

「どう、奈緒ちゃん。落ちた?」

「うがあー! 落ちねえー!」

「あ、ごめん……奈緒」

「なっ……落ちたのか、加蓮⁉︎」

「ごめん、二つもごめん……」

「うがあああー!」

「ほらほら、アイドルが叫ばない。出るまで狩るよ」

「頼むわ!」

 

 と、まぁ良い感じに盛り上がっている中、莉嘉が美嘉の袖を引いた。

 

「ねぇ、次あたしじゃないの?」

「ああ、そうだったね。……二人ともライゼクスくらい倒せるよね?」

「「楽勝」」

「じゃ、あたしは莉嘉に貸して教えてあげながらになるから、よろしくね」

 

 とのことで、美嘉は莉嘉に3○Sを貸した。とりあえず装備はガチガチに固め、回復アイテムを腐る程持たせて武器は自分がよく使うチャージアックスにした。

 クエストを受注してロード画面になった。

 

「良い? このボタンで抜刀して、抜刀した状態で押すと斬れるから」

「ふんふん?」

「で、こっちのボタンで緊急回避って言って……相手の攻撃避けられるから。これ一番大事ね」

「避けるのが?」

「そう。これがないと避けられない攻撃もあるから。まぁ、まずは小型モンスターで試してみよ?」

「うん」

 

 と、一から教えてる間にクエスト開始。G級なので全員ランダムにエリアに配置される。

 Mika☆が配置された場所の目の前にはライゼクスがいた。

 

「えっ」

「わっ、なんか大きい!」

 

 嫌な汗が頬を伝った美嘉と呑気な感想を漏らす莉嘉。

 

「ね、お姉ちゃん! あいつで試しても良い⁉︎」

「いや、あれ小型じゃ……てか今、自分で大きいって……!」

「よーし、やっちゃ……あれ? なんか動かないよこの人?」

 

 咆哮が炸裂し、耳を塞いで動かなくなるMika☆。それを見て、美嘉は慌てて奈緒と加蓮に声を掛けた。

 

「ふ、二人とも早く来て! 死ぬ、死んじゃう!」

 

 ナルガ装備は雷耐性が低い。それでも美嘉がライゼクスに挑んだ理由は、宮崎玲直伝の回避技術を持ってるからだ。それに追加して、元々ナルガクルガ装備はスキルで回避性能がアホ高い、まさに当たらなければどうということもないのだ。

 が、それはあくまでプレイヤースキルがあっての話だ。初心者の莉嘉にライゼクスの攻撃を避けるのは厳しい。特に咆哮後なら尚更だ。

 

「わっ、死んじゃった」

 

 秒殺だった。尻尾に突き刺されて痺れた所に突進で終わり。キャンプに強制帰還させられた。

 

「ま、まぁ、今のは仕方ないよね」

「あ、ああ。気にしなくて良いからな」

 

 フォローしながらライゼクスのいるエリアに到着する奈緒と加蓮。

 美嘉と莉嘉はキャンプで秘薬とこんがり肉だけ食べてエリア2に出た。

 

「いい? まずはあそこのモンスター倒してみ?」

「うん。Xで攻撃だっけ?」

「そう」

 

 とのことで、コンガに襲い掛かった。走りながら抜刀切りをした。

 

「おぉ……斬れた!」

「油断しないで、反撃して来るから」

 

 そういう通り、前足で引っ掻かれた。後ろに尻餅をつくハンター。更に別のコンガに気付かれて囲まれてしまった。

 

「わっ、お姉ちゃんヤバイ!」

「落ち着いて。防具でガチガチに固めて硬いからそんな簡単に死なないよ。でも攻撃されるとダウンしちゃうから緊急回避で避けつつ、一匹ずつ確実に仕留めた方が良いよ」

「えっと……何言ってんの?」

「あ、だから攻撃されても簡単に死なないから……」

「って、やー! 来てる来てる来てる!」

 

 コンガの群れに良いようにボコボコにされるMika☆。それも防御力だけは高いから死ぬこともなかった。

 

「もう嫌ー! てか何このピンクのゴリラー!」

「……代わる?」

「代わる! このゲーム気持ち悪い!」

 

 とのことで、さっさと選手交代した。小さく鼻息を漏らしながら美嘉は3○Sを受け取り、コンガを全滅させてからライゼクスの元へ。

 奈緒と加蓮の戦闘に参加した。三人で戦ってると、莉嘉が画面を見ながら呟いた。

 

「……うわあ、お姉ちゃん強いね」

「強いのに『うわあ』っておかしくない?」

「だって、一週間くらい前に見たときと全然違うんだもん」

「んー、まぁ先生が出来たからねー」

「先生?」

 

 莉嘉がキョトンと首を捻った。

 

「千秋くん?」

「いやいや、あんなのじゃないから」

「文香ちゃん?」

「違うよ。あのカップルは関係ないから」

 

 じゃあ誰? と視線で問われたので、ゲームをやりながら答えた。

 

「ん、学校の後輩」

「男の子?」

「そう」

「男の子⁉︎」

 

 聞いてきたくせに驚く莉嘉だったが、美嘉の表情は変わらなかった。

 

「ちなみに、あたしだけじゃなくて前の二人も教わったよ」

「そうなの?」

「うん。宮崎って奴」

「あの人の方が私達より全然うまいけどね」

 

 奈緒と加蓮も高速で指を動かしながら頷き、莉嘉は感心した様子でニヤリと微笑んだ。

 

「ふーん、じゃあ結構その子プレイボーイって奴? 女の子、それもアイドルを三人も手玉に取るなんて」

 

 直後、三人とも口と目を半開きにして莉嘉を見た。ゲーム中、顔もあげなかったのにその時だけは顔を向けていた。

 

「……いや、それはないから、莉嘉」

「……ああ、過去に見た男の誰よりもコミュ障だし」

「……あれでプレイボーイならこの世の男の子みんなプレイボーイだな」

「みんな画面から目を離して良いの?」

「「「うわあ!」」」

 

 慌てててライゼクスに目を戻す三人。この三人、割と面白いかも、と思いつつも、とりあえず男の子の方が気になったので質問を続けた。

 

「じゃあ、どんな人なの?」

「んー、どんなって……」

 

 美嘉が顎に人差し指を当てて考えたあと、美嘉、奈緒、加蓮と順番に答えた。

 

「可愛い子」

「シャイな子?」

「コミュ障な子」

「……男の子だよねそれ?」

 

 莉嘉が引き気味に呟いた後、美嘉と加蓮は奈緒をジト目で睨んだ。

 

「……いやいや、シャイって……」

「それは奈緒でしょ」

「っ、な、なんだよ! あたしは別に普通だ!」

「「「いやいやいや」」」

「り、莉嘉までなんだよ⁉︎」

 

 奈緒は突っ込んだが、可愛い系の私服を持ってるのに恥ずかしがってカッコイイ私服しか着たがらない時点でシャイか照れ屋なのは分かりきった事だった。

 

「……じゃあ、お姉ちゃんはそんな人とどこで知り合ったの?」

「学校。食堂で一人でモンハンやってたから後ろから見てて、それで」

「ああ、そうだったのか」

「私も気になってたんだー。同じ学校でも美嘉と宮崎くんがどう知り合ったのか」

「逃げられちゃって」

「「「逃げられたの⁉︎」」」

 

 三人から驚いたような声が上がったが、まぁ驚かれるだろうと分かりきっていた美嘉は特に反応せずにゲームを続けながら頷いた。

 

「うん。ゲームに集中してた中、急にあたしに気付いたからビックリしちゃったんだと思う」

「え、小動物?」

 

 自分の師匠を小動物扱いする加蓮だった。

 

「その時にあの子お財布落として行っちゃって、で、次の日にめ○ましテレビの生中継の帰り道に学校から帰る彼とたまたま会って、それで返すついでに話すようになったの」

「ふーん……で、モンハンの手引きしてもらってたと」

「そーいうこと」

 

 その説明に「ほえ〜……」と感心したように莉嘉はため息をついた。

 

「でも、コミュ障なのによく教えてもらえたね」

「まぁ、今にして思えば、あたしが一方的に質問してたから、向こうも答えやすかったんじゃない?」

「あー、なるほど」

「ま、アイドルにお願いされたら誰でも断らないよね、そもそも。あたしもこの前クラスの男子にちょーっと教科書忘れたから貸してってお願いしたら、二つ返事で……」

「莉嘉……あんた、忘れ物するなってお母さんにいつも言われてるでしょ」

「わーかってるよー」

 

 絶対分かってないな……と、思いつつもそれ以上は問い詰めなかった。

 美嘉はそれよりも自慢したいことを思い出したからだ。

 

「あ、そうそう。それで昨日ね、帰り道にコミュ障だってこと分かったから、あたしがそれ治してあげる事になったんだー」

「へーそうなのか」

「まぁ、美嘉と話してればそのうち治りそうだよね」

「それでね、今度会った時からあの子に『美嘉先輩』って呼んでもらえる事になったんだ」

 

 そのセリフに凍り付く三人だったが、やがてニヤリと加蓮が頬を歪ませた。

 

「え、なに? なんでそうなったの? 宮崎くん、もしかして美嘉のこと……」

「あーいやそういうんじゃないから。あたしから美嘉って呼んで? って言ったの。そしたら『美嘉先輩でも良いですか?』って言うからそうなったの」

「……でも良いですかって……」

「聞いた? 先輩だって、先輩!」

「あ、それで喜んでたんだ……」

 

 奈緒が引き気味に呟いたが、美嘉はウキウキしてやまない。それがゲームのプレイにも反映していて、一人でライゼクスに向かっていって尻尾を叩き斬った。

 その様子を見ながら、奈緒は加蓮の耳元でつぶやいた。

 

「……なぁ、加蓮。このパターン……」

「……うん、私もなんとなく察した」

 

 そう呟いて「美嘉先輩!」「やめてよ莉嘉〜」と姉妹でいちゃついてる二人を眺めながら合掌した。

 

「「お幸せに」」

 

 そう呟いた時、ライゼクスの討伐が終わった。剥ぎ取りが終わり、報酬画面へ。加蓮が奈緒に聞いた。

 

「落ちた? 宝玉」

「……いや、まだ……」

「あ、ごめん。奈緒ちゃん」

「美嘉さん⁉︎ なんなんだよお前ら!」

「まぁまぁ、出るまで付き合うからさ」

「頼むわ!」

 

 との事で、再びゲームに意識が向き、飽きた莉嘉は通り掛かった乙倉悠貴の元に遊びに行った。

 

 


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