城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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母性はどんなギャルにもある。
ゲームでも人生でもソロとデュオは全く別。


 夜、僕は一人でゲームをしていた。次に美嘉先輩達と挑むのはいよいよバルファルク、そのため僕だけ先にバルファルクに挑んで行動パターンを観察している。

 攻撃を回避しながら確実に反撃して、ボンヤリしながら戦う。うーん……やっぱり要注意なのは突きと翼叩き付けくらいだよね。あとは上空から突っ込みは当たらないし、この程度なら多分クリアできるかな。

 クエストを完了し、3○Sを机の上に置いた。背もたれに寄りかかると、目に疲れを感じた。そろそろやめないと視力が下がる。

 

「……ふぅ」

 

 家用のメガネを外し、少し息を吐いた。明日は月曜、バカみたいに憂鬱になる日だ。

 面倒なことこの上ない日だが、それに追加して城ヶ崎さんを「美嘉先輩」と呼ばなければならない。これが本当に厳しいんです。

 いや、別に嫌だとかではないからね? ただ、その……何? 緊張しちゃうんだよな……。なんとか勇気を振り絞って「美嘉先輩」と呼ぶことにしてもらったが、結局「美嘉」って呼んじゃってるんだよなぁ。

 まぁ、うだうだ言ってても仕方ない。それに、同じ学校だからと言って毎日会うわけではない。美嘉先輩はもうそれなりにモンハン上手くなったし、案外、僕はもう用済みになったかもしれない。

 そんなネガティヴなことを考えながら、もう寝ようと思って布団に潜るとスマホが震えた。

 

『城ヶ崎美嘉』

 

 ……噂をすれば。いや、考えてただけで噂はしてないけど。

 

 城ヶ崎美嘉『明日、一緒にお昼食べようね』

 

 ……急になんだろうこの人。いや別に嫌だというわけじゃないけど、わざわざ今約束しなくても……。

 

 城ヶ崎美嘉『いつも食堂で一時から食べてるんだっけ??』

 

 ちょっ、入力早っ……。なんでそんな早く送信できんの?

 

 城ヶ崎美嘉『じゃあ、あたしもその時間に行くね?』

 

 だから早いって……! キーボードの入力なら負けないけどスマホの入力は慣れない。普段、L○NEですら美嘉先輩と知り合ってからダウンロードしたくらいだ。

 

 城ヶ崎美嘉『寝落ちしてる?』

 城ヶ崎美嘉『だったらごめんね』

 城ヶ崎美嘉『おやすみー』

 

 あ、あわわわ! 早く返信しないと……! というか入力早すぎるよ……!

 慌てて返事をスマホで入力した。

 

 みやざきれい『はい、食べられます。一時に食堂でお願い致します。あとまだ寝てないです。慣れてないもので返信遅れてすみません。申し訳ありません。おやすみなさい』

 

 ……ふぅ、L○NE……というか文面でもやっぱり気を使うなぁ……。

 というか、L○NEの既読ってシステムが良くないよね。少し返事しなかっただけで無視してると思わせてしまう。まぁ、メール無視の対策なんだろうけど……。

 

「はぁ……」

 

 人付き合いって大変だなぁ……。そんなことをしみじみ思ってると、すぐに返事が来た。

 

 城ヶ崎美嘉『なるほど(笑) なら仕方ないね』

 城ヶ崎美嘉『じゃあこれも練習だね』

 

 ええ……いや、でもこれもコミュニケーションの一つというなら従うしかないか……。

 ま、まぁほら、夜遅くなりそーとか思ったりするけど、美嘉先輩だって明日は学校だし、多分早めに切り上げられるよね。

 そう心の中で祈りながら、夜中までL○NEした。JKの夜更かし力怖い。

 

 ×××

 

 翌日、時早くしてお昼休み。昨日は夜更かしして、今日は早起きしたので午前中の授業はオール爆睡したのでお昼は寝る必要がない。

 その甲斐あってか、2年の方が食堂に近いので、僕は先に食堂に来てしまった。

 なんとなく先に食べてるのは申し訳ない気がしたので食堂の前で待機した。

 少しでもリラックスするためにスマホゲーしながら待ってると「おーい」と聞きなれた声が聞こえてきた。顔を上げると美嘉先輩が走って来ていた。

 

「お待たせ〜」

「っ、じ、城ヶ崎先ぱ……」

「……なに?」

「じゃなくて……みっ、美嘉、先輩……」

 

 頬を真っ赤にしながら、俯きつつ名前を呼ぶと、異様に嬉しそうな顔で「そう」と頷いた。

 

「って、あれ? お弁当?」

 

 僕の手元の弁当箱を見て言われ、思わず背中に隠してしまった。

 

「あ、は、はい……。その……初めて、人とお昼を食べるので……僕なりに……何か、会話のタネになりそうなのを用意して……それで」

「あー……な、なるほど……?」

「それで、その……」

 

 っ、勇気を振り絞れ、僕……。何のために作って来たんだ。モンハンのためとはいえ、美嘉先輩は教室に友達がいるだろうに、それを切ってまで僕に付き合ってくれてるんだ。

 そのために作って来たんだろ、ヘタレはもう卒業しろ!

 背中に隠したお弁当箱を差し出した。

 

「み、美嘉先輩の分も作って来ましたッ‼︎」

「……えっ」

 

 直後、周りから騒ついた声が聞こえた。慌てて周辺を見渡すと、辺りにいた生徒達はみんなこっちを見ていた。

 今更になって、声が大き過ぎたことに気付いた。徐々に顔が熱くなるのを感じた。多分、顔真っ赤になってる。それを察してか、美嘉先輩が僕の口に手を当てた。

 

「あっ、ありがと! でもとりあえず移動しよっか!」

「っ……は、はいぃ……」

 

 ……僕ってバカだなぁ。お陰でもう食堂では食べれない。

 美嘉先輩は僕を連れて校内を歩き回った。とりあえず見つからないように人気の少ない場所に向かった。

 結局、来たのは屋上。進入禁止だから誰も来ないと思って屋上に出た。

 二人で弁当を広げ、床に座ったものの会話はない。弁当に手も伸びない。というか、僕がどの口で話しかければ良いのか。僕の所為で美嘉先輩にも恥をかかせてしまった。

 謝りたいのに、これもコミュ障の弊害だろうか、寒くないのに唇が震えて動かない。

 それに気付いてか、美嘉先輩が口を開いた。

 

「さ、食べよっか?」

「えっ……?」

「ほら、せっかく作ってきたのに時間なくなっちゃうよ」

「で、でも……」

「大丈夫、あんなの気にしてないから。それより、玲くんが作って来てくれたお弁当の方が大事だから」

「っ……」

 

 こ、この人は……なんで男心をくすぐるようなことを……! 思わず頬を赤く染めて俯いてしまった。

 その間に、美嘉先輩はお弁当を縛っている包みをほどいた。中から出てきたのは箸ケースとお手拭きとお弁当。まだ蓋を開けてもないのに美嘉先輩はお弁当を眺めてつぶやいた。

 

「……玲くんってさ、女子力高いよね」

「っ、す、すみません……!」

「褒めてるんだから謝らなくて良いんだよ」

 

 言いながら美嘉さんは蓋を開けたので、僕も慌てて自分の分の弁当の包みを取り、お手拭きで手を拭きながら蓋を開けた。

 

「お、おお〜……美味しそうじゃん……」

 

 中はコロッケ、レンコンのはさみ揚げ、ほうれん草、のりたまのふりかけが掛けられた白米などといかにも弁当といったものだ。

 朝から揚げ物やって音立て過ぎて母親にキレられた甲斐があった。

 

「……あ、ありがとう、ございます……」

 

 人に褒められたのは初めての経験だったので少し照れ臭かったが、何とか堪えてケースから箸を出した。

 

「いただきます……」

「いただきまーす★」

 

 二人で手を合わせてお弁当を食べ始めた。料理は家で何度かしてるし、不味いって事はないはず……。

 

「あむっ、んっ……うん、おいひいよこれ」

「ほ、ほんとう、ですか……?」

 

 良かった……。というか、人に料理を美味しいって言われるの嬉しいな……。

 

「コロッケの中のクリームも良いし、ほうれん草の味付けはバター、だよね? ちょうど良いよ」

「ーっ」

「それに、のりたまのチョイスも良いよ。コロッケが甘くてほうれん草が塩っぱくて、それでいてご飯も甘いっていう……バランスも良い」

「あ、あの……」

「あとこのレンコンのはさみ揚げの中身が何より……」

「……も、もういいので、食べましょう……」

「あはは……照れちゃった?」

「うー……」

 

 この人……途中から完全に分かっててやってるよ……。それでも喜んじゃうんだから、僕もチョロいなぁ……。

 あっという間に食事が終わってしまった。

 

「ふー、ご馳走様でした……」

「あ、は、はい……」

「玲くんって料理もできるんだね」

「ひ、一人でやれることでしたら何でも……」

「う、うん……それは、うん……」

 

 あ、ちょっと引いてる……。仕方ないでしょ、友達いなかったんだから。バッティングセンターも最強に打てるし、バレーボールの一人でトスやる奴も100回は固い。両方とも腕死ぬけど。

 でも、自分の作ったものを美味しいと言ってもらえるのは嬉しい。そうなると、次もやる気が出るのがゲーマーだ。

 味の系統、食感、水分など全てのバランスを考え、あるいは敢えて崩したりしてその日の美嘉先輩をだれだけ喜ばせられるか、か。面白そうだ。

 

「あのっ、みっ……先輩!」

「ん、何?」

 

 美嘉先輩、とは呼べなかったが、自分から声をかけることができた事に少し嬉しく思いつつも続けた。

 

「よ、よろしければ……明日もまたお弁当を作らせていただけませんかっ⁉︎」

「い、いや……それは……」

 

 えっ、だ、ダメなの……? もしかして、お世辞だった、のかな……。

 

「……なんか、女として負けた気になりそうだから……。代わりに、明日はあたしが作ってきてあげるよ?」

「っ、い、いえそんな……! お、恐れ多いです……!」

「い、いやいや、そんなあたし偉くないからね?」

「で、ですが……先輩にそんな……!」

「そんな気にしなくて良いから。それとも、あたしのお弁当は食べたくない?」

「い、いえ、そういうわけでは……!」

「じゃ、明日はあたしの番ね?」

 

 マジか……。まさか、僕みたいな非リアの代表みたいな奴が女子高生のお弁当を食べれるなんて……。

 

「あ、そうそう。それからさ、今日はモンハンどうする?」

 

 あ、そういえばもう時間はないな……。流石に美嘉先輩に教えながらモンハンやるのは無理だ。

 

「僕は……特に予定はありませんが……」

 

 というか、予定がある日がない。基本家でゲームやってる。

 

「うーん……でもあたし今日の放課後は無理なんだよね……。お仕事だから」

「そ、そうですか……」

 

 そっか……美嘉先輩とのゲームは楽しいから、またやりたかったのに……。まぁ、でも美嘉先輩にとって本業は学業ではなくアイドルだ。

 

「できる日があったら連絡するから、またその日に色々教えてよ。ね?」

「……は、はい」

 

 そっか、今日だけじゃないんだ。その時までに、僕は少しでもわかりやすく教えられるようにモンハンを極めよう。

 

「……じゃ、そろそろ戻ろっか」

「……は、はい」

 

 そう言うと、屋上を出てそれぞれの教室に戻った。

 

 


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