城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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ゲーマー流の自己管理。

 学校には様々な授業がある。国語、数学、社会、理科、英語はさらに細かく分割されるし、それ以外にも家庭科、保険体育、LHR……などとサブ教科もあるわけだが……その中でも一番意味分からないのは体育だよね。

 だって必要ないじゃん。生きる上での基礎体力なんてそのうちついていくもので、学生時代に育むことではない。そういうのやりたきゃ部活をやれ、という話だ。

 大体、小学生の頃から体育の授業やらされてたんだし、別に今更になって体育なんてやる必要ないでしょ。

 そんな事を思いながら、ジャージに着替えてグラウンドに出た。体育の時は毎回同じこと思ってるよなぁ、僕は。

 はぁ……気怠い。わざと体操着忘れたりして抵抗してると、追試になるからなぁ……。

 ただ、こういう体育の試験は全員公平に見れるように実技の試験は個人で出来るものになってるから、そこは助かる。

 リフティングとか、足首の角度や足の表面の何処で蹴るか、ボールを蹴り上げる高さとか全てをコントロールして回数を増やす単純かつ高度なゲームだから楽しいんだよな。

 今日の科目は野球なんだけどね……。野球ならやはりバッティングセンター以外は無理。打てても走れないし守れない。

 ま、クラスメートも僕に期待なんかしてないだろうし、ミスしたって無視されるだけで怒られない。

 

「……はぁ」

 

 準備体操をしながらため息が漏れた。まだ準備体操なのに疲れが出てるあたり、本当に体育は嫌だ……。

 大体、自分がどんなに頑張っても他の人も頑張らないと勝てないなんてクソゲーでしょ。その点、テニスやミントンは良いけど、アレは誰かと一緒じゃないと練習出来ないから、そもそもスキルレベルが上がらない。

 よって、まぁスポーツは根本からクソゲーばかりだ。そもそも、どのスポーツをやるにもまずは基礎体力なんてふざけてる。

 

「……はぁ」

 

 また深いため息を漏らしながら身体を動かしてると、体操服を着た女子達が同じグラウンドにきた。うちのクラスの女子じゃない、ジャージの色が違う。

 ……てことは、三年生かな? いや、一年生かもしれないけど。別の学年にも友達がいないからわからない。

 そっちをぼんやり眺めてると、美嘉先輩の姿が見えた。友達と楽しそうに笑いながら、準備体操の形に整列していく。

 ……あ、目が合った。

 

「……」

「……」

 

 小さく会釈すると、美嘉先輩は胸前で小さく手を振った。

 ……体操服姿も可愛いなぁ。ホント、あんな綺麗な人と僕が夜中は一緒にモンハンやってるなんて、人生わからないもんだよなぁ……。

 準備体操が終わり、まずは練習。野球だからキャッチボールだ。僕? 僕の相手はもちろんいない。

 なので、何処かに混ぜてもらうことになった。三人で回しながらキャッチボールをするが、まぁ僕は運動音痴だ。ストラックアウトとかやってたから投げれるけど取れない。当たると痛いから逃げてしまいます。

 大体、グローブしてるとはいえ突き指したらどうするんだよ。ゲーム出来なくなるじゃん。

 他の所は会話しながらやってるのに、僕達のグループだけ、毎回僕のところで途切れる。いやほんとに申し訳ない限りだが、どうか怒らないで下さい。

 ボールを取りに行きながら、ちらっと後ろの二人の様子を見た。

 

「でさ、この前ガチャ単発で武蔵ちゃん来てさー」

「は? マジかお前。マジか」

 

 ……マジかお前。僕なんか集めた石全部解放しても何も出なかったのに。

 って、違うよ。怒ってないようで良かった。あの二人もオタクっぽいし、簡単には他人にはキレないだろう。

 ボールを取って投げ返しながら合流、という流れを繰り返してると先生の笛が鳴って一旦集合が掛かった。

 次はいくつかのグループに分かれ、野球部がノックをして、それを取って投げ返すというものだ。これの対処方法は容易い。わざとエラーをして取りに行くふりをすれば良いだけだ。

 あとはボールがなくなった定で探すふりしてればフェードアウト出来る。

 作戦を決めてる間に、僕の順番になった。取るつもりはないので棒立ちしてると、野球部の人がボールを打った。

 一応、取る気を見せるため、腰を屈めてグローブを伸ばした。ボールがバウンドし、イレギュラーし、僕の鳩尾に直撃した。

 

「コフっ……⁉︎」

「えっ……」

 

 は、入った……! 野球部の打球が見事に……!

 

「え、大丈夫……?」

「今、すごい音したけど……」

「てかあんな断末魔リアルでマジで初めて聞いた」

「それな」

 

 関心はいいから誰か保健室に連れて行くなりなんなりしてよ……。

 仕方ないので、自分で先生の座ってるベンチに戻った。まぁ、計画とは違うが、これで体育は休めるぜ……。ちなみに保健室に行く勇気はない、保健室の先生美人だし二人きりで話せる自信ないです。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 

 見ていたのか、先生が声をかけてきた。

 

「軟式でも野球のボールは痛いからな……。どこ当たった?」

「鳩尾です……」

「それは効いたな……。もし無理ならしばらく休んでて良いぞ」

「すみません……」

 

 ふぅ……良かった、助かった。まぁ、多分ゲームには駆り出されるから、それまでボンヤリしていよう。

 男達の野球より、女子の先輩達のサッカーが気になりそっちを眺めた。先輩達、というより美嘉先輩のだが。

 こうして見てると、いくら女子でも運動神経の良い人はそれなりに活躍出来るものだな……。美嘉先輩もアイドル業で鍛えた運動神経を活かして、コーナーラインから上がってきた球を足元に落としてゴールするってのを上手くやっていた。

 

「……」

 

 ……シュート打つ時の……その、胸がすごいな……。って、僕はどこを見てるんだよ。ダメだって、そういうのは。

 美嘉先輩が僕と仲良くしてくれてるに、下心を出しちゃダメでしょ。心頭滅却しろ、僕……。

 

「大悟も解脱も我が指一つで随喜自在……行きつく先は殺生院、顎の如き天上楽土。うっふふふふ。 ……天上解脱、なさいませ?『快楽天・胎蔵曼荼羅』。何処まで逃げても掌の上……」

「……何言ってんだお前?」

「っ、い、いえ、なんでも……!」

 

 何とか心頭滅却しようとしてると、先生に横槍をされてしまった。うん、まぁされるわ。キアラ様頭おかしいし。

 煩悩を打ち消しながら、再び美嘉先輩を眺め始めた。クラスメートと楽しそうにサッカーの練習っぽいのをしてる。

 ……美嘉先輩、カッコ良いなぁ……。なんかよく見てると、仲良い友達以外の陰キャラっぽい女子生徒にも声をかけてみんなで楽しんでるように見える。そこで、僕はようやく理解した。

 ……ああ、アレが「カリスマ A+」か……。友達の攻撃力上がってるなあれ。

 そんなくだらない事を考えながら見てる時だった。

 

「あぶない!」

 

 そんな声が聞こえた頃には遅かった。顔面にボールが飛んできた。額に直撃し、僕は後ろにひっくり返った。

 

「……」

 

 僕の幸運は絶対Eだ、間違いない。そんな事を思いながら、今日の授業は見学した。

 

 ×××

 

「……で、そんなに顔腫れてるんだ……」

 

 帰り道、美嘉先輩と電車で帰りながら呆れたような声をかけられた。

 

「もう、ビックリしたよ。お昼休みにはそんな顔の腫れなかったのに、急に出来てるんだもん」

「す、すみません……」

 

 体育が5、6限の時って本当に萎えるよなぁ……。

 ちなみに今日のお昼の美嘉先輩のお弁当は唐揚げでした。禿げるほど美味しかった。

 

「で、保健室は行ったの?」

「……い、いえ……」

「えっ、行ってないの?」

「は、はい……」

 

 保健室の先生が美人過ぎてひよってるとは言えない。別の理由を言っておこう。

 

「怪我と言っても、指とか手とか腕以外の場所怪我したわけじゃないので……」

 

 だから困らないし、行く必要もない……と思っていたのだが、美嘉先輩はジト目で僕を睨んでいた。

 

「……玲くん、本気で言ってる?」

「え? は、はい……」

「バカなの?」

 

 驚くほど刺さる言葉が、僕の心臓をゲイボルグした。

 

「……え、ば、バカ……?」

「自分の体はゲームのために使うもの、みたいな言い方はダメだから。ちゃんと大事にしないと」

 

 そ、そんなこと言われても……僕の生き甲斐なんてゲームでのプレイヤースキルアップしかないし……。

 

「……で、でも……」

「でもも何もないから。次の次の駅で降りるからね」

「えっ……?」

「あたしの家で手当てだけしてあげるから」

「っ、そ、そんないいですよ⁉︎」

「ダメ。玲くんのことだし、どうせうち帰ってもゲームしかやらないで手当てなんかしないんだから」

「で、でもだからってわざわざ先輩の家に上がらせてもらうのは……!」

「大丈夫、うちに莉嘉いるし、玲くんに変な真似する度胸なんてないでしょ?」

 

 仰る通りです……。多分、取っ組み合いの喧嘩になったら僕負けるし……。でも信頼のされ方がイマイチ嬉しくなかった。

 半ば強制的に美嘉先輩に連行される形で電車から降りた。改札を出て、目的地である城ヶ崎家に歩き始めた。

 ……あ、そっか。これから僕、美嘉先輩の家に行くんだ……。あ、やばい。そう思うとなんか恥ずかしくなってきた……。

 女の子の家に上がるのなんて初めてだ。いや、ていうか自分とお婆ちゃんの家以外に上がるのが初めてだ。それがまさかの歳上の女の子だなんて難易度が高過ぎるよ……。

 こんな事ならちゃんと保健室に行っておけば……や、それはそれで無理だった、美人だから無理なんだ。

 はぁ……なんていうか、僕もバカだなぁ……。親にはよく女々しいだのなんだの言われてきたが、結局僕も男の子らしい。

 

「はぁ……」

「どうしたの?」

「いえ……」

 

 美嘉先輩がカッコよくて羨ましい、とは言えなかった。女の人にカッコ良いとか喧嘩売ってるでしょ。

 

「さ、着いたよ」

 

 ボンヤリしてるうちに到着してしまった。アイドルの家なんだから、それはもう豪邸に住んでるのかと思ってたら、うちより少し大きいくらいの一軒家だった。

 ……そういえば、妹さんもいらっしゃるんだっけ……。中学生くらいの大人しい子が良いなぁ……。

 祈ってる間に美嘉先輩はさっさと鍵を開けてしまった。その直後だった。

 

「お姉ちゃん、おかえりー!」

「莉嘉、ただいまー」

 

 とっても元気な金髪の制服を着た女の子が飛び込んできました。僕って死亡フラグメーカーみたいなスキル持ってたっけ?

 抱きついてきた女の子を受け止めて姉妹でイチャイチャしてると、莉嘉さんの方が僕を見るなり、作ったような驚愕の表情を浮かべた。

 

「お、お姉ちゃんが男の子連れてきたー⁉︎」

「莉嘉、声大きい」

 

 頭に軽くチョップする美嘉先輩。てか、莉嘉さんにも僕は「子」って言われちゃうんだなぁ……。

 

「この子、後輩の宮崎玲くん。顔面に野球の軟式ボール当たっても指や手に異常がないからって保健室に行かない子」

「ああ、この子が! ……えっ、バカなの?」

 

 キョトンとし顔で僕を下から覗き込んできた。美嘉先輩の妹さんもやっぱり可愛いなぁ……。

 ……って、違う。ロリコンか僕は。というか、美嘉先輩もしかして怒ってるんですか? なんか紹介に棘がありましたが……。

 

「だから、あたしの家で見てあげるの。湿布とか持ってくるから、莉嘉はそれで遊んでて良いよ」

「本当⁉︎」

「嘘っ……!」

 

 突然の死、だと……⁉︎

 

「ちょっ、先ぱ……!」

「じゃ、玲くん! あたしの部屋に来て良いよ!」

「ええっ⁉︎ そ、そんないきなり……!」

「ほら、早く靴脱いで!」

 

 っ、ど、どうしよう……! というか、これからは怪我したらあまり下手なことはしないようにしよう。じゃないと、美嘉先輩に毎度怒られる。

 しかも、ここまで的確で効果的な罰を与えて来るあたり、次は何をさせられるか分かったものではない。

 引き摺られる形で莉嘉さんの部屋に入った。中は僕の部屋より少し広いくらいで、全体的に黄色やピンクが部屋の色を支配していた。

 

「ここ、座って良いよ!」

 

 ポンポンと莉嘉さんが叩いたのはベッドの上だった。そう言われてしまえば、僕も座るしかない。だって薦められた場所に座らないって何となく失礼でしょ。

 

「……あ、ありがとう、ございます……」

「玲くん、だよね? お姉ちゃんとどんな事してるのかお話聞かせてー?」

 

 ぐ、グイグイ来るなこの子……。正直言って苦手なタイプだ。

 でも、そんなこと言えば傷つけちゃうかもしれないし、頑張って返事をしてみた。

 

「は、はい……。えっと……モンハンを……」

「あ、やっぱりそうなんだ。メチャクチャ上手いんでしょー?」

「い、いえっ、そんな、僕なんて……」

「モンハン以外は何してるの?」

「え、えっと……ご一緒に、お弁当を……」

「あ、アレ? 今日お姉ちゃんがいつもより早起きしてたのって……」

「は、はい……。お弁当をいただきました……」

「やっぱりか〜。昨日はお弁当作ってもらったからって張り切ってたよ?」

「あ、あはは……」

 

 ……なんだ? 意外と会話出来てるじゃん。向こうから質問ばかりして来てくれるから返せるってだけだが、それでも前に比べたら大きな進歩だ。

 その事が嬉しくて、心の中で自分の頭を撫でてあげてると、莉嘉さんが辺りを見回した後、僕の隣に座って悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「……ねっ、玲くん」

「な、なんですか……?」

「……実際さ、お姉ちゃんのこと好きなの?」

「えっ……えええええええええんぐ!」

「こ、声大きいよ!」

 

 慌てて口を塞がれたが、そりゃ驚いた声も出る。これだからパリピ女子はよう!

 

「そ、そんな恐れ多い感情は抱いておりません……!」

「お、恐れ多いって……お姉ちゃん、アイドルだよ? 女王じゃないよ? アイドルを好きになるくらい当たり前じゃない?」

「え? す、好きって……そういう……?」

「え? どんな意味だと思ったの?」

「……」

 

 今すぐ光の粒子となって消え去りたい。

 

「……なんでもないです」

「で、どうなの? 好きなの?」

「え、えっと……」

 

 ……どうしよう、なんて答えるのが正解なんだ……? や、なんて答えても次の質問が怖いんだけど……。

 でも、この子絶対口軽いし、好きじゃないなんて答えたらなんか陰口言ってたみたいになりそうなんだよな……。

 やはり、好きと言うしかないか……。

 

「……は、はい……。好き、ですけど……」

「やっぱり? じゃあ、あたしとどっちが好き?」

 

 またすごいこと言い出したな! それは外見の話なんですよね? いや

 外見の話ならなおさら優劣つけられないんですが……。

 

「ね、どっち?」

「ど、どっちと聞かれましても……!」

「ほらほら〜、あたしだってアイドルだし、お姉ちゃんより若いよ〜?」

 

 え、姉妹でアイドルなの? てか妹が姉より若いのは当たり前だと思うのですが……。

 しかし、真面目な話をすると好みなのは美嘉先輩の方だ。僕にロリコン属性は無いし、中身を知ってる以上、どうしても外見にフィーチャーしてしまうし。

 だが、それを言うと傷付けてしまうかもしれないし……。なんて言えば……。

 

「ねぇ、どっち?」

 

 うっ……急かされてる。と、とりあえず……当たり障りのない返事をしておこう。

 

「……み、美嘉先輩も莉嘉さんも……そ、その……好き、ですよ……?」

「へっ?」

 

 ……あれ、莉嘉さんの口が開いてないのに声が……てか、これ莉嘉さんの声じゃ……ていうか、今部屋の扉の方から声が……。

 ギギギッと嫌な汗を流しながら扉の方を見ると、美嘉先輩が湿布を持って立っていた。

 その顔が徐々にジト目になり、自分の両腕を抱いて一歩引いた。

 

「……あ、あんた……何、人の妹にナンパしてんの?」

「っ、ち、違っ……!」

「しかも、どっちも好きって……よく最低なこと堂々と……」

「ち、違いますから話を……!」

「ねぇ、ほんとはどっちなのー⁉︎」

 

 この後、何とか莉嘉さんを落ち着かせて説明して収集がついた。

 紛らわしい話しないの! と怒られた莉嘉さんを部屋に捨て置き、僕達は美嘉先輩の部屋に入った。

 

「まったくもう……変な勘違いしちゃったじゃん」

「うっ……すみません」

 

 ぶつぶつ文句を言いながら湿布の裏のビニールを剥がす美嘉先輩。

 

「大体、そういう時はビシッと言わなきゃダメ。いつもいつも優柔不断にうだうだしてると、いつか人をイラつかせちゃうんだから」

「は、はい……」

 

 叱りながら、湿布を僕の額に貼ってくれた。

 

「痛っ……」

「我慢して」

「は、はい……」

「いい? 次、無茶したら莉嘉どころか唯ちゃん、未央の中に放り込むからね」

 

 えっ、あのテレビでも特にコミュ力の高く見えるJKアイドル二人……? それは流石に勘弁して下さいよ……。

 小さくため息をついてると、僕の湿布を貼ってある部分を撫でながら「それで」と美嘉先輩は続けた。

 

「どうする? もう帰る? それともゲームしていく?」

「……い、いえ……今日はもう疲れたので……」

「帰る?」

「軽くラオシャンロンでも気軽にやろうかと……」

「疲れてるのにゲームやるのね……わかった。じゃ、やろっか」

 

 そう言って、美嘉先輩とまたモンハンやって帰宅した。

 

 

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