城ヶ崎さんに甘えたい。   作:バナハロ

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事務所にて(2)

 事務所にて。神谷奈緒と北条加蓮に渋谷凛が追加されてモンハンをしていた。

 挑んでるのは渋谷凛が受注した銀レウス。彼氏がそれなりにゲーマーなこともあって一番進んでいるから、先のクエストも受注出来る。

 が、奈緒と加蓮は早くも疲れが見えていた。

 

「凛! ブレスの方向に緊急回避するな!」

「凛! 爪の攻撃は避けて! 狩技で相殺は無理だから!」

「凛! 砥石使うならエリア変えろ!」

「凛! 尻尾の剥ぎ取りはレウスがエリア移動してからにして!」

 

 と、まぁ地獄絵図だった。一番経験のある奴が一番足を引っ張っていたので、奈緒も加蓮もため息しか出ない。

 そんな二人に、凛の方が怪訝な顔をして聞いた。

 

「……ていうか、二人はいつからそんなに上手くなったの?」

「別にあたし達は上手くねーよ」

「うん。まだソロだとほとんどギリギリだしね」

「……何か隠してるでしょ。上手くなる秘訣的な」

 

 そう言われて、二人は顔を見合わせた。何と無くだが、美嘉と玲の未来を予知した二人はお互いに考えを読んで頷くと、ゲームに視線を戻した。

 

「いや別に普通にやってただけだよな」

「うん。やってりゃ上手くなるって。考えてやればね」

「……本当に?」

「「本当本当」」

 

 見るからに怪しかったが、奈緒はともかく加蓮は何をしても口を割りそうにない。

 つまり、何とかして奈緒を加蓮から引き剥がして尋問すれば良いわけだが、加蓮のことだから自分の考えは読まれているだろう。

 その考えは完全に加蓮は看破していて、ゲームをやりながら奈緒の肩を抱き寄せた。

 

「奈緒……私から離れないで」

「告白か? 加蓮」

「……そう言うこと言うのはどの口?」

「あひゃひゃひゃひゃ! か、かれっ……脇腹こしょこしょするのやめろおおおおはははははは!」

 

 と、目の前で余裕まんまで満載を目の前で披露され、むっと顔をしかめる凛。

 その直後だった。美嘉が三人の元にやってきた。

 

「何やってんのー? お、モンハン? あたしもやりたい!」

「……」

「……」

 

 張本人が来たよ……みたいな表情を浮かべた二人を凛は見逃さなかった。間違いなく美嘉は関係している、そう確信していち早く質問した。

 

「こんにちは、美嘉。美嘉もモンハンやってるの?」

「え? やってるよー?」

「この二人とどっちが上手い?」

 

 しまった、と加蓮は表情を歪めた。で、今度は自分が先手を打つことにした。

 

「んーどうだろうね。みんな同じくらいだよね。三人でやってたら上手くなってたから」

「それな。みんな同じくらいだよな」

 

 嘘は言ってなかった。美嘉も何かしら空気がおかしなことになってるのに気付いたが、とりあえず下手な嘘はやめておいた。

 

「まぁ、そうだね。ほとんど同じくらいだよね」

「そうなの?」

「うん。まぁ、練習あるのみだから」

「……そっか。やっぱそうなんだ」

 

 凛は考え込むように顎に手を当てた。で、「よしっ」と何か決心すると、周回酒場から離脱した。

 

「少し、特訓して来るね」

 

 そう言って立ち去る凛の背中を見ながら、奈緒と加蓮は「ああ、これは進歩なさそうだな」と理由もなく思ってしまった。

 一人、置いてけぼりになってる美嘉はきょとんとした顔で二人に聞いた。

 

「……何話してたの?」

「モンハンのこと。あたしや加蓮が上手くなってたから秘密の特訓してたの?って」

「してたじゃん。教えてあげれば良かったのに」

「いや、あの子もう直ぐ彼氏できるし、他の男の子に会わせられないでしょ」

 

 加蓮に言われ「なるほど」と頷き返す美嘉。ちなみに、本当は自分達はともかく美嘉以外の女の子に玲を会わせるわけにはいかないというのもあったが、黙っておいた。

 

「にしても、美嘉さんもなんで宮崎のこと言わなかったんだ?」

「あー……」

 

 言いづらそうに頬をかく美嘉。が、すぐに愚痴るように言った。

 

「……いや、なんかあの子さ……。なんていうか……懐かない猫みたいなんだよね」

「「は?」」

 

 いきなり何言い出すのこの処女は? という顔で見られたので、慌てて弁解した。

 

「いやほんとなんだって! 中々コミュニケーション取ろうとしないくせに、自分が寂しくなったら構ってもらいに来るホント気まぐれな猫みたいなの! ある意味みくちゃんよりも!」

「それ本人の前で言ったらダメだよ……」

「とにかく、なんていうのかな……一緒にいて嫌なわけじゃないんだけど……。こう、見てて危なっかしいというか……莉嘉と真逆の弟が出来た気分で……」

「あー、なるほどな……」

 

 確かに、美嘉だけでなく奈緒と加蓮のプレイヤースキルのレベリングにも付き合ってくれたし、何なら人のプレイヤースキルを上げることを楽しんでるようにすら見えた。育成ゲーみたいな。

 

「……それに、ゲームに人間性を捧げてる節あるから、なんて言えば良いのかな……。少し危うい分、莉嘉よりも手がかかるんだよね……」

 

 そう言われて、奈緒も加蓮も軽く引いてしまった。ほんとにゲームに人間を捧げてる人なんているんだ、みたいな。

 いや、ゲームを作ってる人はもちろんかもしれないが、プレイヤーが捧げてるのはどうにも引いてしまう。

 

「で、でも……それは美嘉さんが見た感じだろ? そんな人間性を捧げてる奴なんて……」

「頭に軟式野球ボールが直撃しても、手にダメージはないしゲームやるのに支障はないから保健室に行かないって、真顔で言うような子だよ?」

「……」

 

 言われて、奈緒も加蓮もサッと目を逸らした。危うく自分達までその領域にされていたかもしれないと思ったからだ。

 

「……まぁ、本人がそれでも良いって言うなら、あたしも口挟むべきじゃないんだろうけど……でも、知り合っちゃった以上はあたしも気になるしさ」

 

 お節介なのは自分でも分かっていた。そういう危なっかしい面を修正出来ないにしても、知り合いの後輩が一人でいるところを見るのはあまり気持ちの良いものではなかった。

 

「……はぁ、なんていうか……手のかかる子が多いなぁ。あたしの従兄弟も学校に友達いないらしいし」

「ふーん……なんか、東京の高校生って友達いない奴多くないか?」

「あー確かに。文香さんの彼氏も凛の彼氏になる子も卯月の彼氏になる子もみんな友達いないらしいからね」

「学校の数だけボッチはいるんだな……」

 

 三人揃って遠い目をして天井を見上げた。

 

「……でさ、とりあえず余り友達いないコミュ障な子だからって特別優しく接するのは辞めておこうと思うんだよね」

「へぇー、なんで?」

 

 加蓮に聞かれて、美嘉は昨日のことを思い出しながら顔で答えた。

 

「いやー、昨日は唯と未央が良い子だったから助かったけどさ、あたしが友達と一緒にいる時にああやって徘徊されても困るからさ」

「ああ、良いんじゃないか? 一応、相手男の子だし変に特別扱いすると勘違いさせちゃうかもしれないしな」

「でも、急に態度変えると、そういう純粋な子って『嫌われた?』と思っちゃうんじゃないの?」

「可能な限り遊んであげるから平気だよ。もちろん、勘違いさせない範囲で」

「まぁ、美嘉はそういうの上手そうだし、大丈夫だよね」

「うん」

 

 そんな話をしながら、美嘉は3○Sを取り出した。

 

「で、何してたの?」

「ん、銀レウス」

「凛がハンターランクだけはあたし達より上だからクエストについていけるんだよな」

「ふーん……で、勝てた?」

「無理」

「銀レウスより凛の方が強いんだよ、ある意味」

「あっ……(察し)」

「じゃ、三人で勝ちに行こうか」

「今、素材何欲しいんだっけ?」

「ん、古龍の大宝玉みたいな名前の奴」

 

 そんな話をしながら、クエストに挑んだ。

 

 ×××

 

 クエストを終えて、仕事やレッスンに行った。

 美嘉はレッスンだったが、トレーナーさんの都合でいつもより早く終わった。

 一人、暇になってしまったのでロビーで妹を待ちながらモンハンをやってると、フレンドの周回酒場に「ほうれん草」の名前があった。

 珍しくソロでオンラインやってるようで、通話無しならやれるので入ってみることにした。

 まぁ、玲は相当上手いので、多分部屋埋まってるんだろうなぁ、と思いながら入ると、誰もいなかった。ほうれん草は一人で酒場の一席に座ってお酒を飲んでいる。

 正直、見ていられないほど寂しそうに見えた。

 

 ほうれん草『こんにちは!』

 ほうれん草『あ、こんばんは』

 

 最初は野良が入って来たと思ったのだろう。だが、Mika☆だと分かった直後、ガクッとテンション下がったようだ。

 しかし、一切の制限がないルームに誰もいないというのは少し不自然だ。寄生プレイヤーならともかく、玲みたいに敵を見つけ次第、秒で殺しにかかるバカなら尚更だ。

 

 Mika☆『えーっと、どうしたの?』

 Mika☆『なんで一人?』

 

 向こうは入力に慣れていない。気長に待ってると、長文が送られて来た。

 

 ほうれん草『僕とクエストに行くとみんな出て行ってしまいました。理由は分からないです』

 Mika☆『何したの?』

 ほうれん草『僕なりにコミュニケーションを取ろうと思って野良として参加したのですが、なんと声をかけたら良いのか分からなくて、それでいつも皆さんとやってるみたいにしてたら「ウザい」「てか何様?」「なんでティーチングプレイ?」とボロクソに言いながら出ていかれてしまいました』

 

 そりゃそうなるでしょ、と全力で思った。「何故、野良で入って教えてるの」とか「そりゃ鬱陶しいよ」とか色々と言いたい事はあったが、それらを総合した言葉がため息と共に漏れた。

 

「ダメだこの子、早くなんとかしないと……」

 

 言いながら額に手を当てて心底呆れるしかなかった。普段、友達と接するような態度を取る、と決めはしたが、このままでは友達がいないどころか変に浮いてしまう未来しか見えない。

 

 Mika☆『いや、ダメだよそれ……』

 Mika☆『あたし達はお願いしたから良いけど、何も頼まれてないのにいきなりそんな言われたら誰だって嫌がるよ……』

 

 すると、しばらく返信は途絶えた。多分、今頃全力で後悔してるんだろうなぁ、と思いながらも少し嬉しかったりした。本人もコミュ障を治そうという意志はあるみたいだったからだ。完全に空回りしてるが。

 

 Mika☆『ま、まぁ、モンハンプレイヤーなんて腐るほどいるんだから、あまり気にしないで行こう』

 Mika☆『それより、今から何かクエスト行かない?』

 ほうれん草『……すみません』

 Mika☆『いや謝られても……』

 

 気まずい空気になりながら、莉嘉が来るまでゲームをした。

 

 

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