人理定礎者が逝く(仮)   作:和ん子

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 隊長の名前わからないんですよね……web版にあったっけ?
 
関係ないですが隊長って聞くとお風呂のヒヨコを思い出しますね。


隊長「スルシャーナ様……」

 

 

 赤──李書文が飛びかかり長い槍を振り下ろす。

 黒──漆黒聖典の隊長はそれを受け止める為槍を両手で頭上に掲げた。

 

 ガッッギィッンンンン!!

 

 鉄よりも遥かに硬い物質同士がぶつかり合い火花が散る。振り下ろされ撓る槍はぶつかった反動で穂先が跳ね上がるとくるりと回転し今度は反対の石突で急所を狙う。

 これが常人なら反応する間もなく後に吹き飛ばされていただろう。だが、相手も槍の達人だ。

 槍が離れる瞬間から動き、半身横に跳んで槍を縦にし突きを太刀打ちの部分で受け流す。さらに反撃に槍を返して書文の腹を狙い薙ぐ。

 

 パシィッ!予知していたのか槍を使い熟知しているからかお互いに次に繰り出されるであろう攻撃を読んでいるのか、横薙ぎに迫る槍を掴み固定した。

 もう片方の腕で突き出した大槍を脇に挟むと隊長がしたのと同じ横薙ぎを繰り出した。

 

 隊長は槍が掴まれているので逃げることが叶わず、腰を落とし頭をギリギリまで後ろに逸らすことで凶刃をやり過ごし、両手に握る槍を上に力一杯振り上げた。

 その力は人外の存在を彷彿とさせる怪力で人一人の重さは簡単に浮き上がり、その力に合わせて書文は自らも跳び後方に下がる。

 また勝負は振り出しに戻った。かの様に見えるが、今の攻防で書文が2回、隊長が1回攻撃して防ぐまたは避けられている。その僅か一合でもお互いの実力を把握するには十分だった。

 

 隊長は侵入者の実力に驚き、冷や汗が頬をたらりと伝う。それでも構えは解かずに視線だけ動かして周囲の儀仗兵達に目配せを送る。

 

 「〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉!」

 「〈下級敏捷力増大(レッサー・デスタリティ)〉!」

 「〈盾壁(シールド・ウォール)〉!」

 「〈恐怖(フィアー)〉!」

 「〈混乱(コンフージョン)〉!」

 「〈善の波動(ホーリーオーラ)〉!」

 

 周囲を囲んでいた儀仗兵や一際服装が違う神官(女)達が一斉に魔法を放つ。その中には隊長を支援するものから書文達に向けた攻撃魔法もある。

 

 「させないよ。〈スケープゴート〉〈オシリスの塵〉。先生!」

 「恩にきる。ッ!マスター!」

 

 魔法が不発になり真剣勝負に横槍を入れさせない様ヘイトを集めたはいいが、書文の叫びにリディは目の前に迫る大鎌の存在に一瞬気付くのが遅れた。

 

 「ガッ!?」

 

 なんとか体を捻り朱槍を間に挟んだが、その特性上盾の横から攻撃できる鎌の先端がリディを吹き飛ばした。直前に防御を強化していなければ今ので致命傷を貰っていた。

 だが、役者は揃った。

 

 リディの前に立つのは法国の単体最高戦力。文字通りの切り札。漆黒聖典番外席次。〈絶死絶命〉。

 

 リディ達が仕入れた情報では〈森妖精(エルフ)〉の国王の血縁者でプレイヤーを親に持つ〈神人〉と呼ばれる力を覚醒させた人類最強の存在。普段は法国の至宝が眠る聖域を守護しているはずだが、この騒ぎを聞きつけて抜け出して来たらしい。だとしてもかなりの早さだ。

 だが、好都合だ。リディ達は軍師達と共に彼女もこの国を襲撃する上で障害になると考えて対策を練っていたのだ。

 

 「やっとおでましか。先生!そっちは任せました!」

 「貴方より、あっちの男の方が強そうだけど」

 「まだ〈スケープゴート〉の効果があるからな。ちょっと付き合ってもらうぞ」

 

 槍を杖代わりにして立ち上がり、一度振って感触を確かめながら構える。対して白黒のモノトーンカラーな人類の守り手は面倒臭そうに視線を向けるだけ、それもスキルの効果でしかなく、意識を強制的にリディの方へ向けられているだけで構えることはなかった。

 

 彼が構えてから数瞬、体勢を獣の様に低くしてドンッと飛び出す。

 脇目も振らず、小細工など通用しない。そのくらいの力量差があるとリディは〈真名看破〉で把握していた。そしてこの世界で培った恐怖の操作と気配を探る技術。

 それら全てを強化して思考を加速させる。彼の体が音速を超えた時、突き出した槍の穂先と無造作に置かれた鎌の峰部分がぶち当たり突進はそこで止められ──、

 

 筋力差は最初から把握していた。武器の等級もまともに打ち合えば自分が力負けすることも知っていた彼は突進の運動エネルギーを上に曲げた。

 少女が化け物じみた動体視力で完全に捉えた槍を止めたかに見えたが、僅かに接着点をずらされ槍はそのまま上に逸れて交差する。

 

 「ふんっ!」

 

 李書文が最初に行った上段からの叩き下ろし、少女の大鎌が足元の地面に少し落ちると始めてリディと少女の目が合った。

 

 「っりゃ!」

 

 この槍の持ち主に襲わったやり方で次々と同じ朱槍を呼び出し投擲する。因果も何も掛けていないただ投擲された槍が少女の動揺もなく鎌の振り回しで全て弾かれる。

 槍を弾き、さらにもう一度回転して来た刃先がリディの首を狙う。

 

 「くっ──〈固有時制御(タイムアルター)〉三倍速!」

 

 ユグドラシルにも〈時間停止(タイムストップ)〉や〈時間逆行〉など時間に関するスキルや魔法は存在する。リディのこれは自分自身のみを加速し、倍速を変更できる。

 通常、〈自己時間加速(タイム・アクセラレーター)〉と同一視されがちだが、アルターの方は1日の回数制限が存在しない利点がある。その分、最大HPを消費する欠点を除けば最初から全開で一度も姿を見せずに敵を殲滅することも可能だ。しかし、最大HPが減少する現象は少し時間を置けば元に戻るが、現実となった今体力の消耗が激しくなる。それもこれも時間対策をされていなければ、の話だが。

 ユグドラシルではその辺かなり重点的に防御されたのであまり活躍の場がなかったが、この世界の魔法文化を知るとおざなりにも程があった。

 

 「!」

 少女にとっては確実に獲ったと思った一瞬の間に獲物の少年は視界から消え失せ、次に少なくないダメージを全身に感じ、いつの間にか背後を取られていた。

 理解できないといった彼女の表情にリディは僅かに憐憫の目を向ける。

 

 「その強さ、独学か。誰かに師事したこともないだろうね」

 

 それに加速した時間で攻撃と共に彼女の全身を観察していた彼はちゃっかり彼女の耳を実際に見てハーフエルフだと再確認した。

 

 「さっきのは謝るわ。貴方、強い……!」

 「俺は強くなんかないよ。武器がいいだけ」

 

 それぞれ朱槍と大鎌を構える。

 

 「レベル差でガチンコじゃ勝てなさそうだし、戦場を変えようか」

 「っ〈転移(テレポーテーション)〉か!?」

 「残念外れだ。……影の国に連れて行こう──その魂まで俺の物だ!〈死溢るる魔境の門(ゲート・オブ・スカイ)〉!」

 「エッ」

 

 悪魔や死神が彫られた巨大な門が虚空より現れ、ゆっくりとその扉が開かれた。

 影の国の女主人スカサハが認めた者以外生きてその門をくぐること叶わず。効果範囲の生命体──隊長を除き儀仗兵や神官達を全て吸い上げていく。

 門を召喚したリディの前に立つ少女も例外ではない。

 

 変な声を出して一瞬惚けていたが、最初に儀仗兵が吸い込まれた瞬間、咄嗟に鎌を大地に突き刺して門の吸引力に耐えている。だが所詮悪足掻きに過ぎない。

 門の奥から吹き込む死の風が少女同様耐えていた儀仗兵を包むと、まるで糸が切れた人形の様に力尽き抵抗なく空へと吸い込まれていった。

 あれがこの宝具の即死効果だ。それに抵抗できたとしても影の国は世界の理から外れた魔界。門にMPを吸い取られ、様々な状態異常が継続して付与される。

 生命力を吸い取られ著しく衰弱した彼女はやがて力尽き、鎌からその手を離してしまった。

 

 「番外席次!」

 「余所見とは、余裕だな」

 「ぐぅっ!」

 

 唯一効果範囲から除外され、門の影響を受けていない隊長が連れ去られた少女に叫ぶも、それは致命的な隙でしかなく簡単に書文に吹き飛ばされる。

 

 「じゃあ先生。行ってきます」

 「おう」

 

 門を抜けた先、植物も生えない死の大地にて耐え切れずに即死した儀仗兵の魂が捕らえられていた。

 

 「ぐっ……」

 「おお、すごい。MPも少ないはずなのに、あ、純戦士職だからそんな負担がないのか」

 

 そんな死の世界の中で必死にもがく存在。モノトーンツーカラーの少女だ。

 彼女は今も片膝をついているが、その魂は健在で何重にも襲いかかるデバフで動けはしないが、それでも必死にフィールドダメージから耐えて倒れないよう踏ん張っていた。

 ユグドラシルとは違いこの世界でのMPの概念は曖昧だ。

 

 マジックポイントと呼ばれるそれは両世界で魔法を使う為のエネルギーに間違いない。だがこの世界ではMPを魔力と称し、生命の余剰エネルギーという側面もあった。

 つまりこの世界の住人はMPが減少するか0に近くなるにつれて倦怠感や疲労、最悪気絶して死に至る。ちなみにリディは容れ物こそこの世界の住人だが、中の魂(仮)はプレイヤーのものである為、多少の疲労はあるが元のMPに加えてこの世界の魔力を上乗せしている状態だった。

 

 対して、絶死絶命の少女は親こそプレイヤーだが彼女自身は完全にこの世界の住人だ。だから急激に魔力を吸い取られ疲労困憊に陥っている。

 何もしなければ体力が尽きるかリディにとどめを刺されて死ぬかの二択しかない。もう彼女に抵抗できる力など残っていないのだ。

 

 「さて、お前も辛そうだし、楽に死なせてやる。高レベルの人間は貴重だからナザリックに持ち帰って色々実験できるかもしれないな。モモンガさん達喜ぶかな?」

 「ぅ……ぐ」

 「もう喋れないか……もし生き返ったら、いや、完全にifの話だな」

 

 朱槍を構え、彼女の喉元に穂先を突き付ける。スッと刃がかすり首から赤い血が流れてきた。

 

 「じゃあな」

 

 ヒュッ!……ドサ。

 

 首のない躯をアイテムボックスに収納する。遺体であれば人間も動物も収納できることは知っていた。

 

 「戻ろう」

 異界の門が開き、吹き荒れる死の風をバックに法国へと戻って行った。

 

 

 

 

 「来たか。どうだ?」

 「ちゃんと殺して来たよ。ってこれが初めてじゃないんだから、そんな心配しないでって」

 

 門を抜け、元の場所に降り立ったリディに、隊長を壁に吹き飛ばした李書文が気軽に話しかけた。

 

 モモンガ達のように異形種ではなく人間となった彼はこの世界に生まれた当初こそ生前そのままの感性を持っていたが、20年近い時間やトブの大森林に近い過酷な村人生活が、それを粉々に粉砕し全く別のものに再形成されていた。

 普段の性格はそれほど変わりないかもしれないが異常なまでに敵に対して、相手が人間だったとしても容赦がなかった。

 

 「それにしてもあの強さで装備は〈伝説級(レジェンド)〉だったな。世界級持って来られても別に問題ないけど」

 「わーるどあいてむとは……もしやあれのことか?」

 

 書文が顎で示す方を見れば先程まで白亜の壁に埋まっていた隊長と、その隣に皺くちゃの老婆が腰近くまで際どいスリットが入ったチャイナドレスを着て立っていた。

 

 何度見ても嘔気を催す冒涜的な光景に二人して精神ダメージを受けていれば、隊長が老婆に指示を出す。

 

 「今だ!使え!」

 

 隊長の声に老婆が両腕をリディ達の方に向ける。ドレスに刺繍されていた金の龍が光り輝き天に昇る。リディはその現象、エフェクトに見覚えがあった。

 

 「あれはっ〈傾世傾国〉か!?」

 

 天に昇る龍が身を翻しリディ達に向かって降りて来る。その世界級アイテムの能力は洗脳、支配。何と言ってもアンデットの様な精神支配無効化特性を持つ種族にも効果があるという最悪のバランスブレイカー。

 

 

 だが、世界級唯一の欠点が発動した。

 

 

 リディは本来自分を守る為に召喚したはずの李書文を庇い、龍の前に出る。その直後光の龍は何もなかったかの様に霧散した。

 リディ自身は知っていたが、彼が洗脳された様子がないのを見ると周囲の人間が騒ぎ立てる。

 

 「カイレ!どうだ!?」

 「し、失敗じゃ!何の繋がりも感じん!?こんなことは初めてじゃ!」

 

 世界級アイテムの欠点。それは同じ世界級アイテムを持つプレイヤーには無効化されること。〈ワールド・チャンピオン〉などの特殊な職業にも効果を発揮しない。

 それはユグドラシルでは常識だったが、法国の彼らは知らないらしい。リディが前々から潜入させて情報を集めていたが、ユグドラシルのアイテムはあってもその用途や特性については失伝しているのを悟った。

 

 「なにが……」

 「お前達が知る必要はないな。お目当ての世界級アイテムも確認できたし……そろそろ終わらせよう」

 

 槍に魔力を通して老婆に狙いを付ける。同期する様にドクンッと朱槍から鼓動の音が聞こえた。早く殺せ!と言っているようだった。

 心臓に刺さるという因果が確定し、穂先から赤黒い魔力が漏れる。

 

 「させるか!〈流水加速〉〈疾風走破〉〈一点剛撃〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉〈神速穿撃〉〈神威招来〉〈魔法上昇・上位全能力強化(オーバーマジック・グレーター・フルポテンシャル)〉」

 「真名解放ッ!刺し穿ち……突き穿つ!」

 

 隊長がありったけの〈武技〉を重ね掛けすれば、見窄らしかった槍も呼応する様に本来の姿を現した。金色に輝く流星の如くキラキラと光を纏い邪悪なるモノを消し去らんとする。

 その槍の真名は──〈聖者殺しの槍(ロンギヌス)〉。

 

 

 「オオオオオッ!!〈竜王滅槍〉オオオオッ!!!」

 「〈貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)〉ッ!!」

 

 

 リディの手を離れた2本の槍が真っ直ぐ老婆の心臓目掛けて飛翔する。それと同時に男のあまりの速度に穂先が炎熱化した必殺の一撃が彼の懐に入る。

 

 「……バ……カな……」

 

 結果、〈傾世傾国〉同様、世界級アイテム同士で無効化され、強化されたとはいえ武技のみの攻撃では無敵状態の彼にダメージを与えることは叶わなかった。

 そして老婆を狙った朱槍は2本とも彼女の心臓を貫いている。即死だった。

 法国の秘宝がどちらも通じず、自分の最大の一撃も無傷で防がれてしまったショックで膝を折り、手から槍を取りこぼす。

 

 ……ゴーン、リン、ゴーン、リンゴーン。

 

 死を覚悟した隊長は脳裏に響く鐘の音を聞いた。絶望の淵で信心深い彼は断罪の剣を手にした死神を見た。

 

 「スルシャーナ様……」

 「信託は下った……聴くが良い、晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽──首を断つか!〈死告天使(アズライール)〉!」

 

 ザンッッ!

 

 その死に顔は、稀に見る穏やかなものだった。

 

 

 

 

 




 
 初代様がいいとこを持って行きました(笑)
 元々、初代様と絶死絶命を戦わせる予定だったのですが、FGOで初代様持ってないので処刑人(ガチ)で出てもらいました。
 
 設定の方で一度にパーティー、6人まで召喚可能と書きましたが、同時に召喚していられる英霊の数に修正しました。
 理由として常に自分のPCデータを降ろしてるので合計で7騎召喚しているということで。
 
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