世界はこんなはずじゃないことばかりだ。
全ての物を持っている奴がいれば、何も持っていない奴もいる。
何かを成し遂げられる奴もいれば、何も成し遂げられない奴もいる。
だが、そんな理不尽は許されない。
人間足るもの平等を目指すべきだ。誰かが持っていて、他の誰かが持っていないなど許されない。
つまり、俺が言いたいことが何かと言えば
「ほたる。俺は勘違いのムカツクイケメンヒーローからカナリアを助けなければならない。だから所属の土地の変更を希望する」
「無理だ。バカなことを言ってないで仕事しろ」
…やっぱり、世界はこんなはずじゃないことばっかりだ。
「何故だ!何故なんだほたる!」
目の前で血の涙を流してる残念男を私、凜堂ほたるはため息を吐きながら見つめる。
「こんなのがランキング5位とはな…」
この世界は一度アウノウンと呼ばれる存在に滅ぼされかけた。
だが、残された人々の努力によって、この地域からアンノウンを追い出すことに成功した。
だが、アンノウンを滅ぼすことに成功した訳ではない。アンノウンは人類を滅ぼすことを諦めずに、幾度も侵略を繰り返した。
しかし、人類はアンノウンに対抗する術を産み出した。<世界>と呼ばれる力だ。
<世界>ーそれは科学や物理などでは説明ができないモノ。人間を単体でアンノウンに対抗させ得る力だ。
その<世界>には色々な種類があるが、特にそれが戦闘に特化している者はアンノウンとの戦いに行くことになる。
それらの成果が素晴らしい者、つまりアンノウンを倒した数が多いものほど、その順位は高くなる。ランキング10位より上ともなれば、その力は別次元だ。
他の者にとって、それらの者は憧れであり、希望だ。アンノウンによる支配から世界を解放してくれる光だ。
だが、その希望の一人が
「ランキング何か関係あるか!俺は一人の男として!この理不尽を何とかしなければいけないと考えているんだ!」
頭が痛くなってきた。この馬鹿とこの不毛なやり取りをするのは何回目だろうか。
「何度も言わせるな。公私混同するな。お前はランキング5位で、神奈川の3番手だ。その自覚を持って、他の者の希望に応える存在であり続けろ」
「てめえが言うんじゃねぇよ、ランキング3位のド変態が」
こいつは何を言っているのだろうか。
「おい、変な言いがかりをつけるな。私の何処が変態だ」
「この部屋を見てから言え、馬鹿野郎」
言われて、この部屋を改めて見てみる。敬愛する姫の寝顔の写真。あくびをしている顔の写真。転んだ時の顔の写真。一週間前に姫が着ていたパジャマ、私服、パンツ。ふむ…
「やはり、何の問題もないな。至って普通だ」
「あ、すいません、警察ですか?悪いんですけど、盗撮と窃盗の常習犯を見つけたので捕まえに来て欲しいんですけど」
「おい、何をしている」
慌てて携帯を奪い取る。何をしているんだこいつは。
「警察をこの程度のことで、煩わすな」
「十分に事案だ、この変態」
全く分からない奴だな、こいつは。落胆して首を振る。姫の幼馴染の癖に何も分かっていない。
「仕方ないだろう。私は一定時間ヒメニウムを浴びなければ発作を起こしてしまうんだ」
「よし、分かった。病院に行こう。今ならまだ間に合うだろう。戦場なら気にするな。あのランキング狂の4位が頑張ってくれるさ」
腕をつかんで無理矢理病院に連れていこうとする目の前の男の手を振り払う。
「病院に行く必要はない。私には姫がいれば、それで問題ないんだ」
「ほう、そうか。ならば、一応あのちび姫の幼馴染として将来の犯罪者候補をここで捕らえておくか」
その言葉をきっかけににらみ合う。突然一触即発の空気が漂う。
こんな下らないことでも全力で戦うのがこの二人だ。何処かの青髪の事務方の女の子が見れば泣きながら止めるだろう(後始末が大変だから)
だが、その時ほたるの意識が何かを捉えた。戦闘などしている場合ではないほど重要な何かを。
「これは…姫の気配!姫が私に会いに近づいてきている
!」
「は?俺には何も感じないけど」
「約一キロ先…こんなことをしている場合ではない!」
「ねぇ、お前の感覚ってどうなってんの?もしかして、お前の<世界>ってあいつの場所が分かる能力とかなの?」
その言葉に応える暇はないと言わんばかりに、ほたるは慌てて、力強く部屋の床を叩く。それが仕掛けになっていたのか飾られていた姫の私物や写真は壁の中に回収され、代わりに世界地図などがそこに登場した。「おい、この部屋どうなってんだ!」等というツッコミはあったが、それに反応する暇もなく、新たな来客が部屋を訪れた。
「ほーたるちゃん!あ!なおとんも一緒だ!」
「姫!わざわざ来てくれるとは!」
「よう、舞姫。何かようか?」
「んー、用はないよ!ただ、暇だったから遊びに来ただけ!もしかしてダメだった?」
首を傾けて確認の言葉を口にしたちび姫こと、天河舞姫。こんなんでも、一応ランキング一位。つまり、人類最強の存在である。
「ダメなわけないだろう。姫なら24時間何時来ても出迎える準備はできてるよ」
「ほたるちゃん…」
「おい、何人の存在無視してレズップルっぷりを見せてんだこの馬鹿共」
「馬鹿は貴様だ。空気が読めんのか?邪魔だ。さっさと帰れ」
「俺は俺の用事があるから来たんだよ!帰るわけないだろが!」
「ダメだよ、ほたるちゃん!差別は良くないよ!私たちは皆で仲良くしなきゃいけないんだよ!」
「ああ、姫の言う通りだな。おい、そこのクズ。居ることを許可する。姫の寛大なお心に感謝するんだな」
「ナチュラルにクズ呼ばわりしやがったな、このレズ女…」
自分を当たり前のようにクズ呼ばわりした変態に直人はコメカミをひくつかせる。
そんな不穏な空気を感じ取ったのか、はたまた天然か舞姫は二人の会話に割り込みをかける。
「まあまあ!ところで、ほたるちゃんの部屋でなおとんは何してたの?」
「あー、そうだった。忘れるところだったわ」
思い出したと言わんばかりに手を叩いて直人は藤嶺直人は告げる。
「俺、神奈川もランキング五位も止めます。これからは、恋に生きることにしたわ」
「ええ!!??」
唐突な発言に舞姫は驚愕するが、後ろでほたるは頭を抱えている。
「だ、大丈夫だよ!なおとんには私がいるから!居場所なら、ちゃんとあるから!」
「何で俺が居場所がない可哀想な奴扱いになってんだ!違うからね!カナリアがいる東京所属になりたいだけだからね!」
「あー、そっか、カナちゃん可愛いもんね…って、ダメだよ!幼馴染みの私と会えなくなっちゃうよ!?なおとんはそれでも良いって言うの!?」
直人の服の裾を掴みながら涙目の上目遣いで見てくる舞姫。普通の神奈川生徒なら感謝感激の光景だった。
現に、直接やられていない変態(ほたる)が後ろで鼻血を流している。色々手遅れである。
しかし、普通の神奈川生徒ではない直人には関係なかった。
「うん」
即答だった。言っていることは最低だが、ここまでいくとむしろ清清しい程であった。
しかし、それを聞いた舞姫の反応は凄まじかった。出てもいないのに後ろに『ガーン』という効果音が見えるようだった。
「わーーーーん、なおとんの人でなし~」
直後、涙目だった舞姫から滝のように涙が零れ落ちる。
直人は即座にその場から逃げ出した。別に舞姫が泣いたことに驚いて逃げたわけではない。
舞姫を泣かすのは何時ものことだし、逆に舞姫から泣かされることも何時ものことだ(舞姫に悪気はない)
しかし、泣かせた場所が悪かった。何故なら、舞姫の背後には…
「死ね」
一瞬前に直人の首があった場所に殺し屋(ほたる)の刃が通る。
間一髪避けたが、首筋に赤い筋がついた。
冷や汗が流れる。文句を言っている場合ではない。こうなった変態に言葉は通じない。直人は生きるために全力で駆け出した。しかし、即座に殺し屋は、その後を駆けてくる。
「待て!そこのクズ!緊急指令だ!神奈川生徒に告ぐ!五位のクズが姫を泣かせた!生死は問わん!如何なる手を使っても、その罪を償わせろ」
「アホか!アホなんだなお前は!何処の世界に幼馴染みの揉め事に集団リンチで対処する奴がいるんだ!」
「ここにある!神奈川は姫こそ全て!姫を悲しませる奴は全て排除する!」
「無茶苦茶言ってんじゃねぇ!」
「無茶でも何でもない…」
言い合いをしながら走っている直人の前に新たな刺客が現れる。
「姫を泣かせる悪は全員、悪・即・斬です」
「げ、変態四天王…」
流石に足が止まる直人。それを合図にワラワラと神奈川生徒が集まり、全員が直人に罵詈雑言を浴びせていく。
「また、お前か直人!姫殿を泣かせたのは!」
「あんな可愛い子に必要とされるなんて死ねば良いのに…」
「死んだあいつの皮を奪えば姫様も私のことを見てくれるんじゃ」
何人かヤバイ奴がいる気がするが、散々ボロカスに言われた直人は遂にキレた。
「上等だ!この変態ども!かかってこいや」
集団に直人が殴り込みをかける。
神奈川の内部分裂が今始まった。この戦いは落ち着いた舞姫が直人を吹き飛ばすまで続いた。
なお、一番大変だったのは、後片付けをした青髪の女の子だったことは余談である。
二話までは書きたいですけど、後は評判次第ですね