幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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皆さん土日は休みですか?私は仕事デース!


あーしんど


勝てない

 詩織のお母さんは十時くらいまで飲んでいたらしく、結局詩織が家に帰ったのは十時過ぎだった。酔っ払いながら我が家まで来て姉ちゃんと俺に「あんがとね、雨ちゃん、ハル君」と言ってお土産になんかよくわからんたらこを渡して帰って行った。あの人酒そんなに強くないんだからさ、あんま飲むなよ。

 

 そして本日土曜日。今日も今日とて石黒と勉強である。

 あの後ちゃんとラインして、勉強場所はサイゼでやることになった。流石に家に上げるのはなんか違う気がする。

 

 という訳で、外行き用のシャツに普通のパンツという当たり障りない格好で駅まで迎えに行く。「定期圏内だしそっちまで行くよー」という石黒の配慮で学校の近くのサイゼになったのだ。ぶっちゃけ助かる。

 

「暑っつ」

 

 早めに駅に着いてしまったので日陰で涼みつつ、自販機でジュースを買う。ペットボトルの蓋を開けた所でスマホが鳴った。取り敢えず一口飲んでから確認することにする。

 

『あと四分で着くよ( ・`ω・´)』

 

 多分一つ前の駅に着いたんだろうな。今の時間は十時五十二分。集合予定が十一時だったからいい感じだ。

 

「あいよ」、とだけ返信し、入道雲がもくもくしている青空をぼんやりと眺めてみた。ペットボトルをなんとなく掲げてみる。

 うーん、夏だ。このクソ暑い天気も。腹立つくらいの陽射しも。もう全部ひっくるめて夏。この夏の間にモテるぞー!とか言ってたヤツ誰だっけ。俺だったわ。

 

 踏切の音が聞こえる。電車そろそろ来たのかな。夏に踏切の音を聞くと何故か思い出すのは千と千尋の神隠し。あの水上列車のシーン好きなんだよな。ワンピースの海列車も好きだ。

 電車が駅に止まり、改札から数人の人が降りてくる。ここの駅は通学時間じゃなかったらめちゃくちゃ空いてる。

 

「お待たせ!早いね、神崎君」

 

「いや待ってねえから大丈夫」

 

 石黒は首元がばっくり開いたダボダボのシャツと、その中にタンクトップ。ホットパンツにサンダルというまあなんとも夏らしく、まあなんとも石黒らしい(そんなに石黒のこと知らないけど)格好をしていた。肩からは小さめのスポーツバッグのようなものを提げている。その中に勉強道具を詰めているのだろう。

 

「じゃあ、行こっか!宜しくね、センセー」

 

 だから俺はセンセーじゃないってのに。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 安さと美味さが確立された最強のチェーン店ファミレス、サイゼリオン。通称サイゼ。取り敢えず俺も石黒も昼ご飯を食べていないので昼ご飯とドリンクバーを注文。腹が減っては何とやら、だ。

 

「サイゼの間違い探しって異様に難しいよね」

 

「それな。いつもチャレンジするけど二つくらい見つかんねえ」

 

 子ども向けの絵柄なのに難易度が凶悪過ぎる。絶対これテストプレイしてないだろって文句言いたくなるレベル。

 

「ドリンクバー、何か入れてこようか?」

 

「いいよ、自分で入れる」

 

 流石に女パシらせるのもなぁ。なんとなく嫌だし自分で行くさ。

 

「ちぇー、お茶とコーラ混ぜてやろうと思ったのに」

 

「小学生かよ」

 

 自分で行くって言ってよかった。ヤバいもん飲まされるところだったぞマジで。小学生の頃はドリンクバーを意味もなく混ぜまくって遊んでたなぁ……意外と三つ位なら混ぜても美味しいんだよアレ。お茶とか入ったら不味いけど。

 

 ドリンクバーでジュースを入れて帰ってくると、間もなく料理も運ばれてきた。俺はライスとチキングリル。石黒はドリアとパスタとポテト。え、そんなに食べるの?

 

「それ全部食べれるのかよ」

 

「え?余裕」

 

 うそやん。俺よりたべるやん。

 というかそんだけ食べてその体型はなんなの。その分動いてるのか。理解した。

 

「高校上がってから食べる量は増えたよねー。食べないと動けないし」

 

「練習ハードなんだっけ」

 

「うん。まあ今日は体より頭を使うんだけどねー。帰ったら筋トレするけど」

 

 男の俺が筋トレしてなくて女の石黒が筋トレしてる……え、つら。俺腕立て伏せとか五回くらいしか出来ないんだけど。

 頭の中で自由の翼が流れる。ミカサも腹筋割れてるんだっけ。石黒なら立体機動装置も使いこなせそうな気がする。

 

 パスタをフォークでくるくる巻いて美味しそうに頬張る。いつも印象的な白い歯にたらこのピンクが少しついていた。うわー、いい食べっぷり。

 

「おいひい」

 

「飲み込んでから喋れ」

 

 なんというか、無邪気というかこいつ子どもみたいだな。……高校生はまだ子どもか。俺もまだまだ子どもだし。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 二時間くらいみっちり勉強して、少し休憩を入れることにした。俺もなんだかんだで今回の範囲はかなり頭に入ってきてるし人に勉強を教えるのは割といいのかもしれない。

 

「あー!くっそぉ、絶対山月記とか大人になっても使うことないじゃん!?李徴が虎になった理由とか私が知ってるわけないじゃん!?」

 

 現代文に悩まされている石黒は「もうやだ、虎が嫌い。阪神ファンやめる」と訳の分からないことを言いながら必死に李徴の心境を紐解いていた。うん、確かに山月記は難しい。言葉も少し昔チックだしな。

 

「神崎君、先生になればいいのに」

 

「は?なんで」

 

「授業より教え方解りやすい」

 

 別に普通に教えてるだけなんだけどな。

 

「学校の授業は皆に向けての授業だからな。一対一なら教える人に合った教え方が出来るからじゃないのか?」

 

「そういうのもあるのかな。でも私神崎君の教え方好きだよ」

 

「どーも。大学生になったら家庭教師のバイトでもすっかな」

 

「いいじゃん、私依頼する」

 

「意味わかんねー」

 

 大学生なぁ。もう来年には受験勉強やってるとか考えられない。というか考えたくない。俺特に将来の夢とか無いし。

 

「石黒はサッカー選手目指してるのか?」

 

「え?うーん、なれるならなりたいよね。日本代表になりたい」

 

 数年前に女子サッカーが世界一になったことはスポーツに疎い俺でも知ってる。キャプテンの人が国民栄誉賞みたいの貰ってなかったっけか。やっぱ憧れなんだな。

 

「ホントはね、私橘行きたかったんだ」

 

「橘?」

 

「橘女子高校。サッカー部超強いの。でもサッカー推薦取れなくてさ。私頭悪いからどんなに頑張っても橘は無理だって言われて」

 

 あの時ほど勉強しとけば良かったー!って思ったことは無かったなぁ。そう呟く石黒の顔は今まで見たこともないような顔をしていた。

 

「まあ別に今も強いチームだからいいんだけどね。全国出場が狙えるか、って言われたら難しいからさ」

 

 中々地区大会じゃ目に留めてくれる人いないからねー、と呟く。

 

「高校生になってまだプロを目指してるような子、そう居ないけどね。特に地区大会ベスト8くらいの学校じゃ」

 

「現実が見えてくる時期だもんな」

 

 しまった。今のは失言だったかな。

 それでも日本代表になりたい、と思ってサッカーやってる石黒はやっぱり凄いとは思う。まあ、俺は石黒がどれ程サッカーが上手いのか知らないからあまり適当なことは言えないんだけども、それでもやっぱり凄いと思う。

 

「だから大学に行ってもサッカーは続けるよ。プロになれなくてもサッカーに関わる仕事がしたいかなー」

 

 ちゃんと、やりたいこととか、将来の夢を持ててるのってすげえと思う。俺なんか小学生の頃の将来の夢すら覚えていないのに。

 

「神崎君は大人になったらやりたいこととかないの?」

 

「俺?あー……休みの日をちゃんと取って、家でダラダラできる会社員になりたいかな」

 

「なにそれ、夢が無いー!」

 

 母ちゃんや父ちゃんみたいに、休みも取らずずっと何処かで働いてるような人にはなりたくない。まあ、あの二人は社畜というか「仕事が好きだから」「働くのが好きだから」とかいうよく解らない人種なんだけど。もし結婚して子供が出来てある程度育った後でも、子供を放ったらかしにしないような人になりたいな。

 

 正直、俺も姉ちゃんもたまにすっげえ寂しくなるんだよな。中学生の頃は詩織のお母さんのご飯をよく食べさせて貰ってた。あの時は家に「両親」がいる詩織が羨ましくて。

 今でこそ慣れたけど、あの時が一番詩織と「きょうだい」だったと思う。姉ちゃんもまだ大学生で、料理を練習し始めて。姉ちゃんが詩織のお母さんに料理を教えて貰っている間に俺と詩織は二人でゲームしたり、喋ったり。

 

「……神崎君、どしたの?大丈夫?」

 

「んあ?……あ、悪い」

 

 つい考えてしまってた。

 

「ジュース入れてくるね」

 

「おう」

 

 昨日のことも考えたらまあ、今もやっぱり詩織とは「きょうだい」のような気はする。けどなんかあいつに劣等感?を感じてるのは常にあいつが俺の持ってないものを持ってたからで。中学生の時は「両親」が羨ましくて、今は「恋人持ち」が羨ましい?……でも俺、そんなにカップルに憧れは無かったけどな。

 

「解んねー」

 

 自分の気持ちがイマイチ解らん。誰か心を数値化してくれ。

 コーラを一気飲みする。ちょっとだけ心がスッキリした気がした。

 

「ただいまー……って今飲み切ったの?私が行く前だったら一緒になんか入れてきてあげたのに」

 

「混ぜるんだろ」

 

「バレてたかー」

 

 石黒がメロンソーダを入れて帰ってきた。こいつに渡したらどんなゲテモノが注がれるか解ったもんじゃない。

 

「続き、やるか?」

 

「お願いします」

 

 机に再度ノートや教科書を広げる。もう少し現代文を詰めたら、英語も少しやる予定だ。

 石黒がペンを握ったその時に。

 

「凛花?」

 

 突如、石黒が声を掛けられた。なんか聞いたことあるような、無いような、そんな声。俺と石黒は同時に廊下の方に振り向く。

 180センチに迫るのでは、寧ろ超えているのでは?という高身長に、短く切りそろえた黒髪。服装はシンプルだが、体格の良さが見て取れる。そして爽やか系イケメン!みたいな顔。なんかのモデルとかにいそうな男がそこに立っていた。

 

「あっ」

 

 俺は思わず声を出してしまった。

 

「玲音じゃん。何してんの?」

 

「いや、俺が聞きたいんだけど。凛花がファミレスで勉強とか何事」

 

 高見玲音。詩織の彼氏だった。

 

「失礼なー!今回のテスト赤点取ったら次の練習試合レギュラー外されるからさ」

 

「あー、女サカ何人かそんなこと言ってたかも。それで勉強か」

 

 なんかふにゃふにゃしてる、と石黒が言ってた理由が解るかもしれない。声色が元々柔らかいのもあるが、なんというか、体格と声の大きさが合ってない。

 

「……えっと、詩織の幼馴染の……神崎君、だっけ」

 

「どーも。詩織の彼氏の高見君っすね」

 

 うわー、なんかムカつく。いや別になんというか、うん。モテるやつは敵じゃー!みたいな。

 

「呼び捨てでいいよ。凛花に勉強教えてるの?」

 

「俺も呼び捨てでいい。そういうことです」

 

 何故か知らんが微妙に敬語を使ってしまってるのはなんなんだろう。

 

「凛花、お前あんま他の人に迷惑かけんなよ?」

 

「解ってますぅー!玲音こそ次のテスト大丈夫なの?」

 

「やばい。山月記が意味不明過ぎる」

 

 解る。山月記難しいよな。

 

「てか高見、お前はここで何してんの」

 

「えっと……息抜き。勉強し過ぎで疲れたからおやつ食べようと思って」

 

 なんで金かかる上にわざわざ歩かなきゃならんここまでおやつ食べに来るんだよ!家でポテチ食えよ!?

 解った、こいつもちょっと変わってる奴だ。

 

「神崎、ちょっといい?」

 

「え、いきなり何」

 

「話がある」

 

 なんかいきなりお呼び出し食らったんだけど。え、何?怖い。心当たりしかない。十中八九詩織のことだろ?だってちゃんと喋るの初めてだもん。共通する話題それしか無いもん。

 

「あー……悪い、石黒。先始めといてくれ。すぐ戻る」

 

「はーい。気を付けてー」

 

 何故か俺は高見に着いて行ってこいつの席に相席することになった。何で?怖い。てかこいつマジで一人でサイゼ来てたのかよ。

 

「なんだよ、話って」

 

 一応、ビビってませんアピールをする為にちょっとぶっきらぼうに言ってみる。内心ビクビクだ。蘇るのは最近見た悪夢。

 

「……あのさ、神崎」

 

 何?今から1on1ですか?負けた方はボッシュートですか?それとも今からボッコボコにされるんですか?そこに詩織が来てキスからおっぱじめるんですか?

 

 

 

「……詩織ちゃんって、靴のサイズ何センチ?」

 

 

 

「知るかよ!?!?」

 

 何で!?なんでそんなこと聞くの!?何!?足フェチなの!?怖い!この人怖い!え、大丈夫?詩織足とか舐められてない!?足の裏くすぐったいよぉ……とかそういうニッチなことしてるの!?解らない!俺既にこいつが解らない!

 

「いや、あの、ごめん。色々と過程が飛んだ」

 

「いやどの過程を経たらその結果に辿り着くのか解らない」

 

 帰っていいですか?

 

「えっと、ほら。もうすぐ夏祭りシーズンじゃん。綺麗な柄の鼻緒がついた下駄をプレゼントしようって思ったんだけど、下駄ってただでさえ鼻緒ズレを起こしやすいから、サイズの合ったやつをプレゼントしたいなって」

 

「あ、あー。成程」

 

 ちゃんと過程を聞いたらまあ、納得出来る話だった。あー良かった。俺の幼馴染は彼氏に足を舐められて興奮する変態になったのかと思ったわ。

 こうやってしれっと夏祭りデートに誘える訳か。なんというか、上手いしカッコイイな。高校生のお財布じゃ浴衣は買えないもんな。

 

「悪い、俺も流石に詩織の足のサイズは知らん。23.5位だとは思うけど」

 

 というか初対面で話す内容それかよ。やっぱこいつ変わってるらしいわ。

 

「いや、俺もごめん。いきなりこんな話しちゃって」

 

 全くだよ。

 

「あ、ライン教えて貰っていい?」

 

「え、別にいいけど何で」

 

「えっと……俺より神崎の方が詩織ちゃんのこと解ってるだろ?多分詩織ちゃん、俺にたまに気を遣ってるんだよ」

 

「……それで?」

 

「俺じゃ詩織ちゃんの全部を支えられないから、詩織ちゃんを一緒に支えて欲しい」

 

 ……何なのこいつ。

 すっげえイケメンで。変わってる奴で。

 なんというか、勝てない。何なのこいつ。詩織が付き合ってる理由、ちょっと解った。

 

 嫌味が無いんだ、こいつ。純粋に詩織のことが好きで、多分めちゃくちゃ好きで。でも、まだ付き合いが浅いからあいつのことよく知らなくて。それを見栄はらずに言って。あいつに喜んでもらう為に、俺に頭下げる。

 

 勝てない。こんなイケメンになりたかったなぁ。

 

「ほら、俺のQRコード」

 

「ありがとう」

 

「詩織泣かしたらぶん殴る。俺の姉ちゃんも一緒にお前をぶん殴る」

 

「肝に銘じるよ」

 

 俺の「きょうだい」みたいな幼馴染だからな。泣かしたらボッコボコにする。

 でもその前に、「もし高見が嫌な奴なら良かったのに」とか思ってた過去の自分をぶん殴る。

 ……にしても俺は詩織の親父かよ。なんかそんな感じのこと言っちゃったじゃねえか。






これで十話書いたことになるのかな。毎日頑張って続けてると早いですね。

話数的には一区切りだからたまには言ってみようかな。感想、評価等、宜しく御願いします( ̄▽ ̄)
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