幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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怖い。1

 テスト初日が終わった。

 

 手応えは割とある。なんだかんだで人に教えたら自分も覚えられる作戦(?)は上手くいったらしい。

 今日のテストの手応え次第では、石黒に勉強を教える日をもう少し増やすか、という話をしていたのだが、ラインで手応えはどうだったか聞くと「今回はいける!久々にいける気がしてる!」という自信満々な返信が返ってきたので、残りの日程は俺自身の勉強時間に充てることにした。

 

 ……よくよく考えたらこのテスト期間色々あったな。石黒と勉強して。詩織が彼氏出来てから初めて家に来て。石黒と勉強して。高見と初エンカウントして。……石黒と勉強して。姉ちゃんが酔っ払って下着でリビングで寝て。……石黒と勉強して。

 

「石黒と勉強しかしてねえな」

 

 色々あった、と言いつつイベントの半分が石黒との勉強だった。わろた。

 あ、そういえば詩織と点数勝負するんだったわ。今日の手応え、ラインで聞いてみるか。「今日手応えあった?」という石黒にも送った文章を送信する。

 

 現在はお昼の二時過ぎ。姉ちゃんは仕事なので、リビングで勉強している。動画サイトで作業用のアイリッシュ音楽を掛けながら。もうやだ物理嫌い。こんなの大人になっても使うことないじゃん!?……と言ってた石黒の気持ちが少しだけ解る。

 ラインが鳴った。詩織かな。

 

『アンタ凛花に勉強教えてたの?』

 

 織田だった。意外すぎてびっくり。え、てか織田も石黒のこと知ってたの?あいつの交友関係広すぎじゃない?

 

「そうだけど急にどうした」

 

『いや、アタシも頼めばよかったと思った』

 

 まあ大体見た目通りなんだが織田も勉強は出来ない。二人を同時に教えるとか俺には無理だけどね。

 

『凛花のティックトック見たけどアンタら仲良かったんだね。意外』

 

「言うほど仲良い訳でもないぞ」

 

 多分仲の良さで言ったらお前との方が仲良い気がする。……いや、よく考えたら俺別に織田と仲良く無かったわ。なんかこうしてたまにラインするけど。

 そういえばこいつ、ヒプマイ好きなことがコバにバレてブチ切れてたな。……乱数みたいなチビって、リアルでも需要あるのかな?

 

「なあ、織田。怒らないで聞いて欲しいんだけど」

 

『何』

 

「ヒプマイのさ、シブヤの乱数って好き?」

 

『マジで忘れて。お願いだから』

 

 オタバレはどうしてもしたくなかったらしい。なんか織田がマジで姉ちゃんに似てる気がしてきた。

 

「いや、別に誰かにバラすとかないから」

 

 既読は付いた。けど返信が来ない。あー、これは怒らせたかなぁ。あのビンタ痛そうだったよなぁ……喰らいたくねえ。

 

『私はあんまり好きじゃない。友達には好きな子いるけど』

 

 あ、返ってきた。良かった……!

 ……ふと思ったんだが。織田の奴が俺にしばしばラインを送ってくる理由ってもしかして、

 

「なあ、織田。俺にちまちまライン送ってくるのって、もしかして学校内でオタ話出来る知り合い探してるから?」

 

 こういうことなのではなかろうか。コバはエロゲ趣味がメインだから女性向けコンテンツはほぼ無知だし(よくよく考えたらなんであいつヒプマイ知ってたんだ)、須田も履修してるジャンルが割と萌え系アニメだから。俺はなんというか……姉ちゃんの影響もあって割と雑食だし?

 

『あー、うん笑 童貞だし上手いこと勘違いさせてオタバレしようとは思ってた』

 

 こいつクソだわ。この辺もちょっと姉ちゃんに似てる。いや別にいいんだけどさ。

 

「乱数みたいな奴がリアルにいたらモテると思う?」

 

『私は絶対嫌だけど騙される女は居ると思う』

 

 良かったな、須田。チビでも望みあるぞ。

 織田はこの感じだと結構なオタクなのかな?まあ、麻天狼の缶バッジならパッと見オタク向けコンテンツには見えないから大丈夫っしょ、って思ってたんだろうけど。

 ……ふと気になった。

 

「お前誰推しなの」

 

『一二三。言ったら殺すしオタバレさせたら殺すから』

 

 とんでもない奴と契約を結んだ気がする。

 にしても、へぇ……織田はホストが好みか。シャンパンタワーを浴びる系女子か。……自分でも何考えてんのか解らなくなってきた。これも全部物理のせいだ。おのれ物理。

 

「織田ってさ、物理得意?」

 

『アタシに勉強のこと聞いてる時点でダメだって解んない?』

 

 全くもってその通りでした。

 はー。物理は平均割りそうだよなぁ。石黒みたいに赤点ギリギリ、とかそういうのは無いと思うけど。

 

 スマホが鳴った。電話か?

 普段詩織や石黒はラインの通話機能を使って電話をかけてくるのだが、これは電話番号で掛けてきてる音だ。え、誰?

 画面を見ると詩織のお母さんだった。因みに名前は理恵さんという。

 

「もしもし、理恵さん?」

 

『あ、もしもし?ごめんね勉強中に。雨ちゃん仕事?』

 

「仕事。姉ちゃんに伝言?」

 

『いや、それならいいんだけどね。ハル君今家?』

 

「家だけど」

 

 話が見えない。

 

『詩織さぁ、そっちに行ってない?今日「テスト終わったら食堂でご飯食べてすぐ帰ってくる」って言ってたんだけど、まだ帰ってなくて』

 

「んあ?……俺の家には来てない」

 

 どういうことだ……?詩織のことを考えるとあいつは親に心配はかけさせないように理恵さんに「この時間に帰る」って言ったらちゃんとその時間に帰る。何かあって遅れる、とかだったらちゃんと「こういう事情で遅れる」って連絡を入れるはずだ。

 

「なんか連絡とか来てねえの?」

 

『来てないのよ。一瞬最近できたらしい彼氏君といるのかなーとも思ったけどさ、そういう時あの子ちゃんと連絡入れるじゃん?』

 

「だよな。詩織にラインはした?」

 

『した。既読付かない』

 

 なんか嫌な予感がしないでもない。

 

「俺彼氏の連絡先知ってるし色々聞いてみるわ」

 

『ごめんね、ハル君。私ももう一回詩織に電話してみる』

 

「あいよ。また連絡しまーす」

 

 電話を切った。なんか心の中がモヤモヤする。最近感じてたモヤモヤとはちょっと違う気がする。

 取り敢えず高見にラインしてみるか?「お前、今詩織と居る?」って聞くのなんか嫌なんだけどもなぁ……ラインするのめんどくさいし電話しようかな。

 

 高見のプロフィールを開き、無料通話ボタンを押そうとする。

 その瞬間、電話が鳴った。忙しいな、俺のスマホよ。相手誰だ……コバ?

 

「もしもし?」

 

『あ、もしもし!?なぁ、日高ってさ、大学生位の男子と仲良かったりする!?』

 

「はぁ?」

 

 なんかコバのテンションが高い。しかも聞いてることの意味がわからん。どういうことだよ。

 ……いや、待て。嫌な予感がしないでもなかったのはもしかして……

 

『今俺テス勉の休憩に散歩してたんだけどさ、なんかあんま見たことない車が走ってて!ちらっと後部座席見えたんだけど、日高みたいなサイドテール見えたんだよ!しかもうちの制服着てんの!あいつそんな友達居たか!?俺なんか嫌な予感が━━』

 

 電話を切った。

 おい、まじかよ?

 確かに詩織は顔はかなり良いと思う。ちょっと見た目も純朴そうで、腕っぷしも弱そうだ。

 

 ぶっちゃけ……襲ってレイプするには充分な材料は揃ってる気がする。

 嫌な予感がする。悪い方向にばっか考えてしまう。

 

 取り敢えずそのまま高見に電話だ。数回のコール音が嫌に長く感じる。

 

『もしもし、神崎?』

 

「おい高見!今お前何処にいる」

 

『え、学校』

 

「詩織は!?」

 

『今日は一緒じゃないけど』

 

 最悪だ。コバが嘘つくとも思えないし、うちの制服着ててサイドテールの女の子はそうそういない。そして帰ってない。理恵さんに連絡も出来てない。ほぼ確実だ。

 

「っぁあ!クソかよマジで!!」

 

『ちょっと待って、神崎話が見えない』

 

「多分!いやほぼ確実!詩織が下衆男に拉致られたんだよ!!」

 

『……え?』

 

「俺の友達が知らない野郎共と車乗ってんの見たんだよ!まだどうか解らんけど嫌な予感しかしねえ!お前も探してくれ!彼氏だろ!?」

 

『詩織ちゃんが!?』

 

「だからそう言ってんだろ!?」

 

 電話が切れた。切れる直前に椅子と机が思い切り倒れたような電話越しに聞こえた気がした。

 やばい。はっきり言って探すにしてもどうすりゃいいか解らない。理恵さんに言うべきか?いやもしかしたら違う可能性もあるし下手に心配させるのも変な話だ。

 どうする?どうする?おい、神崎晴人!こういう時に限ってテンパってんなよ!?高見に八つ当たりしてどうする!?

 こういう時、こういう時は……

 

「助けを求めるなら……!」

 

 スマホの機能、緊急通報。登録している電話番号か、警察や消防にしかかけられない本当に「緊急」の時にしか使ってはいけない電話。しかし、これで電話を掛けると相手がマナーモードでも音が鳴る。俺は唯一登録している電話番号を緊急通報した。

 

『もしもし!?緊急通報って何!?なんかあったの!?』

 

「もしもし姉ちゃん!?仕事中に悪い!多分だけど詩織が大学生位の男子に拉致られた!!」

 

『はぁ!?それマジ!?』

 

「ほぼ確実!」

 

『解った、早退申告してあたしも探す!なんかあったら連絡して来い!解った!?』

 

「ごめん、サンキュ!!」

 

 これで拉致とかレイプとかじゃなかったら、コバのやつマジでぶん殴る。

 もう一回コバに電話。

 

『もしもし晴人!?俺このままだとやべえ気がするよ、もし日高の奴が無理やり……』

 

「言うなバカ!車、どの道をどっちに走っていった!?」

 

『うぇっ?あぁ、えっと、俺ん家来たことあるよな?あそこの一本道!一方通行だから進行方向に向かって行ってた』

 

 コバの家の一通の道……あそこか!なんとなく解った。

 

「サンキュ!なんかあったら連絡してくれ、俺もそっちの方向かう!」

 

 すぐに電話を切る。でもあの一通の道、その先が結構色んな方向に行けたはずだ。どうするよ……!?

 一回思考を整理だ。コバが見たのは詩織だと断定して。なんで詩織を拉致った?どう考えてもレイプやら輪姦やらが目的だろう。大学生位、ってコバが言ってたし誘拐して身代金、とかそういうのは無いと思う。だったら車で何処に行く?カーセックスじゃないんだろ、制服着てたって言ってたし。だったらどっか人目に付かない、声を出してもバレない所……?

 ラブホやカラオケはダメだ。人がいるから普通に詩織の様子がおかしかったら誰か通報するだろうし、叫んでしまえば勝ちだ。となると廃墟とかそういうのか?そんなのあるのか?ダメだ、俺そういう「隠れ場所」みたいな場所が全っ然解らん!誰かそういうの知ってそうなやつ……!?

 

 いたっ!

 

『もしもし?さっきまでラインしてたじゃん、急に何?』

 

「織田!ツタヤの近くに一方通行の道あるだろ!?その辺で不良とかの溜まり場になりやすい所知らねえか!?人目につかない!声も通らないような場所!」

 

 ビッチヤンキーの織田なら何処か知ってるかもしれない。

 

『はぁ?いきなりどうしたの』

 

「いいから早く教えろよ!!」

 

『ぁあうっせえバカ!……ちょうどツタヤのある道まっすぐ進んで、小さい路地一個曲がったらボロい神社がある。人来ないし奥まってるから声も通らないから青姦スポットって聞いたことある』

 

「そこか!悪い!」

 

 電話を切る。取り敢えずスマホは何時でも音が鳴るようにしておき、自転車の鍵を乱暴に取って無理矢理靴を履く。マジふざけんなよ、昼間っから何されてやがんだアイツ……!

 

「マジで頼むから……ホントやめてくれよ……!」

 

 心臓が異様な速さで脈動していた。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 死ぬ程怖い。

 いきなり後ろから口塞がれて、そのまま腕と足掴まれて、パニクって何も出来ないまんま車に乗せられた。車の中で手を縛られて口の中に何か詰められて、横にいる男の人にナイフを見せられた。

 

 え?え?何これ?

 

 涙も出ない。喉がひくついている。空気が漏れそうだけど、口に詰められたものが邪魔で呼吸が出来ない。涎が止まらない。

 怖い。

 怖い。

 

「ドコでやる?」

 

「取り敢えず念の為ブラブラ回って神社だろ?」

 

「おっけい」

 

「おい、変なことすんなよ?別に俺らお前に傷付けようとは思ってねえんだ。キズものにしようとは思ってるけどな」

 

 下品な声、笑い声。誰でもよかったんだろうか?なんで私なの?

 あー、これ私今からレイプされるんだ。無理矢理犯されて、痛いこといっぱいされるんだ。

 頭がそう理解出来た瞬間、涙がバカみたいに流れてきた。手の震えが止まらない。暴れて逃げたいけどそんなことしたらナイフに刺されちゃう。

 どうしよう。どうしよう?どうしよう!

 

 怖くて仕方が無い。呑気にダンスミュージックをかけてドライブしているこの男達が怖い。怖い。怖い。

 

「そろそろ行くか、神社」

 

 神社ってどこ?助けを求めたいけど誰にも求められない。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 私が転がされたのは人気の全く無い、古くさくて見たことも来たことも無いような神社だった。境内の裏にはマットレスが敷いてある。あー、私以外にもここでやった人、居るんだね。レイプか合意は、知らないけど。

 

「おら、そこに座れ!」

 

 お腹を蹴られた。胃の中がゴロゴロする。髪紐が解けた。痛い。暑い。体が重い。

 涙と汗が止まらない。暑くて仕方がない。怖い。怖いよ。

 

 身体に力が入らない。うつ伏せに倒れてしまった。聴覚だけは何故かとても鋭敏。「誰からやる?」「取り敢えず脱がそうぜ」そんなゲスみたいな声がとても鮮明に聞こえる。

 聴覚だけが鋭敏だから。ごろん、って仰向けにされた時も、男の顔はいまいち見えていなかったし。怖くて、怖くて。

 

 

 ぼごっ、とかいう鈍い音が聞こえて。

 

 

 

「お前ら全員ぶっ殺してやるぁ!!クソァ、ァあ!?殺すぞボゲェァっ!!」

 

 

 

 聴覚だけは異様に鮮明で。お兄ちゃんみたいで弟みたいな幼馴染の、聞いたこともないような雄叫びが聞こえた。

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