幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
出張はやくかえりたい
「そんな、馬鹿な……」
信じられない。
マジかよ。これは夢か?
「平均点めちゃくちゃ高い……」
俺と高見のテストが返却され、通知表も一緒に渡されたのだが。
なんか過去最高点を更新した。現代文に関してはなんかクラス一位らしいです。正直どんな答え書いたか覚えてなかったので実感が無さすぎた。
高見は結構ヤバい点数が幾つかあったらしく、かなり渋そうな顔をしていた。まあ、あいつテスト終わってからも部活行ったりしてたもんな。いや勉強しろよ。
ちなみに通知表もテストも職員室で返却されたので、物凄く気まずかったです。まあ職員室クーラー効いてるからそういう意味では快適だったけど。
今日は特に学校に残る用事も無いのでさっさと帰ることにする。夏休みの課題も中々に笑えない量あるし。……大学のオープンキャンパスのレポートとか何書けばいいか解らんしそもそも特に行きたい大学とか決まってない。どうしようか。
「やっほ、神崎君」
「んあ?あー、石黒。テスト大丈夫だったんだってな、お疲れ様」
「うん、全部回避した!ホントにありがとね、怪我もう大丈夫?」
「なんとかな」
女子サッカー部のユニフォームを着て、額に汗を浮かべた石黒と出くわした。今日は動くからだろうか、髪の毛はしっかりポニーテールである。
「今お昼休憩なんだよね、ご飯一緒に食べない?」
「あー……家に作り置きあるから、飯は遠慮しとく。学食の唐揚げ位なら食うけど」
食べなかったら姉ちゃんに半殺しにされるからね。
「おっけー!じゃあ弁当持って食堂行くから先行っといて!」
そう言い残すと石黒はとたたたっと擬音が聞こえてくるような駆け足で部室の方へ走り抜けて行った。うわー、足速い。トップ下って足が速い方がいいのかな。スポーツはなんでも速いに越したことはないか。
というか俺が石黒に付き合うことは確定らしい。
〜〜〜
「弁当でかくね?」
「そう?これくらい食べないとやっていけない」
唐揚げは売り切れていたので購買で小さなドーナツを買って食堂の適当な席に着いたのだが、石黒の弁当箱がでかい。タッパーかよってレベルででかい。そういやこいつサイゼでもめちゃくちゃ食べてたな。
「てふとどうらっは?」
「飲み込んでから喋れ」
「んー。……んっ、テストどうだった?」
「めちゃくちゃ良かった。俺もびっくりしてる」
「えー、やったじゃん!怪我の功名だね」
「使い方間違えてるけどな」
マジで怪我したんだよ。しかも多分その怪我関係無いし。
「ねぇ、赤点回避したことだしさ、ホントに練習試合見においでよ」
「あー、そんなこと言ってたな。いつなんだよ」
「明日」
急すぎる。
「別に予定は無いから行けるけどさ、俺が見に行っていいもんなの?」
「いいもんなの!応援は沢山いる方が頑張れる」
練習試合だから見に来る人少ないしー、と愚痴気味に零す石黒。人前に立つと本領を発揮するタイプなのか。
「何時から」
「二時半にキックオフだったと思う」
「勝つなら見に行く」
負けるの見てるとしんどいし。
「見に来てくれるなら勝つよ」
石黒が白い歯を見せて笑った。その笑顔はテスト前によく見ていた笑顔……とは少し雰囲気が違った。
凄味がある。勝負師の目をしていた。
こいつ、マジですごいのかもしれない。ちょっと怖かった。
一瞬、言葉を失った。沈黙の中、石黒が弁当の中の卵焼きを食べる。
「……じゃあ、行く」
「まい?やっふぁー!」
「飲み込んでから喋れ」
実際、石黒が全力で打ち込んでるものってどんなものなのか、っていうのは興味あるし。
「ごちそうさまでした。……ねえ、私思うんだけどさ」
「なに」
「神崎君、って言いにくいんだよね。六文字もあるじゃん?長い」
人の名前呼ぶ時に文字数数えてる奴初めて見た。しかも長いって。割と名字が四文字の奴いるだろ。「石黒さん」でも六文字だぞ。
「という訳で、私もハル、って呼んでいい?もしくはハル君」
「呼び方くらい好きにしろよ。別にいい」
「やったー!じゃあハル君って呼ぶことにするね!ほら、詩織ちゃんはハル、って呼ぶじゃん?あれ可愛いなー!って思ってたんだよねー」
詩織はずっと俺のことハルって呼ぶな、そういえば。いつからだったかも思い出せない。
俺のことをハルって呼ぶのは詩織だけだ。理恵さんはそれに君が付く。つまり、今思えば日高家の人しか今まで俺の事をハル、って呼ぶ奴はいなかった訳になる。
まあ、名前の呼び方なんて本当に誰に何言われようとどうだっていいのだが。
「……これ聞いちゃいけないかもしれないけどさ」
「んあ?」
「ハル君、詩織ちゃんとなんかあった?」
あー。
なんでわかったんだ?
正確に言えば別に何も無かった。俺が気付いてなかった初恋に気がついて、それがただ散っただけで。関係性が変わったとかそういうのも一切無い。
「あったといえばあった。無かったといえば無かった」
「何それ」
「どうでもいいことだよ」
本当になんでわかったんだ、こいつ。
「……私がさ、詩織ちゃんの名前出した時にさ。ちょっとしんどそうな顔したんだよね。私が初めてハル君に声掛けた時みたいな」
初めて声を掛けられた時……あー、詩織の元彼と思われてた時の話か。俺、そんなにしんどそうな顔してたのか?今も、その時も。
「まあでも、しんどいよね。私幼馴染とかいないから解んないけど、お兄ちゃんに彼女出来た時、なんとなくめちゃくちゃムカついたもん。うがー!って感じだった」
うがー!って感じはちょっと解らない。
「だから明日は私がズバッと勝つところを見て楽しもーう!ね?ちゃんと来てね」
「なんだそりゃ。わかったよ、行く」
こいつなりの気遣いなのだろうか。
石黒と一緒にいる時は大体食堂な気がするな。サイゼも広義の意味で捉えたら食堂だし。違うか。
グラウンドの上の石黒を見るのは初めてになるんだろう。
〜〜〜
「ただいま」
「おかえりー。遅かったね」
あれ、姉ちゃん今日仕事じゃなかったっけ。なんで家に居るんだ?
「シフト表の手違いであたし今日休みだったらしくてさ。行ってすぐ帰ってきた」
「成程。飯食うわ」
「先着替えてきたら?チンしといてあげる」
「サンキュ」
お言葉に甘えて先に着替えることにする。もう外に出る用事も無いし適当な部屋着でいいや。少しヨレたシャツと千円のジャージを履く。リビングに戻るとレンジで温められたチャーハンが机に鎮座していた。
「姉ちゃん、たまにはワガママ言っていい?」
「何よ」
「飯食ったら久々にゲームしよう」
「そんなこと?別にいいけど。ワガママって言うから夜お寿司食べたいとか言うのかと思った」
あ、それもありだな。
まあ別にそこまで特別お寿司が好きって訳じゃないんだけど。
〜〜〜
「おら死ねっ!下スマ!」
「はぁ!?今の当たり判定おかしいでしょ!?」
全力でスマブラをする高校二年生の弟と社会人の姉。今んとこ五勝六敗である。姉ちゃんスマブラは上手いんだよなぁ……。ステージは終点のアイテム無し。俺のファルコンパンチが火を吹くぜ。
「ああ!?躱された!」
「バーカ!はい投げ!復帰阻止!ヤバい超楽しい!」
「弟に手加減とか無えのかよクソ姉貴!」
「手加減したらアンタに負けるでしょ!?」
仲はいいけどゲーム中は暴言が飛び交うのが神崎家です。
てかやばい。残りストックがもう無い。ワンミスも許されない。
「うっわ何今のえっぐ!やばい死ぬ死ぬ」
「バーカ死ね!」
「くっそ悠長にアピールで煽ってきやがるうっぜえ!」
「煽られる方が悪いのよ?」
友達無くしちまえ!アピール煽りで友達無くしちまえ!!
「はー、久しぶりにやると楽しいね。お茶入れてくるわ」
「あいよ」
キャラクターセレクトの画面のまま放置して姉ちゃんがお茶を入れに行く。俺もコントローラーから手を離して、指を適当にほぐしていた。いやほんと指先が痛くなる。
「はい、お茶」
「サンキュ」
一息つく。
……あ、そうだ。聞きたいことあったの思い出した。
「なあ、姉ちゃん」
「んー?」
「郁也さんと別れたのって俺が理由?」
多分、そうだろうな。そんな気がする。
郁也さんの話を聞いた限りじゃ、そうなんじゃないかって思うんだ。
学校で、石黒に「詩織と何かあったか」って聞かれた時。俺は「大したことじゃない」って言った。多分、俺にとってもあいつにとっても、大したことだったと思う。
だけどなんとなく、見栄はりたくて、石黒とも気まずくなる気がして、言えなかったんだよ。
多分、郁也さんもそうだ。ルルーシュ派だとかスザク派だとかでごまかして、「大したことじゃない」って言ったけど。多分、あれは俺を騙す為の、傷つけない為の嘘だ。嘘というか、言えなかったんだ。
「あんた、昨日郁也からなんか聞いたの?」
「別れたのは結婚の意思の認識の差、みたいな感じに聞いた。姉ちゃんが結婚を考えられなかった理由、俺がまだ高校生だからだろ?」
「……はー。あんたって変なところ勘が鋭いよね」
やっぱりそうか。
俺と姉ちゃんは似てる。多分、もう暫く……具体的には俺が大学を卒業するまでかな。それまでは姉ちゃんは結婚するつもり、無かったんだと思う。でもそうなるとあと五、六年先だ。それまでに結婚したら、父ちゃんも、母ちゃんも、そして姉ちゃんまで俺の側から離れるかもしれないから。
傲慢かもしれないけど、姉ちゃんは俺を放ったらかしにしてそういうことは出来ない。
「……勘違いしないでね。あたし、今の生活気に入ってんだよ。あんたをちゃんと面倒見るのも楽しいし、たまに詩織ちゃんが来て、仕事して、友達と遊んで。しばらくはその生活をしていたいだけなの。こうやってさ、あんたとアホみたいにゲームしてるのだって楽しいしさ」
無理している。ちょっと解る。
多分、あの時珍しく三日位沈んでたのは、それ程に郁也さんが良い人だった、ってのもあるんだろうけど、俺に振られた(振った?)理由を愚痴ることが許されなかったから。自分で抱え込んでたんだろうなー。
アホじゃねえの。俺に当たればいいのに。
「……俺は、姉ちゃんが結婚してもそれなりに一人で頑張れるけどな。最悪母ちゃんと父ちゃんの出張先に引越すし。気まずいけど」
「あんたがあたしの婚期に口出しすんじゃねーよ。……大丈夫。婚期遅れちゃっても、あたし顔と性格がいいからさ、婚活パーティーとか行ったら引く手数多になるからさ」
「性格が良い奴はアピール煽りなんかしないけどな」
「うっせえクソが。まあ郁也は良い奴だったけどねー」
思い出すのは車で郁也さんに送ってもらった時に鉢合わせた姉ちゃんと郁也さんの雰囲気。険悪では無い。だけどカップルだった時みたいな良いムードでも無い。
なんというか、収まってる感じ。そこにいるから、そこにある。無理はしていないが完全にリラックスしている訳でもない距離感。
互いが互いの距離感を把握している感じ。
多分、姉ちゃんも郁也さんも、今でもちょっと好きなんだとは思う。けど、多分二人はもう一回よりを戻すってことはしないとも思う。
その距離感が、定着してしまったから。
一度掴んでしまった距離感は、簡単に覆らない。
俺も、詩織も、幼馴染でずっと一緒にいた頃の距離感以外が解らない。だから俺もしんどいし、多分あいつもしんどい。
「……なんというかしんどいわな」
「あんたが辛い思いしてるのはあんたのせいじゃないよ。あたしと一緒で、貧乏くじ引くタイプだから」
そんな所まであたしに似なくてもいいのにさ、と続ける姉ちゃん。
「ほら、さっさとキャラ選びな」
「……おー」
それでも時計の針は左には回らないし、心がリセットされることは無い。だから、取り敢えずは今を楽しむのだ。今は、泥だらけの心を洗うのが出来なくても。上から綺麗な絵の具で塗り固める事くらいは出来るから。
「あ、俺明日女子サッカー部の練習試合見に行くから」
「ふーん。行ってらっしゃい」
ステージは終点、アイテム無し。
夏休みの終点が来るまでには、何か面白いアイテムを持っていたいよな。コバとモテる大作戦やっても無駄だとは思うし、どうしたもんかね。
「だぁぁ!なんで今のガード出来んだよ!?おかしいって絶対」
「はい横スマ……うっそ、今の避ける!?」
「おらリベンジじゃ喰らえ!ぃよっしゃあ!ざまあみやがれ!」
「うっざ!姉貴に手加減とか無いの!?」
「手加減したら負けるだろ!?」
取り敢えず神崎家は平和である。
……ワガママを言うなら、確かにもう少しの間。あと三年くらいは、こうやってアホみたいにゲームをしたいかな。姉ちゃんには結婚して欲しいけどして欲しくない。
彼等の通っている学校の赤点ラインは三十点です。