幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
「朝ご飯、お粥でも作るか?」
「あんたの飯は食べない」
「頑なだよな……じゃあ、トーストは食べれる?」
「……いらない。冷蔵庫の上の方にウィダーあるからそれ持ってきて」
一日明けても姉ちゃんの熱は下がらず、予定通り理恵さんに来てもらうことにした。先に起きた俺はトーストを焼いて食べ、姉ちゃんに朝飯どうするかを聞いたのだが。ウィダーなんかあったっけ?
リビングに戻って冷蔵庫を開ける。……あ、あったわ。風邪の時こそちゃんとしたもの食べなきゃいけない気もするが、こういう時にウィダーみたいなゼリー状のものが食べやすいのはとてもわかる。ちゃんと栄養も入ってるし。
ウィダーと、ついでにお茶も入れて姉ちゃんの部屋に戻る。
「ほら、朝ご飯とお茶」
「ありがと」
普段の覇気が無さすぎる。多分今スマブラしたら勝てる。しないけど。
「しんどい?」
「そうでもない」
嘘つけ。めちゃくちゃしんどそうな顔してるぞ。
かと言ってそう言うと多分今の姉ちゃん沈んじゃうからなぁ。
「……寝て昨日よりはマシになったんじゃねえの?もっかい寝る?」
「えー、洗濯とか」
「俺がやるから」
なんでこの状態で家事をしようとするのかね。自己犠牲かよ。アホなのかよ。
「取り敢えず寝ろ。なんか欲しいもんある?」
「……彼氏」
「郁也さん呼ぶ?」
「……呼んだら殺す」
「ごめん」
冗談言うから冗談で返しただけじゃん。殺す、とまで言わなくてもいいんじゃないかな。
「ここにいて」
「いるよ」
「しんどい」
「知ってる」
「……音楽聴きたい」
「何がいい?」
「……なんか、落ち着くやつ」
アバウトすぎてどれを流したらいいのか解らん。姉ちゃんの部屋にどんなCDがあるのか知らねーし。……あ、音楽プレーヤーあった。スピーカーに繋いで、プレーヤーに入っている曲を適当に選曲する。ジャンルが広すぎて解らん。姉ちゃん洋楽も聴くのかよ。
取り敢えず俺も知っている曲が良かったから君という名の翼をかけておく。そのままコブクロが流れ続けるようにしておこうか。そんな激しい曲も無いし。
「これでいい?」
「……もっと、激しいやつがいい」
「落ち着きたいんじゃねえのかよ」
「激しい方が落ち着く」
「さいですか」
激しいやつなんかどれだって激しいだろ。でも、あんまり叫び散らすような激しさはダメだろうな……楽器が荒ぶってる系の方がいいか?ガブリエル・コードとかどうだろうか。
「……あ、これでいい」
「いいのかよ……」
前奏でストリングスが荒ぶる感じの曲調いいよな。解るけど熱出してる時に聴くとしんどくないか?
「んじゃ、俺課題やってるから」
「やだ……」
「は?」
「あたしが寝るまでここにいて」
「あー……あいよ」
二十三にもなって何言ってんだ、とも思うが高校生くらい?の時から親に甘えられない生活送ってきてるんだ。しかも弟の世話をしつつ。風邪の時くらいは甘えてもバチは当たらないと思う。課題やりたいけどしゃーないしこのまま姉ちゃんが寝るまで姉ちゃんの部屋にいるか。
〜〜〜
「やっほ、早く着いちゃった。雨ちゃん大丈夫?」
「今寝てる。ホント急なのにありがとう、理恵さん」
姉ちゃんが寝静まって一時間。理恵さんがスーパーの袋を手に提げて我が家に到着してくれた。理恵さんのご飯は美味しいので素直に俺も楽しみである。
「あ、はいこれお薬。先にお昼作っちゃうね。夜をおうどんにするからお昼はお粥さんにしようと思うんだけど」
「助かります。姉ちゃんが食えそうならなんでもいいよ」
そういえば理恵さん、大阪出身なんだっけ。おうどんだったり、お粥さん、という言い回しに関西感を感じるなあ。方言ってのは面白い文化だと思う。詩織に一切方言移ってないのもなかなかに面白い。親父さんが関西の人じゃないからなのかな。
「ハル君には唐揚げも買ってきてるからね」
「マジ?ありがとう」
お粥だけじゃ足りないなー、とは思ってたんだよね。
父ちゃんも母ちゃんも仕事で家を出たばかりの頃、理恵さんはよく我が家に来てくれて、姉ちゃんや俺の代わりにご飯を作ってくれたりした。その為冷蔵庫や食器、調味料なんかも勝手知ったるものであり一切の迷いなくキッチンで動くことが出来る。日高一家に神崎一家は頭が上がらない。
俺が料理を教えて貰ったのも理恵さんだったりする。
「……多分さ、雨ちゃんがハル君のご飯食べないのってさ」
「んあ?」
「プライドもあるんだと思うよー。ハル君、料理上手いもん」
「どういうこと」
美味かったら食うんじゃねえの?
「雨ちゃん、責任感強いからさ。「弟に料理作らせるような手間をかけさせない!台所は女のテリトリーよ!頑張るもん!」みたいな所ある気がするのよね。だけどハル君も料理出来ちゃうからさ、こう、一回甘えちゃったらダメだ!って思ってるんじゃない?」
あれ、お醤油何処だっけ?とボヤく理恵さん。んー。んー……?イマイチ解らんな。
「あとはまあ、男が料理出来るのって意外と女の子からしたら悔しいのよ?詩織とかハル君の料理初めて食べた日、めちゃくちゃ悔しそうな顔で「私にも教えてー!」って言ってきたもん」
「あー、一時期狂ったようにお菓子とかご飯食わされたのそれか」
なんか週一位のペースであいつの作った料理を食べさせられた時期があった気がする。しかも毎回ドヤ顔なのめちゃくちゃムカついた覚えがある。そんなに美味しくなかったし。不味くもないんだけど。負けたくなかったのか、あれ。
「まあ、しんどかったらいつでもご飯くらい作ってあげるから」
「それはそれで頼りきりな気がして嫌なんだよなー……あっ」
こういうことか。
なんとなく、姉ちゃんも俺の飯を食ってしまうと頼ってる気がして嫌なのか。
……ちょっとだけ、気持ちは解るかもしれない。
理恵さんが色々やってくれるのは嬉しいけど、やっぱ家族じゃないから遠慮しちゃうんだよな。姉ちゃんからしたら俺は「弟」で、「歳下」だから、遠慮してるのかもしれない。
ある意味俺は、「弟」で「歳下」だから得してるのかもしれないな。得してる、って言い方はすごく狡い気がするが。
「……はい、お粥さんでーきた。雨ちゃんの部屋持っていくね」
「あざす。俺はもうちょい後でいいわ」
絶対今食べたら舌火傷するし。
「じゃあ、私はハル君が食べる時に一緒に食べようかな」
〜〜〜
「ご馳走様でした」
「あーい。この家の喫煙スペースって何処だっけ?」
「ベランダ」
「どうもー」
お粥は美味かった。惣菜の唐揚げも普通に美味い。久々の理恵さん飯は美味い。
姉ちゃんは相変わらずぐっすり寝ている。絶対暑さと過労による風邪だと思うしゆっくり寝てほしい。
「ハル君も吸うー?」
未成年になんてことを。
「冗談だよ。こっちおいで」
「なんか理恵さんが言うと冗談に聞こえねえんだよなぁ」
「流石に吸わせたら美和にどやされる」
そらそうよ。
ベランダが開いてるから風が気持ちいい。けど日差しだったり、ムワッとする暑さが直に来るのは気持ち悪い。こんなに暑いのに、自分の鼻先に火をつけるんだからタバコってのはよくわからない。
「……っフゥー。ハル君は吸ったことあるでしょ」
「んあ?……ない」
あります。
「嘘ばっかり」
バレました。
なんでバレたんだろう。吸ったことある、って言っても三回くらいしか吸ったことないんだけどなぁ。匂いが付いてるとか無いはずなんだが……。
「雨ちゃんが高校生の時超吸ってたじゃん?やっぱハル君も吸うんだろうなって」
「あー、姉ちゃんは吸ってたなぁ」
何回か母ちゃんに怒られてるところを見た事がある。だっせえの、もうちょっと待てば合法的に吸えるじゃん?って思ってた気がする。
その歳になってみないと解らないものってのはあるらしいな。俺も同じことをしてる。姉ちゃんみたいに沢山は吸ってないけど。
「どーだった?タバコを吸った感想は」
未成年になんてことを。
「身体に悪い味がした」
世の中、良いものだけ食べている訳にはいかないんだなって実感した。悪い味で、気分が悪くて、煙たくて、だけどすっげえ高揚感。未成年だからこそ、「今俺は悪いことをして大人になった」って感じがした。階段を二段飛ばししてる気分。
それと同時に、寿命を縮めてる気もした。一分の寿命を捧げて、今一秒だけすっげえ生きてる実感を貰う感じ。
「なんだろうなー。自傷行為でストレス発散してるメンヘラの気持ちが解った気がした」
「何それ。ハル君って面白い目線持ってるよね」
目に見えてないだけで、体内を傷つけてる感じ。痛くない。気持ちいい。けど、なんか罪悪感?よくわからないけど、最終的には気持ちよかった気がする。
「詩織は吸ったこと、ないだろうな」
「あの子は無いね。吸ったら絶対私が解る」
「親ってそういうもんなの?」
「親ってそういうもんなの」
そういうもんなのか。
まあでも小学生の頃なんかは、隠し事してもすぐ母ちゃんにバレていた気はする。今なら余裕で隠し通せると思うけどね。
「だからさ、私正直なこと言うとさ、詩織が彼氏作った時はびっくりしたんだよね」
「なんで?」
「あの子、ずっとハル君のこと好きだったと思うから」
「……あー、そういうことね」
それも解るもんなのか。俺は全く気付かなかったんだけどね。
母親ってのはすげえんだわな。
「俺も、多分好きだったよ。詩織のこと」
……今でも、少し好きかもしれない。そこまで言う必要は無いし、それを当人の母親に言うのも恥ずかしいから言わないけど。
「でもさ、幼馴染のままで居たかったんじゃねえかな。俺も、詩織も」
「……っはぁー。ハル君解ってる?あんた、詩織のこと好きだったんなら振られたようなもんだよ?私が言うのもなんだけど、詩織とか、彼氏にムカついたりしないわけ?」
ホントにそれを母親が言っていいのかよ。いや、多分そういう事でもないんだろう。
理恵さんは、ある意味俺達にとってもう一人の母親だから。理恵さんに取っても俺達は子どもみたいなもんなんだろう。
「……別に。振られたから、失恋したからって今までの関係が変わるわけでも無いし」
「……詩織は良い男を逃したなー。なんかハル君は大人になっていく、というより悟りを開いてる気がするよ」
「なんだそりゃ」
「雨ちゃんも、ハル君も、他人に向けるべきナイフを自分に刺してるんじゃないの!?って思うことあるわけよ私は」
ポエミーだな。別にそんなつもり無いけどなぁ……俺も、割と姉ちゃんも言いたいことはズバッと言っちゃうから寧ろナイフ他人に刺しまくってると思うんだが。
「雨ちゃんが元気になったら、理恵お母様が頑張っている二人には焼き肉を奢ってあげよう。詩織には内緒で」
「……あとでバレたら「もー!おかーさん!ハルだけずるいー!」ってめちゃくちゃ怒るやつ」
「あははっ、似てる!大人ってのはズルいからバレないようにやるのさ。あの子がデートに行ってる時とか」
理恵さんの奢りで、焼き肉。悪くない。
そこに実の娘を連れて来ない辺りはどうなんだ、と思わんでもないが。
だけど、悪くないな。夏休みの楽しみがこうやってまた一つ増えた。
「……てか、娘がデートに行く日とか解るの?」
「あの子変な所真面目だから。「この日は玲音君とあそこに遊びに行く!」ってちゃんと報告してくれる。安心出来ていいよね」
昔からその辺り律儀だよなぁ。遊びに行った先で事故とか起こしてもすぐに親が駆けつけられるように、って言っていつも報告してたっけか。俺の家に来る時でもちゃんと「ハルの家に行く!」って言ってから来てたらしいし。
「というわけで、焼き肉行くからね」
「うっす。楽しみにしてる」
「……何の話してるの」
後ろから気だるそうな声が聞こえてきた。振り返ったらまだまだ調子の悪そうな姉ちゃんの顔。
「起きた?」
「トイレ行ったついでに見に来ただけ」
「雨ちゃん、元気になったら焼き肉連れて行ってあげる」
「……え、いいの?」
「あと夜はおうどん。もうちょっと寝て、いけそうならリビングで三人で食べよっか」
「おっけー。……あたしも一本吸おうかな」
「寝ろ」
姉ちゃん、成人してからはあまり吸わなくなったけど吸い始めたら一本で終わらないだろうが。
……成人してからはあまり吸わなくなった、ってよくよく考えたらおかしくね?
私は嫌煙家なのでアレなんですけど、煙草は絶対二十歳を越えてからにしてください。