幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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探さない。

「ただいま」

 

「あー、なんか久しぶり。実家!」

 

「「おかえりー」」

 

 神崎家に父ちゃんと母ちゃんが帰ってくる日は一年を通してもマジで滅多にないと思う。

 がっしりした身体に短髪。だけど眼鏡が少し知的に見える父ちゃん、神崎一郎と少し前に病院で会った母ちゃん、神崎美和。二人共バリバリの働きマンで、仕事に命を捧げてらっしゃる。服屋で働きつつ「あー今日ダルい」とか言ってる姉ちゃんの両親とはホント、思えないね。そもそも俺、父ちゃんと母ちゃんがなんの仕事してるかよく知らないけど。服屋では無いことは確かだ。普通のサラリーマン、OLだと思う。

 

 俺は正直、あんまり何喋ったらいいのか解らないから少し憂鬱な気もしていたが、代わりに姉ちゃんのテンションは高かった。……いや、まあそりゃあ俺だって久々に会う家族だから嬉しいけどさ。一緒に暮らしてた時って、俺まだ小学生とかで無邪気だった頃だから。今、ちょっと大人になってから喋ると、こう、なんか恥ずかしい?というかなんというか……気まずい。俺コミュ障だし。

 

「晴人、あんた怪我は大丈夫?」

 

「んあ?あー、うん。もう治った」

 

「良かったぁ〜。ホンットに心配したんだから」

 

 その割に見舞いの品の果物は俺の好みと姉ちゃんの好み間違えてたけどな。そこでちゃんと俺の好みを抑えてくれてたらポイント高かった。

 

「ほら、母ちゃん!玄関で喋ってないで上がってよ!あたしお茶入れるから!父ちゃんも!」

 

「すまん、雨。じゃあ先に荷物を部屋に置いてくるか」

 

 県外から帰って来てる訳だし、まあそれなりに疲れてはいるだろう。確かに玄関で喋ってないでさっさと上がれば良かったな。おお、玄関の靴が多い。なんか新鮮?懐かしい感じもする。

 どうせ姉ちゃんに手伝わされることは解り切ってるので何か言われる前に姉ちゃんの後に続いてリビングへ向かう。

 母ちゃん達が帰ってくる日の為に、姉ちゃんはちょっと高めのお菓子を買っていたので、それをテーブルの上に置いておく。その間に姉ちゃんは茶を入れて、同じようにテーブルに置く。なんか、そわそわするな。

 

「あら、リビング綺麗じゃん!雨、晴人、あんた達ちゃんと掃除してるのね」

 

「ほぼ姉ちゃんだけどな、掃除してるの」

 

「……お、このバームクーヘン食べたことあるぞ。美味いよな」

 

「へっへー。二人が帰ってくるって聞いて奮発して買ったの」

 

 あ、このバームクーヘン、有名なのね。姉ちゃんってそういう情報何処から仕入れてくるんだ……。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 母ちゃんと姉ちゃんは夜ご飯の買い物へ。現在、自宅には俺と父ちゃんの二人だけ。

 父ちゃんは厳格、とかそういう感じではなく、かなりフランクな感じだ。学生時代はラグビーをやってたらしく、だからその体格かよと納得がいく。……その体格もあってぱっと見た感じ怖いけど。

 

 俺はなんとなく気まずい(多分そう思ってるのは俺だけなんだが)ので、ソファに寝そべり昼間の大して面白くもないテレビを付けてぼーっと見ている。父ちゃんもテーブルの椅子に腰掛けて俺と同じようにテレビを見ていた。

 

「晴人、お前詩織を助ける為に怪我したんだってな」

 

「んあ?……あー、うん」

 

「俺がこっちに住んでた頃は詩織に泣かされてばかりだったのにな」

 

「そうだっけ」

 

 そうでした。口では覚えてない風に装うががっつり覚えてる。恥ずかしいこと思い出させるなよ。小学生の頃は詩織の方が背高かったし腕っぷしも強かったんだよ。

 

「お前、部活は?」

 

「帰宅部だけど」

 

「お前、サッカーとか似合いそうなのにな」

 

「なんだそりゃ」

 

 スポーツに似合うとか似合わないとかあるか?……いや、あるか。俺にサッカーは似合わないだろ。

 

「父ちゃんはラグビーやってたんだっけ」

 

「おう。強かったんだぞー」

 

「ホントかよ」

 

「おっ、疑ってるな?実は父ちゃんは県大会でベスト4まで行ったことがあるんだぞ?ちょうど晴人と同じ、高二の時だったな」

 

 ホントかよ……?こんな所でしょうもない嘘を付くタイプじゃないし、マジなのだろうか。

 

「父ちゃんってさ、昔はラグビー一筋だったわけ?」

 

「んー、そうだな。それなりにラグビー馬鹿だったと思う。青春を捧げてたぞ」

 

 なんとなく思い出す、姉ちゃんの言葉。

 

 進路相談、両親にしてみたらどうだ、ってやつ。

 恥ずかしいし、気まずいけど。まあ、どうせ何の話しても今はなんとなく気まずさを感じそうだし。

 

「やっぱさ、プロになりたかったの?」

 

「いや、あまりそうは思っていなかったな。というか、無理だろうなって思ってた」

 

「今の仕事やりたい!って思った理由って、何かあったわけ?」

 

「……晴人、お前進路で悩んでるのか?」

 

 当たりです。無言で頷く。テレビの方を向きながら。

 父ちゃんはそんな俺の後ろ姿が見えていたのか、ふふっ、と低い声で笑った。……何だよ、進路で悩むのがおかしいかよ。

 

「そうか、晴人も大きくなったな。……雨は、進路で相談されたことがなかったから、少し嬉しいかもな」

 

「……姉ちゃん、俺くらいの時反抗期最盛期だったもんな。髪色ゴリッゴリで」

 

「お前に悪影響を与えたらどうしようか、母ちゃんと二人でよく心配してたよ」

 

 それについては問題ない。姉ちゃん、両親には反抗期最盛期だったけど、謎に俺のことは今と変わらない扱いだったし。それに俺もあーなりたいとはあまり思わなかった。かっこよかったけどね。ある意味影響は受けてるかもしれないけど。

 

「……晴人は、今やりたいことは無いのか?」

 

「あったら悩んでねえよ」

 

「それもそうだな、すまん。……そうだな、親としてこんな事言うのもおかしい気がするんだが」

 

 父ちゃんは初めて子どもから進路の相談をされているんだ。慎重に、言葉を選んでいる雰囲気が感じられた。俺はソファに寝そべっていた体勢から、ソファに腰掛ける体勢へと変え、父ちゃんの顔を見ることにする。眼鏡の奥が、少し嬉しそうだった。

 

 あー。親父って感じ。すごく、自然だ。

 

 当たり前だけど、この人が俺の父ちゃんだ。

 

「晴人のやりたいことは、そのうち見つかると思うんだ、必ず。だから、今は悩まなくてもいい。いつか、本当にやりたいことが見つかった時、「あー!こんな資格がいるのか!」だったり、「えっ、こんなこと出来ないとダメなのか!」ってことがあるかもしれない。その時にその資格を取るだけの、そんなことができるだけの実力が無かったら笑えないだろ?だから、今は出来ることを増やしていればいい。……と、父ちゃんは思う」

 

 果たして、両親が県外で働き始めて家に帰らなくなる前。家族四人でこの家に住んでいた頃。

 俺は、父ちゃんのこんな真剣な、綺麗な話を聞いたことがあっただろうか。

 

 昔はよく遊んでくれるいい父ちゃんだった、と思う。仕事で滅多に遊べなかったけど、遊べる時は全力で遊んでくれたいい父ちゃんだった。

 今は遊んでくれー!って強請る歳じゃないから。父ちゃんとの距離感を測りそこねている感じはあった。でも、今わかった。父ちゃんは俺の父ちゃんだ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「だから大学もな、やりたいことを探す為に、出来ることを増やす為に選ぶんだ。多分、雨も勉強が出来ないなりにそうやって選んだんだと思うぞ」

 

 姉ちゃんは内申点も成績も死んでたから必死こいて入れる大学探して必死こいて勉強しただけだぞ。俺は知ってる。

 

 でも、なるほどね。出来ることを増やしておく、か。

 

「この考え方は完全に俺の考え方だが、本当にやりたいことっていうのは探さなくてもそのうち向こうから勝手にやってくる。そんなに悩まなくてもいいんだぞ。本当に悩むことがあったら、遠慮せず父ちゃんでも母ちゃんでも連絡してこい。父ちゃんに連絡して来たらちょっと空いてる日とか見つけて飯連れて行ってやるから」

 

「おお……ありがとな、父ちゃん」

 

「なにお礼なんか言ってるんだ、父親の役目だろ?こういうのって」

 

「いや、ほら。俺、父ちゃんと暮らしてたのって小学生の頃だったからさ。この歳になって何話したらいいのかなって解らなかったんだよ」

 

「ははっ、そういうことは三十過ぎてから悩め。お前はずっと俺達の息子なんだから、普通のお前のままでいいんだぞ」

 

 それが恥ずかしかったんだよ。

 でもまあ、良かった。やっぱ家族なんだよ。

 母ちゃんが帰ってきたら、母ちゃんとも話しねえとな。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

「母ちゃん、暇?」

 

「晴人。どうしたの?暇だけど。あんた雨と散歩行ってたんじゃないの?」

 

 夜ご飯も終わり、風呂に入る前。俺は姉ちゃんを連れてドラッグストアまで散歩に行っていた。ドラッグストアで買いたいものがあったから。

 

「母ちゃん、俺の髪染めてくれない?」

 

「あら、あんたも染めるの?初めてじゃないの?」

 

「初めて」

 

 ヘアカラー剤を買いに行ったのだ。姉ちゃんが初めて髪を染めた時は、母ちゃんに染めてもらっていたことは覚えている。最初は暗めの茶髪。ブリーチもしていなかったはずだ。……そこからどんどん明るくなっていって色んな色になってらしたけど。その時は自分で染めてたんだろうけど。

 

 というわけで、俺も茶色のヘアカラー剤。どれが染まりやすいか、とかよくわからないので姉ちゃんに付いて来てもらったのだ。

 別に、今まで染めなかったのも特に理由がある訳じゃない。別段髪色で遊びたいな、とか思ったことなかったし。

 でも、姉ちゃんが初めて染めた時、母ちゃんに染めてもらっていたことを思い出して、なんとなく今染めないと一生染めない気がした。というわけで、染めて欲しいなーって。

 

「……あんたはこれを皮切りにグレないでね」

 

「グレねえよ。グレるならもうとっくにグレてる」

 

「……そうね。あんた達は強いよ。ごめんね」

 

 別に謝りを求めてる訳じゃないし。なんで謝んだよ。

 

「その服、汚れてもいいの?」

 

「うん」

 

「そ。……じゃあ、そこに座りな」

 

 椅子に座らせられ、ケープみたいなものを着せられる。そしてヘアカラー剤のキャップを開け、何か混ぜてそれを髪の毛に付けていく。まずは毛先。少しずつ、丁寧に。

 

「母ちゃん、自分の髪は自分で染めてるの?」

 

「自分で染めてるわ。意外と綺麗に出来てるでしょ?」

 

 実際母ちゃんの髪は綺麗に染まっていると思う。普通は美容院とかでやって貰うのだろうか?いや、でもそれだとヘアカラー剤なんか売ってないか。どっちの方が一般的なのだろうか。

 

「まあ、本当に綺麗に染めたいなら母ちゃんじゃなくて美容院で染めてもらった方が良いけどね」

 

「良いんだよ。最初は母ちゃんに染めてもらうって決めてたから」

 

「……嬉しいこと言うようになったわね、晴人」

 

「そう?」

 

 ちなみにドラッグストアへの散歩中に聞いたのだが、姉ちゃんも最初に染める時は母ちゃんに染めてもらう!って決めていたらしい。俺はイマイチ覚えていないのだが、休みの日に自分で髪を染めている母ちゃんの姿が結構印象に残っていたんだって。自分で出来るって、かっこいいなーって思っていたんだとか。

 安心しな、姉ちゃん。今となっては姉ちゃんも大概のことは自分で出来るようになってる。髪を染める以外のことも。

 

「あんたと雨は顔が似てるからね、赤色とかピンクアッシュとか似合うんじゃない?メッシュとかで」

 

「男子でそこまで色入れるやつは中々いねえよ。校則違反だし」

 

「あら、そう?男前になると思うんだけどなー。……根元いくわよ」

 

「あいよ」

 

 いや、俺の顔は男前じゃねえよ。親バカ発動してらっしゃる。なんというか、変に中性的なんだよな。あんまり好きじゃない。……まあ、そんなこと親の前では言えないけどね。産んでくれたことには少なからず超感謝してる訳だし。

 

「あんた好きな子とかいないの?」

 

「いない……かな。彼女は欲しい」

 

「意外。あんたも雨も「恋人作って面倒になるよりは独り身でいいや」派だと思ってた」

 

「なんだそりゃ」

 

「学生時代の母ちゃんがそうだったからなんだけどね」

 

「まあ、面倒なのは嫌だけどな」

 

 うーん、こういう性格なんかは姉ちゃんも俺も、母ちゃん似なのかもしれないな。

 

「やっぱ、欲しいじゃん?詩織とか楽しそうだし」

 

「詩織ちゃんの彼氏も男前だったわねー」

 

 あー、そっか。母ちゃんは俺が入院してた時にそれとなく高見の顔とか見てたんだっけか。うん、あいつは男前だ。

 

「まあ、あんたは本当に素直で良い子なんだから。探さなくてもきっと良い女が寄ってくるわよ」

 

「父ちゃんにも似たようなこと言われた」

 

 父ちゃんは彼女じゃなくてやりたいことだけどね。

 

「ある程度ちゃんとやらないといけないことが出来ていたら、報いはちゃんとあるものよ?……はい、ラップ巻いた。十五分位そのまま放置して、その後シャワーで洗い流して。入念に洗ってね」

 

「あいよ」

 

 母ちゃんも当たり前だけど、母ちゃんだった。

 家族って長い間離れてても家族だったんですね。なんか変に構えてた俺が馬鹿みたいじゃないですか。

 

 髪色、どうなってるかなー。

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