幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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友達になりたい。

「はい、お待ちどうさま。豚骨ラーメン大盛り二つね」

 

 うわっ、すげえ量。食べ切れるかな。てか石黒も大盛りにしてるけどこいつ本当にこれ食べ切れるのか?

 

「やっぱ沢山動くと沢山食べたくなるんだよねー。ここのラーメン味濃いしパワー出るんだ」

 

 いただきまーす!と言うや否や箸で麺をどかっと掴んで勢いよく啜る石黒。こいつ本当に美味そうに食べるよな。こんなに食べてよく太らないよな……って思ったけどこいつサッカー部で動きまくってる上に家で筋トレとかする系女子だった。

 俺もラーメンをいただくことにする。真のラーメン通はまずスープから。仮面ライダーカブトでそう教わった。というわけでレンゲでスープを掬い、口に運ぶ。

 

「あっつ!!!」

 

「あはっ、そりゃそうじゃん!何今の声、ハル君のそんな焦った声初めて聞いた!」

 

 めちゃめちゃ湯気出てたじゃん俺。フーフーしろよ俺。舌やけどしたわ。でもスープは美味かった。次は麺だ。今度はちゃんとフーフーして、恐る恐る口に運ぶ。

 

「……美味いわ」

 

「でしょー?」

 

 自慢げに口角をつり上げる石黒。なんでこいつがこんなに自慢げなのかは解らないが、確かにここのラーメンは美味いかもしれない。大盛りもプラス50円で出来るし、コストパフォーマンスも悪くないと思う。この店は覚えておこう。

 

 しばし無言でラーメンを貪り食う。美味い。チャーシューも美味い。

 

「私さ、初めてハル君に会った時に安心してたんだよね」

 

「え、なんで」

 

 石黒の器はもう殆ど空になっていた。早くね?俺まだ半分くらいあるんだけど。

 

「玲音が詩織ちゃんと付き合った、って聞いた時さ。やっぱりちょっとショックだったの。私、玲音が好きだったからさ。しかも玲音から告白したって、もう完全に私の片想いじゃん?もし先に告白してても駄目だったんだろうなって思って、家で泣きそうになってたりしたの」

 

 へえ……ちょっと意外、というかなんだろう。不思議な感じがするな、それ。

 この店に入る前に知らされた、「高見が好きだった」という事実。なんというか、そう言った石黒の姿に俺はすごく見覚えがあった。

 

 多分、今もちょっと好き、ってやつだと思う。俺が詩織に抱いていた感情に、多分近いんだろうな。前詩織の家で喋ってた時に「石黒って恋愛とかするのかな」って言ってたけどホントごめん。恋愛するんですね。

 

「でも詩織ちゃんってハル君と付き合ってる説がすっごい流れてたじゃん?ってことはハル君は詩織ちゃんに振られたんだな、なんだか似てるなー、ってちょっと思ってたんだ」

 

「……あー、だから図書室で俺を見つけた時声が出たのか」

 

 ちょっと納得……?したかもしれない。

 でも、そうだったのか。石黒は高見のことが好きだったのか……俺がそういうのに気付けないってのもあるかもしれないが、全く気が付かなかった。いや、多分詩織も気付いていないな。

 

「こんなこと言っちゃったら幻滅するかもしれないけどさ、ハル君に電話した時、詩織ちゃんの声が聞こえた時あったじゃん?あの時冗談半分で「浮気?」って聞いたけど、もし詩織ちゃんが浮気するような悪い女だったらいいのにな、って思って聞いた節もあったんだよね。そんなこと考える私の方が悪い女かもだけど」

 

 すっげえ解る。俺も心当たりある。高見がクソみたいなやつだったら良かったのにな、とか思ってた。けど、実際は高見のやつは良い奴で。石黒から見た詩織がどう映っているかは解らないけど、あいつも悪い女ではない。それが、なんか自分を締め付ける。

 石黒は多分、多分だけど。詩織に振られた傷心の俺を見て、同じように傷付いている自分を安心させたかったんだろうな。

 

 ラーメンを啜る。大盛りとは言えど、流石に底が見えてきた。食い切れないかと思ったが、そうでも無さそうだ。……石黒は既に完食している。フードファイターかよ。

 

「薄々気付いてると思うけどさ。好きだったって言いつつまだちょっと引き摺ってるんだよね」

 

 だろうな。俺もそうだった訳だし。

 

「……だからさ、ハル君がデートしてたよっていう噂を聞いた時は、結構焦ったし羨ましかったんだよね」

 

「え、なんで」

 

 なんかデジャヴ。さっきも同じような返ししなかったか?俺。

 

「私はウジウジ失恋を引き摺ってるのにさ、ハル君はもう次に進もうとしてるなんて!ぐぬぬぬ……みたいな感じ。置いていかれそうな気がしたんだよね」

 

 あー、そういう事だったのか。だからそうじゃないって解った時、安心して嬉しそうだったってことか。

 誤解されているようだが、俺は別に次に進もうとしている訳じゃない。というか進んでいない。ただ後戻りしてた詩織との関係をゼロに戻して、夏休みの課題を進めていただけなのだ。別に石黒が一喜一憂するような話は一切無い。

 

「……私、結構悪い女でしょ?」

 

「いや、別に」

 

「あれっ?」

 

「それくらい誰でもあるだろ?俺だって、傷心の気持ちを石黒との勉強会で誤魔化してた節あるし」

 

 当時そう考えて石黒に勉強を教えていた訳では無いが、多分あの時は無意識に石黒との勉強会を心の拠り所にしていた気がする。そういう意味で言えばお互い様だ。

 

 ……というか、

 

 

 

 

 

「てか、俺の聞いた話だったらお前とも噂立ってるらしいけど」

 

 

 

 

「…………へっ?私と?誰が?」

 

「いやだから、俺が」

 

 俺が詩織から聞いた話だったら、俺が石黒の出てる練習試合を観に行ったって噂になってるらしいが。よくよく考えたらあの試合、石黒以外にも二年出てたのになんで石黒限定で噂されてるんだろうな?あれか、勉強会してる姿を意外と見られてたのか?まあ食堂でやってたし当たり前っちゃ当たり前か。

 

 

 

 

「……ふぇぇっ!?私と、ハル君が!?」

 

 

 

「え、うん。俺はそう聞いたけど」

 

 石黒の少し日焼けした肌が紅潮し、唐突にジタバタし始める。なんだこいつ。

 そして一通りジタバタし終えるとフッと真顔になり、水を一口含んで、ゆっくり飲み込んだ。

 

「……あんまり悪い気はしないね!」

 

 そう言って、白い歯を見せてニシシと笑った。

 

「歯にネギ付いてるぞ」

 

「えっ嘘!?」

 

 悪い気はしないってどういう事だ。……まあ、俺もあんまり悪い気はしなかったけどさ。

 なんというか、石黒は顔が豊かというか……普通にこうやって喋っている時はひたすらに元気で、歯を見せて笑う姿が印象的で。だけど、コートの上に立ってプレーしている石黒は、なんかオーラ増し増しというか、すげえかっこいい。でも、当然ながら思春期の普通の女の子だから、人並みの黒い感情や恋愛に対する渦も存在するわけで。

 

 それら全部に本気なのが石黒凛花っていう人間なんだろうな。仲良くなって日が浅い俺が言うのもなんだけど。

 

 顔は豊かだけど、裏表はあまり無い。だから、発する言葉に嫌味がない。俺とか姉ちゃんとか、発する言葉の殆どが嫌味に聞こえるもんな。それはあれか、生き方が悪かったのか?

 

 いつの間にか、俺の器のラーメンも無くなっていた。話をしながらだったから気が付かなかった。意外と食べれるもんだな……美味かったわ。

 

「ごちそうさまでした。美味かった」

 

「でしょー?私がサッカーで有名になってインタビュー受けたら「ここのラーメンを食べて強くなりました!」って宣伝するんだ」

 

「なんだそりゃ」

 

 確かにスポーツ選手なんかのインタビューとかだったら「勝負飯」とかそんな感じで地元のよく通っていたご飯屋さんをピックアップしていたりするよな。店主さんが「あの子は昔からこのメニューばかり頼んでましてね?」みたいに自慢げに語るやつ。なるほど、石黒選手の強さのルーツはこのラーメン屋か!みたいな。……こいつ、インタビューの受け答えとかめちゃくちゃ下手そうだけど。

 

「誘ってくれてありがとね、ハル君」

 

「乗ってくれてありがとな、石黒。外暗くなってきてるし家まで送るわ」

 

「わお、紳士的。詩織ちゃんも送ってあげたりするの?」

 

「そういうこと」

 

 まあ、多分そんな危ないとかそういうのは無いと思うけどもさ。女の子を夜に一人で帰らせてしまうと、姉ちゃんに怒られるのです。一応、酔っ払いとか出るらしいし。ここでお会計も俺が全部支払えたらかっこいいのかもしれないが、そこは少し勘弁していただきたいところである。

 

 豚骨ラーメン、大盛りで720円。あの量とあの味でこの値段はかなり安いんじゃないだろうか。レジで野口を一枚召喚し、硬貨を増やす。ちょっと前に百円玉を少し減らしたからね。ゲーセンで。特にゲーセンでゲームはしないが、百円玉はやっぱり二枚くらいは持っておきたい。なんとなくね。

 

 外はかなり暗くなっており、クソ暑い日差しが消えたおかげでほんの少しだけ涼しくなっていた。

 

「家、どっち?」

 

「こっちー。……ホントに送ってくれるの?別に普段の帰り道だしいいんだよ?」

 

「迷惑なら送らずに帰るけど」

 

「や、迷惑ではない。寧ろちょっと嬉しい。私の方が迷惑なんじゃないかなって」

 

「迷惑じゃない。寧ろちょっと嬉しい」

 

「それは変態発言なんじゃないかな?」

 

「それもそうか」

 

 送ると言いつつ、半歩前を石黒が歩く。まあ、道が解らないからしょうがないんだけどね。

 いつも元気な石黒の背中は、意外と小さく普通の女子高生でしかないことを物語っているようで。なんか、変な幻想抱いてたのかもな。恋愛しないサッカー少女、みたいな。女子高生なのだ、恋愛くらいするわな。

 

「ハル君はさ、本当に優しいよね」

 

「俺が?」

 

「うん。なんて言うのかな、優しくない優しさがある」

 

「は……?」

 

 誰か日本語に直してくれ。誰だよこいつに勉強教えたやつ!もうちょい賢くできただろ!……あ、俺もこいつに勉強教えたことあったわ。

 

「ハル君は思ったことをオブラートに包まないからさ。全部正直なんだよね。それって、すっごく優しくないんだけど、すっごく優しいなって私は思う」

 

「……それ、褒めてる?」

 

「褒めてる褒めてる。私はハル君のそういうスタンス好きだよ」

 

 歯を見せて笑う石黒。

 

「でもさ、言葉にしてるのは全部正直なんだけど、言葉に出さずに自分の中で隠しちゃうよねー。前、詩織ちゃん関連で隠したでしょ?そういうスタンスは嫌いかな」

 

 女子ってのは意外と誰でも鋭いものである。あー、そういえば一回詩織関連で悩んでた時にこいつに看破されたことあったなぁ。ほんっと、エスパーかよって感じ。

 

「私でいいなら相談乗るからさ。ハル君を勝手に精神安定剤にしてたお詫び」

 

「石黒に相談しても根性論とかで返されそうだよな」

 

「それ、褒めてる?」

 

「褒めてない」

 

「だと思った!」

 

 俺からしたら、石黒も相当優しい部類に入ると思う。姉ちゃんとはまた違う(というか姉ちゃんは俺に優しいというより俺に甘い)優しさというか、言葉を借りるなら全部正直だから、なのかもな。多分、マジで俺が悩みとかを相談したら、答えは出なくても一緒に唸ってくれるんだろう。

 

「……まぁ、覚えとくよ。悩みがあったら相談する」

 

「任せなさい。凛花ちゃんがバシッと解決してあげるから」

 

「その言い方は信用ならねえな……」

 

「えー?」

 

 ぶーぶーと口を尖らせる石黒の横顔は、何処か会った時よりも楽そうに見えた。

 

「……あっ、そうだ。一つ気になってたことあるんだよね」

 

「なんだよ」

 

「私、友達からは「リンちゃん」か「リン」、もしくは「凛花」って呼ばれてるんだよね。ハル君も友達だからどれかに変えて欲しいんだけど」

 

「唐突だな……」

 

 しかも結構ラインナップが恥ずかしいな?その中だったら普通に下の名前の凛花、でいいんじゃねえのかな……?確か、高見のやつも凛花って呼んでなかったっけか。他の男子は……ダメだ。他の男子が石黒と話してるところを見たことがない。多分結構話してるんだろうけどな、こいつの性格的に。

 

 うーん……。

 

 

 

 

「……リン。これでいいか?」

 

 

 

 

「バッチグー!友達に苗字で呼ばれるとムズムズしちゃうんだよね。じゃあこれからも改めて宜しくね、ハル君!」

 

 

「……ああ、よろしくな。リン」

 

 

 いつの間にか友達認定されていたらしい。石黒……じゃなくて、リンの家はもうすぐらしい。

 

 






石黒凛花のイメージソング(?)は「流星ボーイ」です。
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