幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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一瞬ですがオリジナル作品の日間ランキング一位を達成していました。本当にビックリした。

ありがとうございます。これからもまた適度にお付き合いくださいm(_ _)m
 


二学期
頭を下げたい。


 世間一般で考えられる「夏休みの期間」というやつは、七月の下旬から八月の終わりまで。それで、九月一日から二学期が始まる……大概の人がそう考えているだろう。

 しかし最近の小学校、中学校はなんと八月下旬で夏休みが終わり、九月に入る一週間前から二学期が始まっていたりもするらしい。脱ゆとり教育だとかクーラーを付けてあげたんだから我慢しろだとか、そんなこと子どもに言っても「はいわかりました」ってなるはずがないだろうに。

 

 そんな子ども達に厳しくなった世間ではあるが、どうも我が校は(高校だからかもしれないが)その例には漏れるらしく、八月三十一日までたっぷり夏休みだ。まあ実際のところ部活だの勉強だので休みを丸々満喫したやつは殆ど居ないんだろう。俺はかなり満喫した方だと思う。

 

 本日は九月一日。二学期最初の登校日なのである。

 

 九月にもなると満月が「中秋の名月」なんて言われたりもするが、じゃあ気候は秋なのかと言われたら答えはノーで、朝っぱらから真夏かよってレベルで暑い。所謂残暑というやつなのだろうが、もう残らなくていいからとっととどこかへ行って欲しいものである。

 

「おはよ晴人」

 

「んあー」

 

 大して面白くもない朝の情報番組を眺めながらコーヒーを啜る姉ちゃんを横目に、まず向かうは冷蔵庫。朝っぱらからアホみたいに暑いので、取り敢えず冷たいお茶が飲みたいのだ。

 

「二学期最初の登校日だし、サンドイッチ作ってみた」

 

「まじ?結構めんどくさかったんじゃねえの」

 

「あたし今日休みだからさ、あんたが学校行ったら二度寝するのー。あとドラクエする」

 

「はぁ?俺はこのクソ暑い中学校行かなきゃならんのに姉ちゃん休みなの?」

 

「ぶっ殺すぞ?あんた昨日までダラダラしてた中私仕事してたんだけど」

 

「すみませんでした」

 

 よくよく考えたらそうでした。すみませんでした、思う存分ドラクエしてください。

 

「ほら、サンドイッチ。ハムサンドとタマゴサンド作ったけどどっちがいい?」

 

「ハムサンド」

 

「言うと思った。ほら、さっさと食べて用意しな」

 

 当然といえば当然なのかもしれないが、サンドイッチに使われているパンは焼いてあるトーストではなく、ただの食パンだった。耳の部分は丁寧に取られており、柔らかい部分だけを使っているらしい。……これ、耳の部分はあとで揚げパンみたいにしてドラクエやる時のお供にするんだろうな。

 

「あんた今日昼ご飯いるんだっけ」

 

「いる。今日は始業式で授業無いから十一時くらいに帰ってくると思う」

 

「あいよ。……んじゃ一時間だけ二度寝して、そこからドラクエかな」

 

 現在の時刻は七時四十分。八時過ぎに家を出るので、九時過ぎまで姉ちゃんは寝るつもりらしい。……まあ、俺も始業式寝るつもりでいたんだけどね。

 

「……ごちそうさま。髪整えてくるわ」

 

「右の後ろの方、ぴょんってなってるよ」

 

「さんきゅ」

 

 普通に正面から鏡を見てもわからない部分の寝癖を教えてくれるのは素直に有難い。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の始業式、終業式ほど退屈で存在意義が解らない式も無いと思う。夏はクソ暑い、冬はクソ寒い体育館に集められて、テンプレみたいな校長の話を聞いて、休み期間の部活の表彰なんかをして、生徒指導の教師の軒並みな話を聞く。正直校内放送とかで良くね?ってなる。

 

 舞台の上では校長先生が長々と八月に活躍した陸上選手は毎日朝には決まって云々だの、貴方達もあの選手のように決めたことをこなせるようにだの、昨日から話すことをしっかり考えたんだろうなと思わされるお話をしてらっしゃるが、当然ながら面白い話でもないので適当に聞き流す。俺以外の生徒もほとんどがそうしているだろう。

 

「……ねえ、神崎」

 

 前でだらけ切った座り方をしている織田が話しかけてきた。出席番号順に座ると、俺の前は織田である。その座り方スカートの中身見えるんじゃねえの?

 

「なに」

 

「あたし、一昨日誕生日だったんだよね」

 

「へえ。おめでとう」

 

「なんかプレゼント寄越せよ」

 

「ちゃんと校長先生の話聞け」

 

「どうせ神崎も聞いてなかったでしょ」

 

 誕生日プレゼントをたかる女子高生初めて見た。そういうのって寄越せって言うもんじゃないだろ。

 

「いや、今俺ガムくらいしか持ってないんだけど」

 

「誰が今渡せって言ったのよ。ガムとか貰っても嬉しくないし」

 

「こういうのは気持ちが大事だろ?」

 

「アンタの今の言い方は気持ち篭もってないでしょ」

 

「そうとは限らねえだろ……あ、やべ。皆川ちゃんこっち見てる」

 

 流石に喋り過ぎたか。俺はともかく、織田はちょっとした問題児認定をされているので多少なりともマークされているだろう。校長先生のクソつまんねえ話を聞いている風に装う。織田も大人しく前を向いた。そして前を向いたまま、結局小声で喋る。

 

「……アンタ、髪染めた?」

 

「あー、染めた」

 

 我が校は昨今の学校にしては珍しく、染髪が禁止されていない。……とは言っても、ちゃんと「これ以上明るくしたらダメだよ!」という基準は存在するのだが。だから俺は夏休みに髪を染めたまま、黒染めはしなかった。ちなみに当然ながら織田の赤は完全なるアウトである。

 

「茶髪の方が似合ってるよ。アンタの姉ちゃんみたい」

 

「それ、褒めてるのか?」

 

「褒めてる。ちゃんと話したことないけど、アンタの姉ちゃんカッコよかったじゃん」

 

 あー、そういえば一時期郁也さんのラインのアイコンが姉ちゃんとのツーショットだったし、更に言うなら前カラオケの帰りに送ってもらった時、織田も一緒に居たのか。にしてもよく顔覚えてたな……。

 

「文化祭の出し物で歌う話、考えといてよ」

 

 そんな話したっけ。してても多分俺めんどくさいからヤダ!って言った気がするんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「提出物出したなー?じゃあ今日最後のやらなきゃいけない事、実行委員のお話な!神崎、日高。あとは進行お前らに任せるから」

 

 始業式が終わったら、教室に戻って課題とか色々提出物を提出して、その後最後に第一回文化祭会議。皆川ちゃんが脇に逸れてパイプ椅子に腰掛け、代わりに教壇には俺と詩織の二人が立つ。

 

「どうもー。実行委員になりました神崎でーす」

 

「日高です、皆よろしくね」

 

 まずは挨拶から。古事記にもそう書かれてるらしいし。

 ……さて、こういう進行は俺より人望のある詩織の方が確実に合ってると思うのだが、演劇に関しても出店に関しても俺の方が色々説明した方が手っ取り早い、というか演劇の脚本俺が持ってるしなぁ……出店に関しては今から触れるのは早すぎるし。

 

「えっと、早速演劇コンクールで何をやるかなんだけど……先生が「実行委員である程度固めとけ」って言ってたのである程度固めてきました。ハル、黒板お願い」

 

「俺、字汚いけど」

 

「いいじゃん、私進行やるから」

 

 そういうことなら任せようと思う。というわけで俺は黒板に「俺が」考えた演劇の題材のタイトルを大きく書く。赤いチョークで。

 

「えーと、私達二年四組は、「シンデレラ」をやりたいなーって思います」

 

 はい。シンデレラやります。シンデレラとでかでかと書いた。女子がちょっと色めきだち、男子がどよめく。

 

「お前らアレだな、「シンデレラ?王道だけど他のクラスと被りそうだし……それに今更シンデレラなんてねぇ……」とか思ってんだろ」

 

「別になんも言ってねえよ」

 

 だって反応があまりにも予想通りだったんですもん。

 まあ、当然ながらシンデレラをそのまんまやろうとは思っていない。シンデレラというか、正確には灰被り姫だけど。

 

「勿論ただのシンデレラじゃねえぞ……その名も「現代版シンデレラ」だ!」

 

 ノリと勢いで叫びながら黒板を叩く。俺のテンションに反して周りのテンションは驚く程に普通だった。……えっ、なんか恥ずかしい。

 

「ハル、一回落ち着いて。……はい、ちゃんとハルが説明します」

 

 なんか窘められたんですけど。……まあいいや。

 

「いや、本当にその通りシンデレラを現代風に改変するだけ。新入社員シンデレラは毎日先輩からのパワハラ三昧。毎日残業を押し付けられ、夜中まで一人で必死に働いていました。ある時、超イケメンの社長が主催するパーティーのお誘いが会社に届きます。シンデレラはパーティーに胸を踊らせていましたが、パーティー当日も先輩達に残業を押し付けられてしまいました。泣きながらシンデレラが残業を終わらせようとしていると……お仕事の妖精が現れ、会社のタスクを全て消し去ったではありませんか!」

 

「それ単純にシンデレラが怒られるやつだろ」

 

 コバに突っ込まれた。……じゃあここはちゃんと仕事の妖精が仕事を手伝ってくれた、でいいや。

 

「そして仕事の妖精は魔法をかけ、スーツをドレスに、崩れた化粧を綺麗に直してくれました!パンプスはガラスの靴に!そして会社を出たらそこにはスポーツカーが!シンデレラはそのスポーツカーを運転してパーティ会場へと向かいます」

 

「そこは運転手も用意しとけよ」

 

 コバに突っ込まれた。……しょうがない、運転手も用意するか。

 

「……あとはまあ、基本的にシンデレラと一緒です。ただ最後、社長はガラスの靴の持ち主をSNSで探します」

 

「絶対嘘ついて「私です!」って言う奴いるだろそれ」

 

「うるせーなー!その後ちゃんとガラスの靴が入るかどうか調べるんだよ!!」

 

 お前はSNSで細かいことを全部指摘して白い目で見られるタイプの人間かよ!?

 

「……どうでしょうか」

 

 ぶっちゃけ結構自信ある。大筋は普通のシンデレラだし、現代風にアレンジしたのがかなりコミカルに演出出来ると思う。普通に面白いと思うんだが……。

 

「……いいんじゃないの?あたしはアリだと思う」

 

 最初に賛成の意見を言ってくれたのは赤髪の女帝、織田だった。おお、ちょっと意外。あいつ意地悪な先輩やらされるの解って言ってんのかな。

 

「結構面白そう!」

 

「ねえ、これってドレス着れるの?」

 

「いいじゃん、俺賛成〜」

 

 続々と賛成の声が上がっていく。はっはっは、そうだろうそうだろう。俺の自信作は面白そうだろう?

 

「衣装を作ってくれるのは小林君です」

 

 詩織がにっこり笑いながらコバの名前をあげる。その瞬間、女子の顔が一斉に引き攣り、一部の男子の顔がニヤけた。気持ちはわかる。

 

「落ち着け。あいつ一人に衣装作らせたら皆川ちゃんがいろんな先生に謝らなきゃいけなくなる」

 

「先生って呼べっつってんだろ神崎」

 

「という訳で、織田がコバの監視も兼ねて衣装製作をやってくれます。採寸とかは全部織田にお願いするから。そうしたら女子も少しは安心出来るだろ?」

 

 まあ普通に考えて男女両方いた方が衣装製作は色々と捗ると思う。男子一同が「織田って裁縫出来るのかよ」みたいな目で見ているが、あの子はコスプレの衣装を自作する系オタク女子なのである。そんなこと言ったらぶっ殺されるけど。

 

「というわけで、異論が無かったらシンデレラ現代版でいこうかなって思ってるんだけど……いいかな?」

 

 総括して詩織がクラスに総意を聞く。答えは当然イエス。

 俺達のクラスは現代版シンデレラをすることに決定した。

 

「じゃあ、監督はハルね。キャストとかは私がまとめまーす、よろしくね」

 

 

 

 

 ……えっ、俺監督やるなんて一言も言ってないんですけど。

 

 ……まあいいや、脚本だけ渡して演技とか演出とかその辺りが俺の解釈と違ったら納得いきそうにないし。解釈違いというものはオタクにとって死活問題なのである。

 あ、監督やるなら言っておかなきゃならないことあったわ。

 

「演劇コンクール、俺と詩織は本気で優勝狙う気でやるから。絶対優勝するぞー、おー!とかそういうのは俺がやりたくないからやらないけど……本気でやるのでついてきてください」

 

 どうせなので頭も下げておく。減るもんじゃないし、本当に本気で優勝したいから、最初に誠意を見せておくことにした。ヤクザで言うなら小指詰めてる感じ……違うか。

 

「……あの神崎が頭下げてるよ、しかも真面目に」

 

「おい今ボソッと失礼なこと呟いたやつ誰だ。俺をなんだと思ってるんだ」

 

 頭下げたの失敗だったかもしれない。





そういえばこの作品書き始めたのも世間が二学期に入った頃だった気がします。

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