幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
結局止まった電車はまだまだ動かないらしく、リンは俺の家でご飯を食べて帰ることになった。
結局間接キスによる若干の気まずい空気はまだ完璧に解けることも無く、更には姉ちゃんのやけにニヤついた顔にイライラしながら飯を食う羽目になってしまった。
食卓に並ぶは鶏の唐揚げをメインに白飯、スープ、サラダに卵焼きというよりどりみどりのボリューム仕様。美味そうではある。
「さて……凛花ちゃんは部活終わりでお疲れだろうし、多めに作ってあるから沢山食べてね。晴人、あんたは罪を償うべく唐揚げを食すことは禁ずる」
「罪が重すぎるだろ」
目の前でメインディッシュお預けとか地獄だろ。いやまあ卵焼きも美味いからそれでいいっちゃいいけど。
「あ、お姉さん、私ももう気にしてないですから……」
「ん? ああ〜……ごめんね凛花ちゃん。あたしがこいつをイジメたかっただけだけど、そう言葉にされたら気にしてなくても気にしちゃうよね。今のはあたしが悪かった」
あの絶妙なタイミングで俺の部屋に入ってきた姉ちゃんはその空気感、転がっていたペットボトルを見て状況を完璧に理解し、何故か速攻でリンちゃんに「ごめんねうちの愚弟が!」と謝り、そのまま俺を呼んでニヤついた顔で「あ〜あ〜やらかしたねぇ〜」とイジリ倒してきた。基本的に我が家の(というか俺ら姉弟の)常識は「煽れそうな時はとことん煽る、いじる、イジめる」という最悪の具現化なので、こうしてクソ姉貴と化しているのだ。
「そうだぞ、詩織じゃねえんだから……お客さんもいるんだから普段のノリでいい訳ねえだろクソ姉貴」
「お客さんがいるならお姉様と呼べクソ晴人」
今までお姉様って呼んだことねえだろうよ。
「はい、凛花ちゃんお茶。晴人は自分で入れな? その方が間違えないでしょ」
「だーかーらー! お客さんいるんだから普段のノリでいい訳ねえだろ!!」
この姉貴は鳥頭なのか? 思ったことがすぐ口に出るのか? それは俺もか。
リンが不憫でならん。俺も大概終わってる自覚はあるが、姉ちゃんも大概終わってるのだ。スペックが圧倒的に高いから忘れがちなのだが、俺の思ってることがすぐ口に出る悪癖は姉ちゃんも受け継がれている。神崎家の最悪一子相伝なのである。つまり母ちゃんのせいじゃねえか。
「……ふふっ、面白いお姉さんだね」
「今のやりとりでその着地点に到達出来るのすげえな……」
「じゃあ次は間違えないように私のコップもハルくんから離しとくね?」
「うぐっ……」
即座にニコニコしながら姉ちゃんの悪癖に適応しているリンも相当面白い女ではあると思う。というかコミュ強過ぎるだろ。普通姉ちゃんに対して悪印象持ってもおかしくねえぞ。そして的確に俺の気にしてるポイントを笑顔で抉らないで欲しい。FF零式ならキルサイト見えてるからその攻撃。
「まあ、冗談はさておき食べな。白飯とスープはおかわりもあるから」
「やったー! お姉さん、いただきます!」
「あいよ、召し上がれ」
冗談らしいので俺も唐揚げは食べていいらしい。よかった。これでマジで食べさせて貰えなかったら遅めの反抗期が訪れていたかもしれない。姉に対して反抗期という言葉を使うのかと言われると……まあ少し難しいラインではあるが。
「……んん〜! 卵焼き超美味しい〜! お姉さん料理上手ですね!?」
「ありがと。あたしもそれだけ美味しそうにバクバク食べてくれると嬉しいわ」
マジで姉ちゃんの卵焼き、食べた人全員が「美味い」って言うよな……実際めちゃくちゃ美味いんだが。
リンの食べっぷりは相も変わらずとてつもない勢いで、俺の倍くらいの速度で白飯が消えていく。それもまたこいつ、無心で食らうという感じではなく、本当に美味そうに食べるのだ。見ていて気持ちがいいくらいである。ふふ、そうだろうそうだろう。姉ちゃんの飯は美味いだろう。俺はこの飯を毎日食ってるんだぜ。
ちょっとだけ全能感。俺が飯作ってるわけじゃないのにね。
「白飯……おかわり頂いてもいいですか……?」
「勿論。遠慮せず食べな」
「はっや……俺まだ半分くらい残ってんだけど」
フードファイターかよ……毎回思ってる気もするが。サッカー部の練習、そんなにハードなのか? やっぱりタイヤ引いたり究極奥義の習得とかするのかな。指笛吹いてペンギン呼ぶ練習とか……いや指笛は別にハードでもないか。
「う〜ん、作りがいがある子だね……晴人も詩織ちゃんも沢山食べる方じゃないからなぁ」
「悪うござんしたね、いっぱい食べる俺じゃなくて」
俺もたまにご飯を作るが、やっぱり美味しいって言ってくれるのがなんだかんだ一番嬉しいからな。姉ちゃんは俺のご飯を美味しいと言わないので家では滅多に作らないが……。
「凛花ちゃん、学校でのこいつの様子教えてくれる?」
リンのおかわりをよそいながら、突如そんなことを聞き始める姉ちゃん。保護者かよ。保護者か。実質保護者だな。
「学校での様子ですか? う──ーん……私ハルくんとはクラス違うから意外と学校では絡み少ないよね」
「一年の時も被ってないしな」
まあリンからしたら絡みが少ないのかもしれんが、俺からしたら学校内での絡みの多さはトップファイブなんだよな……俺が友達少ないだけか。基本学校で絡むの、コバ、須田、詩織、織田、そんでその次くらいにリンだもんな……。
「でもハルくんは超良い人だと思うし優しいと思います。一学期の期末テスト、ほぼ初対面なのに勉強教えてくれたりしたし」
「へぇ〜、あんた勉強教えてたんだ。まあ地頭良いもんね」
「あと、私は後から知って本当に凄いなって思ったんですけど……ってこれはお姉さんも知ってますよね、詩織ちゃんが誘拐されたってやつ。あれ助けたのがハルくんって聞いてびっくりしました」
「俺と高見な」
あと姉ちゃん。俺一人だったら多分被害者が一人増えて終わってただけだから。
「あー、あれね。あたしとしてはなんであんな半グレボコせないのって感じだったけど……まああれはホントよくやったよ」
「言っとくけど女一人で半グレ三人ボコせる姉ちゃんがおかしいんだからな」
いやマジで。姉ちゃん別に子どもの頃空手とか習ってた訳じゃないよな? 蘭姉ちゃんだって映画で鬼神の如き強さを発揮できているのは空手やってるからなんだよ。なんで武道習ってない人がそんなに強いんですかね。
「……ってか、私あの時お見舞いもいけなくてごめんね? もう怪我は大丈夫なの?」
「ん? あー。お見舞いは気にすんな、テスト期間真っ只中だったしお前は勉強の方が大事だったろ。怪我はもう大丈夫。高見と違って俺は刺されてないし」
そもそも確か余計な詮索とか入らないようにとかも含めて、学校側が校内の誰にも俺らが入院してる病院が何処かとか言わないようにしたってなってた気がする。俺と高見はともかく、詩織に関してはあんなのトラウマになってもおかしくない事件だったし……あいつよくよく考えたら心療内科とか行かなくていいのか? まあ、ああ見えて図太くはあるけど……そういう問題でもない気はするが、大丈夫そうならまあいいや。
「他に学校での様子かぁ……意外とハルくんは内々に熱血パワーを隠し持ってるよね」
「なんだそりゃ」
「いやだってほら。練習試合観に来てくれた時も応援に熱篭もって大きい声出してたでしょ? 今も文化祭の実行委員、結構ちゃんとやってるみたいだし」
「丁度家に来るまでの帰り道でその話しただろ。7割くらいで頑張るより全力で頑張った方がダサく見えねえんだよ」
「それがわかってても全力出せるのはすごい、ってことだよ」
実際私は演劇で全力で悪役できないもん、と続けるリン。まあ言わんとしていることは解るが……それに関しては別に学校だけの話じゃねえしな。姉ちゃんに嫌味を言うのも全力、スマブラで復帰阻止するのも全力、ファイナルファンタジーとかにあるサブイベントみたいなミニゲームも全力。俺……というか、これも神崎姉弟の信条みたいなところがある。
「へえ、あんた学校でもちゃんと全力でやってんじゃん。えらいね」
「そりゃそうだろ」
「でもあんた、本気でやってるのに周りからは「適当」って思われがちでしょ? 凛花ちゃんはちゃんとあんたの本気を見つけてくれてるわけだ。いい友達じゃん」
「あ〜、確かにハルくんはキャラ的に本気! とか熱血! って感じじゃないもんね」
確かに、俺は結構何でも本気でやるタイプではあるが、周りからは「無気力」「終わってる」と称されることが多い。終わってるに関してはただの悪口だろこれ。まあ実際部活に参加している訳でも無いし、授業に対しても本気! ってくらい優等生でも無いから何もしてない時の方が多いので、無気力と言われるのはしょうがないかもしれないが……。
言われてみれば、学校の知り合いで「全力出せるのはすごい」なんて俺に言うやつはリンしかいないかもしれない。いや詩織も多分言う時は言うけど、あいつは幼馴染換算なので今回は例外として。
ふむ、まあ確かにそう思うと……リンは本当に良い友達なのかもしれない。
姉ちゃんも俺と同じで、深く関わっている相手には伝わる良い所が沢山あるのだが、あまり関わりがない知り合いからは「冷めてる」「悟ってる」と言われるらしい。そんな姉ちゃんが俺に向かって「いい友達じゃん」って言うということは、本当にそういうことなんだろう。
「まあ、こいつは基本的には愚弟なんだけどさ。なんだかんだ良いとこも結構ちゃんとあるし、これからも仲良くしてあげてよ」
「はい! こちらこそ是非仲良くさせてください!」
なんか、姉ちゃんが俺のことを「良いとこも結構ちゃんとある」って言ってくれるの恥ずかしいな。
「珍しく普通に俺の事を褒めた?」
「褒めたかどうかはどうだろうね。まあ間違いなくあたしが一番あんたのことを見てんだし、家族だからね。そりゃあんたの良いとこの十や二十くらい、簡単に見つけられるってワケ」
「例えば?」
「…………さて、凛花ちゃん卵焼き食べる?」
このクソ姉貴パッと思いつかなかったから逃げやがった!
〜〜〜
神崎家withリンの賑やかな夕食タイムが終わった頃、丁度電車も動き出し始めたという連絡が入った。姉ちゃんはリンがご飯をとにかく美味そうに食べるのが気に入ったらしく、かなりの上機嫌である。
三人で食事、というパターンは詩織が来た時に発生する為そこまで珍しいものではないが、詩織以外での三人での食事は当然超レアケースである為(寧ろ初めてかもしれない)、俺もなんというかかなり新鮮な気持ちで食卓についていたかもしれない。
まあそんな新鮮でそれなりに楽しかった食事も終わり、電車も動き始めたのであれば、リンは当然ながら家に帰らなくてはならない。上機嫌でリンのことを気に入った姉ちゃんには悪いけどね。
「駅まで送るわ」
「や、いいよいいよ。すぐそこでしょ?」
「だとしても、だ。夜だし、女一人じゃ危ないだろ」
「……ありがと、じゃあお願いしよっかな」
「おう。まあ俺がいてもそんな頼りにはならないけどな」
「そんなことないよ。お姉さん、夕飯はご馳走様でした!」
「あいよ。またいつでもおいで、凛花ちゃんの為なら美味しいご飯いつでも作ってあげるからさ」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
「んじゃ、送ってくる。家の鍵開けといて」
「了解。行ってらっしゃい」
姉ちゃんにぺこりと挨拶したリンと一緒に家を出る。流石にこの時間になるとかなり涼しいな。虫の鳴き声も幾つか聞こえてくる。もうそろそろ夏も終わって、秋に入っていくんだなぁ。
「ご飯、超美味しかった。素敵なお姉さんだね」
「否定はしねえ。実際親代わりみたいなとこあるしな」
「いいな〜。私もあんなお姉ちゃん欲しい」
「リンは確か……お兄さんと妹がいるんだっけか」
「正解。よく覚えてたね……二つ違いだからさ。お兄ちゃんはあんな大人っぽくないんだよね〜、あんまり仲も良くない」
へえ……リンがきょうだいとあんまり仲が良くないの、ちょっと意外だな……誰とでも仲良く出来そうなのにな……。
「妹は?」
「まあまあかな、普通くらいだと思う。妹は結構インドアで本とか結構読むからさ、仲は悪くないけど話があんまり合わないって感じかな〜。意外でしょ? 私の妹がインドア系なんて」
「まあ、意外だな」
正直きょうだい全員何かしらのスポーツやってると思ってた。でも多分そういうことなら俺は妹ちゃんとの方が話は合う可能性が出てきたな……まあ会うことなんか無いだろうけど。
「……今日はありがとね、無理言って家まで上げてもらって」
「んあ? まあ別にいいよそれくらい。詩織なんか最早俺に連絡せずに勝手に上がり込んでる時あるし。そもそもお前の突発的なお願いもそろそろ慣れてきた」
「あはは、ごめんね。毎回急だもんね」
全くだよ。
ただまあ、なんというか……正直、傷心だった時にこいつの急なお願いでテスト勉強を教えていて。その時間は、割と傷心を癒してくれていたような気はする。まあ、リンはリンで高見に対する片想いの傷心があったわけだが……。
思えば、奇妙な繋がりだな。偶然とはいえ。
「あ、駅見えた! ホントに今日はありがとね、楽しかったよ! あ、あとご飯美味しかった! って改めてお姉さんにも言っておいて!」
「ん。じゃあまたな」
「うん! ……演劇、やっぱり私も全力で頑張ってみようかな! 超悪役やるから、楽しみにしててね!」
「あいよ。でも優勝するのはうちのクラスだからな」
「負けないもんね〜! バイバイ!」
ヒラヒラと手を振りながら駅の改札へと消えていくリン。よくよく考えてみたら、あいつのことで一番意外なのはやっぱりお兄さんと仲があまり良くないことでも、妹がインドア系であることでも無く、あのキャラで演劇コンクールで割り振られた役が「悪役」ってとこだろ。ドキンちゃんみたいな感じなのか?
「…………悪堕ちとか、女幹部って、そこはかとなくエロいよな」
──いかん。マジで何考えてんだ俺は。
さんねんぶり……???