幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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どうしたい?

「ただいま」

 

「おかえり。良い子だったね、凛花ちゃん」

 

「そうだな」

 

 リンを駅まで送って、家に帰ってくるまでの時間は十分にも満たなかった。改めて徒歩五分圏内に駅があるというこの家の立地の良さを感じてしまうね。ケロロ軍曹の歌で駅から五分は信用するな、みたいなのあったなそういえば。

 

「今洗い物終わったし風呂沸かすわ。あんた先入る?」

 

「まあ、先に入っていいなら」

 

「じゃあ沸いたら先どうぞ」

 

「サンキュ」

 

 先に風呂に入っていいらしいので、今のうちにパジャマを出しておくか。まあパジャマといってもジャージにTシャツという超ラフスタイルだが──

 

 

「あんたさ、凛花ちゃんとどれくらい仲がいいの?」

 

 

 ──自分の部屋にパジャマを取りに行こうとしたら突然姉ちゃんからの質問で足を止められた。

 リンとどれくらい仲が良いのか。どれくらい……どれくらいとは? まあ、姉ちゃんが突然家帰れなくなった時に飯誘うくらいの仲……それって俺基準だと結構仲は悪くないとは思っているのだが、向こうはどう思っているのだろうか。リン的には学校ではあまり絡みがない方らしいし……。

 

「どれくらい……基準がわからん」

 

「まあそれもそうか……いや、これは凛花ちゃんがいなくなってからにしないとダメだなって思ったんだけどね」

 

 何? 陰口? いや姉ちゃんに限ってそんな陰湿なことをする訳がねえか。

 

「あんた、今日ペットボトルで間接キスやらかしてちょっと変な空気になったんでしょ?」

 

「何かと思ったらまた俺をイジる話題かよ。まあ三度目の正直でリンがいない時にしてくれてるのは空気が読めてるけど──」

 

 

 

「これはあたしの持論だから皆そう、とは言わないけど。間接キスで変な空気になるのは「その人のことが生理的に無理」なのか、「ある程度その人のことを異性として意識してる」なのか、「潔癖症」のどれかよ」

 

 

 

 ──あれっもしかして俺をイジメたかった文脈じゃないなこれ? 

 

 訳の分からんワードが飛んできて一瞬脳が止まる。

 

 

 

 

「まあ今日会っただけだから適当なことは言えないけど、あの子見た感じ潔癖症って感じじゃないじゃん。生理的に無理な男の家に上がり込む訳じゃないよね。普通の友達相手なら別に間接キスになっても「いいよ別に」で終わると思うんだよね。もっかい聞くけど、あんた凛花ちゃんとどれくらい仲がいいの?」

 

 

 

 

 姉ちゃんの言ってることを一つずつ、ゆっくり理解していく──そして、ちゃんとその言葉の意味を理解してもう一度、思考が止まった。

 

 ど……どういうことだ。つまり姉ちゃんが言いたいことは……リンは少なからず、俺を異性として意識しているから、間接キスになってしまった時に、変な空気になってしまったってことか……? 

 異性として意識してる。流石にその意味が解らないほどバカではない。だが、改めて誰かからその可能性を突きつけられると、その言葉の意味がイマイチ解らなくなる。解らなくなるというか……言葉の信憑性を疑ってしまいたくなる。

 

 

「どれくらいって……」

 

「……ごめん。あたしいらないこと言ったかもね。忘れていい」

 

 

 そんな簡単には忘れられないくらいの信憑性は、この言葉にはあった。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 シャワーを浴びながら、頭を洗いながら、身体を流しながら、湯船に浴びながら。ぼんやりと頭を支配し続けていたのは、姉ちゃんのさっきの言葉だった。

 

 姉ちゃんの言葉をそのまま信じるというのなら。リンは俺のことが生理的に無理か、異性として意識してるか、潔癖症かの三択ということになる。姉ちゃんの言ってた通り、潔癖症……ではないと思う。そんなイメージは一切無いし、もしそうだったとしたなら一緒に飯を食いに行った時なんかにそういう素振りのようなものが見えるだろう。

 だとしたら、俺のことが生理的に無理か、意識しているかの二択になる。無論、家まで上がっていて尚生理的に無理、という可能性もゼロでは無いが……こういう時に都合良く「意識しているのかな」なんて考えてしまうのは自惚れなのだろうか。

 

 ふと思い出すのは、リンと二人でラーメンを食べに行った時。俺とリンが付き合ってるんじゃないか? なんて噂を立てられてしまっているらしいぞ、と言った時のあいつの反応。

 

 

『……あんまり悪い気はしないね!』

 

 

 あの時はその言葉の意味が解らなかったが、或いはそれは「満更でもない」という意味だったのだろうか? 

 

 ──いや、それは無いだろう。あいつはあの時まだ高見のことが好きだったことを引き摺っていると言っていた。もうあれは一月ほど前の話だから今がどうなのかは別としても……ある意味俺と同じで、あいつも誰かに対して叶わなかった「好き」をどこに蹴り上げたらいいか解らなくなってた。

 

 ではやはり、リンは俺のことを異性として意識していた訳ではなく、ただの友達ってことでいいのかな。

 

 

 

 

 俺は、リンにどう思われていたいんだ? 

 

 

 

 

 ふと過ぎったその言葉。俺はリンに「異性として意識されたい」のか、それとも友達なのか。

 

 元々俺は確かに彼女は欲しかった。けれどそれは詩織に対する嫉妬や、失恋の傷心や、色んな感情がごちゃ混ぜになってて、コバに乗せられて欲しいと思っていた……んだと思う。じゃあ今は? ……答えられそうにない。

 

「……わかんねえ」

 

 湯船に浸かりながら、さらなる思考の海へ身を投げ出す。脳内で響いているのは、今度は詩織の声である。

 

 

 

『……ハル的には、リンちゃんだったり香澄ちゃんは、アリなの?』

 

 

 

 あの時も結局答えが出せないまま、うやむやにして逃げた気がする。

 

 

 

『ビッチでも「誰でもいい」って訳じゃないんだけど?』

 

 

 

 織田の言葉も蘇ってくる。お前まで出てくるのやめれ。もう今俺の頭の中はいっぱいいっぱいなんだって。

 

 

 

 ──ハッキリ言って、リンも、織田も、正直ルックスはかなり良い方だと思う。リンは健康的に日焼けした肌が眩しく、天真爛漫で如何にもなスポーツ少女だし、織田も赤髪が良く似合う、キツめだけど美人と言われるタイプの顔立ち。顔の好みで言うならば、間違いなく二人とも「アリ」なのだろう。

 

 じゃあその二人が、もし告白してきたら? そう考えてみても……俺にはその絵面が全く予想出来なかった。なんというか、あまりにも現実味が薄すぎる気がしてしまう。

 

 そもそも俺はリンや織田と付き合いたいのだろうか。付き合ったとして何がしたいのだろうか。ゴールは何処にある? 結婚? それは一体いつになる話だ。

 

『ビッチでも「誰でもいい」って訳じゃないんだけど?』

 

『チャンス与えてんだから、頑張って勝ちな、童貞クン?』

 

 ──どうしたいのか、ということを考えている時に「ああ、もし付き合えたら童貞は捨てられるかもしれないのか」なんて考えてしまう俺が最悪なのか、或いは男子なら皆そうなのか。それすらも解らない。

 

 リンとの間接キスから始まって、「リンは俺の事をどう認識しているのか」「俺はリンのことをどう認識しているのか」「俺はどう認識されたいのか」ということを考えていたはずなのに、いつの間にか織田のことも考えている。

 

 

 

 というか俺は、リンや織田のことが好きなのだろうか。異性として意識しているのだろうか。

 

 

 

 

 俺は、どうしたい? 

 

 どれだけ考えても、今はこの答えが出そうに無い。

 答えが出る日が来るかも解らない。

 

 ただ一つ解ることがあるとするなら、その答えが出た時、きっと俺は色んな感情と色んな関係を再構築しないといけないんだろうな、ということ。それがもし、良い方向でも、悪い方向でも。

 そしてそれはきっと、取り返しがつかないんだろうな。いや、今まで取り返しがついたことなんてないか。どんなに頑張っても、時計の針を戻しても、時間が巻き戻ることなんて無いんだから。

 

 風呂、上がるか。そろそろ姉ちゃんに代わってやらないと怒られそうだ。

 

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 鈴虫達の合唱を聴きながら、ベランダに腰掛けて煙草に火をつける。涼しい風が晴人の姉、神崎雨の髪を揺らしながら、煙草から昇る煙をゆらゆらと踊らせていった。

 

 雨は晴人に言ったことを、ほんの少しだけ後悔していた。それはある意味では推し量ることも出来ない凛花の想いを先に伝えかねないことでもあったし、同時に誤解を生む可能性すらあった言葉だから。

 だが、雨はそれでもあの場で晴人にその事実を突きつけなくてはならないと考えてしまった。その理由は凛花の想いでは無く──晴人自身が、言葉を投げかけられても未だ気付くことが出来ない感情にある。

 

 ゆっくりと息を吐く。肺を犯して得る一瞬の快楽は、雨の年長者、或いは保護者、或いは姉としての行動として正しかったのかどうかという命題から、一瞬だけ目を逸らしてくれた。

 

 

 

 

「凛花ちゃんがどう思ってるかはわかんないけどさ──両方気まずくなってんでしょ、間接キスで。それってつまりあんたも──晴人も、凛花ちゃんのことを生理的に無理なのか、異性として意識してるかのどっちかってことだよ。あんたが気付いてないだけで」

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