幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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Sound Horizon 6th Album 「Moira」

10周年おめでとうございます。なお本編にMoiraの要素は含まれておりません。


ぼけーっとしたい。

「ただいま」

 

「おかえりー。雨止むまで学校居たの?」

 

「暇潰ししてた」

 

 家に着いたのは夜の七時前。六時半まで喋ったりティックトックしてたからまあ妥当な時間と言える。

 我が家のルール(姉弟のルール?)として「ただいま」と「おかえり」は必ず言うことになっている。二人しかいないけど、ちゃんとここが帰る場所なんだよ、って意味も込めて必ず言う。

 何故か詩織も家に来る時は「お邪魔します」じゃなくて「ただいまー!」と言う。最近はそもそも来ないけど。そりゃそうか。彼氏いるのに他の男の家に何故来るのかって話だ。

 

「ご飯出来てるよ。食べる?」

 

「先着替えてくるわ。仕事やっぱ暇だった?」

 

「めちゃくちゃ暇。そもそもモールに人が入ってないよアレ」

 

 まあそうだろうなー。昼過ぎには止むって言ってた雨、結局さっきまでずっと降ってたし。しかも結構本降り。

 部屋着に着替えて制服は洗濯カゴに入れておく。ノリで買ったけど外に着ていくには恥ずかしい、だるんだるんした猫がプリントされたTシャツ。フキダシには「動きたくないニャー」と情けないフォントで書かれている。わかるぞ。俺も出来れば動きたくないニャー。

 

「おまたせ」

 

「あいよ。ほら座んな」

 

 テーブルに置かれていたのは大量のもやし炒め。これ絶対二人分の量じゃないだろ。

 

「……多くね?」

 

「つくりすぎた。まあ残ったら明日の朝ごはんになるし」

 

 別にもやし炒め好きだからいいんだけどね。一瞬この量を食えと言われるのかと思ってヒヤヒヤしたわ。たまに姉ちゃんは分量をミスってアホみたいな量作ることがある。一回餃子が八十個くらいあった時は眩暈がしたね。

 

「いただきます。……結局店の音楽、Xかけたの?」

 

「よくよく考えたらあたしXのCD持ってなかった」

 

 ホントだよ。我が家にX JAPANのCD無いじゃん。母ちゃんがそういう系の音楽好きだけど多分出張先の方に持ってってるだろうし。

 

「代わりにRCサクセションの雨上がりの夜空に流しといた。まだ雨上がってなかったけど」

 

 この雨にやられて姉ちゃんイカれちまったかな?というかとてもじゃないが23歳の女性が店の中で流す音楽じゃないだろ。知ってる俺も俺だけども。

 

「そっちはCD持ってんのかよ……」

 

「父さんの部屋にあった」

 

 成程。父ちゃんなら確かに持っててもおかしくないわ。

 てか俺が学校行ってから出勤までにそれっぽいCD探してたのかよ。姉ちゃんも暇だな。

 平安時代の貴族なんかはあまりに暇すぎて一日中ぼけーっとしてたらしいが、現代人も大概暇を持て余してると思う。やることは沢山あるのにね、ぼけーっとしてる。俺だけかもしれないけど。

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 人間ってぼけーっとする時間がきっと必要なんだと思う。

 ディスカバリーチャンネルとかでサバンナの何かとか観ててもさ、ライオンとか狩りしてない時ずっとぼけーっとしてるじゃん?ぼけーっとするのは生命体に必要なんだよ。

 自分で自分にそう言い聞かせながら自分の部屋のベッドの上でぼけーっとする。ホント、もうすぐテストだしちょっとくらい勉強しておくかー、ってなんなの?ってレベルでぼけーっとしてる。飯食ったし眠い。風呂入らなきゃならんがもう少しぼけーっとしていたい。

 

 スマホがメッセージの受信を知らせた。誰だ。俺のスマホなんか基本あんまり鳴らないぞ。あー、スマホのところまで行くのがめんどくさい。

 

「腕よ伸びろー」

 

 ……伸びるわけもないのでそのまま放置。めんどくせ、あとで見たらいいや。

 

 ……ぴこん!

 

 また鳴った。なんだ?クラスのグループラインなら通知切ってるはずなんだが。

 

 ……ぴこん!ぴこん!

 

「うっせえ!わかったから!」

 

 腹立ったから仕方なく立ち上がってスマホを開く。

 一体こんな連続で送ってくる奴誰だよ……と思って通知を見ると石黒だった。そうだ、今日連絡先交換したんだった。メッセージの内容を確認する。

 

『凜香です。今日は私の暇潰しに付き合ってくれてありがとね』

 

『あ、今日撮ったティックトックの動画どーぞ( ̄▽ ̄)』

 

 一緒に送られてきていた十五秒の動画。今日撮ったアルプス一万尺みたいなやつの動画のことか。御丁寧になんか絶妙にキモかわいいキャラクターのスタンプまで送ってきていた。なんだこのキャラクター。

 既読付けちゃったしなんか返信しとくか……え、これなんて返信したらいいんだ?まあいいや、当たり障り無い感じで。

 

『動画ありがとう。こちらこそ楽しかった』

 

 こんな感じか?

 石黒はなんか絵文字顔文字スタンプの三段活用してるけど、これ俺もなんかそういうの使った方がいいのかな。俺がやったらアイドルのツイートにリプ送りまくってるおっさんみたいな文章になるかな。

 

 普通に喋ってる時は自分でも引くレベルで口を滑らせて思ったことなんでも言うのが俺なんだが、ラインやメールみたいな、そういった文章で会話する時は物凄く悩んでしまう。

 なんか句読点とか付けたら冷たく見えるかな?とか、絵文字顔文字は使った方がいいのかな?とか。そんなんで悩んでる時点で陰キャだとは思うが、悩んでしまうものは仕方がない。

 

 まあいいや、送信しちゃえ。

 

 送信した瞬間スマホが鳴った。

 

「えっ石黒返信早くね!?」

 

 ビックリしてスマホ投げちまったじゃねーか。着弾点がベッドの上で助かった。

 墜落したスマホを取り上げて画面を見ると、着信を知らせているらしい。しかも相手石黒じゃねーし。詩織だし。

 

 ……ん?なんで詩織が俺に電話してきてんの?まあいいや、出たら解る。

 

「もしもし?」

 

『あ、もしもし?私だけど』

 

 電話越しでも聞き慣れた声。彼氏が出来ても声が変わるわけじゃないから当たり前っちゃ当たり前なんだが。

 

「珍しいな、この時間だったら電話じゃなくて直接家に来てるだろ、普段なら」

 

 現在八時半。俺と詩織の家は徒歩五分圏内であり、あいつの母親も割と適当な人だから今の時間に用があるなら直接家に来るのがいつものあいつだ。

 

『そうしようかなー、って思ったんだけどね。玲音君に怒られるかなって思って』

 

「あぁそうかい。彼氏持ちは面倒だな」

 

 そういうことかよ。いやまあそりゃそうだわな。夜に彼氏放ったらかして他の男の家に上がり込んでる、って噂でも立ったら良くないわな。なんかムカつく。

 

「で?何の用だよ」

 

『……ハル、なんか怒ってる?』

 

「別に」

 

『いや、用っていうほどじゃないんだけどね。最近喋ってなかったから』

 

「そりゃお前に彼氏が出来たから当然だろ」

 

『え、なんで?』

 

「なんでってそりゃ……あれだよ。前みたいに夫婦喧嘩だー、とかでからかわれたらそれこそ高見が怒るだろ」

 

 半分嘘だ。俺の幼稚な独占欲と謎の嫉妬が邪魔して、俺が避けてる。自覚してる。

 

『あー、確かに。気、遣ってくれてるの?』

 

「いや別にそういうのじゃねえけど」

 

 気は確かに遣ってる。でもそれは高見の為に、詩織の為に、では無い。自分の自尊心?肯定感?なんかそういうもののために気遣ってる。

 

『まあいいや。……ハルってさ、リンちゃんと仲良かったんだね』

 

「リンちゃん?……あー石黒か」

 

『うん。ティックトック観たよ』

 

 そういや俺まだ自分の動画観てないわ。いや別に特別みたいもんでもないけど。

 

『ハルってさ、やるまではめんどくさいー!とかだるー!とか言う割にさ、やり始めるとノリノリだよね』

 

「うっせえよ」

 

 どうせやるなら全力でやった方が楽しいからな。なんでもかんでもやるなら全力で、が俺のモットーである。もうジャンケンとかも全力。体育の球技とかもとにかく全力。「はー俺体育とかマジだりーバレーとか何が楽しいのー」とか言って手を抜いてる奴ってダサいじゃん?小学生相手のかけっこでも全力だよ。勝ったら全力で喜ぶよ。ドン引きされるけど。

 

『ハル、ティックトックはインストールしてなかったよね?』

 

「してない」

 

『じゃあアレ、リンちゃんのスマホで元動画観て練習したの?』

 

「んあー。そうだな」

 

『ふーん、仲良かったの知らなかった』

 

「知り合ったの今日だからな」

 

 というかお前と石黒が仲良いことも知らなかった。

 意外とそんなもんだ。詩織と高見が付き合うくらい知り合ってるとも思ってなかった。幼馴染でも知らない事くらいある。姉ちゃんの元カレだってよく知らないのだ。

 

『知り合っていきなりティックトック撮ったの?』

 

「いきなりステーキ?」

 

『言ってないけど』

 

「お近づきの印だってよ」

 

『むー』

 

 詩織はなんか釈然としないことがあると昔からむー、って唸る。「む」と「ん」の間くらいの音で唸る。なんか釈然としないことでもあるのかよ?

 

「お前も高見と撮ってるんじゃねえの?」

 

『まだ撮ったことないよ』

 

 あ、ちょっと意外。じゃあ詩織とティックトック撮ったことある男ってまだ俺だけなのか。

 ……ちょっとだけ優越感。どうだ高見。これが幼馴染ってもんよ。

 

『次の土曜に撮る約束してるけどね。今練習してもらってるの』

 

 優越感とか無かった。既に練習してるとかどんだけティックトックに賭けてんだよ。バスケの練習しろバスケの。

 

 ……あーあ。

 高見が、嫌な奴なら良かったのにな。

 今日の電話もどうでもいい内容なんかじゃなくて、「付き合ってみたものの玲音君が怖い」とかそういうのなら。なんか、俺なりに頑張ってさ、詩織を守らなきゃ!幼馴染だからな!みたいな?そういうのがあったかもしれないのに。

 

 そんなこと考えてしまってる自分が嫌になる。

 なんというか、クソ惨めだ。

 

『……ハル?』

 

「なんもねーよ。いいじゃん、そんな前から練習してくれるなんて尽くされてるじゃん」

 

『褒めてるの?それ』

 

「勿論」

 

 勿論、嫌味だ。

 だけど別に詩織は一切合切悪くない。なんなら高見も全く悪くない。悪いのは俺だよ。俺の幼稚な独占欲だよ。

 高見が悪かったら楽なのに。

 

 逆に、詩織が悪女だったらそれはそれで楽だったかもしれないのに。

 

 悔しいけどあいつらお似合いカップルだと思うんだよな。俺高見のこと全っ然知らないけど。

 こんなことばっか考えてしまって。

 

 自分の半身を裂かれた感じ。

 姉ちゃんの言うことは間違ってない。

 俺の心の半分が切り取られた気がする。

 

 じゃあ詩織と俺が付き合いたかった?と聞かれるとそうじゃない。

 でも、取られてこんな思いする位なら告白しとけば良かったのかもなぁ、って思う。好きでもないのに、繋ぎ止めるために告白しとけば、なんて。やっぱ悪者は俺だ。

 

 悪は成敗される。独占欲に染まったこの俺を、慰める奴はどこにもいない。

 

「悪い、そろそろ風呂入らなきゃ姉ちゃんにどやされる」

 

『あ、沸いた?じゃあそろそろ切るね』

 

「おう。また明日学校で」

 

『うん。急だったのにありがとね。おやすみ』

 

 電話が切れた。

 風呂入らなきゃ。

 身体にへばりついたドロドロした感情を洗い流したい。

 

 ……あ。ラインきてる。石黒から。

 

『これからもたまに絡んでね( ̄▽ ̄)』

 

 既読付けちゃったじゃねえか。

 あー。

 

 なんて返せばいいんだろうな。風呂入ってる間に考えるか。少しの間既読無視させてくれ。

 階段を降りて風呂場へ向かう。多分もう沸いてると思うんだけど……。

 

 脱衣所のドアを開けた。

 

「……」

 

「……覗きにしては堂々とし過ぎじゃない?」

 

 トップレスの姉ちゃんがいた。

 姉ちゃんは背が高いしスタイルがかなりいい方……だと思う。それで上は裸、下はパンツ一枚。

 

 先に風呂入ろうとしてたのね、ごめんなさい。でも「先はいるよ!」って一声かけてくれたっていいと思うの。俺の股間が立ち上がってしまうじゃないの。

 姉ちゃんも俺の股間が立ちあがリーヨしてるのをズボン越しに見てしまった。

 

「……フッ」

 

 なんか笑われた。

 

「電話してるみたいだったし先入ろうと思ったの。声掛けなかったのは悪かったわ」

 

「いや、いいんだけど。ごめん」

 

 フリーズしてた頭を無理やり動かして扉を閉めた。収まれ、俺のヒプノシスマイク……!

 

「エクスカリバー(笑)は収まった?ふふっ」

 

「半笑いで聞くのやめて貰えます?セクハラだぞそれ」

 

「一緒に入ってあげようか?」

 

 何を言ってるんだこの姉貴は。

 

「慰めてあげるよ?」

 

「性的に?」

 

「性的に慰めて欲しいの?」

 

「……流石に実の姉にそれは嫌です」

 

 解った。声掛けずに風呂入ろうとした姉ちゃんにも落ち度があるからこうやってセクハラして俺を辱めてるんだこの人。やり口汚ねえ。

 

 ……まあ、元はと言えば姉ちゃんのほぼ裸を見て覚醒した俺のロンギヌスが悪いんだけどね。




念の為R15つけときました。
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